条件

「当主!!大変です!!」
「なんだ。どうした?」
「し、神羅が・・・!!!」
「神羅は消滅しただろう。どういう意味だ」
「神羅の幹部がこのウータイに来ています!!」
「・・・誰が、来ているのだ」
「リーブ・トゥエスティ・・・元都市開発部門統括です!!」
「WROの責任者か・・・!!」

WROといえば、跡取りのユフィが協力すると一方的にでていった先の組織。
知らず、顔を顰めていた。

*   *

かぽん、と庭先の鹿脅しが涼しげな音を立てる。
広大な邸宅の座敷で、主であるウータイ当主と神羅元幹部が正座で対峙していた。
最も、威圧感たっぷりの当主に対し、
元幹部はあくまでにこにこと笑みを浮かべたままだったが。
ウータイ当主、ゴドーはそれと気付かれないように僅かに目を細めた。
・・・何を企んでいるか分からん。
こほん、と咳払い。

「・・・それで、ウータイに何のご用かね?」
「WROだけでは人材が足りないんです。特に、ウータイに関しては未知な部分が多い。
そこで、こちらの方にご協力いただきたいのです」

つい、と片眉を上げる。

「ユフィがそちらに協力している、と聞いたが」

ええ、と元幹部は頷いた。

「ユフィさんには本当に助けていただいています。ですが、彼女一人では足りないんですよ」
「・・・ほう。神羅を憎んでいる我らが協力するとでも?」

ずず、と澄ました顔で元幹部はお茶を飲んでいる。

「ええ。確かに無理でしょうね。そこで、提案ですが」
「提案、とは」

とん、と元幹部は湯呑みを置いた。

「・・・ヴィンセント・ヴァレンタインという男をご存じですね?」
「ん?ああ。ユフィの仲間の一人だな」

「ええ。神羅の元タークス。
タークス・オブ・タークスとまで言われた戦闘能力の持ち主です。
クラウドさんを除けば、神羅の中で最強でしょうね」
「それがどうした」

にこり、と意味ありげに元幹部は笑った。

「・・・戦ってみたいとは、思いませんか?」
「・・・何だと?」

「このウータイも最強の軍団を持っておられる。
純粋に、その力が神羅最強と謳われたタークスに通用することを証明したいとは思いませんか?」

わはは、とつられたように笑い出す。

「・・・成程、面白い。
で?お主ならその男との戦闘をお膳立てできるとでも?」
「ええ」
「しかし、どうするつもりだね?あの男がすんなり我らと戦うとは思えんぞ」

にやり、と笑い返してやる。

「・・・簡単ですよ。私が次にウータイに来るとき、ヴィンセントを連れてきます。
あなた方は、私の命を狙えばいい」
「なっ・・・!?」

がたん、とお盆が揺れる。

「但し、本気で狙っていただかないと、ヴィンセントには分かってしまうでしょうね」
「お主は・・・」
「如何ですか?」

じっ、と相手を見据える。

「・・・よかろう。
だが、もしお主がそれで死んだらどうするんだね?」
「そのときは、神羅のタークスよりもウータイの戦士が優れていると証明されるんでしょうね」

それでは、と立ち上がろうとした男はふと動きを止めた。

「ああ、そうだ。忘れるところでした。最後に一つ、教えていただきたいことが」

終始穏やかな笑みを浮かべていた男がふっと笑みを消し、真顔になった。
周囲の音も消えたように、知らず緊張が高まる。

「・・・なんだ?」

どんな要求でも撥ね付けてくれるわ、と心中で悪態を付きつつ、聞き返す。
あくまで、こちらは表情を変えずに。
相手は、真摯な瞳で口を開いた。

「・・・ウータイで人気のお土産って何ですか?」

   *   *

土産のランキングを聞き出した元幹部は楽しそうに帰っていった。
恐らく亀道楽にでも寄って行くのだろう。

「・・・成る程。一筋縄ではいかぬ男のようだな」
「当主、暗殺は・・・」
「・・・次にあやつがヴィンセントを連れてくるまでは中止だ。次は・・・確実に、しとめろ」
「御意」

空席となった座布団を見つめ、呟く。

「・・・神羅らしい。だが・・・違う」

相手を交渉の場まで引きずり出し、乗せる。
相手の好む条件で、こちらの難題を通そうとする。
だが、それだけではない。
あやつの目・・・。

己の命を条件に出すとは、な。

神羅によって嘗て滅亡の危機に瀕したウータイの者たちが神羅を憎むのは当然。元幹部なら尚更。
それを逆手にとって、条件に変えてしまうとは。

これであやつを抹殺できればそれでよし。
もしも、万が一こちらが負けるようなことがあれば・・・。

恐らく、これ以上あやつを狙うものは、ウータイからあらわれない。
我らは誇り高い忍だ。
互いが覚悟を決めて戦って負けたことを蒸し返すことはない。

いや。

もしかすると・・・。

真っ向から神羅の過去と向き合ったあの男を認めざるを得なくなる。

神羅にはいい尽くせないほどの恨みがあるが、今WROの活動自体には何の恨みもない。

「あのヴィンセントを連れてこれるほど、だからな・・・」

戦闘能力など皆無に等しい元幹部。
だが、やはり人の上に立つ資質は持ち合わせているらしい。

   *   *

久方ぶりのウータイに連れられてみれば、
一歩領地に足を踏み入れた途端、隠された殺気が顕わになった。

雨霰のように降ってくる暗器を撃ち落とし、ヴィンセントは魔法一つ使おうとしない仲間を振り返る。

「・・・リーブ」
「何ですか?」
「・・・何を条件にした?」
「お察しの通りかと」
「・・・。幾ら何でも譲りすぎだ」

物陰に隠れた途端、降り注ぐ矢が立て続けに大木に突き刺さる。

「・・・足りないくらいですよ。ですが、今のWROでは条件となるものが他にないですし」
「毎回命を懸ける気か」
「・・・さあ、どうでしょう?」

にこやかに微笑む男には、迷いがないようだった。

   *   *

数刻後。

巻き込まれたヴィンセントが不機嫌さを隠すことなく
全てのウータイの刺客を倒した。
勿論、命を取ることはなかったが。

リーブ、そしてゴドーの両名は逃げようとするヴィンセントを引き留めつつ(専らその役はリーブだったが)
再び当主の屋敷で対峙していた。

「・・・見事だ、ヴィンセント・ヴァレンタイン」
「帰らせろ」
「まあまあ。証人としていてくださいよ」

相変わらず威厳たっぷりの態度でゴドーはこほん、と咳払いをした。

「・・・お主は宣言通り、我らとヴィンセントとの戦闘を実現させた。
ウータイの当主、ゴドー・キサラギの名において
そなたへの協力者を提供しよう」
「・・・ありがとうございます」

対するリーブは穏やかな笑みのままだった。
しかしその笑みが以前より僅かに、信用できるように思え、
ゴドーは内心苦笑した。

「好きなだけ連れていけ。但し、説得はそなたが行え」
「はい」

かぽん、と庭の鹿威しが鳴った。

   *   *

呆気ないほど短時間で合意に至り、
元幹部は一度目の対峙と同様に楽しそうに帰っていった。
まあ、そのまま勧誘に行ったかもしれないが。

「・・・当主」
「言ったとおりだ。
今後ウータイとしてリーブ・トゥエスティに手を出すことは禁じる」
「・・・御意」
「・・・どうした?不満か?」
「・・・いえ。まさか自ら同じ土俵の上に立つ者だとは思わなかったので・・・」
「そうだな。
嘗ての神羅はあくまで奴らが上で、我らが下であった。
だが・・・あやつは違うようだな」
「・・・」
「気になるのか」
「はい」
「なら、お前も行け。
ユフィ、そしてウータイに脅威となるようなら報告しろ。
そしてもしも世界にとってWROが必要な組織となるようなら・・・」

庭先に目を向ける。
長閑な風景。

「・・・命を懸けて、あやつを守れ。いいな」

   *   *

そして。
リーブがウータイから勧誘した者たちに最初に指示した内容は、
ライフストリームの為に破壊されたウータイの建物の修復調査であった。

「・・・ああ、ゴドーさん。お久しぶりです」
「お主自らくるとはな。いいのか?」
「ウータイは安全ですから。
それに、修復は特に現地でみないとわからないんですよ」
「・・・そういえば、お主は元都市開発部門だったな」

彼はくすりと笑う。

「今も私は建築士ですよ」

fin.