漫才 第五回

俺は、スポットライトを浴びていた。
右手のマイクを握りしめ、隠しきれないニヤニヤした顔で、すうっと息を吸い込む。

「ふふふ・・・!
遂に第5回まできましたが、今回はなーんとスペシャル!!!何が凄いって・・・
皆さーん!!!聞こえてますかー!????」

途端に向かいの客席、もとい座席を埋め尽くすファンたちが
大歓声で応えてくれた。
うん、掴みはおっけー。

「・・・てなわけで。
俺と局長の漫才第5回は、なーんと公開生放送!!!
遂に電波を乗っ取ったーー!!!
というか、普通にこれで企画通るところがこえーよ」

俺はこほんと咳払い。

「ということで、何故かWROラジオ局を一部乗っ取り、
生中継でお送りしております。
時間は30分ですね。
放送できなかった分は第5回のデータにエクストラトラックとして収録予定です。
えーっと場所はWRO本部の講義室、200名が収容できるんですが、何と満員御礼!!!
ありがとう、皆さん!!!!」

のりのいい観客たちが歓声で答えてくれる。
いいねえ。

「因みにこの観客の皆さんは、
第4回に添付されたフォーマットより応募してくださった中から200名、選ばせていただいております。
え?さっさと始めろって?
しゃーないじゃないですか、これラジオなんですから
いちいち説明しろって・・・はいはい、わかりましたよ」

ふうーと俺は息を吐き出す。

「んじゃ、気を取り直して。
第5回、俺と局長の漫才。
司会進行はこの俺、WRO局長専属護衛隊長、レギオンでお送りしまーす」

護衛に見えませーん!!!と何処からか
楽しそうな野次が飛んだ。
よっくみたら俺の部下だ。
おいおい。

「いや、だからちゃんと一応護衛してますって。
あれ、前の観客の方が首を振ってる・・・。
いや、だから、肩書きは合ってますって。
・・・まあ、それは置いといて。
さくっとお呼びしましょう。
我らがWRO局長、・・・リーブ・トゥエスティ!!!」

俺が客からみて左側へばっと掌を向けると。
いつもの穏やかでちょっと胡散臭い笑顔を浮かべた局長が藍衣を纏って現れた。
途端に歓声が上がる。
黄色い、というよりはなんつーか、結構野郎どもの歓声も上がってるあたりが凄い。
局長は壇上にいる俺の隣までやってきて、ぺこりと丁寧に頭を下げた。
今度は拍手まで起こったよ・・・。

「ご紹介に預かりました、WRO局長のリーブ・トゥエスティです。
レギオン、毎回気になっているんですが・・・」
「なんすか局長」
「『我らが』って、何です?」
「んじゃ、『うちの』、がいいんですか?」
「『うちの局長』・・・なんだか弱そうですねえ」
「そういう問題かよ。まあいいや。
んじゃ、今回のゲストは、
WRO職員なら誰もがその隊章でお馴染み、
WROのマスコットキャラクター、ケット・シー!!!!!」

俺が大げさに腕を振ってみせると、
ぴょこぴょこと独特の足音で黒猫がやってきた。
今度は黄色い歓声が多い。
まあー猫ロボットだし、女子の方が需要はあるんだろう。
・・・喋り出したらどうかとは、思うが。

ケット・シーは俺の隣、局長とは反対側までやってきて
これまた丁寧に頭を下げた。

「どーもー。ケット・シーですー。」
「んじゃ、全員揃ったところで椅子に・・・」
「その前に、もう一人のゲストをご紹介しましょう」

にっこりと俺を遮ったのは、勿論局長。

「え?まだゲストいるんですか?」
「ええ。先ほど勧誘しました」
「さらっと呼ぶなよ・・・」
「いいじゃないですか。こんな機会滅多にないんですから」

にっこりと笑って、局長は観客に向き直る。

「・・・それではご紹介しましょう。
ジェノバ戦役の英雄であり、そしてオメガ戦役の英雄・・・」
「え!!!ま、まさかっ・・!!!!」

「・・・ヴィンセント・ヴァレンタイン!」

観客の驚愕とそして興奮の大歓声。
その中で、おそるおそる入ってきたのは・・・

「うおっ!!!まじでヴィンセントさん・・・!!」

ヴィンセントさんは、いつもの赤いマント姿。
彼は無表情で足早に、しかし全く足音を立てずにやって来たと思いきや・・・
局長を無言で締めあげた。
きゃーっと観客の女性達が声を上げるが、悲鳴ではなく面白がっている。
どうやら局長とヴィンセントさんの組み合わせがツボらしい。
・・・よくわからん。

胸ぐらを掴まれている筈の局長はのんびりと尋ねる。

「・・・おや。どうしたんです、ヴィンセント」
「・・・リーブ。これはどういうことだ」
「お話したとおりですが?」
「何処がだ・・・!」
「ヴィンセントはん、まーたリーブはんにはめられたんか。
ご愁傷様やなあー」
「・・・」

ケット・シーの指摘は、どうやら図星だったらしい。
俺は取り敢えず、策士の上司に振った。

「ええーっと?局長、状況の説明お願いします」
「今朝ヴィンセントを呼ぶ用事がありましてね。
ヴィンセントが暫く呼び出すな、というものですから、取引をしたんです」
「取引?」
「ええ。
今日から一ヶ月。
私はヴィンセントの携帯に電話をしない。
その代わり、この一ヶ月の間にヴィンセントに聞きたいことを本日纏めて尋ねるので必ず答えること、と」
「んで、ヴィンセントはんがうっかり頷いた、と」
「・・・」

何とも渋い顔をしているヴィンセントさんと、悪戯っぽく笑う局長。
これ以上聞くとヴィンセントさんが可哀想な気もしたが、
俺は番組の進行のために、敢えて、突っ込んだ。

「・・・つまりー。その?」
「この収録の質問もそれに含まれる、ということです」

局長が見事な笑みで答えた。
おおーー!!!と観客が更に煽る。

「・・・リーブ」
「何でしょう?」
「・・・。いや、もういい」

がっくりと諦めたヴィンセントさんが手を離した。
勿論、局長は終始楽しそうに笑っているだけ。

「えーっと・・・。纏まったところで、始めましょうか!!」
「・・・纏めるな・・・」

俺たちはぞろぞろと椅子に座った。
客から見て、俺と局長が左側、対する右側にケット・シーとヴィンセントさん。
上から見るとカタカナのハの字に並んでいる。

「いんやーまさかヴィンセントさんがきてくれるなんて、
後半の突撃質問タイムが楽しみですね!!!」
「・・・なんだ、それは」
「俺たちか、またはゲストへ観客、およびこれを聞いてるリスナーが
リアルタイムで送ってくる質問に答えるんですよ」
「・・・リーブ、まさか、それも」
「ええ。勿論答えてもらいますよ?」
「・・・」

がっくりと項垂れるヴィンセントさん。
陰のある美声年の姿に、観客から黄色い声がまた上がった。

「・・・んじゃ、まずは事前にもらったアンケートから。
ってことで主にケット・シー宛になりますけど・・・」
「さっさと終わらせろ」

タブレットを操作する俺に、殺気さえ感じられるおどろおどろしい声が突き刺さった。
向かいに座る人物の紅い瞳が、完全に、据わっていた。
・・・もたもたしてると、マジでやられそう。

「は、はいいっ!!!
えー、ケット・シーはどうやって動いているんですか?
だ、そうですが・・・?」

脅しをかけてきた人物の隣。
ちょこんと座っている黒猫はこてんと首を傾げた。

「ボクに聞かれてもなあー。リーブはん答えてえな」
「え?知りませんよ」

黒猫の主はすぱっと切って捨てた。

「おいおい、あんたの能力で動いてんでしょ?」
「うーん。・・・気づいたら動いてましたし・・・」

とぼける局長は通常仕様だ。
これ以上突っ込んでも答えは返ってこないだろう。
どうやら分身も同じように考えたらしい。

「こりゃあかんわ。レギオンはん、次いこかー」
「はいはい。えっとケット・シーは何か好みとかあるんですか?
・・・だ、そうです」
「好みやて?」
「・・・そういえば、私も知りませんね」

ケット・シーは意味ありげに局長を見上げた。

「・・・ゆうてええんか?」
「はい?どうして私を見るんです」
「ボクの好みは、殆どリーブはんと同じやさかい」
「うっ」

お。珍しく局長が怯んでいる。
そりゃあそうかもしれない、と俺は内心思った。
何しろ、人の思考を看破するのが誰より得意な局長は、
逆に自分の内心を殆ど見せないようにしている。
しかし、この分身にはどうやら筒抜けらしい。
黒猫がにやにやと笑う。

「ええんやな?」
「・・・。・・・ちょっと、考えさせて下さい」

途端に、えええーー!?と観客から猛反発の声が上がる。
そりゃそうだ。こんな折角の機会を生かさずしてどうする!!!
俺はケット・シー同様に人の悪い笑みを浮かべて被せた。

「局長の黙秘ですー。いけませんねえー。
ケット・シー、さっさと喋っちゃって下さい」
「はいなー」
「ケット!!!」

焦る局長が面白くって仕方ない。
そして、勿論ケット・シーが止める筈もなく。

「んーこうやってみなはんと喋るのは好きやで。
WROのみなはんは優しいし、英雄仲間はみんな曲者で面白いしなあ」
「・・・お前達の方が余程曲者だが」

ぼそっと低い声が割り込んだ。

「ヴィンセントはん、なんやいいましたー?」
「・・・。いや」

ヴィンセントさんが明後日の方向に視線を飛ばしている。
俺もつられてさっとケット・シーから視線を外してしまった。
だって、怖いものは怖い。

「後は・・・そやなあ。リーブはんの心情を暴露するのは楽しいで?」
「ケット・シー・・・」

あ。局長が頭を抑えてる。
そういや局長が誤魔化そうとしたことも、
この猫があっさりばらしたことがあったっけな。
取り敢えず、俺は司会進行役として突っ込んだ。

「お、じゃあ今の局長の心情はどうなんです?」
「まー見て分かるやろけど、ボクが余計なこといわへんか冷や冷やしとるで」
「・・・そろそろ、黙りませんか、ケット」
「しゃあないなー」

牽制する局長と、にやりと笑って承諾するケット・シー。
俺は思わず身震いをした。

「・・・怖!!!」

一頻り怖がった後、俺は次の質問を見るべくタブレット端末を手に取った。
その絶妙なタイミング。

「・・・関係ないですけど。レギオン、結構適職ですよね、司会。
このまま転職とかどうです?」

局長の思わぬ一言に、うっかりタブレットを滑り落としてしまった。
慌てて拾い上げる。

「な、何いってんですか局長!?」
「テレビ局の方が収入多そうですし」
「そやなあ。このままエンターテイナー目指したらどうやー?」

澄ました顔の局長と、にやにやと唆すケット・シー。
最強のタッグに詰め寄られ、俺はたじたじだった。

「いやいや、お二人とも何いってんですか!
俺の入隊理由、あんた知ってるでしょうが!!!」

俺は詰め寄ったが、局長はしらっと答えた。

「・・・何でしたっけ?」
「とぼけるなあ!!!!!
俺は、あんたに文句言うために護衛についたんですから!
テレビ局いったら文句言えなくなるじゃないですかっ!!!」
「・・・そんな理由だったのか」
「事実でっせー」

向かいのゲストたちは傍観している。
そして、局長はやはりとぼけたまんまだった。

「そうでしたっけ?」
「きょーくーちょー!!!
ったく、俺はこれでもWROでは古株なんですからね、
忘れないでください!!!」
「そんなWRO設立直後のことなんて、覚えてませんよ」
「きっちり覚えてるじゃないですかーー!!!」

俺はエキサイティングして、全力で突込みをいれていた。
公開放送だったとか、そんなことはすっぱーんと頭から抜けている。

「・・・あーあ。レギオンはん、まーたリーブはんに遊ばれとる」

黒猫の冷静な一言に、俺ははっと我に返った。
客席を振り返ってみれば、爆笑の嵐になっていて。
俺はまたしても局長のペースに乗ってしまっていたことにやっと気づいた。

肩を落とした俺に、しみじみとした声が掛けられた。

「・・・よく離脱しなかったな」

紅い瞳からは、何というか同情がありありと読み取れて・・・
そうですよね、ヴィンセントさんもまさしく今日もまた、局長に嵌められてましたよねえ、と妙に納得してしまった。
WROに英雄たちをも巻き込んでしまう局長は、ある意味最強じゃないだろうか。
俺はがっくりと降参した。
けれど、ここには救い主がいたらしい。

「んー。あれでもレギオンはん、結構頼りにされてるしなあ」
「えっ!?そ、そうなんですか!?」

俺は思わず縋るように分身を振り返った。
ケット・シーはきょとんとした目で答えてくれた。

「あれ?気いついてなかったん?」
「・・・ケット。貴方いつも余計なこと言いますよね」
「リーブはん、感謝はちゃーんと口に出さんと伝わらへんで?
大切な人材、どっかに持っていかれたら困るんやろ?」
「まあ、否定はしませんけど・・・護衛なんて危険な職業ですからねえ・・・。
この前の騒ぎで倍増されましたし・・・」

やれやれ、と言いたげな局長に、俺は思わず口を挟んだ。

「まだ言ってるんですか!」
「・・・予算調整大変なんですよ?」
「リーブ。お前の負けだ」
「・・・ちょっとヴィンセント。
そういうときだけ口を挟むのやめてください」

むっと言い返す局長に、ヴィンセントさんはさくっと言い捨てた。

「護衛を倍増されるような事態を引き起こしたお前が悪い」
「うっ・・・」
「お、ヴィンセントはんの反撃成功やね。おめでとさん」

一人、相変わらず楽しげな分身は今日も絶好調だ。
主はこの制御不可能な猫を軽く睨みつけた。

「・・・ケット・シー。
貴方、いつも思いますけど、一体誰の味方なんですか」
「前も言ったけど、面白い方に決まっとるやん」
「・・・」

局長が絶句した。
俺の中で最強がこの黒猫に置き換わった。
・・・まあ、もう一人心当たりがあることはあるけれど。
もっとやれー!!と煽る観客のノリも最高潮で、俺は笑いを堪えた。

「いやーケット・シーの返しが絶妙です!俺も見習わねーと・・!!!」

さて、と俺はタブレットを抱えなおした。
この番組宛のメールやら電話は、情報部門が瞬速で集計してくれているらしいのだが。

「あーヴィンセントさん宛の質問でサーバーがパンク寸前らしいです」
「では、ちゃっちゃと答えてくださいね、ヴィンセント。ひとつ3秒で」
「そ、それは・・・」

さくっと投げた局長の笑みは、いつもの食えないものに戻っていて。
ヴィンセントさんが逃げ腰になっているのは、気のせいではないだろう。
俺はその全てを無視して、さくっと進めることにした。

「んじゃ行きまーす!」

以下、お題の読み上げが俺、回答は勿論ヴィンセントさん、突込みがうちの局長という順番で。

「第一問、ヴィンセントさんの実年齢は?」
「今更だな」
「外観年齢は30代ですよねえ」

「第二問、ヴィンセントさんの御家族は?」
「ない」
「一言ですねえ・・・」

「第三問、ヴィンセントさんの好きなものは?」
「・・・。ない」
「ええ?そんなことはないでしょう」
「面倒だ。次へ行け」

「第四問、じゃあ、ヴィンセントさんの好きな食べ物は?」
「・・・私に食事など必要ない」
「赤ワインお好きですよねえ」
「何故お前がばらす」
「だってリスナーが可哀想じゃないですか」

「第五問、ヴィンセントさんの嫌いなものは?」
「厄介なもの全てだ」
「あ、じゃあ他は全て好きなんですか」
「それ以外は無関心なだけだ」
「そうですかね?」

「第六問、ヴィンセントさんは何処に住んでいるのですか?」
「ノーコメントだ」
「まあ、ヴィンセントが普通の居住区に住んでいたら、その方が違和感ありますけど」
「リーブ。黙れ」
「おや、何か不都合でも?」

「第七問、ヴィンセントさんの好きな人は?」
「・・・」
「まあ、言えませんよねえ」
「珍しくフォローしたな」

「第八問、ヴィンセントさんは何故赤マントなんですか?」
「趣味だ」
「趣味だったんですか。まあ派手で見つけやすいんですけど」
「・・・何?」

「第九問、ヴィンセントさんの銃の腕前は?」
「・・・私にどう答えろと?」
「今まで彼が外したところは見たことがありませんね」

「第十問、ヴィンセントさんが今欲しいものは?」
「・・・こいつからの連絡を絶つ方法だ」
「失礼ですねえ。
まあ、いざとなったらうちのシェルクさんを筆頭に
クラウドさんやユフィさんを巻き込んで捜索しますから、諦めてください」
「・・・!!!」

プライベートを訊かれることなどほぼないヴィンセントさんが
遂に、呻いた。

「・・・す、すまない、もう、限界、だ・・・」

そして、ヴィンセントさんは失神した。
きゃああ!!!と再び観客から黄色い声が上がったが・・・矢張り面白がっている。
隣のケット・シーがぺしぺし、と頬を叩いてみたが反応がない。

「あー、ヴィンセントさんが倒れました」
「ヴィンセント、公開収録中に倒れないでくださいよ」
「ヴィンセントはん、集中砲撃やったしなあー」

完全に他人事の黒猫へ、俺はにやっと笑った。

「んじゃ、お次はケット・シー!」
「なんやー?」

以下、同じくお題の読み上げが俺、回答はケット・シー、突込みがうちの局長という順番で。

「第一問、ケット・シーはいつも何処にいるんですか?」
「何処ゆわれてもなあ」
「神出鬼没ですよねえ」

「第二問、ケット・シーって御飯食べるんですか?」
「ご飯の定義が難しいところやなあ」
「・・・食べるんですか、ケット」
「んー。少なくともたまには充電せんと、ネットワーク使えへんしなあ」

「第三問、ケット・シーの必殺技は何ですか?」
「必殺技・・・リミットブレイクのことやろか?スロットやなあ」
「スロット、結構えげつない技が含まれてませんか?」
「そりゃあリーブはんのせいやろ」
「・・・何か言いましたか?」

「第四問、ケット・シーの占いって当たるんですか?」
「んー一応設定上は占いロボットの筈やけどなあ」
「御神籤みたいなものですしねえ」
「籤の中身を書いたのはリーブはんやんか」
「書いてみたかったんですよ。
でも・・・クラウドさんが初めて引いた籤の内容は、書いた覚えが全くないんですよ」
「・・・初耳やな」
「あれだけは、当たってしまったのかもしれませんね・・・」

「第五問、ケット・シーと相性のいい英雄仲間は誰ですか?」
「敢えてゆうならマリンちゃんやろか」
「・・・抱っこしてもらいましたね、貴方」
「リーブはん、何や嫉妬しとんのかー?」
「違いますよ。というかマリンちゃんには勝てる気がしません・・・」
「あー。ボクも勝てへんわ」
「ですよねえ」

「第六問、ケット・シーは局長のことをどう思ってますか?」
「どうも何も、これが主やし」
「これって何ですか」
「んー器用そうに見えて結構不器用やから、フォローが大変や」
「貴方がしているのはフォローではなくて余計な一言ですよ」

「第七問、ケット・シーが今行きたい場所とかありますか?」
「そうやなー。コスモキャニオンやなあ。そろそろナナキはんに会いたいしなあ」
「でしたら、今度シドが行くときに便乗したらどうです?」
「そやな、ちょっと行ってくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい」

「第八問、局長はケット・シー以外に操作できるんですか?」
「え?私ですか?」
「ボクも気になるとこやけど」
「・・・無理ですねえ。
第一、このケット・シーも操作しているというより既に好き勝手してるといいますか・・・」
「リーブはんが抜けとるだけちゃうんか」

「第九問、ケット・シーは戦闘は強いんですか?」
「そりゃまた、答え辛い質問やなあ」
「貴方、意外と魔力ありますよね」
「そりゃリーブはんの影響やろ」
「そうですかねえ?」

「第十問、ケット・シーから局長に何か要望ってありますか?」
「要望?んーそうやなあ・・・。あ。」
「・・・何です?」
「そろそろ観念した方が、ええんちゃうか?」
「何のことですか?」
「とぼけるのは勝手やけど、このまま放置するならボクがばらすでー?」
「ちょ、ちょっと何のことですか」
「ボクからばらされるのが嫌なら、ちゃんと返しときやー」

局長とケット・シーの遣り取りがちょっと気になるものの、
俺は司会として仕方なくぶった切った。

「ではラスト10分!会場からの生質問に答えます!!!」

会場に配られた質問用のボタンが一斉に押され、
俺の持つタブレットに観客の番号が並んでいく。

「んじゃ、178番の方ー!」
「はいいい!!!!!」

元気のいい返事と共に、一人の女性が立ち上がる。
会場スタッフからマイクを渡された彼女は、大声で指名した。

「局長!!!」
「おや、私ですか?」
「局長が今欲しいものは何ですかー!!!」

緊張したのか、一気に言い放った。
ここからは見えないが屹度彼女の顔は赤くなっているんだろうな。
指名された局長は僅かに首を傾げた。

「・・・欲しいもの?」
「あ、俺も聞きたいです」
「そうですねえ。・・・資金と人材と時間ですね」
「うわっ、それWROとして、ですよね?」
「勿論ですよ」

さらりと返されたが、観客は不満そうだ。
そりゃあそうだろう。そんな局長としての答えが訊きたいわけではないだろうし。
と、いうことで俺は更に突っ込んだ。

「んーじゃあ、それ抜きならどうなんです?」
「え?」
「局長じゃなくって、リーブ・トゥエスティ個人として、欲しいものは何です?」
「私個人・・・?」

ふむ、と局長は整えられた顎鬚に手をやって考えること暫し。

「・・・プレミアムゴールドですね」
「ぶはあっ!!!」

俺は盛大に噴き出した。

「・・・どうしました?」
「どうしました、じゃねえ!!!
あんた、何処まで天然なんですかっ!!!」
「はい?」

分かってなさそうな局長は、どうやら本当に素だったらしい。
またしても色々すっ飛んだ俺の代わりに、ケット・シーがマイクを取った。

「あーレギオンはんがエキサイトしてはるから、ボクが補足説明するで。
プレミアムゴールドゆうのは、とあるコーヒーの製品名や」
「ええ、香りが上品で美味しいんですよ。
ただ、3袋懸賞で当てた分も直ぐに消費してしまいましてね・・・。
おや、レギオン何を怒ってるんです?」

ケット・シーに次いで解説を加えた局長は、
立ち上がっている俺を不思議そうに見上げた。

「あんたが俺の名前で懸賞に応募するからでしょうがっ!!!」
「事前に了承は得ましたよ?」
「だからって、イラスト応募であんたがチョコボ描いてちゃっかり採用されたせいで、
勝手に俺の名前がカップに載っちゃったじゃないですかああああ!!!!」
「「「ええええ!??」」」

観客からは驚きの声が上がっている。
178番の彼女が興奮気味に叫んだ。

「あ、あの、本当ですか局長!?」
「まあ、過ぎたことですが・・・本当ですよ」
「欲しいです!!!」
「と、言われましても・・・」

勢い込む彼女に、局長は言い淀んだ。
まあそうだ、大分前の懸賞だし、とっくにカップ付の期間は終わっている。
が、ここにもう一人?、曲者がいた。

「プレゼントクイズ、それにしたらどうやー?」
「おや。ケット・シー、貴方あのマグカップ持ってましたっけ?」
「面白そうやったから、10個は持っとるで」

本体以上の狸振りで、ケット・シーはピースサインを決めた。
主はぽかんと分身を見返した。

「・・・いつの間に・・・」

局長がケット・シーにしてやられたところで、俺は残り時間にげっと呻いた。

「すんません!!!もう時間がないので、最後に例のカップが当たるプレゼントクイズ!!!
うちの局長がうっかり懸賞に応募して採用されてしまった、カップのイラストは何でしょうか!?
①モーグリ ②チョコボ ③サボテンダー
正解の番号を、うちの公式サイトから応募してください!!!
正解者の中から抽選で10名様に、例のカップを局長のサイン付きで進呈します!!!」
「え、サイン入ります?」
「いるに決まってるでしょうが!!!
っということで、以上でしゅーりょー!!!
それでは第5回、俺と局長の漫才をこれにて閉会いたします!
ゲストのケット・シー、ヴィンセントさん、
会場まで見に来てくださった皆さん、
そして最後まで聞いてくださった皆さん、
本当にありがとうございましたーーー!!!!」

閉会を宣言して、会場からも拍手喝采で。
俺はスタッフからのOKの合図に一気に息を吐き出した。

「・・・ふううー。これにて公開収録は終わったみたいです」
「お疲れさまでした、皆さん」
「あーまだヴィンセントはんが壊れとる」

ぺしぺし、とケット・シー再びヴィンセントさんの頬を叩いている。
局長が立ち上がって同じくヴィンセントを軽く揺さぶった。

「ヴィンセント」

ぱちっと瞼が開いた。

「・・・はっ!リーブ、終わったのか?」
「公開収録は終わりましたね」
「そうか・・・、長かったな」
「そうですねえ。
いつもはヴォイスレコーダーで細々と撮っていただけだったんですけど、
こんな大がかりな企画で撮ったのは初めてですから」

疲れ切った表情のヴィンセントさんは、漸く会場からの視線に気付いたらしい。

「・・・何故、まだ観客がいる?」
「そりゃあ、ここに英雄がいますからねえ・・・」

にっこりと笑顔を振りまく局長に、ヴィンセントさんの顔色が更に蒼く変わる。
あーあ。収録が終わっても局長は絶好調だ。

「・・・リーブ、まさか・・・」
「皆さん。ヴィンセントに質問がある方はここに残ってくださいね。順番にどうぞ」
「おい!勝手に決めるな・・・!」
「言いましたよね?本日纏めて質問すると」
「あ、あれは・・・」
「これが、今月一ヶ月分の質問です。
お願いしますね?ヴィンセント」

有無を言わせぬ口調で畳みかけ、流石のヴィンセントさんも返せなかった。

「うっわー」
「リーブはん、えげつないなあ」
「何を言ってるんですか。
この一ヶ月ヴィンセントに電話できないんですから、このくらい覚悟してもらわないと」

当然ですよ、と付け加える局長に、俺は天を仰いだ。

「あちゃー」
「ヴィンセントはん、無事帰れるんやろか?」
「何他人事のように言ってるんです、ケット・シー」
「・・・はあ?」
「ケット・シーに質問ある方もどうぞ」
「ちょ、リーブはん!!!」
「何か?」
「ボクも巻き込む気やな?」
「当たり前です。貴方もゲストですから」

楽しげな局長へと、ならば、と俺は空かさず一言付け加えた。

「んじゃ、局長に質問あるかたもどーぞー」
「レギオン!?」
「ならば、全員纏めて答えるしかあるまい」
「俺もつき合いますから」

周りをぐるりと見渡し、自分だけの脱出は不可能だと観念したのか・・・
局長は苦笑した。

「・・・仕方ないですね。では、あと15分で片づけましょうか」

fin.