魔法律家

※原作16巻 「蝶布市10人連続誘拐事件」のジョーさん視点。多少場面を削ったり勝手に追加してます。
思いっきりネタバレ注意!!!

 

その日、私はじっとカレンダーを睨んでいた。
最初の事件が起こってから丁度一年。ありとあらゆる捜査をしても一向に進展のなかった連続誘拐事件。もうなりふりかまっている場合じゃない。科学捜査は限界だ。あの日、霊感のあるという女性刑事に話をもう一度話を聞いた。彼女はきっぱりと断言した。

「あれは、霊の仕業です」

私は霊が犯人としたときの捜査を考えねばならなかった。鳥もち銃、十字架、塩・・・ありとあらゆる道具を揃えて、いや、待て、と私は気がついた。科学捜査にプロがいるように、霊捜査にもプロがいるのではないか。早速調べ上げた。そして・・・見つけた。

「・・・魔法律家・・・」

聞いたこともない職業だったが、公の機関ではあるらしい。世間ではほぼ知られておらず、除霊師とごっちゃにされているくらいだ。私は兎も角電話をかけた。

『ほう?警察があたしどもに依頼ねえ?』

どことなくこちらを馬鹿にしたような、男の声。

『記念に受けてやってもいいんだけどねえ、そこはあたしのシマじゃないんだよ』
「は?はい?」
『他のとこだったら容赦なく依頼をぶんどるんだけどねえ。六氷ののシマじゃあ、そういうわけにはいかないねい』
「え、えっと・・・」
『あたしは受けられないけど、いい奴らを紹介してやるよ。何、心配せんでいい。悔しいがあたしより数段、いや格違いに腕の立つやつよ』
「え?」
『ほれ、この番号じゃ。じゃあな』
「ま、待ってくれ。同業者をなんで紹介するんだ・・・?」
『・・・決まっておるじゃろ』
「え?」
『命の恩人さね』

そしてぶちっと通話は切れた。
やり手と裏では魔法律家グループを牛耳る五嶺のトップ。その彼が格違いに腕が立つという。しかも命の恩人というのだから、嘘ではないだろう。
私は言われた番号にかけた。

『・・・何だ』

しょっぱなから何だとは凄いな、と感心する。ぶっきらぼうな子供の声。受付役の子だろうか。

「あ、その、六氷魔法律事務所で、あっているでしょうか?」
『ああ、そうだ。依頼か?』
「は、はい。蝶布市警察のもので、事件の協力を依頼したいのですが」
『わかった』
「え?」
『いつ行けばいいんだ?』

伝言もなしでこの子が話を進めちゃっているがいいのだろうか。まあ伝えてくれるならいいか。

「今日の午後一時、警察署に来て欲しい」
『分かった』

ちん、と呆気なく電話は切れた。

   *   *

約束の時間。彼らが警察署に来たと聞いて、私は爆走して階段から転げ落ちて団子になりながら辿り着いた。どんな彼らかは分からないが、もしかしたら事件の何か手がかりが得られるかもしれない、藁にも縋る思いだった。
扉を開けて、座っていたのは若い男性二人組だった。

「六氷・・・魔法律、事務所さん・・・?」
「は・・・はい・・・」
「ヒッヒ・・・」

一人は青年だが、一人はまだ男の子、といっていい年代だった。それでも返事をしたのだから、彼らが魔法律家であることは間違いない。私は迷わず名刺を取り出し、

「私『葉利魔 錠』と申します」

その場で床に座り込んで頭を下げた。

「来てくれてありがとう」

「・・・へ・・・?」

ぽかんとした青年の声。ミッチーが慣れたように私に駆け寄った。

「ホラあジョーさん面食らってるじゃないすか!いやーわりーね。この人変わってんだよ。あ。オレ緑河 満っての。ミッチーでいいよ」
「あ、あの、お二人とも、す、座ってください!」
「ありがとう」

私たちは彼らの向かいに座る。
そして青年の方が緊張したように自己紹介してくれた。

「あ、あの、僕は魔法律家 一等書記官の草野次郎。こちらは執行人の六氷透です」
「「ええっ!?」」

私とミッチーは同時に声を上げた。
書記官とか執行人とかの階級らしき肩書きはよく分からない、けれども、彼らは「六氷」魔法律事務所の者なのだ。つまり。

「てっきり、君だと・・・」
「いえ、僕は助手です。六氷魔法律事務所の所長は、彼です」
「・・・フン」

今度は私たちがぼかんと見返す番だった。
所長と言われた子供をまじまじと観察する。
まだ10代前半くらいの小さな身体、黒い髪は寝癖が付いていてちょっと可愛らしい。子供特有の大きな紺の目は、けれども子供らしからぬ鋭い眼光でこちらを見返している。
そして私は気がついた。声が、電話の向こうで聞いたのと同じ。
受付の子供と思いきや、彼が所長だったとは!

「で?何の事件だ?」

やけに冷静な声が先を促した。

   *   *

ミッチーが蝶布市10人連続誘拐事件の概要を話す。私が科学捜査では限界に来ていることも告白した。恥だなんだと言っている場合ではない。攫われた人たちを一刻も早く助け出さなければ!

「わかった」

淡々とした声が遮る。草野と名乗った青年ではなく、六氷と紹介された子供の声。
はっと二人で彼らを見返す。

「現場の一つを教えろ」
「ありが・・・」
「ただし条件がある」

お礼を言う前にきっぱりと子供が続けた。

「オメーラはついてくんな」

   *   *

足手まといだと言われても、私は取りあえず子供・・・六氷の言うとおりに事件の資料と地図を渡したが、ミッチーは激怒していた。怒りの余りゲーセンの店員を締め上げているところを回収し、二人で事務所を覗ける高所に移動する。双眼鏡から見える二人の姿。若い二人は何やら話し込んでいたと思ったら動き始めた。

「追いかけよう」

ミッチーを説得して魔法律家の二人を尾行する。車を彼らに気付かれないように脇に止める。そこは学生の通学路のひとつだった。丁度授業を終えて帰宅する女子高生が集団下校している。その一人に私は釘付けになった。

「何故だ・・・!?」

その子は被害者の妹だった。そこまでの資料は何一つ渡していない!何故あの子を追ってきたのか。いや、何故ここが分かったのか。混乱する私たちは見てしまった。

後ろ姿の彼女。その首筋から、ぱちっと目玉が二つ。

自分の目が信じられなかった。一体何が起こっているのか。魔法律家の二人は彼女を伺いつつ、きびすを返している。どうするつもりか分からないが、私たちは二人など目もくれず、妹を車で追いかけた。

   *   *

世にも恐ろしいものを見たせいか、私たちは動揺していた。私は妹の家のドアを乱暴に開けてはいり、怯える彼女の姿に少し落ち着いた。自分は何をやっていたのかと。だが、ミッチーはより重傷だった。銃を妹に突きつけ、妹が悲鳴を上げる。私が何とかミッチーを落ち着かせ、ミッチーも銃を下ろしてくれた。二人とも幻覚をみたのだ。そうだ、そうに違いない。妹が気が抜けたのかその場に座り込む。ミッチーが彼女に声をかける間に、私は外にでた。

やれやれ。頭を冷やさねば。

そうして玄関の扉の閉じる音に振り返る。てっきりミッチーが出てきた音だと思ったのだが誰も居ない。やれやれ、まだ中でお邪魔をしているのか。連れ出そうとノブに手をかけたとき、私は誰かに裾を捕まれた。

「ジョーさん隠れて・・・!!!」

そこに居たのは魔法律家の二人。鋭い目つきの所長と、鬼気迫る顔の助手がいた。

「ミッチーさんは、たぶんもう・・・霊に取り込まれて・・・!」
「何だって・・・!?と、取り込まれたとは・・!?」
「霊に攫われたんだ」

乗ってきた車の影に隠れて、冷静な所長・・・六氷があっさりと答える。

「し、しかし・・・!!!」

霊なんて、そんなものは。さっき見たものは幻覚で・・・!!

「ヒッヒ。自分の眼でみたものも信じられんか」

彼は口の端を上げて、私が必死に否定しようとしたものを突きつける。

「手はもう打ってあるんです・・・!!」
「だが何せ急ごしらえの策だ・・・。ちょっと人手が要る」

六氷の大きな目が私を射貫く。私ははっと見返した。

この目を、私は知っている。

科学捜査官が真実を見極めるときに見せるプロの目。

「元はといえばそっちの撒いた面倒の種。
相棒の命が惜しけりゃ手伝うんだナ・・・!!」

私は漸く納得した。
草野青年ではなく、彼が魔法律家の所長。
我々警察ではなく、この少年こそが司令塔だと。 

   *   *

六氷所長に言われたとおり、恐る恐る家に入る。
彼が打った手、であろう光る謎の本については教えて貰えなかったが気になった。
だが今は。

妹を誘い出したと思いきや姿がミッチーに代わり、彼の銃が草野少年を狙う。私は咄嗟に彼を庇ったが、鳥もち銃や網が気に障ったのか、ミッチーの姿から身の丈2Mの男に変わる。彼の言葉から私は男の正体を悟る。10年前に入水自殺をした少年だと。何処からか白い煙が家を覆い隠している。2Mの男の手から守るように我々を包むことから、敵意あるものではないだろう。そうしている間に本物のミッチーが私を担ぎ、草野青年と白い煙に守られながら何とか家の外へ脱出した。

何処からか人が沢山吐き出される。他に攫われていた人たちだった。そして私たちは見る。

家の屋根を伝う茨でできたレール。そこを上るジェットコースター。乗っているのは無邪気に喜んでいる・・・身の丈2Mの男。その前に座るのは明らかに人ではない。鳥のような者が霧吹きで男に煙を吸わせている。

私はただこれが現実の光景か分からなかった。

六氷の低い声が響く。

「友達ほしさに暴走して、挙げ句無理矢理誘拐軟禁か」

「せめて お望みの夢幻の中」

「地獄に落ちて罪を償え」

ああ、と私は悟る。
だから彼は執行人なのかと。

・・・罪を裁き、刑を執行する者。

   *   *

一年前に誘拐された行方不明者10名どころか、総勢60名が無事救出されたとあって警察もマスコミも騒ぎになったが、その立役者である二人はついぞ表に出てこなかった。
そして私とミッチーは今日も事務所を訪ねるが、扉が開く気配はない。

ただ、内側から彼らの声がする。

「・・・それにテレビに紹介して貰えば宣伝になってもっと生活も安定するのに・・・」

誠実を形にしたような草野の声。
それを遮るのは勿論。

「ヒッヒ。タコが」

相変わらず口の悪い六氷の声だ。けれども。
彼はただの子供ではないことを私たちはもう知っている。

「魔法律が公には新設の機関であることを忘れんな。昨日も言ったがオレらはまだ占い以下のペテン師扱いなんだ。こんな化け物がいると知れたらどーなる?あほ刑事二人の反応を忘れたか?」

そうだ。彼らの存在はまだ世間では胡散臭いと言われてしまうのだろう。
六氷所長の冷徹な声が続く。

「いいか。魔法律は闇の業、日陰の番人。表に出れば五嶺の二の舞。憶えとけ」
「・・・はい」

身に染みたように、神妙な草野助手が答える。
六氷所長の言うとおりなのだろう。けれども。

「家族。」

気がついたら私は声をかけていた。

「被害者の家族が、君たちに感謝の気持ちを伝えてほしいと言っていました」

「昨日の全てが本当なのか私にはわからない」

「でも確かなのは」

「私たちでは永久に家族に笑顔を取り戻せなかったこと・・・」

「魔法律は日陰の存在かも知れない。でも私は心から」

「君たちを尊敬します」

感謝状と封筒を置き、私たちは事務所を後にした。

fin.

原作のこの話すっごく好きなのでつい、連続で書きました。といってもほぼ原作をジョーさん視点にしただけですけどね!!!順番的にはこのすぐ後に七面犬がきます。