ちょっとそこまで

「あれ?何見てるの?ゴーシュ」

顔を上げた青年は、生真面目に頷いた。

「配達依頼です。ただ、僕も行ったことがない地域なので、詳細を見ていたところですよ」

この青年がハチノスでエースだったことを知る少年は、珍しそうに訊ねた。

「へえー。ゴーシュが行ったことがないところって?」
「ええ、イヴァリースのイグーロス城宛です」

聞き覚えのない単語。
少年は青年の隣に座った。

「イヴァリースって何処なの?」

青年は再び配達依頼書に視線を落とす。
少年が覗き込むと、地図のようなものが広げられていた。
青年は地図の一点を指し示す。

「何でも外海を越えて、船で30日ほど北上したところにあるそうです」

へええ、と感心する少年。

「そんなにかかるんだー」

そして、おや?と大きく首を傾ける。

「って・・・ゴーシュ?」
「何ですか」

極めて普通に問い返す青年。
少年は恐る恐る聞いた。

「い、今、『外海』を越えてって・・・言わなかった?」
「ええ、言いました」

さらりと返す青年。
少年はぽかんと青年を見上げた。

「・・・それって、この国じゃ、ないってこと?」

青年の返事は至って簡潔だった。

「そうですね」

少年は思わず叫んだ。

「そうですね、じゃないよ、ゴーシュ!!!!」

対する青年は冷静そのもの。

「ですが、宛先はそうなっていますし」

わたわたと慌てだした少年は更に問いかける。

「船って、何処から!?」
「キャンベル・リートゥスからだそうですよ」
「それって・・・違法な外国船だったらどうするの!?」

思わず椅子から立ち上がった少年を青年は真っ直ぐに見返した。

「ラグ。『町から町へ旅をして、どんな危険すら厭わず、大切な手紙をお届けする』
のが、僕らテガミバチの仕事ではないですか」
「その前に、『首都を除いたこの国の』がつくでしょう!?」
「依頼者はこの国の人ですよ」
「ゴーシューーーーー!!!!」

引き留めようとする少年をにっこり笑って制し、青年は制服に着替えた。
そして、70日ほど戻らなかったという。

fin.