酷い夢を見た。
あいつに対する死刑宣告。
その罪状の裏付けとなる資料は巧みに分散されていたが、
シェルクの解析によると、出所はたったひとつに絞られた。
WRO本部の、最高機密を納めたスーパーコンピュータ。
意味するところは一つ。
あいつが、WROを終わらせるために
全ての罪を背負って、消えるために。
そんな馬鹿なことがあるか。
あいつがどれだけ苦労を背負って戦ってきたのか、
みな知っていたんじゃないのか。
なのに、巧みに煽られた民衆や、
隊員たちによって、あたしらの反論は封じられた。
「・・・今までありがとうございました」
死刑宣告後に微笑んだあいつがやけに儚く見えた。
* *
あたしのように、裁判自体に疑問をもつ少数の仲間を集めて救出作戦を練ったが、
どうしても全面衝突を避けようとしたら、あいつが・・・宣告を受けた直後の隙しかなかった。
ガス室へ侵入した仲間たちが何とか助け出したが、
痩けた頬、きつく縛られた手足の痣、血で赤く染まった胸元、微かに残る涙の跡。
毒に冒された体は一刻の猶予もなかった。
そして、何とか解毒の処置を終えて。
あたしは嫌な予感を振り払うことができず、
ただ意識を失ったあいつの側に立っていた。
そう、あたしは分かっていたはずだった。
あいつが、どれだけの覚悟を秘めていたのか。
なのに、意識を取り戻したことに安堵して、
一瞬、あいつの側を離れた隙に。
・・・あいつは、自ら、死を選んでいた。
真っ白なシーツを、一筋の赤が染めていく。
口元から溢れるその赤が何を示すのか。
もはやぴくりとも動かない、その体が何を指すのか。
考えたくなかった。
認めたくなかった。
なんで、あんたがこんな最期を迎えなきゃならないんだ!?
他人のことばかり気にかけて、護るために命を削り続けて、それなのにあんな、何も分かっていないやつらに
殺されたようなもんじゃないか!!
どうして・・・
あんたは勝手に逝ってしまったんだ・・・!!!
悲鳴のような慟哭を上げて。
あたしは気を失った。
* *
「・・・ん・・・?」
明かりを落とした病室。
ベッド横の椅子に腰掛けたまま、あたしはいつの間にか眠っていたらしい。
ひとつ首を振る。
酷い夢だ。死刑宣告だと?
だが・・・。
あたしはベッドで昏睡状態の男を見下ろす。
やりかねない。この男なら。
いや、その前に、まずは説教だな・・・。
幼い少年が車の陰から飛び出し、対向車に跳ねられそうになったのを何処で気づいたかしらないが・・・
こいつはとっさに庇って、代わりに跳ねられた。
大きくため息一つ。
打ち所が悪ければ、即死の可能性もあっただろうに
奇跡的に軽い骨折で済んで、今は魔法のおかげでそれも治っただろうに。
こいつは二日間、目を覚まさない。
脳波に異常はなく、寧ろ今までの疲労がでただけではないか、との見方もあるが。
・・・何故、あんたは目を開けない?
ぶるり、とらしくなく体が震える。
先ほどの最低の夢。
赤く染まり、冷たくなった体がよぎる。
違う。あれは、絶対に。
振り払うように、眠り続ける男の首筋に手を当てる。
伝わる鼓動と、温かい体温に力を抜く。
・・・生きている。
なら、さっさと起きろ。
いつものように笑ってみせろ。
そして、そのときは今度こそ。
「・・・死なせんからな」
あたしは無意識に、ひとつ口づけを落とした。
fin.