日雇い相棒

※前提
    ・ゴーシュが無事ハチノスに戻ってきてます
    ・BEEへの復帰はまだです
    ・ロダは・・・お留守番でもこっそりゴーシュの後ろにいるでも可(笑)。

夜想道のとある一角にある、ユウサリ中央「職業斡旋所」。
ここでは、日雇いの助っ人「相棒」を雇うことが出来る。
そんな店に、一人の青年が訪れていた。

「いらっしゃい!!」
「すみません。ここで日雇いの相棒の登録が出来るとお聞きしたのですが・・・」
「登録かい、じゃあ名前を・・・」

そこまでマニュアルどおりに話していた女性の言葉がぴたりと止まる。

「え?まさか、あんたは・・・」

女性の瞳が驚愕に見開かれていく。青年はきょとんと首を傾げた。

「どうかしましたか?」
「5年ほど前、あたしたちを助けてくれたBEEの人じゃないか!!」
「・・・?」
「ほら、ハニーウォーターズで・・・あたしを庇ってくれたじゃないか!」

興奮気味の女性に対し、青年は申し訳なさそうに言った。

「すいません、覚えてないんですが・・・」
「うー、そうだ、あの坊やなら何か知ってそうだけどねえ」
「坊や?」
「ゴーシューーーーーーー!!!」
「噂をすればなんとやらだね。」

小さなテガミバチの少年は、BEEの制服のまま、だだっと受付まで駆けてきた。
全力で走ってきたのか、青年の隣でぜいぜいと息を切らす。

「ラグ、どうしたのですか?」
「どうしたのじゃないよ!!ゴーシュ、日雇い相棒になるの!?」
「ええ。館長が掛け合ってくださるとはいえ、僕は一度解雇されましたから。
少しでもBEEに近い仕事をしたいんです」
「でもでも、ちゃんと休んでないといけないよ!!」
「僕なら大丈夫ですよ」
「ゴーシュ!!」

まるで兄弟のように仲のいい二人に、女性は苦笑した。

「・・・坊やたち。受付前で揉め事はやめてくれないかい?」

はっと我に返る二人。

「「すいません」」

答える声も、見事にはもっていた。

「まあ、いいよ。それより、確認させてくれるかい?BEEの坊や」
「え?はい、なんですか?」
「あたしたちがハニーウォーターズで鎧虫に襲われたときに助けてくれたBEEは、この人なんだね?」

女性の問いかけに、少年は大きく頷いた。

「そうです!!」

一方の青年は不思議そうに少年を見返した。

「・・・そうでしたか?」
「ゴーシュ、覚えてないの?」
「ええ、余り・・・」
「いいんだ、あんたはあのときあたしを庇ってくれたんだ。あんたが忘れても、あたしはずっと覚えてるよ」
「サラさん・・・」

感謝の言葉に、青年ではなく少年ーラグがうるうると瞳をうるわせていた。
サラと呼ばれた女性は、にかっと笑った。

「じゃあ改めて。あたしはサラ。この職業斡旋所の受付嬢さ。あんたの名前を教えてもらえるかい?」

はい、と青年が礼儀正しく答える。

「僕はゴーシュ。ゴーシュ・スエード23歳です」

サラは名前を登録帳に書き込む。

「・・・『ゴーシュ・スエード』っと。BEEの人だったよね?今の話じゃ解雇されたって聞こえけど」
「はい。残念ながら、暫くこころを無くしていましたから」
「無くすって・・・」
「ですから、相棒として再出発したいのです」

意志の込められた瞳に、サラは深い事情があったのだと推察する。

「そう。あんたも苦労したんだね・・・。じゃあ、あんたの雇い賃を考えないとね。今まで相棒をしたことは?」
「一度もありません」

ふむ、とサラは書き込む。

「じゃあユウサリ以外の地に行ったことは?」
「ええ。何度か」
「ゴーシュは、ヨダカの最南端の町のルートを作ったし、アカツキさえも行ったことがあるんだよ!!!」
「な、何だって!?」

最も暗いとされる危険な区域、ヨダカ。
更に、限られた人間しか行くことのできないアカツキにさえも行けたとは・・・。

「・・・そういえば、そうでしたね」
「ヨダカの最南端は・・・」
「キャンベル・リートゥスだよ!!ゴーシュが、僕を届けてくれた町なんだ!!」
「え?届ける?坊や、どういうことなんだい?」
「僕は、幼いころに『テガミ』として、ゴーシュに運ばれたんです!」
「ええ!?」

この坊やの幼い頃に何があったのだろうか。
サラは気になったが黙っておくことにした。

「あれからもう5年ですか・・・。ラグも大きくなりましたね」

にこりと微笑む青年ーゴーシュが嬉しくて、ラグも笑顔になっていた。

「それからね、ゴーシュはBEEの面接審査で最短記録を持っているんだ!!!」
「ええと。そうでしたっけ?」
「うん!!だって、僕が受けるときにザジが言ってたよ!!未だに破られてないんだ!!」

力一杯ゴーシュのことを喋るラグ。
サラは楽しそうに笑った。

「なんだか坊やの方がゴーシュさんを知ってるみたいだね」
「そのようです。・・・僕が忘れていたことも、ラグがしっかり覚えてくれているみたいですね」

カウンターで記入していたサラが顔を上げる。

「あんたの能力はわかったよ、ゴーシュさん。それだけ優秀なんだ、一日10万リンは軽くいけるね」
「10万リン!?」

ラグが驚愕の声を上げる。
確か、前に雇った日雇い相棒は、7,000リンだった。
おじさんたちでも一日2万リンだったっけなと思い出していた。

「・・・あの、一番安いと幾らになるんですか?」
「安いのは、5,000リンだね。新前相棒で、なーんにも知らない子がそのくらいさ」

成程、と答えたゴーシュは頷いた。

「では、それでお願いします」
「「えええ!?」」

少年と女性の声が見事に重なった。

「何言ってんだい、ゴーシュさん」
「僕は、すぐにでも仕事がしたいのです。高すぎては、仕事が入ってこないでしょう」
「かといって能力を安売りしてもいけないよ。
第一、坊やのいってることが本当なら、『ゴーシュ・スエード』の名前だけで、優秀なことがばれちゃうじゃないか」

思案顔になっていたゴーシュは、ふと呟く。

「ゴーシュ・スエードでなければいいんですか?」
「ん?ま、まあ、態と本名使わないやつもいるけどさ」

素性がばれないように、という者も少なくはない。
素性がどうであれ、相棒として優秀であれば、日雇い相棒としての登録は可能である。

そうですか、と一つ頷いたゴーシュはあっさりと言った。

「では、ノワールで」
「駄目ええええええええーーーーーーーーーーーー!!!!」

ラグは部屋いっぱいに響きわたるほどの声で絶叫した。
あん?と酒浸りの日雇い相棒達が振り返る。
余りの拒絶ぶりに、ゴーシュは傍らの小さな友人を振り返った。

「ラグ?」
「ノワールだけは、絶対、駄目!!!」
「何故ですか?僕だとわかればいいじゃないですか」
「駄目だよ!!もうノワールじゃないんだから!!」

どうやらノワールには嫌なイメージがあるらしい。
サラは取りなすように言った。

「まあまあ。じゃ、別の名前にしたらどうだい」
「そうですね・・・。では、ジーンでお願いします」
「ジーン・・・?」
「昔、BEEになってみせますと言ってくれた小さな友人の名前ですよ」

ラグの脳裏に、最後まで1人で山を登りきり、白鯨草を手に入れた少年が蘇った。

「あっ・・・!!あの、車椅子の男の子だね!?」
「ラグも知っているのですか?」
「僕、あの子に盤ゲームを配達したことがあるんだ!!」
「そうでしたか」
「じゃあ、『ジーン』にしておくよ。
登録完了だ。依頼を待つなら、ここであのおっさんたちみたいにここで屯することになるけど・・・
今日はどうするんだい?」
「では、ここでお待ちします」
「ゴーシュ!!」
「はいよ、登録証だ。毎日来たら、これをあたしにみせてくれるかい?一応確認のためにね」
「わかりました」

・・・こうして、ゴーシュ改めジーンは、日雇い相棒として働くことになった。

fin.