魅力3

「「「あ!!!」」」

「・・・え?」

ぽかんと止まっているケット・シーにはどうやらあいつが乗り移っているらしいが、残りの仲間たちには全員納得したようだった。ユフィがばしいっとまた俺の背中を叩く。

「バレット!偶にはいいこと言うじゃん!」
「いてえぞユフィ!あと偶にはじゃねえ!!!」
「言われてみりゃあ、確かにその通りじゃねえか」
「あの、ちょっと・・・」
「そうよね。ねえユフィ、衣装はまだ残っているの?」
「このユフィちゃんにお任せ♪ばーっちり持ってきてるよ!」
「ここまで来たのだから、あいつも巻き込まれるべきだな」
「丁度いい。あの猫ロボットも加えろ」
「は?」
「ケットサイズの帽子かあ。あ、子供用のがあった!」
「ヴィンセント、ユフィ。分かってるな」
「オッケー!おっちゃんの確保だよね♪」
「ふっ・・・。可及的速やかにこの場に引きずり出してやろう」
「あ、ヴィンが怖え」
「えっ!?」
「きゃああ、もしかして、局長もお着替えになるのですかっ!?」
「ってことは、局長も参加!?やべ、面白くなってきたじゃねえか!!!」
「これで11人参加か。ん?これであと一人参加したら、2レースできんじゃねえか!」
「いえ、参加しませんから・・・!」

俺達が盛り上がる中、何やらケット・シーの中のあいつが抗議してくるが俺達は全力でスルーしてやる。いつも嵌められてるんだ、今回は何が何でも巻き込んでやる。シドが誰かいねえか?と声を掛ければ、扉がばーんと景気よく開いた。

「話は聞かせてもらったぞ諸君!!!私が参加しよう!」
「ええっとあんたは確か・・・」
「あれま園長ディオ様のお出ましじゃねーか」

そして程なく、リーブ&ケット・シーの主従が捕獲された。集まった俺達の前で、珍しくリーブの奴が冷や汗をかいている。因みに衣装はまだゴールドソーサースタッフ仕様だったが。

「ええと、あの・・・皆さん?」
「リーブはん、諦めようやー。人生諦めも肝心やで?」
「ケット、貴方は人ではないでしょう?」
「あーおめら。漫才してないで、さっさと着替えてこいや」
「「ええーー!?」」

*   *

結局リーブとケット・シーもカウボーイとやらの衣装に着替えさせられてきた。いつも俺達は巻き込まれてばかりだから、ざまあみろってとこだろう。矢鱈とWROの姉ちゃんにキャキャー言われてたが。そうこうするうちにリーブを含めた俺達のレースの組み合わせが発表された。

<予選Aチーム>
クラウド、ティファ、バレット、ナナキ、ユフィ、ディオ。

<予選Bチーム>
リーブ、ケット・シー、シド、ヴィンセント、レギオン、サラ。

『見ての通り、Aチームは反神羅、BチームはWRO関係者らしいぞ。ふん。解説はマスターが捕獲されたために臨時のしがない三流作家が担当する』

「あ。ハンス先生が解説やるんだって」

『尚、断っておくが俺に仕事を振った時点で実況は期待できんぞ』

「うわ、早くも職場放棄!」
「流石ですねえ」

予選Aチームに選抜されたクラウド、ティファ、ナナキ、ユフィ、園長、そして俺達が、各々チョコボに跨ってレースのスタートラインに立つ。因みにナナキのみ、チョコボに乗っていない。乗れるわけないよな。ナナキは自分で走るらしい。デブモーグリの口のアーチに虹色のファンシーなコース。久し振りに緊張感が増す。

スタート!

「いやっほーーー!!!おっ先ーー!!!」
「くっ。ユフィが先に抜けた!」
「ちょっとクラウド頑張ってよ!家族旅行がかかってるのよ!」
「ふはははは!!!まだまだ若者達には負けんぞ!!!」
「流石園長だな。俺も本気を出すとしよう!」
「それさっきも聞いたわよ!!!」

『ふむ。まずは忍者がリードを取ったようだな。その後はストライフ一家が続く。だがゴールドソーサーの園長も本気で優勝を狙っているようだ。』

「くそっ、クラウドもユフィの奴も速すぎじゃねえか!」
「凄いねえ、速いや」
「ナナキ、俺に併走してどうすんだ?これはレースじゃねえのか」
「そうなんだけど・・・。おいら、みんなと走れることが楽しいから」
「まあ、おめえがいいならいいけどよ。折角だからおめえの走りをみせてもいいじゃねえのか?」
「おいらの走り?」
「チョコボごときに引き離されるような聖獣じゃねえんだろ?」
「・・・じゃあ頑張ってみようかな」
「おう、行ってこい行ってこい!」

『体重で不利なバレットは予想通りに出遅れている模様だ。その代わりナナキを嗾けたところだが、彼らから見て先頭集団はもう姿形も見えん。何処までナナキが追いつくのかが見所だ』

森を抜けクリスタルの道を走り、海の神殿を横切り、宇宙空間を模したエリアでゴールにたどり着く。やる気満々なあいつらは、ショートコースをあっという間に攻略していた。

「ユフィちゃん、ぶっちぎりーー!!!」
「くそ、あと5秒早ければ・・・!!!」
「それが命取りってことだよ、クラウドちゃんー?」
「誰がクラウドちゃんだ!!!」
「うーん、ユフィをどう攻略するかよね」
「ははははは!若者は清々しくてよいな!!!」
「ぜーはーぜーはー」
「何でチョコボに乗ってたバレットの息切れてんの?」
「う、うるせえ!!!」
「おいら、追い付けなかったー」

『一着はユフィ、続いてクラウド、ナナキ、ディオ、ティファ、バレットという順だ。次はBチームだ。さっさと位置につけ。そして俺の仕事を終わらせろ』

*   *

レースを終えた俺達と入れ違いで、予選Bチームに選抜されたリーブ、ケット・シー、シド、ヴィンセント、レギオン、サラがレース会場に入っていく。俺達は控室のモニタで奴らのレースを見ることになった。会場だと観客で溢れかえって入る隙が無いらしい。無理に行ったところで人気者のクラウドが客に捕まるのは目に見えてるしな。
モニタにはBチームがスタートラインに横一線に並んでいる。男4人、女一人、そして猫型元スパイが一匹。いくら全員カウボーイとやらの格好をしているとはいえ、変なメンバーだな。ん?Aチームも似たようなもんだったか?

俺が首を捻っているうちにモニタにカウントダウンが映し出され、一斉にスタートした。

『よっしゃああ!俺様の操縦はシエラ号だけじゃねえことを見せてやろうじゃねえか!!』
『艦長、飛ばしてますねーー!ま、俺も負けられませんけどね!』
『私も、頑張りますう!!!!』

シドの奴、全力で挑んでやがるな。WROの兄ちゃんたちもやるからには、といった感じらしい。

『勝負好きのWRO関係者が清々しいばかりにレースに乗せられているようだな』

少年作家先生の言う通り、奴らはノリノリだった。残りのメンバーも後を追っていたのだが。
開始1分後。ある男が不審な動きをする。

急にチョコボを停止させたのだ。

「ん?おい、あいつなんで止まってるんだ?って、おい!!」
『む?ヴィンセントがチョコボを反転させたぞ。そのままスタートラインを超え、コースアウト。失格だな』

「「「はあああああ!!????」」」

モニタで見守っていた俺達が思わず叫んだ。

「何だとう!?」
「ちょっとおおおお!!!何やってんのヴィンちゃん!!?」
「勝負を捨てるなど愚かなり!!」
「え?ヴィンセント、失格なの?」
「成程、あいつらしいな」
「ちょっとクラウド!感心してる場合じゃないでしょ!?ヴィンセント!ちゃんと参加して!?」

俺達の音声が奴に届いたのか、モニタに映るヴィンセントはチョコボを降りて淡々と応える。

『選手登録をしてレースに出場。これで参加という条件は満たした。それに、参加しろとは言われたが、ゴールしろとは言われていない』
「うむ!見事なり!!」
「むっきーーー!!!」
「屁理屈かよ!!」
『私に戦闘以外期待するな』
「あ、ここでその台詞言っちゃうんだ」
「おいら、ヴィンセントとも走ってみたかったんだけどなあ」

そして、控室でも聞こえてくるのは観客の反応だった。明らかに歓声、ではない。
臨時の解説者が皮肉気に言い切った。

『試合放棄のヴィンセントへ、会場の観衆から見事なブーイングの嵐だ。いいぞ!期待外れの英雄に賭けた愚民どもよ、せいぜい薄っぺらい財布を抱えて散財するがいい!!』

「うっわーハンス先生、観客にも容赦ないねえー」
「考えてみりゃあ、あいつがまともにレースなんぞするわけねえか」
「そうだな」

『一方このモニタは主催者にして当事者に引きずり下ろされた我がマスターとその分身だ。先頭集団から2mばかり離されている。が、会話がどうにもレース以外に向いているようだ』

解説者につられて別のモニターを見れば、リーブとケット・シーが並んでチョコボを走らせていた。だが、聞こえてくる会話は確かにレースの内容ではなかった。

『うーん。ヴィンセントには逃げられてしまったようですね』
『ヴィンセントはんやしなあ。スタートラインに立ってくれただけでも御の字やで』
『そうですね。ヴィンセントがカウボーイ姿で颯爽とチョコボを駆ける姿は、さぞかしファンに受けるんでしょうねえ』
『それでスタートラインに過剰にカメラを配置したんやな』
『何か言いましたか?』
『いんや、なーんも?』

「げっ・・・」
「リーブのおっちゃん、抜かりないねー」

感心したように頷くユフィの隣で、俺は顔を引き攣らせた。この場にヴィンセントがいなくてよかったというべきだろうか。いや、この放送チョコボレース会場全体に流してなかったか?

『流石腹黒主従というべきか!試合を放棄しようが、奴の勇姿はきっちり写真に収めて一儲けするらしいぞ!もはやマスターの写真集というより、如何に英雄ファンに売りつけるかの算段をしているな!』

作家先生にもモロバレな主従はのんびりチョコボを走らせている。てかこいつらレースする気がねえんじゃないか。完全に並走している彼らは速度は散歩より速いにしても、先頭連中に追い付こうとする必死さはまるでなかった。

『それにしても、ケットも乗れたようですね』
『当たり前やんか、リーブはん。そういや、こんなん初めてやな』
『何がです?』
『リーブはんと何か競うっちゅーことが、や』
『・・・そういえばそうですね。いつも共同作業で、ケットには協力してもらってばかりでしたが・・・偶にはいいですね』
『そやそや。いくらリーブはんゆうても、今回ばっかりは負けへんでーー!』
『いいですね。純粋に競い合いましょうか!』
『ラジャーや!』

一気に二人の乗ったチョコボが前のめりに加速し始める。今からダッシュしたところで間に合うかは疑問だが、まあこいつらだけのレースならいいのだろう。好きにやってくれ。

『む。マスターと分身が真面目にレースに参加しだしたようだな。せいぜい慣れないことをして明後日の筋肉痛に悩まされるがいい!』
『ちょっとハンス、現実味のありすぎる皮肉で水を差さないでくださいよ!!』

相変わらずの毒舌を振りまく解説者に俺は感心した。あのリーブでさえお手上げのようだ。俺もあのくらいの話術が欲しい。

「ハンス先生、容赦ないぜ」
「おっちゃん、次の日じゃなくて明後日に筋肉痛かあ-。年だね」

『ううっ・・・!』

*   *

ハンスに痛いところを指摘されつつも、リーブとケット・シーは互いのチョコボを爆走させていく。だがゴール付近を映すモニターには諸手を挙げてゴールの七色の光を横切るシドと、少し遅れて見るからに悔しそうに2番手でゴールを横切るWROの兄ちゃんが映っていた。飛空艇を操るシドがチョコボを上手く操るのも意外だが、生き物もあの兄ちゃん、筋肉自慢だけかと思いきや、チョコボの騎乗スキルもあったらしい。そして次々に選手がゴールに辿り着いた。解説者が朗々と順位を読み上げる。

『一着はシド、二着はレギオン、三着はケット・シー、4着はサラ、ドベは我がマスターだ』
『ハンス!?最下位はヴィンセントでしょう!?』
『あれは棄権だからカウント外だ。従って堂々たるビリはリーブ、貴様だ』
『ちょっ!』
『同地点から加速を始めてチョコボの性能差があるとはいえ、サラを追い越した分身に対して本体は全く巻き返せなかったというわけだ!精々己の貧相な騎乗スキルを恨むがいい!!!』
『もうやめてくださいハンス!!!』

WRO局長では見られないだろう悲愴な顔でリーブが叫んでいる。会場はウケているようだが、俺は顔が引き攣っていることを自覚した。やべえ。これはリーブどころか誰も制御できない歩く言葉の爆弾だ。

「相変わらず手厳しい使い魔だな」

レースからは逃亡できたが仲間から逃げ損なったヴィンセントがぽつりと呟く。全くだ。

*   *

予選が無事?終了し、残る決戦に向けて俺達は控室に勢ぞろいしていた。まあ顔つきは色々だが。

明らかに優勝を狙ってハイテンションなユフィに、静かにそのユフィを抜かそうと考えていそうなクラウド、そのリーダーを後押しするティファ。子供たちも期待の眼差しでクラウドを囲んでいる。ありゃあクラウドが優勝しなかったらあとがやばいのか?隣のレギオンの兄ちゃんは純粋にリーブに勝って嬉しそうで、対するリーブは落ち込んでがっくりと座り込んでいる。その背中をケット・シーが慰め・・・ではなく棒で突っついて楽しんでいる。分身もそういや毒舌仕様だったなあ。シドはぷはーと煙草をふかして・・・ディオにどつかれてら。禁煙だったらしい。ヴィンセントは相変わらず存在感をなくして壁に凭れている。寝てるんじゃねえだろうな?ナナキはサラと談笑している。レースはどうでもいいらしいな。

そんな風に各々が待つこと暫し。
ピンポンパンポーンと気の抜けた音楽が再び鳴った。天井のスピーカーから降ってくる声は勿論歩く言葉の爆弾こと、リーブの使い魔だ。

『ふん。待たせたようだな。愈々決勝戦というわけだが、貴様らに我がマスターからコメントだ』
『えー、皆様、レースへの積極的なご参加ありがとうございます』

「おっちゃん、いつの間に移動したの!?」
「いや、完璧に脅しただろうが」

周囲の驚きや批難も何のその、いつの間にか移動して復活したらしいリーブの声はいつもの調子に戻っていた。

『決勝進出者はタイム順に、1.ユフィさん、2.クラウドさん、3.シド、4.レギオン、5.ナナキ、6.ディオさんというメンバーになるのですが、ハンデ戦としたいと思います』
「えっ?」
『予選での皆さんのタイムを考慮し、ディオさんからスタート、残りの皆さんは各々のカウントが0になったときにスタートという訳です』
「何だってえ!?ちょっと!!あたし不利じゃん!」
『そのまま横一列にスタートしても、ユフィさんかクラウドさんの一騎打ちは目に見えてますからねえ』

「「「確かに」」」
「ひどーーー!!!」

『因みにディオさんが優勝した暁には、恐らく私WRO局長とゴールドソーサー園長ディオさんの極めて長期的な交渉へと発展する可能性がありますので、個人的には皆さんに抜いていただけると助かります』

「ふはははは!!!流石だな、局長。よくわかっておるわ!」
「げっ・・・」
「うわー腹黒ーい」

豪快に笑うディオが怖い。こういう頭を使うような癖のあるやつらは長年経っても苦手だ。俺がげんなりしていると、ハンスの渋い声が纏めに入った。

『というわけらしい!呼ばれた奴らはさっさと移動しろ!己の欲望のために精々最高スピードを発揮することだな!家族旅行は兎も角、リーブとの交渉を希望する勇者は、レース後に本戦が残っていると言っても過言ではあるまいが!』

「ちょっとー!レースする前にやる気をそがないでよ、ハンスせんせー!」
「俺は家族旅行だから問題ない」
「クラウドずっこー!」
「ユフィも旅行にすればいいだろう」
「でもでも折角だから色々WROに協力してもらった方がウータイが儲かるし!」
「おめえが儲かるの間違いだろうが!」
「シドひっど!!!」
「おいらが勝ったらどうしようかなあ」
「俺、局長と交渉なんて無理です!!!俺が負けるじゃないですか!!!」
「ふはははは、若いな君たち!」

なんとも騒がしい奴らは、連れだってレース会場へと向かっていった。

*   *

再びデブモーグリの口を模したスタートラインに並ぶ一同。スタートと共に超加速で飛び出したのは、タイム順では最下位のディオだった。まああいつから順次スタートするのだから当然だが、えらく飛ばしてないか?ふははははは!!!と無意味な馬鹿笑いまでつけてやがる。挑発か?そしてその笑いにしっかり乗せられているのが、未だスタート出来ない残りの選手たちってわけだ。

「くっそおおおおお!!!あたしが、あたしがすぐに追いついてやるうう!!!」
「ユフィ。どれだけ叫んだところで、あんたのスタートは一番最後だ」
「く、悔しーーー!!!」
「ってえことは、ディオの野郎、単におめえらを悔しがらせるためだけに猛ダッシュしたんじゃねえか?」
「えげつねえですねー。でも、あれだけダッシュしたら、すぐにスタミナ切れるんじゃないっすか?」
「そうだけど、このゴールドソーサーの園長だから、何か考えがあるんじゃないかな」

そうして次に飛び出したのは。

「あ、次おいらだー!」

唯一チョコボに乗らないナナキだ。純粋に楽しそうなナナキに、残りのメンバーも何となくのんびり見送ってる感じだな。

「ナナキって自分で走ってるけどさ、そういやナナキの全速力って速いの?」
「知らねえが、あれだろ?聖獣だから速いんじゃねえか?」
「どれだけ速いかは分からないな・・・」
「チョコボVS聖獣ってことですかー。どっちも強そうですよねー」

と、だべっていたWRO隊員がさっと略式敬礼をして。

「ってことて、お先失礼します!!!」

思いっきり拍車をかけたのか、チョコボが前のめりで走り出す。

「あああ!!!レギオンの奴、チョコボ全速力じゃん!!!」
「当たり前だが、ディオに追いつかなければ優勝はない」
「ちっ。俺様も早く追いつきたいぜ!」

と、人の後ろ姿を見送っていた奴らも遂に走り出す。

「よっしゃ、俺様ターン!」
「ずっるーいいい!!!」
「シドの次は俺だな」
「ちょ、待ってってばーー!!!」

最後のユフィが拳を高く天に掲げた。

「覚えてろよ、野郎どもーーー!!!」

そうして文字通り爆走を始めた。気合の入りすぎている忍者娘をモニター越しに見物する一同。くすっとティファが笑う。

「ユフィったら、スタートから喧嘩売ってるみたいね」
「ユフィお姉ちゃん、大人げないな」
「みんな先に行っちゃったから寂しかったんじゃないかな」

クラウド一家がえらく容赦ないコメントを入れているが、幸いなことにユフィには聞こえてなさそうだ。まああれだけ煽られてユフィが他のことに気を回せるわけがねえか。同じく、園長のスタミナ消費を厭わない加速っぷりに触発された奴らが、ものすごい勢いでディオを追っていく。

「くっ、流石は音に聞こえし英雄達だな!見事なものよ!!!しかし、これはどうかな!?」

風車を右手に駆け抜け雷鳴を避け、橋を渡った先。彼らの行く手には飛沫を上げた滝が待ち構えていた。

ディオが妙に含みのある言い方をして、滝の中へ走っていく。だが特に変化はない。海中をイメージしたらしいそこをスピードを上げたディオが突っ切っているだけだ。・・・なんだ?何か問題あるコースなのか?
俺が首を傾げてモニターを覗き込んでいると、次に滝に飛び込んだナナキが、何故かスローモーションのように遅くなる。

「あん?ナナキのやつ、何で遅くなってんだ?」
「・・・ほう。ディオのチョコボは水耐性か」
「水耐性?どういうことだ?」

壁に突っ立っていたヴィンセントが一人納得したように頷く。寝ているのかと思いきや見ていたらしい。しかし俺には何のことやらわからない。そうこうしているうちにWRO隊員もあの海中ゾーンに入った途端、チョコボの動きがトロくなる。ぽん、とティファが手を叩く。

「そっか。あのゾーンは、川チョコボか山川チョコボか海チョコボじゃないと、遅くなっちゃうゾーンなのよ」
「ってことは、クラウドたちも遅くなるのか」
「ええ!?クラウド、遅くなるのか!?」
「クラウド、負けちゃうの!?」
「残念ながら、クラウドたちのチョコボは黄色の普通のチョコボだな」
「ディオのチョコボも黄色じゃねえか」
「そのあたりは食えない奴のことだ。突然変異で羽の色が変わらんチョコボを所有していてもおかしくない」

ヴィンセントがそうディオの野郎を称していると、モニターから高笑いが聞こえてきた。

「ふはははは!!そうとも、これこそ我が秘蔵の川チョコボよ!黄色の羽だが浅瀬ならば楽々進む!この海中ゾーンも例外ではない!」
「てめえ、きったねえぞ!!!」
「ちょっとー!それじゃああたしらも遅くなるじゃん!」

英雄たちが不利になったのをみて口を出したくなったのか。実況をさぼっていたらしい童話作家様の声が天井から降ってきた。

『ふむ。ディオはゴールドソーサーの園長という立場から優位なチョコボを保有していたわけだな。清々しいほどの職権乱用というやつだ!!これこそが仕組まれたゲームというやつか。勝敗はゲームが開始する前に決定しているとは大昔の自称賢者の言葉だったか。このレースはどうか?ああ、因みにマスターどもは『流石ディオさんですね。羽が黄色い川チョコボなんて初めて見ました』『そやなあ。世界は広いんやなあー』と暢気に感心して完全に他人事だぞ!』

「おっちゃんーーー!?」
「ちっ。リーブの奴、完全に楽しんでやがるな!」
「お、おいら、水、苦手、なんだ・・・」
「局長ー酷いーーー!!俺もう少しで追いつけそうだったのに!」
「ふはははははは!では先に行くぞ若者ども!」

シドやクラウド、ユフィ達の目前に滝が迫る。一人黙っていたクラウドが魔晄の瞳でじっと滝を見据えた。

「海中ゾーンか・・・」

打開策でも考え付いたのか。徐に懐から何かを取り出した。