仮に。

仮に、WROという組織がなかったとする。

と、すると、別の組織が出来ていたのだろう。
トップは・・・元神羅の可能性が高い。
だとすると今よりもずっと軍隊を全面に出す組織かもしれない。

考えてみる。

自分が、シェルクと出会うために必要だった条件を。

   *   *

シェルクがDGを出て地上に現れたのは、エイシェントマテリアを探していたからだ。
つまり、ヴィンセントを。
ヴィンセントがいるところに、シェルクが現れる。
では、何故あのときヴィンセントは、WROにいた?

あたしが引っ張ってきたからだ。
DGと戦闘して、それが負傷したところをみていたから。

しかし、それだけか?

ヴィンセントのことを味方だとわかっていなかったら、
あたしはカームをあっさりと去って、次の街を探しに行っていたのではないか。
・・・では、何故ヴィンセントが味方だと知っていたのか。

・・・あいつが、ヴィンセントのことを話していたからだ。

   *   *

ではヴィンセント抜きで、あたしがシェルクに会っていたら。

例えばWROに変わる組織があったとして、たまたまあたしがその組織にいたとしたら、
やはりぶっつぶそうとして組織に入ったのだろう。
でなければ、もう組織などどうでもよかった。

そして、組織とDGとの戦闘で、シェルクを見つけられたとしよう。
あたしはシェルクを追う。
そして、彼女が振り向いたとして・・・。

・・・あたしは、やっぱり泣き崩れていた可能性が高い。

そして、シェルクはきっとあたしを恨んで攻撃しただろう。
すると・・・。

止めるやつは、いただろうか?

ヴィンセントのような心優しいやつがいたとして、果たしてシェルクに勝てただろうか?
仮に勝てたとして、シェルクは・・・負傷したのだろうか。

敵として乗り込んできたシェルク。
彼女が負傷して、果たして・・・保護されただろうか?
あたしの知る神羅の組織なら、間違いなく処分対象だ。

・・・あたしが、シェルクを取り戻すことはできない。

   *   *

しかし、ただの組織にシェルクが乗り込んでくるだろうか?

彼女の狙いはエイシェントマテリアただ一つ。

それをもつヴィンセントがいなければ、彼女が地上に出てくる理由はない。
そして、残念ながらヴィンセント抜きのただの組織が、DGに勝てるとは思えない。

シェルクに会う前に、あたしらがたぶんやられていた。

   *   *

組織抜きだったとすると、あたしがDGに乗り込んでいる、という状況が一番にあり得る。
そして残念ながらあたし一人では、あのDGSに勝てたとは思えない。
やっぱりあたしがシェルクを取り戻すことはできない。

ため息をつく。
一番仮定したくなかったが、WROがあり、ヴィンセントがいて、シェルクが乗り込んできて、あたしがいる。
・・・それだけだったとしよう。

シェルクはあたしを恨んでいて、攻撃しようとするのをヴィンセントが受けてたつ。
そして、戦闘に入ったことだろう。

それで?

ヴィンセントが勝つ。これは間違いないだろう。
負傷したシェルクはどうなった・・・?
あたしが泣きながら治療したのだろうか。そして・・・。

どっちにしろ、・・・後を決めるのはあいつだったはずだ。

   *   *

シェルクが出てくるには、ヴィンセントが絶対条件だ。
そのヴィンセントが組織に属するとは思えない。
普通の組織なら、彼を呼ぶことさえ出来ない。その彼がWROにきてくれたのは、

・・・あいつがいたからだ。

聞けば、あいつが呼び出したとき最初ヴィンセントは面倒だからと逃げようとしていたらしい。
それを強引に引き込んだのは、引き込めたのは・・・

やはり、あいつがヴィンセントの仲間だったから。

あいつがヴィンセントにWROの協力を頼み、
そのヴィンセントが持つエイシェントマテリアを狙うシェルクがやってきて、
WROにいたあたしがシェルクに気付く。そして、戦闘に突入するのを、

・・・あいつが唐突に割り込んで止めなかったら。

でなければ、ほぼ無傷の状態でシェルクを取り戻すことはできなかった。いや。

あいつがシェルクを保護すると言ってくれなかったら、
捕虜のシェルクは魔晄を浴びることができず、死んでいたかもしれない。

・・・組織のトップが戦闘の最前線で敵を説得する?
しかも殆ど丸腰で。

非常識も甚だしい。

シェルクを無事に取り戻せる条件。
他の仮定も、残念ながら成立しない。

あいつ抜きにはなりたたない。

ヴィンセント、シェルク、あたし。

この3人が一点に集結するには、あいつが必要不可欠だった。
更にシェルクのその後を支えるには、あいつの保護がいる。

・・・それが、腹立たしい。
   
   *   *

「・・・どうしました、シャルアさん?」

色々と無視して『あいつ』を凝視してやる。

「あのー・・・?」
「何故助けた」
「は?」
「DGSを」
「DGSですか?あのまま見捨てるわけにはいかないでしょう。彼らはどう考えても神羅の被害者ですし」
「2年以上経ってるくせに、何故まだ抱え込む」
「彼らが外に出るのが面倒だというので」

勿論外で生きる術を見つけたものもいるらしい。

「で」
「それで、手伝っていただけるという方もいるんですよ。慢性的な人手不足ですからね。とても有り難いんですよ」

そういって、彼はふわりと笑った。

「・・・このお人好し」
「利用できるものを利用しているだけですよ」
「ふん。こんなメンツをよく動かせるな、あんたは」
「動かす・・・というよりも、ご協力いただいているだけですよ」
「どうだか」

一番腹立たしいのは、多分。
こうしたどうでもいい時間が、心地いいと感じていることだろう。

fin.