役目

飛空艇シエラ号に、生き残ったWRO隊員たちと一部の英雄達が集結していた。
ミッドガルでの地上戦の動きを打ち合わせがひと段落し、
隊員達、そしてシエラ号にいたユフィたちは各の準備のためにデッキを離れていく。

その場に残っていたのは、シエラ号の操縦に関わる隊員とシド、
そしてWRO局長であるリーブと彼の護衛達だった。
リーブは護衛達に振り返る。

「・・・これが最終決戦となるでしょう。
レギオン、ほかの護衛の皆さんも地上部隊に合流してください」

名を呼ばれた護衛隊長は、静かな声で答えた。

「・・・局長」
「なんですか、レギオン」
「お断りします」

え?と見返すと、
これまで一度も見たことがない、鋼鉄の意志を宿す強い眼光があった。

「・・・局長。
各地の配置についた俺たち隊員が、一番怖れていることって何か分かりますか」

いつもの彼とは思えないほどの真摯な表情に、リーブは戸惑いつつも、最悪の事態を想定する。

「・・・WROの壊滅ですか?」

対するレギオンは少し苦笑したようだった。

「まあ、確かに意味としては近いですけど・・・。
もっと、具体的に、末端のやつらでも分かる予兆です」
「予兆・・・?」

眉を顰めるリーブへと、レギオンは重々しく告げる。

「・・・連絡が、途絶えることです」
「・・・」
「WRO本部が襲撃されたとき、
俺はあんたの命令でDGSの進撃を防いでいました。
だけど途中で、無線からの返答・・・いや、それどころか
・・・信号すら、途絶えた」

信号が途絶えたとき何があったのかを、
リーブは誰よりもよく知っていた。

生き返ったアスールによる本部襲撃。
司令室に押し寄せたDGS達との攻防戦。
後に残されたのは、壊された通信設備と、瓦礫と、・・死骸と。

リーブはただ一人、壁に凭れて無気力に押しつぶされていた。

「・・・」

リーブは何も返せず、ただ真剣な視線を受け止める。

「いつもなら即座に的確な指示をくれるあんたからの返答が途絶える。
・・・意味するところは、最悪でした」

少し、彼の視線が下がる。

「俺みたいな化けもんでも、パニックになりかけた」
「化けものではありませんよ」

とっさに口を挟む。
彼はいつものようにひらひらと手を振って見せた。

「あー、それは今はどうでもいいことです。
問題は、ソルジャーの俺ですら混乱したんだ。
一般兵はもっと動転してました」

でも、と彼は続ける。

「その後で、
無線からあんたの声が聞こえたときの安堵感を、俺は一生忘れない。
確かに犠牲は決して少なくはなかったし、WRO本部は滅茶苦茶でした。
それでも、」

視線をリーブへと真っ直ぐに戻す。

「生き残った隊員達の、心からの歓声を、俺は忘れない」
「・・・」
「DGSは強敵です。
一対一なら、やつらの方が上でしょう。
だからこそ、俺たちは集団で戦うしかない」

ふう、と彼は息を吐き出す。

「だけど、単に数が集まっただけでも、俺たちは呆気なくやられるでしょう。
必要なのは、数を纏めあげ、統制する中心です」

「・・・リーブ・トゥエスティ局長。
あんたが必要なんだ」

「あんたがいなきゃ、俺たちは単なる烏合の衆になってしまう。
それじゃあWROは勝てない。
いや、今回の戦いはWROだけの戦いじゃない。
この星に住むすべての人々の生き残りを賭けた戦いだ。
だからこそ、」

ひたと、彼の意志がリーブを貫く。

「あんたには、何が何でも無事でいてもらわなきゃいけない」
「・・・」
「例え局地的に劣勢でも、その状況を把握して人々が生き残るための情報として受け取り、
最終的に勝利に導いてくれるトップが必要なんだ」

だから、と彼は続けた。

「あんたが何と言おうと、俺はあんたの側を離れる気はない」
「・・・レギオン」

じっと彼の目を見つめ返すが、
彼の決意が覆しようがないほど強いとリーブは悟った。
仕方ありませんね、と小さく呟き、彼の背後の部下達へと口を開く。

「では、貴方達は、」
「・・・無駄ですよ、局長」
「俺たちも、レギオン隊長と同じ気持ちですから」
「ですが、」

隊員たちにあっさりと返され、リーブは慌てて口を挟む。
しかし、それを更に遮った者がいた。

「・・・リーブよお、おめえの負けだろ」

操舵席を見上げると、にやりと笑っている仲間がいた。
リーブは大きくため息をつく。

「シド。割り込まないでください」
「俺様だってWROの一員だろ?」
「まあ・・・形式上はそうですが」

再び、リーブはため息を一つ。
シドは少し表情を改める。

「そいつらの言い分はよっくわかるぜ?
何たって各地で命がけで戦ってる奴らは、全体が見えねえ。
勝っているのか、負けているのか。
進むべきか、退くべきか、それともどっかと合流すべきなのか。
それは全体像を描ける奴に託すしかねえ」
「シド、」
「で、それを託すってことは、
託すに値するだけの信頼がねえと、出来ねえ。
・・・リーブ。
おめえは、それだけ、そいつらに・・・
WROの隊員達に命を、預けられてんだろ?」
「・・・」

至極全うな意見に、リーブは黙り込む。

「だから、ほかのやつらが安心して戦えるように、
きっちり守られてやるのも、おめえの役目じゃねえのか?」
「・・・」

何一つ反論できないリーブに、隊員の一人が静かに呼びかける。

「・・・局長。
私たちが『トゥエスティ局長』、ではなく
『リーブ局長』とお呼びする理由、ご存じですか?」

リーブはゆっくりと首を振るう。

「・・・いえ」

別の隊員が口を開く。

「それだけ、俺たちにとって貴方は近しい存在だということですよ」
「だから、俺たちはここにいるんです」

護衛の任務に就く彼らは、綺麗な瞳で笑った。

「・・・。
・・・・・。
・・・分かりました・・・」

fin.