午後9時ですね。こんばんは。
喪中なので新年のご挨拶は出来ないのですが
今年もよろしくお願いいたします。
と、真面目な挨拶をしても仕方ないので某所に習って彼らにお任せしますか。
拍手お礼文、税の合流前ということで。
* *
「今年もよろしくお願いいたします」
お借りしている部屋でにっこり笑って見せれば、もうひとつの視界で妻がぎろりと睨み付けてきた。
『リーブ。あんた異世界に居候中だろうが』
「そうなんですよねえ。まさか異世界で新年を迎えることになるとは思いませんでした」
やれやれ、とケットの視界が揺れる。
シェルク、ハンス、レギオンと幹部達も同席している。どうやら本部の会議室に勢揃いしているらしい。
『リーブはんがさっさと解決せえへんかったからやないか』
「ちょっとケット。こちらは異世界の政治事情に関わるんですからね。慎重に行動する必要があるんですよ」
『ふん。マスターが無駄な時間を浪費している間に俺達どころか貴様の部下まで総じて巻き込まれているがな!』
「いえ、ハンス。無駄ではないですよ?情報収集は戦略の基本です」
『かも知れませんけど局長ー。結局昨年のうちに合流出来なかったじゃないですかー』
不満そうなのはシャルアの後ろに立っているレギオンである。座ればいいのに、こんなときでも護衛任務が板についているらしい。早期に護衛を廃止しようと改めて決意する。
『局長。情報収集は私達が引き継ぎます。接続の許可を』
凛とした表情で宣言したのは情報部門統括のシェルクだ。接続とは彼女しか出来ないセンシティブ・ネット・ダイブへの接続のことだが、私は苦笑する。
「ケットから私への接続は流石に無理ではないでしょうか。それにこの世界はネットワーク自体が存在しないようです」
『え?』
『なんだと?』
ルーイ姉妹が揃って驚く。
「科学よりも魔法が進化した世界のようです。科学レベルは神羅設立前、といったところてしょうか」
『通信手段はなんだ?』
「文字通り紙に書いた手紙、のようですね」
むむ、とシャルアが科学者の顔で腕を組む。シェルクは小首を傾げている。異世界の技術レベルから見れば、最も神に近いのはこの姉妹ではないだろうか。
『ほほう!書簡であれば、しがない物書きの数少ない出番と言うわけだ!どれ、マスターの現在の心境を誇張して書いてやろう!』
「ハンス!?嫌な予感しかしませんので止めてください!!」
皮肉げな笑いを浮かべて妙なスイッチが入ったハンスを速攻で止めにかかる。ハンスの能力として「想いが100%伝わるラブレター」というものがあるらしい。人間観察力MAXの彼が「誇張して」描写しようものなら、全ての思考が赤裸々に暴露されるに違いない。
『ふむ。だが高位の魔術が存在するのだろう?魔法による通信はなんだ?』
「あ、はい。メッセージ、という魔法があるそうです。ただ誰もが使える訳ではなく、高位のマジックキャスターだけが行使するようですねえ」
蒼い髪の少年が腕組みをして考え込んでいる前を、隻眼の妻が割り込んできた。というかケット・シーにぎりぎりまで顔を寄せている。近い。近すぎる。
「しゃ、シャルアさん・・・!?」
『リーブ。あたしの充電は完全に切れた。今すぐこっちに来い』
「と、言われましても明日合流するといったじゃないですか」
『嫌だ』
「あ、あの、シャルアさん・・・」
『ならばあたしがそっちに行ってやる。座標を言え』
「この世界に座標はなさそうですが・・・」
『今すぐ作れ。あんたなら可能だろう』
「いえ、あの、精密な世界地図でもなければ無理ですから!」
『・・・まさか、地図すらないのか?』
「各地域の地図はあるようですが、全世界を把握したものはないようです」
『・・・ちっ』
やっと諦めたのか、シャルアがケット・シーの前から離れた。
ふう、と息を吐き出す。ただでさえシャルアには負けているというのに、ケット・シー越しに迫られると逃げようがない。
「まあまあ。明日お互いの情報を交換しましょう。我々WROの行動はそれからですね」
『ああ、覚悟しておけリーブ』
「え、あのシャルアさん?」
『局長、ちゃんと来てくださいよ!?』
「い、行きますよ、・・・多分?」
『ほほう?マスターが逃亡しようものならこやつらの手綱を握る奴がいなくなるということだな!精々暴走して異世界とやらに混乱を招くがいい!』
「そ、それは困ります!」
『では情状酌量の余地があるかは、明日判決が下るということですね』
「シェルクさん・・・恐ろしいことを言わないでくださいよ・・・」
『まあゆうてもリーブはんが悪いっちゅーことやな』
「ケット・シー・・・貴方もそちらの味方なんですか・・・」
がっくりと肩を落とす。
局長にとっては頼もしい味方であるはずなのに、何故か私の味方はいないようだった。
続く。