捜索

俺は、自分の足下ががらがらと崩れるような感覚に、ただ立ち尽くした。
心が凍り付く。
絶対に護り抜くと、決めていたのに。
なのにWRO本部にも、先に移動した筈の会場にも、
何処にもその姿はなかった。

・・・消息不明。

   *   *

「局長が消えた!?」
「一体何が・・・」

WRO幹部たちがばたばたと動き出す。
俺は一旦WRO本部に引き換えし、情報を整理していた。

本日早朝、局長はとある会社を訪れ、社長と会談していた。
俺たち護衛は部屋から追い出され、扉の前で警護していたのだが。
急遽何らかの連絡が入ったらしく、局長はそのまま裏口からヘリに乗った、とその社長から伝えられていた。

・・・そこから、誰も局長をみていない。

何度も局長の端末にかけたが、圏外で。
念のために端末を走査したが、やはり電波を拾うことは出来なかった。
捕まえた分身は、泣きそうな顔で首を振るばかり。

「・・・くそっ!!!」

無意味だと分かっているのに、何度も壁と蹴ってしまう。
あれから3時間も経つ。
しかし、消息は杳として知れない・・・。

俺たちは不審なヘリがなかったか、
最後の連絡は一体何処からだったのかを探っていたが

・・・恐ろしい事実を知らされたのは、その直後だった。

ー局長の端末ですが、
その時間帯に連絡を取った記録は、ありません。

   *   *

WRO本部では幹部たちが会議室に詰めかけ、重苦しい雰囲気に息が詰まりそうだった。
俺は会議室の壁際に立っていたが、一向に進展のない状況に気が狂いそうだった。

・・・そもそも今回の件、納得できない点が多い。

何故、局長は護衛も付けずに独りで行動したのか。
緊急事態が起こったのなら、何故他の幹部に報告が来なかったのか。
それとも、WROではなく局長個人に対する問題が発生したのか・・・。

そんな中、会議室に駈け込んで来たのが
ネットワーク上から局長の足取りを探っていた情報部門の統括だった。

「局長の端末ですが、
その時間帯に連絡を取った記録は、ありません」

きっぱりと告げた彼女に
俺はただあんぐりと口を開けることしかできなかった。

「どう、いう、こと・・・なんです?」
「記録を消去できる者が局長に接触したか、或いは」
「或いは・・・?」
「・・・最後の連絡自体が、虚偽の可能性があります」

はっと幹部たちが息を呑む。
俺は思わず彼女に詰め寄っていた。

「虚偽って・・・嘘って、ことか!?」

彼女は真摯な表情でこくりと頷く。

「敵の目的は、恐らく時間稼ぎ」
「時間・・・って、まさか・・・!」

統括を務める少女は、蒼い瞳で俺をひたと見据えた。

「・・・一刻を争う事態が発生している、と、思われます」

   *   *

俺たちが愕然と捜査の方針を転換せざるを得なくなったその時、
隅で項垂れていた分身が、不意に顔を上げた。

「リーブ!!!」

会議室に詰めていた俺たちが一斉に黒猫へと振り返る。

「っリーブ!?何処にいるんや!!!」

分身が叫ぶ。

『・・・何処・・・でしょう・・・?』

オープンにされた回線から、途切れがちな声が届く。
間違いなく局長の声。
俺も、幹部たちと共にそっと安堵の息をつく。

・・・少なくとも、最悪の事態を免れることはできたと。

だが。

「何があったんや!?」
『・・・落とされたことは、覚えて・・・いるんですが・・・』

はっと幹部全員が息を呑む。

「どういうことや!?」
『ええ・・・社長室の床が抜けて、対象者を落とす・・・仕掛けだったよう・・・ですね』

局長の冷静な言葉に、ぞっと背筋が冷える。
統括の推測は正しかったのだ。
局長は、ヘリに乗ってから消息を絶ったのではない。
あの部屋で、罠にはめられたのだ。

最初から局長をはめる・・・
・・・殺すつもりだったのだと。

「あんのくそ野郎っ!!!!」

俺は思い切り壁を蹴り上げた。
俺と同じくらい、いやそれ以上に憤っているだろう分身が叫ぶ。

「あの会社はあやしいゆうたやろ!!!」
『そう、なんです・・・が・・・っ・・・!!』

回線からの声が、不意に掠れた。

「「「「局長!!!!」」」」
「リーブ!?」

抑えてはいたが、間違いなく呻き声だった。
俺は漸く気づいた。
最初から声が途切れがちだったのは、通信が悪いせいではなく・・・
苦痛を堪えていたから。

『・・・レギオンは・・・どう、していますか・・・?』

はっと俺は分身をみる。
なんで、この場に及んで、俺なんだ!?

「俺のことを心配している場合じゃねえだろ!!!」
「無事や!それより、リーブはん、どないしたんや!?」
『ちょっと・・・意識が、・・・っつ、途切れそうな、だけですよ・・・』

微かに漏れる呻き声。そして、落とされたという事実。

・・・やばい!!!

歯を食いしばる。
局長は、間違いなく・・・重傷を負っている!

「ええか!今あんさんをWROが極秘で探しとる!
場所はあの組織で間違いないんか!?」
『・・・だと、思い・・・ま・・・』

不自然に途切れた声。
そして、・・・続くことは、なかった。

   *   *

不気味な静寂が会議室を包む。
だが、俺たちは視線を交わし、幹部全員が静かに頷く。

「例の会社を徹底的に洗います」
「俺たちは局長の探索を、本拠地を中心に」
「科学部門は医療部隊を本拠地付近で待機」
「局長の容態は一刻を争う!迅速に遂行するように!」
「「「はっ!!!」」」

ばたばたと幹部たちが退出するのを見届け、
俺もまた部屋を出ようとしたが。

「待て」
「え?」

俺は首根っこを掴まれていた。
何とか振り返ると、そこには科学部門統括がいて
片手を腰に当て俺をじろりと睨んでいた。

「・・・あの、離してほしいんですけど?」
「あんた、単独で行くつもりだろう」

突き刺さる隻眼に、俺は咄嗟に返せなかった。

「今のあんたでは、あの組織を丸ごと殲滅しかねない。
それこそ、塵一つ残さず、な」
「・・・」
「それは、WROじゃないだろう?」
「・・・でも、俺は、許せない」

俺は、統括から顔を背けて俯いた。

「ん?」
「律儀に一対一を守ったあいつを容赦なく殺そうとしているやつらを。
それから、それを阻止できなかった、俺を」

今朝、最後にみたあいつは笑っていた。

社長室に向かうあいつを、俺は無性に引き止めたかったのに。
その笑顔は、・・・憎たらしいほどいつものあいつで。
例え罠だしても、和解の可能性があるならと

・・・覚悟を秘めた穏やかな笑みだった。

回想していると、背後からため息とともに首根っこを掴んでいた手が離れていった。
代わりに俺の行動を阻んだのは、硬い声。

「・・・知っているか?」
「は?」
「人は、一度しか死ぬことはできない」
「・・・はあ?」

そんな当たり前のことを何故今確認するのか。
俺は間抜け顔でもう一度振り返った。

「つまり、あんたが殺してしまったら
あいつらに、二度と苦痛を味わわせることができない」

はっと、俺は改めて統括を見る。
その隻眼は、凍り付きそうなほど冷酷な光。

「・・・分かるな?」

俺は、静かに頷いた。

「よし、分かっていると思うが・・・局長の捜索が、最優先だ」
「はっ!!!!」

   *   *

ジュノンより北、海岸線に近いところに例の会社があった。

WRO本部より最高速度で向かう飛空艇シエラ号に、
ジェノバ戦役の英雄たちが勢ぞろいしていた。
そして、序に俺と、WRO隊員たちも乗り込んでいる。

「で?なんだってリーブはその会社に乗り込んだんだ?」

苛立ちを顕わに操縦桿を握るのは、勿論シエラ号艦長、シド・ハイウィンド。
その傍でしょぼんと佇んでいるのは、黒猫のロボット、ケット・シー。

「シェルクはんによると、会社がもっとる船があやしいんですわ」
「船?なんでい、船くらいコスタ・デル・ソルの金持ち野郎でももってんじゃねーか」
「シドはんのゆうとおりなんやけどな。
あの会社、輸送会社やから人と貨物を運んでいる筈なのに、
毎回重量に誤差があるんや。ちょいと、重い」
「何なに?それって余計なものも積んでんの?」

ぴょん、と身軽に跳んで会話に加わったのは、ウータイのくノ一、ユフィ・キサラギ。

「それから、深夜の航海も秘密裡にやっとるらしいんですわ」
「・・・つまり、報告できない貨物を運んでいる」

低音で鋭く指摘したのは、隅に立つ赤い目の元タークス、ヴィンセント・ヴァレンタイン。

「そういうや」
「報告できないって・・・!」
「げっ!やべえやつか!」

軽く息を呑んだのは長い黒髪の格闘家、今はセブンスヘブンの女店主、ティファ・ロックハート。
叫んだのは、元アバランチのリーダー、バレット・ウォーレス。

「ただ、決定的な証拠があらへん。
そんな折り、あの会社の監査前にリーブはんと社長が会うことになって・・・」
「・・・ばれる前に・・・消しちゃえって、こと・・・?」

恐る恐る先を口にしたのは、操縦桿の傍で伏せていたコスモキャニオンの聖獣、ナナキ。

「・・・多分、そういうやろな」
「・・・酷いな」

蒼い瞳で、元リーダー、クラウド・ストライフが纏めた。

   *   *

会社に押し入った隊員たち、いや、
先攻した俺と英雄たちは、強行突破して真っ先に最上階の社長室を目指した。
だが社長室は社長以外が解除しようとすると会社自体が爆破するような仕掛けになっているらしく、
仕方なくビル中を探すことになった。

5階建てのビルの扉という扉を開け、全員で隅々まで探していく。
しかし、見つからないまま時は無情にも過ぎていく。

「くそっ!!!」
「いってえ何処にいるんだ!?」
「もうっ!片っ端から探す!!!
ああもう!!さっさと口を割れってあんたら!!!!」

だが、社員は知らぬ存ぜぬと首をふるばかり。
どうやら本当に知らないらしい。
社長は、逃亡して行方不明だ。

「・・・この建物内でない可能性が、あるな」
「どういうこと!?」
「リーブは『落とされた』としか言っていない。この建物内とは限らん」
「ど、どうしよう!?何処を探せばいい!?」
「おいケット!!!リーブからの連絡は!?」
「・・・あかん・・・。ずっと・・・繋がらへん・・・」
「・・・ケット・シー」

   *   *

5階建てのビルの地上部分をすべて探し、
英雄たちと俺は地下をがむしゃらに捜索していた。
地下2階の隠し扉をこじ開けたとき、ユフィさんがとんでもない書類を発見した。

「・・・ちょ、ちょっと、これっ!!!」

ばさっと仲間たちへと書類の束を手渡し、ヴィンセントさんが素早く内容を把握する。

「貨物のリストか。追加分は拳銃、弾丸、
ミサイル発射台、ロケットランチャー、分解された爆撃機の尾翼・・・」
「おいおいおい!!!武器ばっかじゃねーか!!!」

大きな腕を振るわせて、バレットさんが憤る。
俺も同じ気持ちだった。

「・・・狙いはリーブだけではないかもしれんな」
「え?どういうこと?」
「・・・WROも・・・?」
「ええっ!?ど、どうして!?」

不安げなナナキさんと、驚くティファさんの姿が遠くに見えた。

「裏で武器を何らかの団体に流している連中がWROのトップを葬る機会を得た。
その情報をも団体に流していたとしたら・・・」
「トップ不在の隙を狙い、蓄えた武力でWRO自体を潰しにかかる」
「・・・可能性が高い」

冷静なヴィンセントさんとクラウドさんが指摘した通りだった。
俺はリストを手にぐっと唇を噛みしめる。

「くっそおおおお!!!」
「今WROはリーブが行方不明で動揺している。
そして戦力の一部はこちらに割いている・・・」
「・・・俺たちもここにいることだしな」

さらりとクラウドさんが付け足した。

「おい!ケット、急いで連絡しやがれ!!!」
「・・・大丈夫ですわ」

ぽつりとケット・シーは呟く。

「何がだよ!!!WRO本部が危ないんだろ!!さっさと連絡しなよ!!!」
「おおきにユフィはん。でもな、元々今日は、『戦闘訓練』の日やってん」
「・・・は?」
「リーブはんがおらんときに万が一WRO本部が襲われたらっていうシナリオで、
WRO隊員と装備が配備されとるんですわ」
「それって、まさか」
「・・・リーブ」
「全て・・・分かってたって、こと・・・?」

小さく、けれどはっきりとケット・シーが頷いた。

「・・・ったく!!!さっさと見つけるぞ!!!」

   *   *

不正の証拠を見つけた俺たちは、
隠し部屋を含め地下を探し回るが、リーブの姿だけが見つからない。

俺と英雄仲間たちの焦りがピークになりかけた、そのときだった。

『・・・ケット・・・シー・・・』
「「「リーブ!!!」」」

待ちに待った通信は、けれども不安をかき立てるほど、弱々しい声で。

『・・・きっと彼らにとって・・・闇に葬れる・・・場所・・・
洞窟・・・。・・・』
「しっかりしいや!!!」
「リーブ!!!すぐ行くから、頑張って!!!」
「おっちゃん、死んだら承知しないから!!!」
「何いってんだ!!」

ケット・シーをはじめ、ティファさん達が声をかける。
けれど、局長にはもう届いていないようだった。

『・・・行方・・・・不明・・・者・・・』
「リーブっ!!!」

それきり、通信は途絶えてしまった。
目を閉じて聞いていたヴィンセントさんが呟く。

「・・・洞窟、そして行方不明者、か。成程」

そして、徐に携帯を取り出した。

「・・・シェルクか。至急検索してくれ。
このあたりの洞窟と、行方不明者が最後に目撃された場所。
・・・重なるところに、リーブはいる」

   *   *

そして、俺たちは漸く辿り着いた。
シェルク統括の情報から絞り込まれた、ジュノン海岸から伸びる洞窟の一つで
出口は完全に海に沈んでいたため、潜水艦から洞窟内部に忍び込んだ。
完全ある暗闇を明かりで何とか周囲を照らしていくと。

夜目の利くユフィさんと、ヴィンセントさんが真っ先に気付いた。

「何・・・これ・・・!!!」
「・・・行方不明者のなれの果て、か」

見たくない光景、白骨が、それも複数体。
洞窟内で苦しんだのだろうか、蹲った状態の白骨もあって。

「胸くそ悪いな・・・」
「酷い・・・」

その奥。
蒼白の顔色で、自らの血の海に沈んだ、
俺の、唯一の護衛対象。

「「「リーブっ!!!」」」
「局長っ!!!」

仰向けで倒れている姿に、
俺は思わず肩をつかみ、揺さぶりたい衝動を必死に押さえた。
生気のない顔色、目は閉じられたまま・・・。

「おいっ!!!目を開けろよ!!!」
「っ、大丈夫、まだ、息はあるわ。でも・・・!!!」
「おい、回復マテリア!!」
「わかってるよお!!!」

ばたばたと応急処置を終え、
俺は意識不明の局長を科学部門に託した。
そして、飛び出す。

「・・・あー行っちゃったね」
「俺たちも行くぞ」
「・・・敵に回してはいけないものの、逆鱗に触れた、ということか」
「それって、私たちの逆鱗も、ってことよね?」

ぎゅっとグローブを填め直す黒髪の女性に、
赤い目の元タークスが薄く、笑った。

「・・・当然だ」

   *   *

その後。
輸送会社という体を整えていた会社は、
裏取引の書類を証拠として押さえられたため、倒産となった。
武器を調達していた団体もWRO本部を総攻撃する前に
WRO本隊にあっさりと返り討ちにあったと、ケット・シーから連絡を受けた。

そして、元凶である社長は、アイシクル地方まで逃亡していた。
俺はあっさり捕獲して胸ぐらから片手でぶら下げた。
ひいい、とか何とかほざいているが、どうでもいい。

俺の背後から、一緒に捜索してくれた英雄のみなさんが呆れたように見ていた。

「あーレギオン。その当たりでとめとかないと、おっちゃんに怒られるよ?」
「・・・殴りたりねえ・・・!!!」
「こええ。まあ、気持ちはわかるけどよ」
「しっかし、底が抜ける部屋か。
流石にとっさに逃げられねえ。・・・ひでえことしやがる」
「・・・あれ?ウータイでも似たようなこと、あったわよ?」
「・・・うっ!?」
「あー俺たちそういや、マテリア盗まれて追っかけたときにユフィに落とされたっけな」
「ちょ・・・!!!ちょっと、濡れ衣だってば!!!
あの落とし穴は、絶対死なないように設計されてるって!!!」
「だが、悪用されれば・・・今回のリーブのようになる」
「・・・そ、そうだけど」
「ユフィを責めているわけじゃないの。だた、・・・技術は、似てるわよね」
「・・・調べてみる」
「・・・うん、お願いね」

   *   *

仕方なく首謀者を治安部門に文字通り投げた俺は、
そのままWRO本部の病室へ向かった。
昏睡状態の局長。
その傍らに輸血パックを取り替える科学部門統括の姿があった。

彼女はちらりと俺をみて、作業を再開した。

「よく踏みとどまったな」

俺は苦笑した。

「そりゃあー、俺以上に怒り狂ってる統括みてたら、ちょっとは冷静になりますって」
「・・・怒り狂っている?何を言う。いつも通りだが」

俺に背中を向けたまま、彼女はさらりと答えた。
けれど、俺はあのときの彼女の瞳を一生忘れない。

「いんや、あのとき俺、心底肝が冷えました。そんで、ありがとうございます」
「ん?」

シャルア統括が振り返る。
俺は彼女の隻眼を真っ直ぐに見つめ返した。

「うっかり殺してたら、俺、二度とこいつの護衛が出来ないところでした」
「・・・そうだろうな」

彼女は頷いた。

「・・・局長は、もう大丈夫なんですよね?」

態と軽く聞くと、彼女は一瞬局長を振り返り、力強く答えてくれた。

「峠は越した。あとは、・・・意識が戻るのを待つだけだ」
「・・・そうですよね」

   *   *

それから5日経って。
やっとあいつの意識が戻ったと、俺は病室に呼び出された。
ベッドに横たわる上司へと、俺は珍しく先制攻撃を開始した。

「・・・あんたのせいですから」
「・・・レギオン・・・?」

まだ顔色が優れない局長は、ぼんやりとこちらを見返していた。
俺は睨みつけてやった。

「何うかうか一人で超危険人物と対談して
罠にはめられてるんですか・・・」
「・・・うーん。・・・否定要素が、ないですね・・・」
「あっさり認めるなよ!!!」

俺は思わずつっこんで、
そして死にかけたというのに相変わらず暢気な局長にため息をついた。

「・・・はあー」
「・・・ですが。聞きましたよ、レギオン」

穏やかな口調のくせに、何処か
今度はこちらの番ですよ、と言いたげな表情。

「へ?」
「・・・単独で組織ごと殲滅するところだった、と」
「げっ!?ちょ、うわあ、シャルア統括ーー!!!」

俺は盛大に頭を抱えた。

「・・・実行に移されなくてよかったですよ」
「は・・・あははは・・・」

だらだらだら、と冷や汗をかくしかない俺に、
局長はふっと声音を低く、落とした。

「・・・人殺しは、誰であろうと許されません」
「・・・はい。すみません」

俺は素直に謝った。
こいつの言うことは正しかったから。
でも。と、俺は思う。
シャルア統括が、あの日言っていたのは。

「ああでもやつら、絶対に『殺されてた方がましだった!!!』
って思いますよ、これから」
「・・・え?何をしたんです?」
「したっていうか・・・これから、起こるというか・・・」

俺はしらっと視線を外してみたものの。

「・・・白状しなさい」

局長の命令により、さっさと白状することにした。

「はい。まず、シャルア統括の目がマジでした」
「・・・うっ」
「あと英雄たちの殺気が凄まじかったです」
「・・・。・・・ど、どうしましょう」
「何動揺してるんですか」
「・・・止められる気がしません・・・」
「誰も止めませんけど」
「レギオン!」
「それだけ、俺たちは怒ってるんですよ、局長。
それはもう、怒髪天を衝くくらいに」
「うっ・・・すみません」

局長が謝ったところで、俺はふう、とため息をついた。
これからが本題だった。

「てなわけで、今後一対一は禁止ですから」

護衛として当然の意見だったが。

「・・・え?いえ、それは・・・」

どうやら局長は分かっていない。
俺は声を張り上げた。

「また死にかけるつもりですか!!」
「え・・・ですが、今回はたまたま・・・」
「何が、たまたま、ですか!
あんた、自分の影響力わすれてるんじゃないでしょうね?」
「・・・影響力・・・?」

局長は、きょとんと見返すだけで。

「・・・うわあー駄目だー。寝ぼけてるわけじゃないですよね・・・?」
「私の力なんて、大したことありませんし」

さらりと返され、俺は久しぶりに全ての力を吸い取られてがっくりと脱力した。

・・・そうだ。こいつはこういうやつだった。

「・・・局長・・・。
ああもういいです。その代わり、護衛を倍に増やしますから」
「・・・え?ちょ、ちょっと」
「法案なんて俺出したことないですけどシャルア統括に相談すればいいですよね」

焦る局長を放置して、俺はじと目で畳みかける。

「いえ、ですから!」
「局長の許可がなくても、幹部全員と隊員のなんぼかの賛成があればいいんですよねー」
「集まりませんよ!」
「いんや、絶対に、集まります」
「ちょ、ちょっとレギオン・・・!!!」

かくして。
俺はシャルア統括に相談し、あっさりと法案を通した。
幹部全員の承認および3/4どころか9割の隊員の賛成により成立。

それを報告したところ、まだベッドからでられない(シャルア統括の許可が下りないため)局長は嘆いた。

「・・・酷いですよ・・・」
「何が酷いんですか、全く。
あんたの自覚なしを含めて護衛するこっちの身にもなってください」
「え・・・でもほら、WROはみなさんしっかりされてますし、万が一の時、私じゃなくても」
「・・・3倍にしておけばよかったですか?」
「やめてください!動けなくなるじゃないですか!」
「誰のせいですか、誰の!!!」

fin.