挑む者、

彼らはミッドガルにて宝条との死闘を終えた。
神羅の崩壊を見届けてハイウインド号に戻るなり、クラウドは仲間たちに告げた。

ーみんなも、一度船を降りて、そして自分の戦う理由・・・それを確かめてほしいんだ。そうしたら、帰ってきてほしい。

リーダーの言葉を受けて、仲間はそれぞれの戦う理由を確かめに各地へ散っていった。

シドはロケット村へ。
ユフィはウータイへ。
バレットはミッドガル、正確にはそこから避難した場所。
ヴィンセントは・・・多分、あの洞窟へ。
ナナキはコスモキャニオンへ。
クラウドとティファは・・・そのまま船に。

そして、残りの一体は。

『戦う理由、ですか』
『あんさんはもう、決まっとるやろ』
『・・・ええ。私は最後までミッドガルの住民を守ります。ですが』
『・・・なんや?』
『ケット・シー。貴方はどうですか?』
『・・・はあ?何ゆうてんのや』
『今クラウドさん達と共に戦おうとしているのは、私ではなく、貴方ですよね』
『同じことやろ』
『いいえ。私が私の理由のためにミッドガルにいるように、
貴方にも、貴方だけの戦う理由があるはずです』
『ボクだけの理由・・・』
『それを探してください。
見つけられないまま、クラウドさんの元へ戻ることは許しませんよ』

*   *

リーブは神羅ビルの一室で、ふとモニターから顔を上げた。

嘗て栄華を極めていた神羅。
このビルは大勢の職員が努め、沢山の訪問者を迎えてきた。
それが。

上層階はウエポンにより吹き飛び、職員達は殆どこのビルから避難し、各地方へとちりぢりになっている。
僅かに残っている部下達も、避難のためミッドガル中をかけ巡ってくれている。

今このビルに残っているのは自分だけ。
静寂に包まれた一室からは、人気のなくなったミッドガルと
今にも衝突しそうな重苦しい凶星しか見えない。が。

リーブはじっともう一つの視界を見つめた。

コスモキャニオンからの壮大な夕焼け。
ケット・シーが見ている景色。

一年前は、まさか自分が神羅に刃向かい、
星を救おうとするもの達の手助けをすることになるとは夢にも思わなかった。

これもすべて、クラウドたちと、そして『相棒』のお陰だった。
『相棒』であるケット・シー。

彼は、元々はゴールドソーサーのマスコットとして急遽作られたロボットだった。

神羅へのイメージアップ、そして莫大な利益を生むと判断されて建築が決行された巨大遊戯施設、ゴールドソーサー。
計画実行を指示された都市開発部門は
その下層にコレルプリズンという監獄が作られることは止められなかったが、
せめて人々が心から楽しんでくれるような施設にしようと、部門一丸となって構想を練った。
建物のデザイン、娯楽設備の配置、種類、子供から大人まで楽しめるように、夢のような場所を提供したかった。

完成披露を迎える2週間前。
都市開発部門が勢力を上げて最後の仕上げにてんやわんやしている頃。

広報部から、突然の要求が降ってきた。
曰く、

『ゴールドソーサー独自のマスコットキャラクターを作れ』

リーブは首を傾げた。
娯楽施設を代表するようなマスコットがあれば、確かに土産物などの収入を期待できるだろう。
しかし、それは既にチョコボレースのチョコボを取り入れると決めていたではないか。
そう反論すると、

『チョコボは世界中にいすぎて、ゴールドソーサー独自にならない』

とはねつけられてしまった。
更に。

『開園まで時間がない、さっさと作ってくれ』

リーブは呆然とした。
何とも馬鹿らしい気もするが、しかし娯楽施設という特性から考えれば確かに
・・・それをみるだけでゴールドソーサーを連想出来るマスコットがいれば、客寄せとしては申し分ない。

しかし、あと2週間で開園という事実。
自分の部下達はそれぞれの担当をやり遂げるべく、残業を余儀なくされている。
その上さらに、マスコットを作れ、という必要だが不可欠ではない仕事を振るのは・・・どうも忍びなかった。

・・・まあ、既にチョコボが採用されているんですから、
ちょっとくらい遊び心をいれてもいいですよね。

リーブは勝手に判断し、生体ロボットに詳しい科学部門の知り合いに声を掛けた。
勿論統括である宝条には許可を取り付けたが、彼は自分の研究以外無関心なため、
話を聞くなり面倒そうに書類に押印した。どうでもいいのだろう。

リーブは決めていた。
どうせ作るのだから、いつでも笑顔を提供できる可愛らしいマスコットを。

ーああでも、折角なら喋った方が面白いですよね。
ーなら遠隔操作で操縦者の言葉に合わせて口が動くようにしましょうか。
ーいいですね、なら思い切りコミカルに動かしましょう。
ー楽しそうですね。あ、どうせならオプションで何かできるようにしませんか。
ーオプションですか?
ー例えば歌って踊れるマスコットとか。
ーうーん、それって操縦者も歌うんですか?
ーオートにすればいいじゃないですか。
ーうーん・・・。ああ、でしたら。
ーなんですか?
ー娯楽施設なんですから、占いとかどうでしょう。
それも、本格的ではなくどこかすちゃらかな。
ー成程!じゃあ、お神籤的な占いとかどうでしょう。
ーいいですね!すちゃらかな結果しか出ない、占いロボット。

*   *

こうしてリーブの遊び心と科学部門のノリで作られた
外見とは裏腹に高性能な占いロボット『ケット・シー』。

販売部門からの反応は上々だったが、ロボットの維持費がかかりすぎる、
という上からの判断であっさりと却下されてしまった。
代わりに作られたのは、デブチョコボだった。
これはロボットではなく着ぐるみのため維持費は必要なく、
一人の人件費でどうにかなる、と採用された。

ーそれで、この占いロボットはどうなるんですか。
ー廃棄命令です。
ーええっ・・・。折角作ったのに。
ーそれなんですが。
ー部長?
ー折角ですから、私が引き取ることにしました。
ー部長?何かに使われるんですか?
ーいえ、まあ・・・ただ。
ーただ?
ー勿体ないじゃないですか。
ーそうですね。

そんな会話の後。

「よいしょっと・・・」

統括室に戻り、リーブは大きな紙袋をテーブルに置く。

引き取ったものの、とくに使い道があるわけではなかった。
紙袋から占いロボットを取り出し、統括室のソファに座らせる。
電源も入っていない彼は、単なる猫の縫いぐるみだったが。
糸目でにっこり笑う愛嬌ある顔をみていると
こちらも心が和んでいく。

「やっぱり廃棄するのは勿体ないですよね」

くすりと笑う。
独身男性の部長が猫の縫いぐるみを持っている、というのは
またろくでもない噂が広まるだろうと目にみえていたが。

「よろしゅうな、ケット・シー」

リーブはそっとロボットの頭を撫でた。
途端、ばちっと電気ショックのようなものが走った。

「えっ!?」

慌てて手を引く。
思わず手をみたが、特に異常はなく。
単なる静電気か何かだろう、と思い直して猫をみて、硬直した。

猫が、片手を挙げていた。
そして、口を開いた。

「よろしゅうな、リーブはん」

脳が、目の前の光景を処理するのに数分かかった。
しかし、理解はできずに口に出せたのはただ一言。

「・・・はい?」

これが、リーブとケット・シーの、
長い付き合いの始まりだった。

fin.