ずらりと並んだ、新たな部下達。
俺は彼らの前に直立し、一人一人をみた。
「えーお前たちに告ぐ。
護衛、という名目だから局長を守ること。
但し、・・・敵を殺さないこと」
* *
数日前。
新しい入隊者の一人であり、神羅時代からの親友と面談をしていた。
親友、ミトラスは俺の肩書きを聞いて、動きを止めた。
「・・・隊長?お前が?」
「そ。一応」
俺の肩書きは、これでも局長専属護衛隊長。
今までの部下は10人で、とある事件をきっかけに、さらに10人増やすことになった。
その一人が、このミトラスってことで。
ミトラスはじっと俺の目を見透かすように見据えた。
「・・・正気か?」
「いやー正気も正気」
親友は暫く沈黙していたが、ふう、とため息をついた。
「・・・で、俺の配属は?」
「えーっと俺と局長がもめた結果、局長の護衛兼、情報部門所属技術者」
「・・・。は?」
「だから、兼任。
普段は情報部門所属で、局長が出張したり、緊急事態の場合は局長の護衛。
・・・OK?」
親友は頭痛を堪えるように、頭を押さえた。
「・・・。お前たちは阿呆か」
「いや、だって俺も局長も譲らないもんだから、両方取った」
「取るな。いや、どちらもおかしいだろう」
「え?まー、むきむきなお前が情報部門つーのは冗談かと思ったけど」
そう。
さんざん3日間くらい局長と舌戦して平行線で。
仕方ないから幹部達を巻き込んで判定しようにも、優秀な隊員も技術者も必要、と結局決まらなかったのだ。
・・・まあ、局長はずっと、「護衛などいりません!」と主張していたけど、幹部含め全員で、却下してやった。
聞いていたミトラスががっくりと脱力した。
「・・・。そっちもだがな。・・・反旗を翻す可能性の高い俺を護衛だと?」
「だってお前、腕確かだし」
「・・・」
ミトラスも俺と同じ、元ソルジャー。
沈着冷静なこいつは、接近戦も強かったが戦況を判断し、指示を出すのも秀でていた。
ぶっちゃけ、俺よりも隊長に向いてる。
だからこそ護衛にひっぱりこんだのだが、局長はずっと「護衛などよりも情報部門の技術者が不足しています」、と主張していた。
「何で情報部門指名したんかなーあいつ。ん?あ、そういやお前、PCいじってたっけ?」
「・・・改造くらいなら」
「もしかして・・・、面接時に聞かれた?」
「・・・。自作PCの数は聞かれた」
「自作かよ!!!んで?」
「・・・試作品が5、通常使用が3、改造中が2と答えた」
「・・・うわあ・・・。それだなー。あいつ技術者大歓迎だし」
* *
そして、護衛配属の初日。
局長室に初めて踏み入れた新人達は、どうみても緊張しているようだった。
横にずらりと並んでいる彼らの殆どが、かっちこちに固まっている。
・・・まあ、こんな至近距離で最高責任者に会うことはなかっただろうしなあ。
まあ、ミトラスは相変わらずじっと全体を観察しているふうだったけど。
俺はひょい、とデスクにつく局長を振り返った。
「それでは、局長からの挨拶ってことで。局長、お願いします」
人前で話すことが日常茶飯事の局長は、少し躊躇っているようで。
俺は、珍しく思った。
「・・・どうしたんです?」
「・・・本気ですか・・・?」
「何のことです?」
「・・・護衛の数を増やすことについてですよ・・・」
「起案書と議事録のコピーいります?」
俺がさくっと返すと、局長が恨めしそうに見返してきた。
そして、大きなため息をついた。
どうやら余程気が進まないらしい。
「なにため息ついてるんですか」
「・・・一日に20人も危険にさらしてどうするんですか・・・」
「あんた一人で暴走するよりよっぽど安全です」
「暴走なんて、」
「つい先日死にかけたのは、誰でしたっけ」
「誰でしょうねえ?」
「そこ、とぼけないでください」
ぴしゃりと封じた。
・・・全く、往生際の悪い局長だ。
さっさと進めるために、俺は新人達を振り返った。
「てなわけで、俺たちだけでは手が足りない。
お前たちの力を貸してほしい。
・・・じゃ、そういうことで、局長」
もう一度ため息をついて、局長がすっと立ち上がった。
真摯な表情で、新人一人一人に語りかける。
「・・・私が護衛の皆さんにお願いしたことは一つ。
まず、皆さん自身の身を守ってください。
絶対に命を盾にしないこと。
その上で、余分な力を・・・護衛に回してください。
・・・いいですね?」
局長直々の言葉に、新人達は動揺を隠せないようだった。
確かに、普通なら局長の身が第一だろうに、まず護衛自身の身を守れ、とはなかなかない。
でも、これがうちの局長だ。
動揺している新人達に、局長はふっと表情を和らげた。
見るものがうっかり安堵してしまうような、柔らかい笑顔。
「これから、よろしくお願いしますね」
はっと新人達の表情が変わる。
緊張、動揺していた彼らが表情を引き締める。
そして、目が輝き出す。
端から見ていた俺は、苦笑してしまった。
・・・全く。とんでもない局長だ。
新人達が一斉に敬礼を返す。
きっと、局長を守るべき上司だと認めた瞬間だったのだろう。
ミトラスは少し驚いているようだった。
* *
初日の予定をすべて終え、俺は新人達を解散させた。
流石に緊張して疲れたのか、即座に会議室を出ていくものが多い。
まあ、本部隣の寮にでも戻るのだろう。
その中で、未だ呆然と立ち尽くしている親友に俺は近寄った。
「どうしたよ、護衛兼情報屋」
「略すな」
「・・・あれがトップか?」
「そうだけど?」
ミトラスがふっと声を落とした。
「・・・死にかけた、というのは」
俺は無意識に手を握りしめる。
他に聞かれないように、ぎりぎりの声量で返す。
「・・・。本当。
あいつ、交渉の余地があるならって
護衛追い出せっていう相手の言葉に従って・・・罠にはめられた。
背骨と右足の骨折、出血多量で5日間昏睡状態。
あと少し発見が遅れてたら・・・取り返しのつかない事態になってた」
今でも脳裏にはっきりと焼き付いている。
忘れられたような場所で、
自らの血の海に沈んだ、蒼白の人形のようなあいつの身体。
一瞬、息をすることさえ、忘れた。
「・・・」
「ミトラスがあいつを、WROを疑うのは分かる。あいつは元神羅だもんな。
でもな、世界はまだ不安定だ。
WROが崩壊すれば、世界はまた混乱に陥り、多分俺たち皆死ぬ。
だから、世界にWROは必要なんだ。
そして・・・WROを纏められるのは、あいつだけだ」
親友は軽く首を振るう。
「・・・何故そこまで信用できるんだ」
俺は笑う。
どうせ、説明したところでこいつは納得しない。
けれど、きっと。
「そのうち、わかるさ」
fin.