教会

※Web拍手「指示」の続きです。
あらすじ的には、スマホゲームFGOイベント「深海電脳楽土 SE.RA.PH」にリーブさんとハンスが巻き込まれて、取り敢えず二人が仲間探しに出かけています。

 

ハンスの指示に従い、私は屋根に十字を付けた建物の前にやってきていた。

「教会、ですかねえ」
「この中に複数のサーヴァントが動きもせず大人しくしてやがる。狂気に染まってない、まともなやつの可能性は高いな。まあ、俺たちが不審者と認定されたら一巻の終わりだが」
「じゃあ開けますね」

扉の取っ手に手を伸ばしたら、ハンスにぱしっと手を払われてしまった。

「貴様、だから人の話を聞け!ったく俺が開ける、貴様は下がっていろ!」
「いいえ、私が開けますよ。私はハンスのマスターですからね!」
「いきなり串刺しにされても知らんぞ!」
「正気のサーヴァントさんなのでしょう?ならば話を聞いてもらいましょう」
「だから貴様・・・。待て」

ハンスの声に従ってぴたりと動きを止めると。押してもいない扉が、勝手に内側から開いていく。どうやら煩くしすぎたらしい。
そして扉の向こう側から、鋭そうな剣が突きつけられていた。へらりと両手を挙げて降参する。剣の持ち主は一見して騎士とわかる、銀の甲冑を着込んだそれはそれは強そうな青年だった。鋭い声が畳み掛ける。

「動くな!」
「・・・確かに、正気の方のようですねえ」

にっこりと笑いかければ、青年は虚を突かれたように目を丸くした。

「貴様の余裕はどこからくるんだマスター。少しは緊張感を持ってみろ。相手のほうが呆気にとられているだろうが」
「ですが、問答無用で体に穴をあけられなかっただけ事態は好転してるじゃないですか」

剣を突きつけたまま、青年が私たちをじっと凝視する。

「・・・貴方達は誰ですか。そちらは・・・まさか」
「ふん。前々回では直接会うこともなかったはずだが・・・知っているらしいな」
「ええ。今は同じマスターを戴くサーヴァント同士の筈ですから・・・アンデルセン」
「残念ながら違うがな」
「それはどういう・・・?」

二人の会話を割って、ぱたぱたと軽い足音が近づいてきた。

「どうしたのー?」
「靱葛!まだ来てはいけません!」
「でも声がしたんだけど・・・・って!!!」

奥からやってきたのは一人の少女だった。薄いジャケットにスカートの、どうみても戦闘に耐えうる姿ではない。彼女はこちらを見て、目を真ん丸にして。
急に勢いづけてだだっと駆けて駆けて・・・。ジャンプまでつけてハンスに抱き着いた。

「何をする!!!」
「ハンスハンスハンスハンスーーーーー!!!!無事だったんだねーーー!!!心配したんだよ!!!」
「待て落ち着けそこに倣え!俺は貴様に召喚されたサーヴァントではない!!」
「でもこの白衣、眼鏡に青い髪の天使みたいな少年なんて、ハンス以外いないじゃない!!」
「別のハンスだ馬鹿め!!!俺のステータスを見ろ!!レベルは1のままだ!!」
「え!?」

ぴた、と動きを止めた少女が抱き着いていた体を離して、まじまじとハンスの全身を見た。そして。

「うっそーーー!!!あんなに種火(レベルUPのアイテム)とか禁断の頁(スキルUPのアイテム)とか聖杯(レベル上限UPのアイテム)とかつぎ込んだのに!?本当にレベルが1しかないの!?ええっ!?」

ギャー!!!と大げさに叫んでいる様子からよっぽどショックだったらしい。ハンスがうんざりしたようにぐしゃぐしゃにされた髪を直している。

「だから言ったろう、俺は貴様が召喚したサーヴァントではないと」
「えっ?じゃあ誰に?」
「そこで剣を突きつけられている胡散臭いスーツの男だ」

くい、と親指でさされた私はとてもほっこりしていた。ハンスがこの世界でも愛されていて嬉しかったのだ。

「ふふ、仲がよろしいようで何よりですね」
「貴様。少しは何か訂正する気はないのか」
「え?何処かまずいところでもありましたっけ?」
「・・・もう、いい」

頭痛がするように頭を押さえたハンスと両手を挙げたままの私を、靱葛と呼ばれた少女がきょとんと見比べている。

「貴方が、このハンスのマスターなの?」
「はい。リーブ・トゥエスティと申します。ちょっと手違いでここにハンスともども召喚されたようで・・・できればお仲間にいれていただきたいのですが」
「リーブさんだね、了解!私は靱葛。ガウェイン達のマスターだよ。こちらこそよろしく・・・」
「いけません、マスター!」

流れのまま首肯しそうだった靱葛を、騎士が慌てて割り込む。ナイスタイミング。
ただ割り込まれた靱葛は不満そうにぷうと頬を膨らませていた。

「えー?どうしてガウェイン!」
「確かに我々には一騎でもサーヴァントの仲間が必要です。ですが、それは戦力としてのこと。失礼ですが作家のアンデルセンでは大した戦力になりません。ましてレベルが1では時間稼ぎにもなりません!それにリーブとやらも信用できません。後々問題になるような人物に情報を渡すわけにはいきません!」

ガウェインと呼ばれた騎士の言いように、私は両手を上げたまま反論した。

「ちょっと!!うちのハンスを勝手に戦闘に巻き込まないで下さいよ!彼は偉大なる童話作家なのですよ!?彼に必要なのは戦場ではなく羽ペンです!」
「マスター!!!貴様はややこしいから黙っておけ!俺が最弱なのは最初から宣言しているだろうに!」
「ですが、これははっきりしておかないと!」

言い合っている私たちを放って、靱葛が静かに語りだす。

「確かに・・・ハンスの戦闘能力はガウェインみたいな騎士に比べたら低いよ?それに私が育てたハンスならレベル100にスキルレベル10、絆レベルも10の最強だけど、こっちのハンスは強化されていない。でもね、ハンスの武器は、そこじゃないよ」
「どういうことですか?」

心底訳が分からない、といったガウェインに靱葛はウインクした。

「人の本質を見抜く、人間観察。ハンスしか持ちえない、凄い能力だよ。第4章の実体のないアリスに実体をもたせたのも、ソロモンの真実の姿を『愛のない獣』だと見破ったのも、ハンスだったからね!」
「第4章は分かりませんが、貴女の仰る通りです。ハンスは、素晴らしい観察眼の持ち主。もし現状に不可解な点があるとしても、ハンスなら看破できます!」

靱葛の評価に便乗して言い切れば、足元でハンスがそっぽ向いた。

「何故貴様が自慢げなのだリーブ。俺はやるとは言ってないぞ」
「ですが、ハンス。貴方は必ず真実を見透かすでしょう?そして聞かれたら応えるお人よしですから」
「黙れリーブ。しかしその点なら、貴様の得意分野だろうが」
「え?リーブさんも?」

くるり、と靱葛が振り返った。ハンスが面倒臭そうに、でも聞かれたからにはきちっと答える。

「こいつは世界の事件を解決し続ける、どのつくお人よしだ。これにこの世界の謎とやらを放り込んでやれ。頼みもせんのに勝手に解決するぞ」
「ハンスの方が早そうですけどね」

流れが怪しくなってきたのが分かったのか。ガウェインがきっと私を睨み付けた。

「・・・待ってください。例えアンデルセンが観察眼に優れたサーヴァントで、それが我々にとって益になるとしても。彼は、マスターに従うはずです。マスターが信用ならない限り、彼もまた不審な行動をとるに違いありません」
「成程。仰る通りですね」

剣を突きつけられているのをうっかり忘れて、ぽんと手を打つ。

「納得するな馬鹿者」
「では、靱葛さんに決めていただきましょうか。私たちを仲間に入れるかどうか」
「・・・ええ。マスターの決定に従います」

ガウェインがすっと剣を下し、一歩下がる。完全に鞘にしまわないのは、不審な動きあればすぐに動けるようにしているのだろう。最もここまで強そうな騎士であれば、鞘にしまっていても変わらないだろうが。
そして代わりに少女が歩み寄る。じいっと真剣な眼で見つめられてしまった。

「・・・あの、リーブさん」
「はい」

緊迫感が増す。彼女は覚悟を決めた表情で、私の目を真っ直ぐに射抜いた。

「・・・ご結婚、されているんですか?」

「・・・。はい?」

何を言われたのか理解できずに、首を傾げる。その隣でハンスがせせら笑った。

「こいつは既婚者だ。家族構成は妻一人義妹一人分身一人、だ」
「あとハンスもですよ?」
「俺は家族ではなくサーヴァントだ」
「いいじゃないですか、一緒に住んでいるなら家族です」

こちらは和気藹々とじゃれていたが、少女側ではガウェインが固まっていた。

「あ、あの・・・マスター?何を、聞いて・・・?」

ぎこちなく尋ねるのは少女の忠実な騎士。動揺しているのか、持っている剣先が揺れている。

「だって!リーブさんが私の好みのドストライクだったの!でも既婚者かー。仕方ないなー。あ、仲間になってね!私もハンスやリーブさんが一緒だと嬉しい!」

にこっと笑う少女の笑みには一ミリの邪気もなく。私もつられて微笑む。

「よろしくお願いします、靱葛」

fin.

多分メルトリリスとかオルタな兄さんは、余りにリーブさんたちが弱すぎて関わる気がなかったという設定。