潜伏

それはまだ、俺がソロでハンターをやっていた頃。

その日も目的もなく、ただ探索で森をうろついていた。
たまたま出会ったイヤンガルルガという矢鱈凶暴な鳥型のモンスターを大剣の一刀で倒した時。

頭上から声が降ってきた。

「お見事ですね」
「誰だ!?」

見上げると、一際高い木の枝に座っている男がいた。

「ずっと観察していたのですが、こちらにモンスターが居座ってしまって困っていたんですよ。貴方が倒してくれて助かりました」
「・・・あんた、よく気付かれなかったな」
「潜伏レベル3にしてきましたので」
「あ、そう」

俺は呆れた。
潜伏とはハンターのスキルの一つで、モンスターがハンターを見失いやすくなる、という効果がある。
そしてLevel3ならMax。

男が樹から降りてきた。俺より年上・・・30代前半か?
ハンター姿だが、武器はレア1の片手剣。寧ろ腰のポーチがぱんぱんだ。何詰めてんだか。

「で、・・・あんた、何やってたんだ?」
「ですからモンスターの観察ですよ」
「いや戦えよ」
「私はハンターではないですから」
「・・・は?」

ぽかんと目の前の男を見返す。
レザー一式はハンターの装備の筈だが・・・。

「あ、この装備ですか?友人がもう使わないというのでもらい受けたんですよ。ハンター装備がどんなものか知りたいと言ったので」
「・・・で、わざわざハンターでもないのに危険な探索に来てモンスター見てたのかよ」
「はい」

にっこり怪しげに笑う男に、俺はがっくりと膝をついた。

「・・・どうしました?」
「・・・あんた、何もんだよ・・・」

モンスターと闘うハンターでもないのにハンター装備。
モンスターが現れても見ているだけ。ただの趣味としても命懸けすぎる。

「私ですか?リーブと申します。建築士ですよ」
「・・・建築士!?」
「貴方はハンターのようですが・・・?」
「・・・レギオンだ。HR(ハンターランク)は100越えたとこ」
「流石ですね」
「どーも。で、その建築士がなんでモンスター観察してんだ?」
「この度ドンドルマの城壁を設計することになりまして」
「・・・。・・・はあ!!!!!?」

一拍置いて、俺は森中に響き渡りそうな声を出していた。
序でに顎が外れそうになった。

「驚くところですか?」
「いやいや驚くとこだろ!!?てかあんた、そんな凄い奴だったのかよ!!?」
「凄い?いえいえ、ただの建築士ですよ」
「だーかーらー!」

戦闘街ドンドルマ。
ハンターなら誰もが知る、大都市でハンター達の聖地といってもいい。
大型モンスター・・・いや、伝説の古龍などが攻めてきた場合の最終防衛戦線だ。
その城壁となれば、この世界で最も腕のあるやつが設計するに違いない。

が。

俺は目の前の男をじいいっと観察してみた。

「・・・見えねえ」
「はい?」

レザー一式で葉っぱまで付けて(木に登ったときのだろうな)、首を傾げている男。
うっかり紛れ込んだ初心者ハンターにしか見えない。が。

「そういや度胸は初心者じゃねーな」
「ありがとうございます」
「今俺は褒めたのか・・?まあ、いい。んで?モンスターの動きでもみて城壁の強度を測ってたのかよ?」
「まあ、本来でしたら古龍を見たいのですが・・・。まずはモンスターというものを知るところからかと」
「・・・そのうち古龍も観に行く気かよ」
「当たり前です」

きっぱり断定した男に俺はもう一度脱力する。
こいつならやりかねない。
初心者装備のままミラボレアス・・・伝説の黒龍だが・・・とか観に行ってうっかり電撃に当たって死にそうだ。

そして、それをうっかり嫌だと思ってしまった俺自身に俺はため息をついた。

「・・・わーかりましたよ」
「はい?」
「あんた独りだとうっかりやられそうだから、俺が付いていきます」
「え?いえ、そんなお手数をおかけすることは・・・」
「俺はそもそもソロですし、このままだと俺が気になってしゃーないんですよ!!!」
「ええ?何故です?」
「いいから!!!次探索する前に、掲示板に貼っといて下さい!俺も行きますから!!!」

その日から。

俺は毎朝掲示板を見に行くのが日課になり。
ソロの目的のなかったあの頃が嘘のように、充実した狩りになった。
レア素材が見つかるわ、レアモンスターに出会うわ、HRは勿論300を軽く超えた。
そして生存率が確実に上がった。
うっかりやられている場合ではない上に、こいつの観察眼が鋭く、攻撃や乱入のタイミングを的確に助言してくれるからだ。
戦闘に参加はしないが、俺にとっては十分な戦力だった。

   *   *

そして、今。

「・・・まーさか町長にまでなっちまうとは思わなかったよなあ・・・」

小さく零すと、ドンドルマ町長室の主が振り返った。

「どうしました?」
「いーんや」

俺はひらひらと手を振った。
忙しすぎて探索に行けなくなった主は町長に、俺はその護衛になったわけだが。

ゴグマジオスと闘ったり。
新大陸の調査していたり。
更には『渡りの凍て地』と未踏の地が発見されたり。

こいつはいつも、俺の知らない世界を見せてくれる。
あの頃以上に充実してんじゃないだろうか、俺は。

fin.

アイボーしていた筈なのに、何故かうっかりモンハンの出会い編が降ってきたので取り敢えず書いてみたw
書き損ないましたが、リーブさんのポーチにはメモやら戻り玉(戦闘離脱できるアイテム)やら回復薬グレートやらが入っています。ただ、メモが9割w
いやー久し振りにネタが降ってきて嬉しいです(笑)。