友へ

完全にネタバレです。
尚且つ、奇跡の仮面のストーリークリアしてないと多分分からないです・・・。すいません。

 

奇跡の仮面事件が解決して、数日後。

町の混乱も収まり、俺は、エルシャールがもう少しここにいてくれると思っていた。
だからゆっくりと町を、アスラントの遺産を調査していたのに。
なのにあいつは、大学の講義があるから、ともうホテルを出ていったらしい。
シャロアからそう聞き、俺はいてもたってもいられずに飛び出した。

どうしても、あいつに伝えたいことがあった。

町を出る一本道に赤い車へと向かうエルシャールたちがいた。
乗り込もうとする彼に叫ぶ。

「待ってくれ、エルシャール!」

視線の先、シルクハットのシルエットがこちらを向く。
俺は必死で走った。

「・・・ランド?どうしたんだい」

はあはあと息を切らしながら、握っていたものをエルシャールに渡した。

「・・・これは・・・」

彼の掌に乗せられた一枚のコイン。
刻まれていたのは遺跡の模様だった。俺は満足げに頷く。

「・・・やっぱり。お前だったんだな、エルシャール」
「・・・ああ。これは私が18年前、丘に置いていったものだ・・・。
どうして、君がこれを・・・?」
「ヘンリーさ」
「・・・そうか、彼が・・・」

自分をずっと待ってくれていたヘンリー。
考古学も学んでいた彼ならば、墓に置かれたこのコインの意味にも気づいただろう。
エルシャールが遺跡の謎を解いていたと。

「・・・俺、ずっと誤解してたんだな。
ヘンリーは俺の家族、恋人、財産を奪って
お前は、謎を解けずに村を去ったんだと・・・おもってた」

俺は目を伏せた。

地下水脈から奇跡的に助かり、記憶が戻った後のこと。
手紙の真偽を確かめるため必死になって大切なものたちを探した。

故郷にはもう誰もいなかった。
捜し当てた恋人は、親友と結婚していた。
あの日遺跡の謎を託したもう一人の親友は、
謎を解けずに去っていた。

全てに、裏切られたと・・・思った。

「でも、違ったんだな。
ヘンリーは、ずっと守ってくれていたし、お前はちゃんと謎を解いていた。
そして、今は最後の謎まで解ける考古学者になってた」

彼らは、自分を裏切ってなどいなかった。
裏切ったのは、勘違いから破壊しようとしてのは・・・
自分だったのだ。

「ランド」

心配そうに声をかけてくれた親友を見上げる。
あの日、一緒に遺跡探検に繰り出した彼は、シルクハットの似合う落ち着いた大人になっていた。
立派になったな、と場違いな感想を抱いた。

「・・・すまなかった、エルシャール。俺が間違っていたんだ」

俺は俯いた。
そこへ、静かな声が届いた。

「・・・いや、謝らなければならないのは、私の方さ」
「エルシャール?」
「あの日、僕は君の手を離してしまった・・・」

顔を上げると、後悔の滲む瞳が自分を見ていた。
いや、と俺は首を振った。

「あれは君のせいじゃない。
それに、君は何度も俺を止めようとしていた。
・・・自業自得だったのさ」

エルシャールは何度も危険だと忠告してくれていた。
ヘンリーはこれが最後だと、言った。
シャロアは帰ってこない兄とランドを重ねて涙を流した。

分かっているつもりで、なんにも分かっていなかったのだ。

「・・・ランド」

心配げな親友に、俺はいつもの笑顔で叫んだ。

「また、モンテドールに来いよ、エルシャール!
待ちきれなくなったら、俺がロンドンに行くからな!
覚悟しろよ!!」
「・・・ああ、待ってるよ、ランド」

穏やかに笑った親友の笑顔は、
あの日と同じものだった。

fin.