疑問

※アニメ、テガミバチの「ロレンスの野望」からの派生です。
リヴァースから離脱したゴーシュの心情です。

ー僕はずっと同じことを思っていた。
ーもう一度ゴーシュに会いたい。
ーあのとき友達になったゴーシュに。

轟々と流れる川の流れに身を任せる。
岸にたどり着けば腕を伸ばし、体を引き上げる。
星の並びを辿り、方位を確かめる。
流れの速さと時間を概算し、飛び込む前に見た景色から自分が何処にいるのか見当をつける。

ため息を一つ。
どうやら随分と流されたらしい。
はっきりと浮かぶ・・・頭に叩き込まれた周囲の地図は、リヴァースの頃のものか、それとも。

銀髪から滴り落ちる滴を振るい、思い出すべきか分からない霞んだ記憶を打ち消す。
断片的な、誰かの思い。
それを受け取るべき者は、もう、いない。
ゴーシュ・スエードはここには存在しない。

しかし。

ノワールと名乗るには、自分はリヴァースを離反したに等しい。

僕は、誰なのか。
リヴァースの目的は、人工太陽を沈めること。
そのために、カベルネを首都アカツキへを誘導する。
餌となるこころとして、精霊になれなかった者を使う、
そう、ロレンスは語った。
彼の思想は、精霊になれなかった者を救うことではなく、ただ利用するためにあった。

これを、放ってはおけない。
僕は、がらくたのように捨てられていた、彼らを救いたい。

頭の中の地図と、風景を見渡し、道なき道を抜け、彼らの行方に見当をつける。
精霊になれなかった者は、カベルネの餌とされる。
カベルネの目的地は、アカツキ。と、なれば。

具合の悪いロダ達を誘導するなら、馬車に乗せられた可能性が高い。
馬車が通れるルートとなれば、絞られる。
彼らと別れてから大分経っている。
追いつくには、先回りの出来る最短距離で、尚且つ高所を選ぶ必要がある。

崖を上り、川を抜けながら、思考を進める。

そもそも、リヴァースの目的とは何だったのだ?
リヴァースを抜けた今だからこそ、気になることがある。

人工太陽は、カベルネで落とせるかもしれない。
しかし、人工太陽を落とせば、果たしてAG政府を落とすことになるのか?
もしも、政府が人工太陽に変わるヒカリを手に入れていたとすれば・・・

人柱は、彼らのこころの犠牲は、無駄になるのではないか?
ロレンスは気付いてないのだろうか。

もう一つ、気にかかることがある。
もしも人工太陽をカベルネで落とせなかったとしたら・・・?
人工太陽は、ひとのこころで出来ている。
ならば、こころを喰らうカベルネで落とすことができるだろう。

だが。もし。

人工太陽が、カベルネと同類だったら?
ひとのこころを喰らう、鎧虫のような物だったら・・・?

ロレンスの計画は根底から覆されることになる。

丘に登り、周囲を見渡す。
黒衣が風に翻る。目を凝らす。
・・・まだ、姿は見えない。

目を閉じて、耳を澄ませる。
鎧虫との違いは、規則的な蹄の音を聞き分けること。
心弾銃のない自分に、鎧虫は倒せない。
出来る限り、鎧虫に見つからないように移動するしか術はない。

ジムノペディは、ラグが持ったままだった。
ノクターンは、もうラグのものだ。

そういえば。
何故、あのときノクターンではなく、ジムノペディが反応したのだろう。

ー僕の中に怒りや憎しみがあるとしても
ーそんなものを力になんかしない!!
ー僕は、僕の心を信じる!

・・・今の自分に、信じるこころはあるのだろうか。

テガミバチでも、マローダーでも無くなった自分は、一体何を信じるというのか。
けれど、今は、ただ。
ロダ達を救う。
それだけを誓い、駆け抜けた。

fin.