漫才 第二回

今日も、俺はいつも通りにWRO局長室にいたりする。
その片手には、掌サイズのヴォイスレコーダー。
山のような書類を捌いている局長の側で、
俺は徐に録音を開始した。

「えー第二回、局長と俺の漫才・・・って、コンビ名とか決めましょうよ、局長」

さくさく書類の山を減らしていく局長は、振り向きもせずに言い放った。

「知りませんよ。第一、何故漫才なんですか。ただの会話でしょう」
「前回の会話、えらく好評だったそうですよ?それも局長のぼけっぷりが最高とか」
「私じゃないですよ。貴方の突っ込みが絶妙だって聞きましたけど」
「いやいや、俺はあんたにつられてるだけですから」
「そもそも、何故第二回に続いてるんですか」
「いや、だってサラ隊員から依頼が来たんですよ」

俺がさくっと白状すると、局長は唸って顎に手を当てた。

「・・・あれで好評とは世も末ですね。一体何を期待してるんでしょう」

ぽむ、と俺は手を打った。
今回は、前回とちょっと違うのを忘れていたのだ。

「そうそう、それでリクエスト貰ったんで」
「・・・はい?」
「リクエスト。簡単に言うと、あんたへの質問タイムってやつですね」
「そんなもの、インタビューで散々答えてますけど」
「だからもっとプライベートな話らしいですよ」
「プレイベートねえ・・・」

局長は首を捻っていたが
俺は構わずサラ隊員から託されたメモを取り出す。

「んじゃ、質問其の壱ー!
局長のご趣味は?だってさ」

『御趣味は?』なんて、見合いでもするのかねえと俺はこっそり思いつつ、
まあでもファンクラブなんだから、そこは押さえておくんだろうと納得した。
対する局長の回答は。

「趣味、ですか?・・・レギオンをからかうことでしょうか」
「ぶっ!!しょっぱなから何言ってんですか、あんた!」
「面白いですよ、彼は。是非みなさんからかってください」
「ちょっと待てーーーー!!!!」

ばん、と俺は書類の山を壊しかねない勢いでデスクに手をついた。
というか、実際に雪崩が起こった。
局長は雪崩を元の山に戻しつつ、迷惑そうに俺を見上げた。

「・・・何ですか、レギオン」
「何ですか、じゃないです!!!
これ放置したら、次の日から俺がやばいじゃないですか!」

焦る俺を、局長は食えない笑みでにっこりと返した。

「頑張ってくださいね、レギオン」
「応援するな!!!訂正しろ!!!」
「・・・そういう貴方の趣味はなんです?」
「へ?」

まさかこっちに振られるとは思わず、俺は間抜け面で停止した。

「そういえば聞いたことありませんでしたから」

俺はうっかり局長にのせられていた。

「俺の趣味、趣味ねえ・・・鍛錬ですかね?いつ戦いになるか分かりませんし」
「そうですねえ。大変ですよね」

うんうん、と頷いている相手に、俺は漸く突込みを入れた。

「こらこら、軍隊のトップが何言ってんですか。
じゃあ、質問其の弐ー。
なんかオーソドックスですねー。局長の好きなタイプは?だとさ」

書類の山を整えた局長は、続いてメールを開いていた。

「好きなタイプですか・・・。何でも残さず食べますよ」
「ぶはっ!おい、そういうことじゃねーだろ!」

またしてもずっこけそうになった俺へと、
局長は生真面目な表情で一つ頷いた。

「私雑食らしいんですよ」

俺は余りの脱力感に、がっくりと膝をついた。
局長は、レギオンのリアクションはオーバーですよねえ、と笑っているが。
あんたの回答、色々とまずくねえか・・・?

「・・・誤解招く言い方しないでくださいよ・・・。
あんた、自分が局長だって分かってます?」
「ええ、一応」

もうひとつ頷いて、局長はぽちっと送信ボタンを押していた。
マイペースな上司に、俺は叫び序でに立ち上がった。

「だああ!あんた、まともに答える気がないだろ!」
「ありますよ。ええ、本当に」
「嘘くせー」

半目でじとーと睨んでやると、局長は涼しい顔でまたしても俺に振った。

「レギオンのタイプはどうなんですか?」
「はいはい、俺も残さず食べますよ」
「投げやりですねえ」
「誰のせいですか、誰の」

はああ、とため息をついたが、局長は気にせずメールをうっている。

・・・こんなのでいいのか?こいつ何も答えてないぞ・・・?

WROに関することなら的確にインタビューに答える癖に
プライベートとなると途端にはぐらかす。
と、そこまで考えて俺はふと思い出した。

「・・・そういやあんた、料理できますよね」
「え?ええ、まあ」
「ごく最近だと草餅作ってましたよね」
「ええ、小豆をいただきましたし。昔、父に教わったんですよ」
「へええ・・・って?父親、ですか。母親じゃなくて?」

俺は普通に相槌を返そうとして、ん?と首を傾げた。

「ええ。
うちは父親の方が料理が得意だったんですよ。
母親は裁縫と占い、掃除が好きで、
幼い頃から叩き込まれたものです」

プライベートを穏やかに語った局長は、
メールの返信がひとまず完了したのか、新たな書類の山を捌き始めた。

「・・・へえ、意外だなあ・・・。
そういやあんた、よく占いしてますよね?」
「ええ、簡単なものなら・・・
そうそう、レギオンも何か占いましょうか?」
「へ?」

思わぬ流れにぽかんと上司を振り返る。
いつのまにやら、彼は片付けたデスクの上にカードの束を広げ、にっこりと笑った。

「一枚どうぞ」
「・・・選ぶってことですか?」
「はい」

俺は恐る恐るカードを引き抜いた。

「・・・じゃあ、これで」
「これですか・・・」

局長は俺のカードを開き、じっと凝視した。
そのまま思案顔で停止。
俺は大人しく結果を待つ。
が。

「・・・」
「・・・」
「「・・・・・・・」」
「だああ、何か言ってくださいよ、局長!」

余りに長い沈黙に耐え兼ねた俺へと、局長はつと視線を上げ厳かに告げた。

「・・・明日は雨ですね」
「そこかあああ!!!」

ほっとしたのと告げられた内容の余りの緊張感のなさに、俺は全力で突っ込んだ。
局長は神妙な顔で続ける。

「レギオン、傘を持っていった方がいいですよ。
それから・・・」
「ん?」

油断していた俺へと、局長は淡々と告げた。

「・・・頭上に注意、と出ています。
落下物に注意しろってことでしょうか」

俺は暫し言われたことを反芻し、口をあんぐりと開けた。

「・・・まじで?」
「ええ。気をつけてくださいね?」
「はあ・・・。了解しました」

ため息序でにレコーダーを見ると、既に5分を過ぎていた。

「あ、しまった。また時間が過ぎてる!
以上、ばたばたの第二回でしたー」

録音を止めて、
やれやれ、と俺はレコーダーを上着に仕舞う。
局長は疑わしそうに首を傾げていた。

「・・・それ、本当に売り物になるんですか?」
「さあ・・・。
あんた、これ売り出した次の日から
占いの依頼が殺到するんじゃないですか?」
「どうでしょうね?
レギオンの占いの結果もまだ出てませんし。
ああでも、傘と頭上には注意してくださいね」

さらっと言われたが、
こいつの占いは結構馬鹿にできないことを知っている。
俺はWRO式の敬礼で返した。

「・・・了解、局長殿」

fin.