人魚姫の原文

※FGOイベント「深海電脳楽土 SE.RA.PH」で、黒幕との最終決戦。黒幕についてはネタバレですのでご注意。序でに「人魚姫の原文」に関して独自解釈はいってますのでご注意。

 

KPを集めて全てのアイテムを駆使し、彼女たちは再びキアラと戦った。
だが敵は強大で、靱葛をマスターと仰いだサーヴァントが跡形もなく消えていく。

「みんなっ・・!!!」

マスターである靱葛が悲痛な声をあげる。
私もハンスも、ただじっとその様子を見ていることしかできなかった。

あれほどの猛者たちを一蹴したキアラがいっそ恐怖を伴うほどの優雅さでゆっくりと歩み寄る。
呆然と座り込む靱葛の横を通り過ぎ、ハンスに近づいていく。
思わずハンスを庇おうとするが、ハンスに止められた。視線を向ければ、ハンスがゆっくりと頭を振るう。

キアラが両腕をハンスへ向ける。
蝶がその羽を広げるように残酷なほど美しかった。

「待たせましたね、アンデルセン。さあ、私の側に・・・」
「近寄るな汚らわしい」
「・・・え?」

吐き捨てるような声に、キアラがきょとんと眼を丸くする。
拒絶されるとはゆめゆめ思っていなかった純粋な驚き。
ハンスが口を開く。

「貴様は月のキアラとは別物。ただ異世界の愛のない獣とサーヴァント達の戦闘から快楽を欲しただけのこと。模倣犯というやつだ。貴様自身の願いなど何処にもない」
「何を言っているのですか、アンデルセン?平行世界の私も、ここにいる私も紛れもなく私の願い・・・人類を救うために動いていたではないですか。ええ、平行世界の私が成し遂げなられなかった楽土を完成させるのです」
「貴様の言う人類とは、貴様だけだろう。他の人間に知性があるのを認められない。だから貴様は詰めが甘いのだ」

ふん、とハンスがはねつけるような視線でキアラを牽制する。

「確かに貴様は魔神柱の記憶とやらで学習しただろう。取るに足りない、虫けらのようだと侮っていた靱葛に、奴らが数千年かけた野望を阻止されたのだからな!だからそこの靱葛とそのサーヴァントは警戒しただろう。貴様から分離したはずのBBも何か仕掛けてくると予見できただろう。・・・だが、俺達はどうだ?貴様の記憶の通り最弱の童話作家とその役立たずをレベル1のまま引き連れた見るからに貧弱な男。FGO世界の戦闘では確かに力になるどころかお荷物だ。だからこそ貴様は放置し、こうして最後に俺達と戯れて溶かせば終わりとでも考えていたのだろうが・・・貴様は分かっていない。我がマスターの能力は人を活かし、纏め上げる力。貴様のように世界に害をなすものと戦う組織の長。貴様が星を喰らう寄生虫ならば、こいつは星の害虫を駆除して回る専門家だ」

遠くで座り込んでいた靱葛がはっと顔を上げる。
目の前のキアラは少しだけ不快そうに顔を歪めた。

「意味が分かりませんわ。私以外の人間など全てケダモノ。まして異界の無力な人間に何ができるというのですか?」
「リーブはBBと交渉して、最高のアイテムを引き出した。自らが戦えずとも、予測できる危機を回避できる対策となり得る決定打。つまりはそういうことだ」
「ですが・・・アンデルセン?戦えるサーヴァントは既に消滅いたしました。この深海の藻屑と消えたのですよ?ここから一体どうやって私を止めるというのですか?」
「ふん。自己愛が強すぎるのも厄介なものだなキアラ。自分に勝る策士が存在するとは想定外だったのだろうよ」
「どういうことですか・・・?」

ーいいですかハンス。貴方の著作、人魚姫のラストをスキルにできませんか?
ーほう?成程なマスター。俺の著作を無駄に催促しただけはあったな。
ー帰ったら新作旧作含めて、全て提出してくださいね?
ー馬鹿め!俺を過労死させる気か!労働法で訴えてやる!
ー過労死なんてさせませんよ!子供は9時就寝ですから。
ー成人だと言っているだろうが!

「ハンス!」
「いいだろう、マスター」

ハンスが己の宝具を広げる。
装飾された本から溢れんばかりの聖なる光が放たれる。

「何をっ・・・!?」

焦るキアラが何をしようとも遅い。キアラ戦で発動を約束されたそのスキルを止めることは何人たりともできないのだから。
ハンスの朗々とした声が響く。

「我がマスター、リーブ・トゥエスティの命に従い、これよりアンデルセンが紡ぐは再生の物語。
『悪夢に散りし英霊よ。深海に消えし水泡よ。汝が献身天へと示せ。
気息の世界認めし時、不死なる魂その身に宿らん!』」

ハンスの呪文と共に、最後のアイテムが輝き、霧散する。同時に敗北したサーヴァントが光とともに全員が復活を果たした。彼らの宝具発動に必要なNPも満タンの状態で。

「みんな!!!」

マスターである靱葛が立ち上がり、彼らに駆け寄っていく。
ぎょっとしてキアラが振り返る。

「何ですって!?」

私はほっと胸を撫でおろした。
BBが準備してくれていたキアラの能力を防ぐアイテムをもってしても、もしも全滅したとしたら。
その全滅から復活するためのアイテムが必要になるのではと思ったのだ。

ハンスのスキルは己の著作を引用して効果を得るというもの。
「人魚姫」の最後では、海の泡と消えそうだった人魚姫が、永い年月を人々のために尽くすことで後に「死なないたましい」を授かるだろう、という希望で終わっている。
ならば、これを応用して敗北し消えたサーヴァントを復活できるのではないかと。
その思惑は見事に的中したということだ。

「凄い・・・!凄いよ、ハンス!リーブさん!」
「間に合いましたかね?」
「うん!うん・・・!!!大丈夫!あとは任せて!!!」

靱葛の涙を湛えた瞳が決意で凛と輝いている。
彼女の前には屈強なサーヴァント達が全復活して勢揃いしている。
ハンスが嘲笑するようにキアラを見上げた。

「どうだキアラ。まだこいつを無力と侮るのか?」
「・・・いいでしょう。彼らの復活が想定外だったことは認めます。ですが、何度でも同じこと!」
「同じじゃないよ。貴女への攻撃はちゃんと効いていた。あと少しだったから!」
「ええ、我々にお任せください、リーブ、アンデルセン」
「頼みましたよ、皆さん」
「さっさと毒婦を俺の視界から消してくれ。目障りだ」
「ハンス・・・」

彼らが希望に満ちた表情でキアラに対峙する。
屹度もう大丈夫だろう。

「ふん。悲劇と悪名高い人魚姫の結末がよもや逆転劇に使われるとはな」
「何か問題ありましたか?」
「いや・・・。悪くない」

ハンスがうっすらと微笑んだ。

fin.

余談ですが、実際の戦闘では「人魚姫の原文」+聖晶石もしくは令呪が必要です(笑)。