歌劇

※劇団四季「アンデルセン」の内容ネタバレあり、ご注意!!!

世間では11月も半ばを過ぎ、FGOでは去年のクリスマスイベントの復刻版が開催され、銀色の靴下なるアイテムを集めてプレゼントを回しまくるマスター達が、更なるクエストを求めて英雄王達に挑む頃。

カルデアのマスターである靫葛は、とあるサーヴァントの私室に飛びこんだ。

「ハンスハンスハンスーーー!!!」
「喧しいぞマスター!俺は今回のイベクエのサーヴァントではなかろう!さっさと出て行け!」

最早本に埋もれている部屋に、辛うじて存在を保持している仕事机があり、今正に白いページ・・・ではなくタブレットに高速のフリックを披露して文字を打ち込んでいた部屋の主がいた。

青い髪に青い瞳の、まるでお人形のような容姿の美少年、だがその声は老成した渋いバリトンというハンス・クリスチャン・アンデルセン。カルデアでも古参のサーヴァントで、レベル、スキルレベル、宝具レベル、絆レベルがオールMAXのマスターの大のお気に入りのキャスター(魔術師)である。

そのハンスはいつも通りの毒舌で顔も上げずに拒絶したが、マスターも慣れたものだ。

「そーんな冷たいこと言っちゃっていいのかなあー?」

にやにや、とどことなく嬉しそうな笑みでマスターが小さな少年に近づく。仕方なさそうにタブレットから顔を上げたハンスが、外見詐欺なほどの眉間のしわを深く深くした。

「貴様がそんな顔をしているときはろくでもない!いいか!俺はもうネロ祭とやらで労働時間を超過している!クリスマスなんぞガキどもと保護者どもに任せればいいだろうが!」
「自分もお子ちゃまな外見なくせにー」
「中身は老人だと知っているだろうに。まあいい、いずれにせよ俺に用はない、さっさと貴様の自室にでも戻るんだな!」
「アンデルセンの劇を見に行ったんだよ-!」

ハンスの追い返しにも全く何処吹く風なマスターが朗らかに告げた。コンマ1秒思考したハンスは、にべもなく蠅を払うかのように手を振った。

「ふん。『雪の女王』か?『人魚姫』か?いずれにせよ、原作を壮大に無視したご都合主義のハッピーエンドだろうよ。人受けのする改変など興味はない。さっさと帰れ」
「それがねー。ハンスの生涯を描いた劇だったんだよー?」

ぴたっとハンスの動きが止まった。

「・・・。何だと?」

ハンスの反応に気をよくしたのか、靫葛がびしいっと人差し指を突きつける。

「だから、ハンス主人公の、ハンスの生涯がストーリーのミュージカル!」

ハンスの顔色がはっきりと変わる。白い。というか青白い方向へ。

「な!?真逆、万が一つにも、天変地異が起こっても有り得ん!俺は、劇作家様や天才音楽家様のように自伝が栄える生涯ではないぞ!?」
「あーやっぱり気になるんだー?内容聞きたい?ねえ、聞きたい?」
「聞きたいわけがあるかど阿呆!貴様に言われるまでもなく碌でもない人生は本人が身にしみている!それよりも誰だ、そんなものを歌劇にしやがった奴は!?いや待て、貴様が見たということは、もしや、その他大勢の愚民どもも鑑賞したと言うことか!?」
「えっとねえ、全国20カ所講演だっけ・・?」
「ちょ、ちょっと待て、何故そんな羞恥プレイが実行されている!?マスタ-!貴様、事前に知っていたなら何故報告しない!?」
「だってハンスに言ったら劇潰しちゃいそうだし」
「当たり前だろうが!!」
「んーでも内容は史実はあんまり関係ないかなー」

どうする?と目線で聞くマスターに、ハンスがタブレットを仕舞い、腕を組んだ。

「・・・。参考までに聞いてやる。ああ、あくまでネタとして、作家の性としての聞き込みだ。・・・何がどう関係なかった?」
「そうだねー。ええっとハンスがオーデンセで靴屋やってて、弟子っぽい男の子がいて、子供達にお話をしていて子供達が学校にいかなくなっちゃって校長先生に町から追い出されてー」
「は?」

目が文字通り点になったハンスに、靫葛はううーんと思い出しながらつらつらと口に出していく。

「で、靴屋のまんまコペンハーゲンで弟子と店を開いて、そこできっれいなバレリーナに一目惚れしちゃうんだけど、そのバレリーナは既に結婚してて、失恋しちゃうんだー」
「・・・もういい」

失恋、の文字が痛かったのか。ハンスが盛大にため息をつく。

「でもね、ハンスが彼女に『人魚姫』の話を贈って、それがきっかけでバレエの題材になって成功して」
「待て、何故そこに人魚姫が出てくる!?」
「えー?『一介の靴屋が貴女に気持ちを伝えるのはこれしかありません』とかいってたよ?」
「なんだその頭に虫が沸いたような回答は!」

ハンスが髪をかきむしりそうな勢いでぐしゃぐしゃにしている。勿体ないなーと思いながら靫葛が付け加える。

「そうそう、そのハンスが結構夢見がちでうっかりさんなんだー」
「もうやめろ!さぶいぼが止まらん!!!」

ぶるぶると震えながら叫ぶハンスは、結構精神的にダメージが大きいようだ。だが靫葛はそれくらいでは止まらない。

「えーっとね、つまりまとめると、アンデルセン童話の世界観を大切にしながら、史実を豪快にぶっとばした・・・そう、例えるなら、原作『雪の女王』からディズニーの『アナと雪の女王』ができた、みたいな感じ?」
「ぐわあああああああああああ!!!」

一際大きな声を上げて、ハンスが椅子から転がり落ちた。ふむ、と靫葛は頷く。

「ってことは、ハンスも『アナと雪の女王』は見たんだー」
「一作品としてだ!!」
「わー見事な肯定っぷりー。じゃあ、ハンスも見る?」
「なっ・・・何をだ・・・?」

床に転がったまま最早恐れのはいった目で見上げてくる少年。靫葛は正直ぐらっときた。可愛い。可愛すぎる。そしてご要望通り隠し持っていたディスクをばーんと取り出す。

「ミュージカルのDVD売ってたから買ってきたけど、」
「買うな寄るなそんなもの捨ててこい!!!」
「うん分かったー。じゃあ、みんなで見るねー?」

靫葛がくるりと背を向けると、歩き出す前に袖が思いっきり引っ張られた。

「やめろ!何の虐めだそんな気色悪い作品を広める気か!?」
「気色悪くないよ?そりゃあ史実ではないけど、ハンスの作品をうまく使ってストーリーまとめてたし、ミュージカルもオーデンセの皆さんの踊りとか歌とか、コペンハーゲンの港の人たちとか途中のバレリーナたちのバレエもすっごく見応えがあって綺麗でね!!!いじめられっ子もハンスの物語で元気になって、最後はハンスの物語が王様に認められて、ヒロインから勲章を授けられてエンディング!って、夢があって面白かったよー♪あ、そうだ!ナーサリー・ライムちゃんを誘おっかな♪金時も結構のりのりで見てくれそうだしー。アルトリアさんも芸術関係とか好きなんじゃないかな?あ、だったらキアラさんもちゃんとお呼びしないと」
「ますたああああああああああああ!?」

絶叫した少年が、ぱったりと気絶した。そんな使い魔にマスターが暢気に目を瞬かせた。

「・・・あれ?そんなに嫌だったのかなー。でも、すっごくよかったし-。うん。じゃあハンスはベッドに寝かせてっと。みんなを呼んで鑑賞会、しよーっと♪♪」

fin.

今回で言うなれば、『我が生涯の物語』からミュージカル『アンデルセン』が出来た感じ?笑。因みにまだDVDは発売されてなかった・・・筈?劇場のグッズ売り場は見てないから知りませんが。