代表

「どう・・・いうことですか、部長・・・!」

メテオ消滅後の、大半が壊れた神羅ビルの一室。
静まり返った会議室に、驚愕の声が響いた。
リーブは声を上げた社員に淡々と返す。

「言ったとおりです。新組織の立ち上げに当たって、代表者を決めていただきたいのです」
「え、でも、部長は・・・?」

別の社員が困惑気味にリーブを見返す。
リーブはそちらへ視線を合わせ、事実を述べた。

「・・・今までは神羅の責任を果たすという意味合いが強かったため、神羅幹部の私でも辛うじて機能していました。
ですが、・・・もはや人々にとって神羅は世界を滅ぼしかけた恐怖でしかありませんから。
今後、人々や街の支援をするにあたって神羅は相応しい組織ではありません。
代表者も然りです」
「ですがっ!!!」

がたん、と立ち上がった社員へ、リーブは席に戻るようにと静かに促す。
社員は何処か悔しげに座り直した。

「勿論新組織の立ち上げに当たって、暫くは引き継ぎもありますので私も手伝いますが、
一定期間が過ぎれば完全にお任せしますよ」

元々、私は人の上に立つ器ではありませんしね、と付け加える。

「そんな・・・」

社員のひとりは俯いてしまった。
それらが今までのリーブの行動を肯定してくれているようで、リーブはふわりと笑う。
じっと聞いていた別の社員が冷静に問いかけた。

「部長は・・・その後、どうされるのですか」
「私は・・・神羅の後始末がまだ残っていますから」

端的に答えれば、彼は納得したのか、それとも他に思うところがあるのか沈黙した。
リーブは前者と判断し、今一度全員に宣言する。

「新組織に所属されるかどうかは、みなさんの自由意志です。
家族のために故郷に戻られるのも重要な選択肢の一つですからね。
神羅の退職金はちゃんとお支払いしますよ」
「部長・・・」
「申し訳ありませんが、時間が惜しいので、一週間以内にみなさんで決めてください。
誰であろうと、みなさんの決定に従いますよ」

*   *

会議室から退出しいつもの作業部屋に戻れば、リーブは思わずふう、と安堵の息をついた。
そのままふらりと近くにあったパイプ椅子に座り込む。

・・・もう、神羅は消滅したのだ。
いつまでも自分が居座っていい場所ではない。

本音をいうと、
崩壊したミッドガルの解体と新都市の整備やら、
医療関係の充実、交通網の整理、教育設備や果ては娯楽設備まで・・・。
できなかったものを、消えてしまったものをできるだけ作り出したかったけれど。

神羅の支配からようやっと逃れて、滅亡の危機を何とかくぐり抜けた世界には、神羅幹部もまた、消えるべきなのだ。
神羅の後始末は、それこそ果てが見えないけれど、それは残された幹部として終わらせてみせる。

きっとそれが、最後に残った自分のできること。

*   *

リーブが去った後の会議室では社員たちが議論を繰り広げていた。

「・・・さて。どうする?」
「代表者を決めろってことよね・・・」
「部長の仰ったことは正しい。最早神羅の看板では人々の支持を集めることは不可能だろう」
「でも!!!!」
「・・・だが、それは神羅という組織の話だ」
「え?」
「俺たちがここに戻ってきた理由は何だ?」
「街を、人々を助けるため・・・」
「そうだ。そのための新組織を立ち上げるべき、それも道理だろう。
問題は、人々を助けるための新組織で誰がトップとして相応しいか、だ。今までの経歴は二の次だと、俺は思う」
「それじゃあ・・・!!!」
「・・・手っとり早く投票にするか。
全社員が一人一票、新組織のトップにしたい人の名前を書く。上位3名で決戦投票。
・・・但し、もしも過半数を越える支持を得た人物がいれば・・・」
「・・・いたら?」

彼はニヒルに笑った。

「・・・問答無用で決定、だ」

*   *

翌日。

「・・・部長。よろしいでしょうか」
「おや。何でしょう」
「会議室に来ていただけないでしょうか?」

神妙な社員につれられ、昨日と同じ会議室に入る。
そこには昨日と同じく各担当の代表者が全員揃っていた。
彼らは何処か緊張した、若しくは期待するような目でリーブを出迎えていた。

そのうちの一人が口を開く。

「俺たちで、いえ全社員で投票しました。誰が新組織の代表として相応しいか」
「え。早いですね。もう決まったのですか」

リーブは素直に驚いた。
全盛期の神羅に比べれば小さい規模だが、それでもまだ沢山の社員が残ってくれていたのだ。
その全員での決定が既に終わっているとは。
いずれにせよ、リーブに異論はなかった。

「分かりました。それでは引継に移りますので、どなたに決定したのですか?」
「まあ・・・投票には殆どある人の名前しかなかったものですから。と、いうことで部長」

絶妙にはぐらかすような回答に首を傾げながら、リーブは反射的に返事をしていた。

「はい」
「この箱に入った投票用紙、全て同じ人物を書いたものです。受け取ってください」
「え、ええ・・・」

ひとかかえはある直方体の白い投票箱を受け取り、近くのデスクに置く。
鍵の開いた蓋を開け、適当に一枚取り出して開いたみたものの。

「・・・え?」

あるはずのない名前が書かれていた。
ぽかんと見返し、別の紙を開いてみたが結果は同じ。

何故か、リーブの名前しかなかった。

呆然と無数の投票用紙をみるしかできないリーブへと、案内してきた社員がさくっと答えた。

「ご覧の通りの結果です」
「で、ですが・・・!」
「『誰であろうと、我々の決定に従う』と仰いましたよね?」

からかうようにリーブの反論を封じる彼は、都市開発部門でも古株のベテラン社員だ。

「い、言いましたが私は神羅幹部ですし、」
「俺たちも多くが神羅社員ですけど」
「いえ、幹部は神羅の罪を・・・!」
「そう思われるのでしたら、尚更俺たちに復興の指導をしていただかないと」
「ですから、復興に相応しい新しいトップを、」

尚いい募ろうとするリーブへ、ベテラン社員はぴしゃりと断言した。

「我々が新組織に相応しいトップとして選んだのは、貴方です。
受けていただけますよね?
・・・リーブ・トゥエスティ部長」

向けられた会心の笑みに、リーブは返答が遅れた。

「・・・そ、それは・・・」
「てことで解散!!!」
「ちょ、ちょっと待って・・・!!」
「いやーさくっと決まりましたね!」
「もう吃驚させないでくださいよ部長!」
「あ、新組織だと部長じゃなくなるんですよね」
「社長?」
「そりゃ会社だろ」
「んーじゃあ総統とか?」
「何を統べるんだよ何を」
「まーそれは部長に決めてもらうってことで」
「部長、新組織の名前と、トップの肩書き、早く決めてくださいねー」
「え!?私が、ですか!?」
「他に誰がいるっていうんですか」
「ですから・・・!」
「組織が変わってもついていきますから、よろしくお願いしまーす」

社員たちは口々にリーブに声をかけて、楽しげに会議室を去っていった。
ぽつんと取り残されたリーブは、暫し立ち尽くし・・・。
はっと我に返った。

「・・・えええええ!????」

fin.