WRO本部のエントランス。
やってきた訪問者は、待ち人ではないWRO幹部に偶然出くわし・・・
壮絶な殺気に出迎えられていた。
訪問者はその殺気を受け止め、妖艶に微笑む。
「へえ。貴女がシェルクの姉、ね」
「・・・あたしの妹に何の用だ?」
「あら、聞いてないの?姉妹でしょう?」
「・・・前回は引いたがな。また来るとなれば、話は別だ。あたしが相手をしてやる」
「ふふふ。いいわよ。貴女、結構楽しめそうね・・・!」
* *
それから約10分後。
エントランスにはロッソを呼び出したWRO幹部が待ち人を探していた。
「・・・ロッソ?」
エントランスホールは吹き抜けの構造で見通しがよく、
個性的な赤い髪の女性を見落とすことはない筈なのだが。
不思議そうに歩き回る彼女に、WRO隊員が駆け寄った。
「シェルク統括!」
「どうしたんです」
「あ、あの、シャルア統括と朱のロッソが!」
焦った隊員の様子と、伝えられた内容に
シェルクの顔色が瞬時に変わる。
「何処にいるんですか!!」
「訓練所です!!」
* *
シェルクが俊敏な動きで訓練所に到着したとき。
一際頑丈な施設のブースで、強化ガラス越しに二人の女性が激しく戦っているのが確認できた。
ロッソは持ち前のスピードと手刀から生み出す真空の刃。
一方のシャルアは精密な射撃と、決してひけをとらない格闘術。
どちらも全く引くことなく、離れては一瞬後には衝突しあっていた。
「お姉ちゃん!!ロッソ!?」
シェルクは思わず強化ガラスを叩いたが、二人は気づくことなく熱戦を繰り広げる。
やめさせなければ!と放送用のマイクを手に取ったとき、おっとりとした声が割り込んだ。
「・・・これはこれは。
一人の女性を巡る争い、といったところでしょうか」
ぎょっと振り返る。
シェルクにとって唯一の上司に当たる人物がのほほんと立っていた。
「局長!?」
いつの間にやってきていたのか。
WROを束ねる男の隣には護衛隊長が控えていた。
護衛はぽりぽりと頭をかく。
「あのーそれ、誤解を招く言い方じゃないですか」
「ですが、これを見てください」
ぴらり、とWRO局長は一枚の書類を護衛隊長の前に示して見せた。
「んー?・・・訓練内容?『妹に手を出す奴は容赦しない』・・・?
ぶっ。確かに、強ち間違いじゃないですね」
「でしょう?」
「・・・あの、どういうことですか・・・?」
余りのことに珍しく呆然としているシェルクに、リーブはにっこりと笑って見せた。
「訓練施設の使用許可願いが届きましてね。
興味深い対戦でしたので、観戦させていただきますよ」
「使用許可・・・?」
「あんた、これのために仕事倍速で終わらせたんじゃないでしょうね?」
「勿論、このためですよ?ああほら、私たちの後ろにも観客は多いですし」
「ん?っておいおい、いつの間にこんなに増えたんだ!?」
* *
二人が同時に右手を繰り出す。
そして、ぴたりと止まる。
「・・・ふん、なかなかやるじゃない?」
「あんたもな」
ロッソの右手は揃えてシャルアの頸動脈数センチ手前で。
シャルアは銃を構えた右手をロッソの顎の下で。
双方動けなかったが。
『・・・お疲れさまです、二人とも。そろそろ戻られては如何ですか?』
落ち着き払った男性の声。
その声が誰のものか、問うまでもなく。
大きなため息をついて、シャルアが銃を引く。
ロッソはその様子に少しくすり、と笑みをこぼし、手を引く。
「・・・なんだ?」
「ふふ。貴女、予想以上の剛胆さね」
「そりゃ、どうも」
「確かに貴女なら・・・」
「・・・あたしなら、何だ?」
「・・・いいえ、何でもないわ。
何度でも贈ればいいんじゃない?いつか、捨てられなくなるんじゃないかしら」
「・・・!?あんた。まさか、それで来ていたのか?」
「前回は、ね」
「そうか。・・・一方的に疑って悪かった」
「あら。いいのよ、パフェ美味しかったもの」
「ん?あんた、甘いものがいけるのか」
「ええ、この世界にはデザートというものがあるみたいね」
「そうか、なら今度あたしのお勧めを紹介してやる」
「楽しみね」
最初は険悪だったはずの二人は、
こうして意外と気が合うことを発見してブースからでてきた。
* *
「本当に素晴らしい戦いでした。
二人ともお強いので、隊員たちも参考になりましたよ」
ブースの出口で出迎えた男の、いつも通りの胡散臭い笑みに
シャルアは思わず頭に手を当てた。
「・・・あんた、一体何処から見てたんだ?」
「ここからですが」
即答された天然な回答に、シャルアの疲労が倍増した。
「・・・場所じゃない。時刻だ」
「ええと・・・使用許可願いが届いたのが
13:45でしたね。それからここに着いたのは14:00だったと思いますが」
予想通りの答えに、シャルアは呻いた。
このお祭り好きな男がイベントを逃す筈がない。
と、分かっていても、ため息が漏れた。
「ほぼ最初からか・・・」
「ええ、シェルクさんが来られる前には着いていたと思いますよ?」
「えっ!?」
驚くシェルクに、リーブはにっこりと笑った。
「シェルクさん、一心不乱に駆けていかれたので、私たちが見えてなかったんですよ」
「そ、それは・・・」
思わず口籠るシェルクの頭をシャルアが嬉しそうに撫でる。
「心配してくれたのか、シェルク」
「だって・・・」
「ふふふ、残念ね。もう少し弱ければ
あっさり叩きのめされたお姉さんがみれたでしょうに」
そう言いつつも何処かロッソは上機嫌だった。
好敵手へと、シャルアは不敵に笑い返す。
「ふん、そう伊達に戦ってきたわけじゃないさ」
「ええ、そうみたいね」
「・・・ということは、シェルクさんを巡る戦いは
ひとまず休戦ということですね?」
からかうように口を挟んだ男を、シャルアは呆れたように見遣る。
「あんた。面白がっているだけじゃないか」
「おや、ばれましたか」
リーブは終始にこにこと笑っているだけ。
シャルアは小さく呟く。
「・・・シェルクだけじゃないかもしれんが」
「?何かいいましたか?」
不思議そうに首を傾げたリーブの視線を外し、シャルアは嘯いた。
「・・・いや」
* *
シャルアとリーブがのんびりと会話をしている背後で、
ロッソは隣にやってきた元DGS仲間へと振り返る。
「いいお姉さんね」
「はい。私の自慢の姉です」
きっぱりと断言した彼女に、ロッソは楽しげに提案した。
「ふふ。今度は3人でカフェ巡りとか、どうかしら」
「ええ、きっと姉も喜びます」
fin.