同志

俺は居候。
・・・と俺は思っているけれど、
そんなことを彼らにいったらきっと彼らは怒るだろう。

彼らは言うのだ。
俺のことを・・・家族だと。

俺はセブンスヘブンという店に居候している。
ううん、住んでいる、と言わなければ怒られる。
このセブンスヘブンの住民の中で、未成年なのは俺の他に、もう一人女の子がいる。
おかっぱ頭のその少女も、実はこの住民の血の繋がった家族ではない。でもまあ、あれは完全に家族だろう。

彼女も、転がり込んだ俺も
ここの大人たちは大切に想ってくれている。

俺は、居候で、赤の他人だけど。
だけど、多分一番幸せな家族。

そんな家族の元に、俺の全くの赤の他人だけど
だけどとても大切な・・・親のような二人に会いに、仲間がやってくる。

とても騒がしい姉ちゃんは、不定期にでも頻繁に。
俺と同じ家族の少女がとうちゃんと慕うおっさんは
あまり来れないけど、でもやってくると煩い。
一見大きな獣にしか見えないけど、猫みたいにどこか可愛い彼は、煙ふかした空飛ぶおっさんと一緒に。
気配のまるでない年齢不詳の、俺から見ても恐ろしいくらい美形の兄さんは、陰のようにいつの間にか現れて、いつの間にか去っていく。

そして。

最後の一人を、今度はいつ来るのかと
俺はいつもこっそり待ちわびている。
その人はテレビではよく見るけれどとても忙しくて、あんまり来てくれないから。

ああでも、今日は。

「いらっしゃい!」
「お久しぶりです・・・」

きた。

俺は他の客にメニューをみせながら、でも
意識は半分、背後に向けて。

「今日はゆっくりできるの?」
「まあ・・・クラウドさんはいらっしゃいますか?」
「・・・用はなんだ、リーブ」
「ええ、お話しますよ」

二人は丁度俺のたっていたテーブルを抜け、一番奥へ陣取った。あそこは内緒話にうってつけの位置どりだ。
俺は客からのオーダーをさっさとティファに告げ、足早に奥のテーブルへと向かう。

「・・・いらっしゃいませ」
「ああ、デンゼル君。お久しぶりですね」

そういって、その人は笑う。

「今なら、菠薐草とベーコンのパスタがお勧めだよ」
「いいですね。それを一つお願いします」
「コーヒーはブラックですよね。
ミディールからいい豆が入ったから、是非試してよ」
「では、そちらも」
「はい。他は如何ですか?」
「いいえ。以上でお願いします」
「畏まりました」

ぺこっと頭を下げて、俺はさっさとカウンターに戻る。
オーダーを伝えると、ふふ、と訳知り顔で笑う母親代わりの人がいた。

「・・・なんだよ、ティファ」
「デンゼルが嬉しそうだな、と思っただけよ?」
「そ、そりゃ、英雄が来たんだからな!」
「そうね、でも・・・それだけ?」

小首を傾げて女神のように微笑む姿は、うっかり見取れるほど綺麗だけど。
俺は急いで首を振った。

「それだけだよ!」
「ふふふ」

もう、と俺はちょっと怒りながら、でもさっと表情は戻して別のテーブルへ向かう。
俺に気づいた兄ちゃんが、親しげに手を挙げた。

「よ!デンゼル、よく働くなあ」
「勿論だよ。レギオンもそうでしょ?」
「まーな」

へらっと笑う兄さんは、あの人の護衛隊長をしている。
元ソルジャーだっていうだけあって、がっしりした体つきと青い目をしている。
そこは俺の父親代わりの人と同じで。
でもちょっと不真面目というか、軽いというか・・・。

「今日は何があんの?」
「本日のお勧めは、菠薐草とベーコンのパスタだよ」
「んー俺、菠薐草苦手なんだよな・・・」
「レギオン、大人のくせに好き嫌いあるんだ」
「おお、あるぜ!!!」

やけにきっぱりいうもんだから、俺は笑う。
そこへ。

「・・・レギオン。デンゼル君を見習いなさい」

ため息混じりのあの人の言葉。

「うげ、局長。聞いてたんですか」
「そりゃあ聞こえますよ・・・」
「デンゼルは何でも食べられるからな」

父親代わりのその人も口を挟む。
無表情だけどなんだか自慢げに言われて
俺は嬉しかったんだけど。
更に。

「クラウド?貴方は偏食の固まりですけど?」
「うっ」

母親代わりのその人がとどめを刺して。
賑やかな笑い声が響いた。

「ね、レギオン。ちょっといいかな」
「どうしだんだ?なんか悩み事か?」

お勧めの菠薐草とベーコンのパスタ・・・ではなく
チキンカツサンドを頬張るレギオンに、俺はこっそりと囁いた。

「聞きたいことがあるんだけど・・・」
「・・・俺に?あいつじゃなくて?」
「うん。できれば、リーブさんがいないときに」

俺が真剣に頼んでいるのが伝わったのか、レギオンはあっさりと頷いてくれた。

「へええ。おっし、分かった。
俺が今度こっちに寄れる時、連絡する。
それでいいだろ?」
「うん」
「よし」

にっと快活に笑った背後から、殊更低い声が割り込んだ。

「・・・レギオン。
デンゼル君に変なこと吹き込まないでくださいね?」

「げえっ!?」
「えっ!?」

俺とレギオンが同時に振り返ると、不審そうにレギオンを見下ろすリーブさんがいた。

「うわ、・・・ってあっさり背後取らないでくださいよ」
「寧ろ私に背後取られてどうするんですか」
「そりゃごもっとも」

   *    *

それから一週間後。
約束通り、セブンスヘブンに気のいい兄ちゃんがやってきた。

「よ、デンゼル」
「レギオン!!」
「アイスコーヒーでいいかしら?」
「頼みます、ティファさん!」

お調子者テンションの兄ちゃんを、俺は一番奥のテーブルへ引っ張っていく。
ティファがよろしくね、とアイスコーヒーを置いてカウンターに戻っていった。
俺はその向かいに座る。

「・・・で。話って?」

蒼い目がじいっと俺をのぞき込む。

「うん。レギオンは、どうやってWROに入ったの?」
「ぶっ!!」

単刀直入に切り出せば、
タイミングが悪かったのか、コーヒーが気管に入ったらしい。
レギオンはげっほげっほ咳き混んだ。

「・・・ど、どうしたんだ、一体」
「・・・俺は、断られたから」

小さく返答すれば、
ほお、と兄ちゃんの表情が変わった。

「あいつに断られたんだな?」
「・・・そう。子供だからって。
でもレギオンは入れたんでしょう?やっぱり大人だから?」

俺が急き込んで畳みかければ、レギオンはうーん、と腕組みをした。

「そっか。それであいつがいないときって言ったんだな」
「・・・」

俺は俯く。
そんな俺を見ながら、レギオンは徐に口を開いた。

「まず、あいつは食えないやつだが、人を見る目はある。
だから、あいつが断ったのなら、それがWROにとって正しいとみるべきだ」
「俺は、相応しくない・・・」
「違う違う。お前が面談したとき、可能性を一つに絞ることを恐れたんだろう。
それに、今よりずっと世界が荒れていた筈だ」
「・・・うん」

俺は素直に頷いた。
DGとかいう恐ろしい連中を何とか撃退したけれど
色んな町の被害が深刻で、やっと復興に向かった頃だった。

「・・・あいつ、なんでお前を入れなかったか、理由をいっただろう?」

真摯な蒼い目に負けないように、俺はじっと見返した。

「『子供はWROに入れなくなった』って。あと、・・・『大人の力を呼び戻せ』、って」

あの面談で思い出すのは、去りゆく背中とその人が振っていた花柄のハンカチ。
俺が持っている大切な形見と同じもの。

「ふーん。・・・成程、な」
「レギオンには分かるの?」
「全部は分からねえよ。でも、あいつがデンゼルに期待してるのは、分かった」
「え?期待・・・?」
「急いで軍隊に入るより、ずっと大きなことを
あいつは期待したんじゃねえかなあ・・・」

レギオンの言葉は抽象的で、やっぱり俺には理解できない。
子ども扱いされたようで、俺はちょっと拗ねた。

「・・・よく分からないよ」
「俺だって確信があるわけじゃない。けど、まあ、お前が大切なんだろうな」

肘をついてにいっと笑ったレギオンは、何だか格好良くて。
俺は何だか照れ臭かった。

「そう・・・かな」
「そうそう」

うんうん、と一人納得してるようなレギオンに、俺はもう一度切り込んだ。

「・・・それで」
「ん?」
「どうしてレギオンはWROに入ったの?」

向かいの気のいい兄ちゃんは、げえっと呻いて胸に手を当てた。
余程まずいことなのか、椅子ごと仰け反っている。

「うっ。・・・やっぱり気になるのか」
「うん」

じいいっと目線で促せば、
暫く唸っていたレギオンは、やがてはあーっとため息をついた。
俺の、粘り勝ち。

「分かった分かった。でも、教えるには、条件があるな」
「条件?」

ぴっと人差し指を立てて、レギオンはぐっと俺に迫った。

「デンゼルは、なんでWROに入りたいんだ?」
「それは・・・」

俺は意を決して全て話した。
あの日、あの人に話した全てを。
きっとティファも聞いてるだろうな、と思ったけど、でも話した。

「・・・俺は、たくさんの人に助けて貰った。
だから、今度は俺がWROに入って、たくさんの人を守りたいんだ!」

聞き終えたレギオンはふっと目線を落とし、
快活な兄ちゃんとは思えないほど静かに口を開いた。

「そうか・・・。お前苦労してたんだな。
それに、あいつと関係してたとはな・・・」
「うん。俺も、リーブさんに言われるまで知らなかったんだ」

レギオンはふと顔を上げた。

「・・・ああ、だから」
「え?」
「だからこそ、安易にWROに巻き込みたくなかったんだろうな。
あいつの母親が大切にした少年を、いつ死ぬかもしれない組織に」
「違うよ!」

俺は思わず叫んでいた。

「ん?」
「違う。WROは、そんな組織じゃない!
守るための組織だって、クラウドも、ティファも言ってた!」

興奮した俺を宥めるように、
レギオンは全く動じることなく応じた。

「デンゼル。それは間違っちゃいない。
でもな、戦うってことは、犠牲が全くないわけじゃない。
勿論あいつは犠牲なんて一人も出したくないけど、それでも残念だが、死人はでてしまう。
これが現実だ」
「・・・でも、じゃあ、どうして」
「それも、デンゼルが言ったとおりだ。
俺はそれでも、WROが誰かを守る組織である限り、WROにいる」

真摯な口調で言い切ったレギオンは、
いつもの飄々とした態度から考えられないほど真面目で。
それとも、これがこの兄ちゃんの本質なのかなと思った。

「守りたいから、レギオンも入ったの?」
「んあー。最初は違ったけどな」

ぽりぽりとレギオンは誤魔化すように頭を掻いた。
俺はずいっと乗り出した。

「最初って?」

すう、と息を吸い込んで、レギオンは白状した。

「俺は、あいつに文句をいうために、WROに入った」
「えええ!?そんな理由でいいの!?」

あまりにもあんまりすぎる理由に、俺はさっきとは別の理由で叫んだ。
あのWROに入隊する理由が、文句をいうためなんて信じられなかった。
それも、文句をいう相手があの人なんて。
引き気味の俺に、レギオンは更に続けた。

「まあー条件が『あいつの護衛をする』だったというのもあるけど、
一番は人手不足だな。なんせWRO設立当初の話だ」
「え?じゃあ、そんな前からレギオンはWROにいたの?」
「結果的には、だけどな」
「ええ?」
「俺はさっさと辞めるだろうと思ってWROに入った。でも、辞められなかった。
いんや、いつの間にか、WROに居たくなったんだな」
「居たくなった?」
「・・・WROは軍隊だ。それは事実であり、動かせない。
でも、それ以上に俺にとってWROは居心地が良いんだ」
「居心地?」
「同じ軍隊でも神羅は最悪だった。
いつ戦闘で死ぬか、いつ裏切りでいつくびを切られるか、
いつ・・・抹殺されてもおかしくない組織だ。
あ、すまん、お前の両親、神羅の人だっけ」
「ううん、分かってるからいいんだ」

確かに両親は神羅の社員だった。
けれど、神羅がどういう会社だったのかは、俺でさえよく理解できている。
そう答えると、満足げな笑顔が返ってきた。

「そうか。お前、やっぱり年の割にしっかりしてるな。流石英雄の息子」
「俺は居候だってば」

急いで否定してみれば、背後から優しい声が割り込んできた。

「家族、でしょ?」

振り返れば、慈愛に満ちた笑顔があって。

「ティファ・・・」
「ふふ。お邪魔だったわね。戻るわ」

ティファはぱちんとウインクを決めて、カウンターに戻り、
レギオンはひらひらとティファに手を振っていた。

「んーまあ、そんな神羅から比べれば、
WROは俺にとっちゃ、家みたいなもんだからな」
「・・・家、なの?」
「仕事場だけど、気軽に文句を言える相手がいて、
あっさりとここにいていいんですよと言ってもらえる。
仕事はきっついこともあるしあの野郎思い切りこきつかいやがるけど、
でもそれだけ、俺は世界の再生にちょっとだけでも貢献してるって分かる」
「・・・」
「だから、俺はWROに居るし、失いたくない場所なんだ」

レギオンの護衛としての答えは、俺の目指すところと一致していて。

「・・・いいな。俺も」
「おっと。これは、俺の飽くまで主観だ。
例えデンゼルがWROに入れる年齢になったとして、同じ感想を抱くとは限らないぜ?」

さっきまでのシリアスさを茶化すような、お道化るような態度。
レギオンなりに俺に気を遣ってくれていることは分かった。でも。

「でも、・・・きっと、同じだよ」
「そうか?」
「そうだよ。それに、俺は・・・レギオンが羨ましいんだ」

素直に口に出せば、レギオンが意外そうに首を傾げた。

「ん?俺か?クラウドさんじゃなくて?」
「クラウドは一番の憧れだよ。
でも、レギオンは、ずっとリーブさんを守ってきたんだよね」

俺は、両親やルヴィさん、ガスキンさんや沢山の仲間たちを思い出していた。
俺を守ってくれた沢山の人たち。
今度は俺が誰かを守る人になりたかった。

人を守るには力が必要で。
俺はずっとクラウドみたいに強くなりたかった。
だから軍隊であるWROに入りたかった。

でも、リーブさんと面談して。
子供だからって断られたけれど、
もう一つ、大きな理由が出来たんだ。

俺を守ってくれたルヴィさんが
本当は誰よりも心配して守りたかった人。
その人が、俺よりもずっと前から、沢山の誰かを守り続けているのなら。

ルヴィさんの代わりに、リーブさんを守ることで
沢山の人を守ることに繋がるのなら。

「お前・・・そうか、完全に俺の同志か」
「同志?」
「あー同じこと考えてるってこと。
そうだ。今のWROの気風を作ったのも支えてるのもあいつだ。
だから、俺はずっとあいつの護衛をするつもりだ」
「うん」
「だから、いつかお前が大きくなって、その気持ちが本物なら、もう一度受けてみろ。
いくら局長が反対しようが、本物なら通る」
「ホントに!?」
「ああ。でも、お前の可能性をWROに絞るのもよくない。沢山のものをみて、沢山考えて、沢山身につけて、
それから、一番何をしたいか考えたらどうだ?
何、焦ったところで今の年齢ではWROに入れないんだから、逆にどーんと構えて、あいつに文句言われないくらい
優秀なやつになってしまえばいい」
「うん・・・分かった!」
「おう!」

レギオンが力強く答えてくれたときを狙ったかのように
彼の端末が細かく震えた。

「・・・ん?」
「電話?」

レギオンはひょい、と端末を耳に当てる。

「はい、レギオンです。
ああ、・・・はい。了解です。
え?・・・ははは。言ってませんってば。
ん?伝えるって?・・・気付いてたんですか。
はいはい、15分後ですね。では」

何となく言い訳じみた受け答えに、俺はぴんときた。

「・・・今の、もしかして」
「リーブ局長だ。んで、デンゼルに伝言」
「え?」

驚く俺に、レギオンはこほんと一つ咳払いして。
ちょっとばかり声を低くした。

「『レギオンの言うことだけを鵜呑みにしないでくださいね。
それから、もし君が母のことを気にかけているなら、母のためにも、君が一番に望むことを選んでください。
決して縛られることのないように』
・・・だってよ」

俺は思わず目を見開いた。

「・・・リーブさん、まさか」
「デンゼルが何を相談しようとしてたかもお見通しってことか。相変わらずだなあ」

ぽりぽりとレギオンが頭を掻いた。
あちゃあ、とかいいつつ何だか嬉しそうだった。

「・・・俺、やっぱりWROに入ります」

低く宣言すると、レギオンが俺の変化に気付いた。

「ん?どうした?」
「リーブさんは分かってないんだ。俺が、どんなにWROで働きたいのか。
それと、・・・」
「それと?」

ぐっと俺は手を握り締める。
まだガキだから小さくて頼りないけれど、でも、いつかはきっと。

「リーブさんは俺にとって目標で、大切な人なんだ。だから、守らないと」

きっぱりと言い切ると、レギオンは約束してくれた。

「・・・そうか。じゃあ、お前がWROに合格したら、直々に俺が教えてやる」
「約束だよ!」
「おお!男同士の約束だ!!」

   *   *

「レギオン、余計なこと言ってないでしょうね?」

デンゼルと別れ、指定された時間にWROに戻ってくれば
上司の冷ややかな視線が待っていた。
俺は顔がにやけそうになるのを堪え、そらっととぼけることにした。

「はて、余計ってなんです?」
「・・・あの子は苦労してやっと幸せな家庭に引き取られたんですよ。
更に苦労することなどに水を向けないでください」
「苦労するって、WROのことですか?」
「他に何があるんですか・・・」

はあとため息をつく姿は、いつもの余裕ある上司とはちょっと違うようで。
やっぱりデンゼルは特別な少年なんだろうなあと俺は思う。
だから、頭の上で手を組んで、さらっと付け加えてみた。

「まあ・・・でも、そういう意味なら
余計なことを言ったのは、局長だと思いますけど」
「え?」
「デンゼルは局長に負けず劣らずの頑固ものですからね。
果たして局長が勝てるかどうか」

にやにやして言ってやれば、上司は顔を盛大に顰めた。

「・・・。どういうことですか?」
「男同士の約束だから、言えません!」

黙秘を宣言すれば、目に見えて上司が焦りだした。

「ちょっと、無責任な約束しないでくださいよ!」
「いーや、デンゼルはやるといったらやる男!俺はそれを待ってますから」
「何を約束したんですか!」
「こればっかりは言えません!」

きっぱりと畳みかける。
いつも負けてばかりの俺が、珍しく強気に出れる機会を逃すわけがない。
俺の態度に、上司はもう一度大きなため息をついた。

「・・・今日、レギオンが行くのを止めていればよかったですね・・・」
「止めても変わりませんよ、局長」
「ですが」

尚言い募ろうとする上司・・・
WROという巨大組織を束ねる男に、俺はびしいっと言ってやった。

「あんたは自分の重要性をまるで分かっていない」
「・・・は?」

きょとんと動きを止める局長は、予想通りの反応で。
俺はにやりと笑った。

「だから、俺や、デンゼルみたいな予備群がいるってことですよ」

余裕綽々の俺とは対照的に、局長はがっくりと肩を落とした。

「・・・さっぱり分かりませんよ・・・」
「でしょうねえ」
「・・・逃げる気ですか?」
「いんや、ただこればっかりは
幾らWRO局長殿でも動かせませんよ」

俺は口笛でも吹きたくなるくらい、上機嫌だった。
対する局長は、これ以上言い合っても聞き出せないと漸く認めたらしい。

「う・・・。なんだか珍しく負けた気がします」
「ええ。思い切り負けておいてください」
「・・・遂にレギオンにまで負ける日がくるとは世も末ですね。
あ、でもレギオンというよりデンゼル君に負けたんでしょうか。
・・・それはそれで複雑ですね・・・」
「そうそう、複雑複雑」

うんうん、と頷くと、ぎろっと睨まれた。

「レギオン、貴方は軽すぎるんですよ。そもそも貴方、何故WROに来たんですか?」
「だってあんたが蛙にするから」
「元に戻ったでしょうに」
「そりゃあ文句いいたくなるでしょう」
「もう言ったじゃないですか」

丁々発止というか、阿吽の呼吸というか、
兎も角言い合っていた俺達へ、ヘリの操縦士がさくっと割り込んだ。

「あーリーブ局長もレギオン隊長も。そろそろ着きますよー」
「おや」
「あちゃあ」

窓から覗いてみれば、眼下に目的のジュノン港が近づいてきている。

「相変わらず仲がいいですねえ」
「え?いますぐクビにしましょうか。レギオン」
「げっ!そればっかりはやめてください!てか大暴ですよ、局長!!」

盛大に焦りだす俺とは反対に、余裕を取り戻した局長は食えない笑みを浮かべていた。

「はは、冗談ですよ」
「ううっ、結局こうなるのか」
「楽しそうですねー」

操縦士の言葉に、局長は大真面目に肯定した。

「そうですね」
「あんたが頷くな!!!」

fin.