歓迎

最初に見かけたとき、面白い組み合わせだと思った。

亀道楽のカウンターで、
見慣れた口うるさく心配性の護衛と、もう一人のソルジャーが親しげに飲み交わしていて。
あのレギオンにも親友がいたんですね、と多少失礼なことを考えつつ、たまたま後ろのテーブル席に案内された。
他の護衛達と談笑しつつ、それでも前の二人の会話をおもしろ半分に聞き漏らさないように。

すると、どうだろう。

レギオンの親友は、WROの行く末を案じてくれていた。
それも、自ら潜入して、その暴走を止めてくれる覚悟らしい。

レギオンは返事を躊躇していたけれど、これは是非進めてもらわないと。
折角の再会に水を差すようで申し訳なかったけれど、気兼ねなくWROに来てもらえるように。

*   *

「局長、えらくご機嫌ですねー」
「ふふふ、また見込みのある人達が入ってきますからね。楽しみです」
「あんたって・・・なんつーか人間吸引器、ですよね」
「はい?」
「いやー、磁石、なんて生やさしいもんじゃないなーっと」
「人材はいつでも大歓迎ですよ?」
「まー・・・。あんたにかかると、どんなやつでも隊員になれそうですけどねー」

レギオンの親友はミトラスという。
元ソルジャーでレギオン曰く、指揮官タイプだと。
だからレギオンは、
増員が決定した護衛に配属すると言い張った。
けれど私としては、ミトラスは情報収集に長けた貴重な人材。
ならば、情報部門の技術者として配属するのが当然と主張したところ、平行線。
幹部達から説得させようとしたけれど、何故か紛糾してしまい、
何度も護衛を却下しようとした主張は、幹部全員一致で否決。仕方なく両方を取ることになった。

「シェルクさん、いかがですか、彼は」
「ミトラスですか。様子見という感じですね」
「ふふ、そうでしょうねえ」
「・・・ですが、プログラミングやハッキングは既に取得しているようです」
「それは、楽しみですねえ」
「・・・局長」
「何でしょう?」
「・・・。いえ、貴方でしたら問題ないでしょう」
「それは違いますよ?」
「え?」
「シェルクさんのいる情報部門ですから、安心してお任せしているんです」
「・・・」
「そうそう、シェルクさんにお願いしたいことが・・・」

*   *

局長室でメールを捌いていると、護衛隊長という酔狂な役目についたレギオンが帰ってきた。

「お疲れさまです、レギオン。ミトラスは何か言っていましたか?」
「まあ、任務伝えただけです。
そういや、ミトラスがあんたに嵌められたっていってたんですけど」
「おや。聞いたんですか?」
「いんや、内容は聞いてないんですけど・・・。
・・・何怪しい笑み浮かべてるんですか・・・」

レギオンがげんなりした表情で背後に立つ。
流石にいつも嵌められているだけあって、勘が働くらしい。

「・・・ミトラスが私の挑戦を受けてくれたんですよ」
「挑戦って・・・何やってんですか・・・」
「それがですねえ・・・」

シェルクさんへの頼みごと。
即ち、ミトラスに対する裏入隊試験ともいえる。
ミトラスの目的は、WROを監視し、暴走の兆候があればそれを発見し、正すこと。
となれば、普段から情報収集には余念がないはず。

そのため、彼の仕事用PCにちょっとした仕掛けを作ってもらったのだ。
彼の権限で侵入できるWROシステム最深部に、とあるフォルダを置く。
そのフォルダだけは、とあるパスワードを入力できれば開く仕掛け。

「パスワードって?」
「彼の名前、ですよ」
「・・・つまり、あいつがそこまで侵入してくるって見越してたわけですか・・・。
相変わらず、あんた怖ええな・・・」
「何いってるんですか。
そのくらいしてくれないと私が困ります」
「はいはい。で、そのフォルダって何が入ってるんです?」
「ええ、実は・・・」

入れてもらったのは、TEXTファイルと、画像ファイル。
画像ファイルには別のパスワードがかけられていて、TEXTファイルにそのパスワードが記載されている。
但し。

『これを開くことは、貴方の命を懸けることに等しいかもしれません。それでも、開けますか?』

そんな文章が、パスワードと共に書いてあったりする。

「げっ!!!ちょっと、それ脅迫じゃないですかっ!!!
そんなやばい画像ファイル見せたのかよ!?」
「開くかどうか、決断したのはミトラス自身です」
「いや、でも、やりすぎじゃねえ・・・?」
「でも彼は開けましたね」
「・・・。で、その、何が、入ってたんですか・・・?」
「おや。レギオン、貴方も命を懸ける気になりましたか?」
「ま、まあ・・・その、
あいつが入隊したのって俺のせいでもあるんで・・・。
い、一応・・・」
「・・・そうですか」

画像ファイル名は、「A MAN」
PWを入力して、開いてみれば、そこには。

ブロンドの髪にダイアのティアラを頂き、
シルクの上品なドレスに身を包んだ絶世の美女がいた。

レギオンにも見えるよう、ディスプレイにその画像を最大化する。

淡い紫苑色のドレスが色白の肌を際だたせている。
伏し目がちなその立ち姿は神秘的で、
端正な顔立ちがブロンドに見え隠れする。

・・・何度みても、完璧ですよねえ。

レギオンも感心したように見入っていた。

「うっわーーー!!!綺麗な女性ですね。
・・・って・・・あれ?」

何かに気づいたのか。
みるみるうちに蒼白になっていくレギオンが可笑しくて堪らない。

・・・やっぱりレギオンに見せて正解でしたね。

内心こっそり頷きつつ、しれっと聞いてみた。

「どうしました?」
「こ、これって、まさか・・・女装!???」
「それを踏まえて・・・見覚え、ありませんか?」
「えっ・・・!?」

レギオンが改めてまじまじと写真を見入る。
そして、ある一点に釘付けとなっていた。
カラーコンタクトでもしなければ変わらないその一点。

魔晄を浴びたもの特有の、蒼い瞳。

「・・・ま、まままま、まさかっ・・・!!!!」
「まさか?」
「・・・く、クラウドさんーーーー!????」
「はい、よくできました」

満足げに頷くと、レギオンは衝撃で固まっていた。

・・・ミトラスはここまでリアクションしてくれなかったでしょうねえ。彼は、冷静ですし。

そんな失礼な事を思いつつ、畳みかける。

「では、クラウドさんには2名追加、とお伝えしておきましょうか」
「はあ!?」
「ですから、クラウドさんの女装写真を見た人が2名増えましたというご報告ですよ」
「なっ・・・!!!!何いってんですかあんたは!!!
俺たちクラウドさんに殺されるーーーー!!!!!」

頭を抱えてしゃがみ込んだレギオンは、安定のオーバーリアクションで。

「おや。さっき命を懸ける覚悟をしたのでは?」
「命を懸ける方向が間違ってるだろ!?」
「いえいえ、間違っていませんよ?
クラウドさんはこの写真に大層思うところがあるようでして・・・」

重々しく告げてみれば、案の定大慌てでレギオンは食いついてきた。

「そりゃそうだろ!!!ってあんたもこれみてるんじゃねえかっ!!!」
「私がこれをみたことは、クラウドさんはとっくにご存じですし」
「ええっ!?」
「私が報告しても問題ありませんよ」

にっこりと止めを刺してみた。

「やーーーーめーーーーてーーーーーー!!!!!!」

*   *

数日前。
局長室には、話題のミトラスがやってきていた。

「・・・局長」
「おや、ミトラス。お疲れさまです」
「・・・。今回は貴方の勝ちですが。
これ以降は、仕掛けではなく兆候を必ず捕らえて見せます」
「ええ。よろしくお願いします」

冷静なミトラスは理解できないといった顔で口を開いた。

「・・・。貴方は、俺みたいな不穏分子をいれてどうするつもりなんですか?」
「不穏分子ではありませんよ」
「では、何だと言うんですか」
「大切な部下ですよ」

にっこり笑って断言すると、ミトラスは絶句していた。

fin.