ハンター保護者

数日後。
狂竜ウイルス研究所の奥、居住スペース。
拠点ドンドルマ街の町長リーブは、
ちゃぶ台を挟んでシャルアと向かい合っていた。
シャルアは片膝をたてて座りリラックスした様子だが、
リーブは緊張感をもって背筋を伸ばして正座している。
護衛のレギオンは玄関でぶらぶらと足を揺らして
のんびりと傍観していた。

「・・・シャルアさん」
「なんだ、改まって」
「単刀直入に聞きます。
シャルアさん、ハンターになったというのは本当ですね?」

ずばり切り出すと、シャルアは軽く頷いた。

「レギオンに聞いたのか。そうだが?」

ハンターになるのは当然だ、と言わんばかりの態度に、
リーブの眉がきゅっと危険な角度に上がる。

「・・・貴女は狂竜ウイルス研究所の所長です。
ハンターなど、そんな危険なことを許可するわけには・・・!」
「許可も何も、既に団長のテストに合格したが」

リーブの言葉を遮って、シャルアは淡々と報告する。
リーブは思わずちゃぶ台を両手で叩いてシャルアに迫った。

「シャルアさん!
貴女には狂竜ウイルスを研究するという使命がある筈です!
それに、貴女の調合するアイテムを頼りにしているハンター達も大勢います!
ハンターは貴女の仕事ではないでしょう!?」
「あたしは研究のために、
素材が入手される経緯、元になるモンスターの生態をこの目でみたいんだ。
新たなアイテムを調合できるかもしれない。
これも立派な仕事、あたしの使命だと思うが?」
「うっ・・・」

ヒートアップするリーブとは対照的に、シャルアは何処までも冷静に返す。
そして、彼女の主張は残念ながら否定する要素がなかった。
リーブが怯んだ隙に、シャルアはにやっと笑った。

「それにあんた。
あたしにいちゃもんつけたいんだろうが
本当は、あたしがハンターになったから羨ましいだけじゃないのか?」
「っ・・・!!」

思わぬ反撃に、リーブの顔色がはっきりと変わる。
主な理由ではないが、違う、と答えるにはある意味では真実を突いていて。
シャルアは楽しげにレギオンを見遣った。

「レギオンが言ってたぞ?放っておくと勝手に探索にいきたがるってな」
「そ、それは、・・・その・・・」

シャルアの指摘に心当たりがありすぎ、リーブは視線を外す。
リーブの代わりに、完全に面白がっている護衛が力強く答えた。

「その通り!!!」
「レギオン、黙ってください」
「ほーい」

玄関から暢気に手を振る護衛は、余裕綽々で気に食わない。

・・・いつもは完敗のくせに、何がそんなに楽しいんですか。

もう一度文句を言ってやろうかと口を開く前に、
シャルアが更に畳みかけた。

「あんたもハンターになりたいと散々言っているらしいしな」
「言ってますよー。俺が成果を報告すると悔しそうにしてますし」
「・・・レギオン?」
「ほーい。黙ります!」
「・・・」

護衛は見事な敬礼を・・・上半身だけしてみせた。
因みに足はまだ玄関でぶらぶらと揺れている。

・・・全く、調子のいい。

変わり身の早さに内心頭を抱えていると、シャルアがふと真顔になった。

「なあ。もしあんたがハンターになったとして・・・
何を手に入れたいんだ?」

「え?」
「あんたも、何か目的があるんだろ?」

シャルアの見透かしたような問いかけに、リーブは考え込む。
手に入れたい素材は沢山あるけれど。

「・・・。そうですね。
もし私がハンターになれたなら、『祖龍の剛角』を手にしたいものですね・・・」
「そりゅうのごうかく?なんだそれは」
「祖龍・・・。ミラルーツという伝説の古龍がいるそうです。
その角の硬度があれば、新たな対古龍用の設備ができるのだはないか、と思いまして・・・」

玄関から覗き込んでいるレギオンが、ぽんと手を打った。

「あー。それって、あんたが散々設計してた、新・撃龍槍ですか」
「ええ。今のままでは、強度が足りない・・・。
数回で交換しなければ保たないんですよ。
ですが、その強度を上げられれば・・・」
「撃龍槍としての機能も向上できる、メンテナンスも不要。
確かにいいことずくめですよねー」
「そうなんですよ」

うんうん、と護衛と頷きあっていたら、
妙に重々しい声が割り込んだ。

「・・・分かった」
「・・・は?」

振り返れば、
シャルアは立ち上がってガッツポーズを決めていた。

「あたしがプレゼントしてやる!」

唐突の宣言。
一瞬ぽかんとしたリーブは、次に大慌てで立ち上がった。

「え、えええ!?ちょ、ちょっとシャルアさん!」
「あんたはハンターにならずとも目的が達成できる。
あたしはハンターとして腕を上げられる。
一石二鳥じゃないか!」

びしいっと何故か指を突き付けられた。

「ちょ、ちょっと待って・・・!!」

リーブは宥めるように両手を挙げたが、彼女は全く聞いていない。
そして、またしても傍観者が無責任に煽った。

「そりゃあ凄いですね、シャルア所長!」
「ちょっとレギオン、貴方まで!?」
「ふふん。これで丸く収まるだろう?」
「祖龍を討伐するハンターかあ・・・。
俺も負けてられないです!」
「お。そのときはあんたも参加するか?」
「よろしくお願いします!」
「ふ、二人とも・・・!!!」

シャルアと意気投合していたレギオンは、急にリーブを振り返った。
意地の悪い笑み。

「リーブ町長も、本当はシャルア所長の行動を止められないってわかってるんでしょ?」

「・・・」

咄嗟に反論が浮かばずに沈黙してしまった。
レギオンが勝手に纏めにかかる。

「んじゃ、そういうことで!」
「ああ。あたしは所長兼ハンターとしてやっていく。いいな?町長」

自信満々のシャルアを見ていたら、
矢張り止められないことは決定事項のようだった。
リーブは深い、深いため息をつく。

「・・・分かりました。こうなっては仕方ありません。
もしも、貴女に危機迫るときは、迷わずに、これを・・・」
「これは・・・、戻り玉?」

シャルアに、緑色の玉を手渡す。
クエスト中に投げれば、どんな状況であろうと
スタート地点にある休憩所に一度だけ戻ることができるアイテム。

・・・どんな困難なクエストでも、無事に戻ってこられるように。

玄関の護衛が、その遣り取りに苦笑した。

「町長、相変わらず過保護ですねー」
「え?何処がです?」

護衛の意味するところが分からず、リーブは首を傾げた。

「・・・リーブ」
「はい?」

名を呼ばれ、シャルアに視線を戻す。
じっと手の中の戻り玉を凝視していた彼女は、
そっと大切そうに手の中に包み込んだ。

「ありがとう、リーブ」
「え、ええ・・・?」

微笑むシャルアに戸惑っていると。
彼女はすぐにいつもの勝気な笑顔に変わった。

「必ずプレゼントしてやる。待ってろ!」
「えっ!?」

リーブは困惑した。

・・・そんな話でしたっけ?
いやいや、自分はシャルアがハンターになるのを止めに来ただけで。
結局止められなかったのだが、そこに何故プレゼントの話がでてくる?

キラキラと目を輝かせるシャルアに何か違う、と指摘する前に。
表から、看板娘のサラがシャルアを呼ぶ。

「シャルア所長ーー!!!万能湯煙玉が足りませんー!!」
「ああ、今行く!」
「シャ、シャルアさん・・!」

引き止める間もなく、颯爽と彼女は行ってしまった。
固まっているリーブに、レギオンがにやにやと近づいてきた。

「リーブ町長ー。
成り行きとはいえ、
女性に貢がせちゃあ、駄目だと思いますけど?」
「・・・。えっ!?」

fin.