芸術は、万国共通である。
年齢・人種・性別・国全て飛び越えて人々の心を揺さぶるもの。
小手先など通用しない。
その代わり、本物であれば・・・
「・・・あ」
聞こえてきたメロディーにふと顔を上げる。
甲板を見下ろせば、予想通りの人物がバイオリンを奏でていた。
情景を映し出すかのような音色に引き込まれ、つい聞き入ってしまう。
「・・・骨の癖に」
人より抜きんでて背の高い男の弓を持つ手は白い骨。
アフロ頭の正面に回れば、皮膚のない頭蓋骨に出くわすことだろう。
骸骨。
なのに、食事はするわ鼻血だすわ・・・全くどんな仕組みになっているかわからない。
何度見ても、違和感を感じる。
「変な奴」
10人いれば10人ともが化けものだと恐れる筈の彼を
あっさりと仲間に引き込んだのは、うちの船長だ。
・・・ルフィもある意味化け物だけど。
ゴム人間から喋るトナカイ、改造人間まで揃ううちの船員は、かなり異色だろう。
甲板での演奏会は続く。
ゆらゆらとご機嫌そうに揺れるシルクハットの前には
音色につられたルフィにウソップ、チョッパーがうっとりと聞き入っている。
お、とルフィがみかん畑にいた私に気づいたらしい。
「ナミ!お前も来い!!」
おや、とシルクハットがこちらを向く。
「おやおやナミさん!パンツ、何色ですか~♪」
「やかましい!!!!」
ミュールを片方脱いで思い切り振り被って投げた。
かーんと小気味のいい音と、どさっと倒れる音。
「ヨホホホホ!!!手厳しい~~~~!!!」
前者はミュールがアフロの頭に当たった証拠で、後者は本人が倒れた音である。
と、いってもバイオリンの音が途切れることは一度もなかった。
妙に器用な奴だ。
「お。たんこぶ出来てるぞ」
「痛そーだな。大丈夫か、ブルック?」
「ヨホホ、心配ありません!次のリクエストありますか~♪」
「よっしゃ、次はソゲキングの歌だ!」
「喜んで~♪」
立ち上がったブルックがウソップの十八番を奏で、木箱のステージに乗ったウソップが特製マイクを握る。
懲りてない音楽家と、暢気な奴らの演奏会はまだ続きそうだ。
まあ、でも。
この音色をいつまでも聞くことが出来るなら、成る程贅沢なことかもしれない。
口元に笑みを浮かべ、私は甲板へと向かった。
fin.