漫才 第三回

世界最速の飛空艇、シエラ号。
まあ、正確にいうと初号機はDGとの戦いで大破しちまったから、シエラ2号というべきか。
ちょっと話があるんですけど、とデッキから局長を連れてきた俺は、
ショップBOXのある奥の部屋で、ぽちっと録音ボタンをオンにした。

俺の持ってるヴォイスレコーダーで、局長は瞬時に状況を把握したらしい。

「ちょっと、ここで録るんですか?」
「だってシエラ号でってリクエストあったんですよ」
「何故シエラ号ですか・・・」
「乗ってみたいんだそうですよ」
「音声だけでは意味がないでしょう」
「俺に聞かないでくださいー!!!」

俺は一度こほんと咳払いをしてみた。まあ、格好だけだが。

「てなわけで、第3回、局長と俺のコンビでお送りしますー!」

高らかに宣言してやると、局長も取り敢えず止めるのを諦めたらしい。
ふうとため息を一つ零し、近くに腰を下ろした。

「・・・適当ですねえ」

そのとき不意に扉が開き、見慣れた人物がどかどかと入ってきた。

「おいリーブ、何やってんだ?」

英雄仲間でありこの飛空艇の艦長の登場に
局長は小首を傾げた。

「おや、シド。操縦はどうしたんです?」
「おめえらがこそこそやってるから
ちっとばかし代わってきた」

仲間同士の気安い雰囲気。
・・・これは、チャンス!!!!
俺は瞬時に判断し、手にしたヴォイスレコーダーをずいっと艦長に向けた。

「おお!!!ゲストは我らがシエラ号艦長!!!
お名前をどうぞー!!」

艦長はひょいと眉を上げた。

「ん?なんでい?」
「巻き込んですみませんねえ」
「おめえ、ちっともすまなく思ってねえだろ」
「おや、ばれましたか」

艦長の機嫌は悪くないと見た俺は、更に畳みかける。

「お名前をどうぞー!」
「あ?俺様はシド・ハイウインドだ!」

よっしゃ!!!と俺は心の中でガッツポーズをした。
これでシド艦長を巻き込めたわけだ。
しかし俺よりも、更に上がいた。

抜け目ない我らが局長は、さらりと提案した。

「これでシドのファンクラブに売れますね」
「はあああ?」
「お。そうですね。局長と艦長のコンビなんて
双方のファンが喜びますよ!」
「なんだあ?金儲けか」
「鋭いですね艦長!!」

ぼりぼりと頭を掻いた艦長は、巻き込まれる覚悟を決めてくれたらしく
局長の隣にどっかりと座った。
俺はにやにやと上機嫌でWROの誇るべき英雄二人の前に立ち、
声が均等に拾えるようにヴォイスレコーダーを構えた。

「ふうん。これを買うやつがいるんだな?物好きだな」
「ええ、全くです」
「で?」
「で、とは?」
「何を話すんでい?」

艦長に突っ込まれ、漸く俺は本題を思い出した。

「あーそうそう、リスナーから質問が」
「りすなあってなんだ?」

どっかり座っている艦長が腕組みして序でに首を大きく傾げた。

「局長のファンですよー。
局長への質問を送ってくるんですよ」
「へええ。おめえも人気者だなあ」

感心したような艦長に、相変わらず局長はさらりと返す。

「そうですか?
シドのファンクラブ、かなり盛況だと聞きましたけど」

ファンクラブ、に何か思うところがあったのか。
艦長は思い切り疑わしげに局長を睨んだ。

「・・・おめえ。あそこに何か流してねえか?」
「おや。何の話でしょう?」

対する局長は、いつも通りとぼけている。
が、・・・これは何かありそうだ。
俺はわくわくしながら我らの局長と艦長を見守った。

「神羅時代の俺様の写真、なんでファンクラブに流れてんだ?」
「おや、よくご存じで」
「やっぱりてめえかっ!」
「・・・許可は貰いましたよ?」
「俺様は知らねえ!!!」
「シエラさんに」
「ぐはっ!!!」

まさに、必殺の一撃だったらしい。
途中までは勢い乗って砲撃していた飛空艇が
思わぬミサイルの一発で撃沈されたような。

「・・・あーあ。艦長も局長には負けるんですねえ」

俺が呟くと、局長は食えない笑みを浮かべた。

「レギオン、貴方も他人事ではないんですよ?」
「へ?」
「とある筋から、貴方のファンクラブの設立に協力依頼が来ています」

言葉を理解するのに、一拍程。
脳に浸透した途端、俺は一気に捲し立てた。

「・・・・はあああ!?俺の!?
って何処の筋!?なんであんたに!?」

大混乱の俺を尻目に、局長は今日も怪しい笑みを浮かべた。

「・・・いろいろ握ってますから」
「局長!!!やーめーてー!!!」
「うお、怖ええ・・・」

いつの間にか復活していたらしい艦長が怯えていた。
局長はにっこりと笑った。

「それはさておき」
「置くな!!!」
「質問とは何です?」
「あ、まあ・・・えーっと
第二回の占いはどうなったんですか、って、あ。」

そういや、と俺は思い出す。
前回、局長に占った貰ったわけだが。
そういやその後どうなったかは言ってなかった。
艦長はちら、と局長を見遣る。

「ん?おめえまだ占いやってんのか?
すちゃらかな結果じゃねえだろうな?」

局長がこたえる前に、俺は一応結果を報告した。

「あーそれがですね、
次の日、任務帰りに豪雨に巻き込まれまして・・・
んで、もの見事に頭上から土砂が降ってきたんですよね・・・。
いやー正直、あの占い聞いてなかったら危なかったかも」

艦長は暫し眉を顰め、ずいっと局長に詰め寄った。

「・・・なんて言ったんだ、おめえ」
「・・・頭上注意、ですね。あと傘を持って行きなさいと」
「「・・・」」

艦長と俺は黙り込んだ。

「・・・やべえ。おめえ占い師で稼げるんじゃねえか」
「そんな暇ありませんよ」
「まあそうか」
「ええ」
「・・・と、いうところで
第三回、ここらで引き上げますー!!!」

ぽちっと俺は停止ボタンを押す。
あ、と恍けた声で局長は俺を見上げた。

「・・・聞き忘れてましたけど、
レギオン、あれから皆さんにからかわれたんですか?」
「ぶっ・・!!」

俺は盛大に噎せた。

「お、楽しそうだなおい」

にやにやとからかいモードに入ってしまった艦長と、
同じくにこにこと楽しそうな局長。

「ええ。実は第二回で、レギオンはからかうと面白いですよと宣伝していたのですが」
「してねえ!!!」

俺は間髪入れずに否定するものの、
局長は至極真面目そうな顔で、切り込んだ。

「実際どうでしたか?」
「きょーくーちょー!!!」
「おめえ、容赦ねえな・・・」
「事実ですよ」
「流石にちょっと不憫じゃねえのか・・・?」

艦長はちょっと俺に同情してくれたらしい。
しかし。

「シド、操縦はいいのですか?」
「おっと、俺様そろそろ戻るわ」
「ええ、お願いします」

局長の見事な誘導で、
あっさりと艦長は踵を返してしまった。
俺は慌てて声を張り上げた。

「艦長!!いーかーなーいーでー!!!」
「・・・強く生きろよ、レギオン」

fin.