白状

僕はロケット村を後にした。

シド艦長たちを北の大空洞から助け出して、
メテオがライフストリームとホーリーの御蔭で砕け散って。
長い長い、星を救う旅が終わったんだと、僕にもわかった。

シド艦長の仲間の皆さんを各地に運んだあと、
残されたハイウインドクルーの僕らは、艦長と共にロケット村に降り立った。
そりゃあシド艦長とそのままロケット村に留まるという選択肢は大層魅力だったけれど。でも。

「俺様は、もう飛ばねえ」

そう、最愛の女性に誓った艦長の姿が、僕には少し残念だったというのが本音。
そして全てが終わったとしても、
生まれた都市ミッドガルがどうなったのかをこの目で確認したかった。

「わあったけどよ。あっちはまだ危ねえ筈だ。
番号入れてやるから、なんかあったらあいつらを呼べ」
「番号?あいつら?」
「クラウドたちに決まってんだろ!」
「ええっ!!!みなさんの番号ですか!?」
「なーにいってんだ。おめえも仲間だろ」
「あ、ありがとうございます!!」

*   *

僕・・・僕ら、ハイウィンド号のクルーは、元々神羅に属していた。
だけど上司のハイデッガーからいつもきつく怒鳴られて。
そんな中、神羅に刃向かうクラウド一味にあの大空洞で出くわした。
新社長の指示で一味を乗せ、僕らはジュノン支社に向かっていた。

だけどその一味になんと、僕たちの中では伝説となっていた、シド・ハイウィンド艦長にお会いできたのだ。

興奮した僕たちは、社長の指示やらそっちのけで、シド艦長に上司の愚痴を聞いてもらっていた。

そんな時だった。

「・・・話は聞かせてもらいましたで」

ひょっこりと黒猫が割り込んできたのは。

「うおっ!猫スパイ、こっそり現れるな!!」
「ス、スパイ!?」

僕らが飛び上がって驚いているのに頓着せず、
猫は僕らを見上げた。

「あんさんら、こっちに来ませんか?」
「・・・こ、こっち?」

黒猫は、デフォルメの笑顔以上に楽しそうに言ってのけた。

「星を救う旅の仲間になりまへんか、ちゅうお誘いですわ」
「・・・えっ!?」

思わぬ言葉に、僕らはすぐには理解できなかった。
ただぽかんと猫を見るばかりで。
けれど、シド艦長の反応は早かった。

「お。なかなかいいことゆうじゃねえか」
「ボクらかて、飛空挺あったほうが楽やしな」
「まあな」

僕らを余所に、艦長と黒猫はとんとん拍子に話を進めてしまう。
黒猫はくるり、ともう一度僕らを見上げてきた。

「どないします?
これから先、ガハハに八つ当たりされたまんまでええんでっか?」
「うっ・・・!!!」

黒猫がガハハ、と表現したせいなのか。
僕の脳裏には仰け反りながらガハハと馬鹿笑いする
・・・はっきいいって無能な上司の、迷惑な八つ当たりばかり思い出してしまった。
どう考えても、先はなさそうだ。

黒猫は可愛らしく首を傾げた。

「どうでっか?」

僕らの心情を正確に読み取ったのか。
シド艦長は力強く勧誘してくれた。

「よし、お前らも来い!!!」
「「「はい!!!!」」」

僕らは迷うことなく頷いた。
そんな僕らに満足したのか、黒猫はぴょこぴょこと飛び跳ねた。

「よっしゃ、到着直後に火事やなんやと騒いでください。後はなんとかしましょ。
ボク、皆さんにこっそり伝えてきますわ」
「おう」

シド艦長が返事するや否や、黒猫は飛び跳ねながら戻っていった。
黒猫を見送っていたシド艦長に、僕は恐る恐る尋ねる。

「あ、あの」
「ん?なんでい」
「さっきの、って、ロボット、です、よね・・・?」

猫は喋ったりしない。いや、その前に二足歩行のわけがない。

「あーそうだな」

シド艦長もあっさりと答えてくれた。
でも、僕が一番聞きたいのは。

「然も猫スパイって・・・どういう意味ですか?」

シド艦長はちょっと困ったように頭を掻く。

「んー。まあ、気にすんな。俺様たちの仲間だからよ。
・・・あいつも戦っているんだろうよ」
「は?」

最後の言葉の意味は、そのときの僕には分からなかった。

「なんでもねえ」

*   *

久しぶりに故郷を訪れた僕は・・・ショックで呆然とした。

プレートは抉れ、その上に建てられた家やビルだったものが崩れ、倒壊している。
線路は分断され、列車は窓が割れて横倒しになっていた。
そして所々に食料を求めて彷徨う人もいた。その顔色は生気がない。

嘗て神羅カンパニーが創り上げた繁栄の都市は、見る影もなかった。

飛空艇の上からみたライフストリームは、星を救う神秘的な流れだったのに。
メテオを破壊してくれた善なる力は、同時に都市にも破壊を齎していたのだと・・・
僕は、漸く知ることになった。

当てもなく荒れ果てた都市を歩いていると。
僕は、積極的に瓦礫を撤去する集団があることに気がついた。

「・・・あの、」

くるり、とショートカットの女性が振り返った。

「何でしょう?」
「何をしてるんですか?」
「みての通り、ミッドガルを綺麗にしてるんです」

彼女は煤や土埃で少々汚れながらも笑顔で答えた。
僕は躊躇しながら、それでも尋ねた。

「でも、もう・・・破壊され尽くしているのに・・・」
「破壊されたからこそ、再生するんですよ。私たちの手で」

きっぱりと言い切った女性からは意志の強さが伺えた。

「・・・凄いですね。僕はそんな風に考えたことがなかった・・・」
「私だって受け売りですよ」

ぱちん、と彼女はウインクした。

「え?」
「よければ、貴方も入りませんか?
あ、宗教じゃありませんよ。
もう一度、この星を再生するための組織、です」
「組織・・・」

彼女はにっこりと笑った。

「その気になったら、誰かに声をかけてください。
今は人手が足りないので、大歓迎です」
「・・・はい」

僕は一旦移動することにした。
そしてミッドガルの各地で、あの女性と同じように
瓦礫を取り除き、人々に食料を与え、必要なものを聞き出し、そして端末で連絡を取り合う集団を見かけた。

こんな退廃した世界で
まともに機能している組織があるなんて。

僕は、最初に声をかけた女性を捜して、手伝いたい旨を申し入れた。
彼女は快諾してくれた。

「きっと貴方なら、手伝ってくださると思ってましたよ」

ちょっとした手続きが必要、ということで
僕は組織の本部へと連れていかれた。
本部と言っても廃墟となったビルの一室を利用しているらしい。
5階まで階段を上った奥の扉を抜けると、
書類に埋もれた簡素なデスクの奥で座っていた男が顔を上げた。

「・・・おや」
「部長、入隊希望者です」

僕を案内してくれた女性がさくっと要件を告げると、男性は苦笑したようだった。

「・・・あの、私はもう部長ではないんですが」
「部長がお嫌でしたら、さっさとこの組織の名前を決めてください」
「そう、なんですけどね・・・。普通に呼んでくださればいいんですが」
「普通ってどういうことですか」
「ですから、名前で」
「却下します」
「ええっ!?」

後ろで、僕はぽかんと二人のやり取りを聞いていた。
終始穏やかな男性と、喧嘩腰のようにきっぱり言い切る女性。
男性が上司で、女性が部下の筈なのに、ちっとも遠慮がない。
何処か親しみやすい雰囲気に僕はちょっと安心した。
神羅のように上が絶対、といった組織だったらと少し不安だったから。

そして、もう片方・・・部長と呼ばれていた男がこちらを向いた。

「すいません、お待たせしました」

30代だろうか。
若い割には落ち着いた雰囲気のスーツ姿の男性。
見覚えがあるような気がして僕は内心首を傾げる。

彼は僕をみて、少し目を瞠った。

「おや。貴方は・・・」
「え?」
「ああ、やっぱり。ハイウインドのクルーの方ですよね?」
「えっ。どうしてご存じなんですか?」
「私たちを大空洞まで運び、そして助け出してくださったじゃないですか」
「え?」

大空洞。
それは、セフィロスとの最終決戦の場所。
そこへこの男を運んだ覚えはない、けど。

覚えのなさそうな僕をみて、彼は悪戯っぽく笑った。

「・・・ボクのこと、もう忘れたんか?薄情な人やなあ」
「・・・え?」

独特の訛。
人をからかうような、でも何処か暖かいその喋り方を、あの船で僕はよく聞いていた。
・・・黒い猫型のロボットを通して。

「ええっ!?ま、まさか・・・!!!」
「はい。リーブ・トゥエスティと申します」
「・・・あっ!!!」

その名前に、僕はやっと思い出した。
神羅の中で、唯一生き残った幹部。
そして、あの黒猫の操縦者だったことを。

「思い出していただけましたか?」
「は、はいっ・・!!」
「それでは、」

会話を割くように、胸元から呼び出し音が響いた。
端末を取り出し、彼は小さくため息をつく。

「・・・すみません、詳しいことは彼女に聞いて下さい。ミリアさん、お願いします」
「はい、部長」
「あの・・・、まあ、後にしましょう」

そういって、彼は部屋を出ていった。

ミリアと呼ばれた女性は、じゃあ部長行っちゃったのでさっさと手続きしましょう、
と僕をデスク前のソファに座らせ、てきぱきと書類を取り出し、テーブルに並べた。
彼女は僕の向かいに座って、必要事項の記入欄を指示していく。
その手際の良さに、彼女は組織の中で中核を担うひとなんだろうなあと感心していたら、
不意に彼女が楽しそうに笑った。

「・・・部長とお知り合いだったんですね」
「え?あ、はい」
「ハイウィンドって・・・もしかして、英雄の乗っていた飛空艇の名前ですよね!?」

英雄。
メテオが破壊された裏で、星を救わんと戦った英雄がいたという。

何処から始まったか分からないその噂は、結構な精度で世界中に広がっていたらしい。
飛空艇の名前まで知られるほどに。
といっても、この星でも飛空艇は貴重だから目立つのだろうけど。
僕はその英雄たちを乗せた船にいたことを誇りに思っている。
まあでも、僕は飛空艇を操作しただけで、闘ったわけではないから控えめに答えた。

「そ、そうです」
「ってことは、英雄の皆さんともお知り合いですよね!?」

ぐっとテーブル越しに乗り出され、僕はちょっと引き気味になった。

「は、はあ・・・」

彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
余程英雄たちへの憧れがあるらしい。
そりゃあ、星を滅亡から救った人たちだ。
この荒廃した世界の希望となっていても不思議じゃない。
けれど、彼女の次の一言で、僕は大いに首を傾げることになる。

「いいなあ・・・。私もお会いしてみたい」
「え?」
「だって、クラウド・ストライフたちに会ったことがあるんでしょう!?
きっとお強い人達なんでしょうね・・・!!」

想像の中の英雄に心を奪われていそうな彼女に、僕はちょっと口を挟んだ。

「あ、あの」
「はい?」
「会ったことないって・・・?」

彼女はちょっと残念そうに肩を落とした。

「ないんですよ。その、エッジ付近に店を出されていることは知っているんですけど・・・」
「いえ、そうではなくて、」
「???」

彼女は首を傾げている。

「僕が言いたいのは、貴女はいつもお会いしてるじゃないですか、ってことなんですが」

彼女は頭の上に疑問符が見えそうなくらい、不思議そうに尋ねた。

「・・・誰に?」

ああ、彼女は知らないだ、と思ったら僕は何だか楽しくなってきた。

「星を救った英雄、ですよ」
「え?でも、一度も・・・」

会ったことはない、と続く前に、僕はさくっと告げた。

「リーブさんも、そのお一人ですけど」

効果は覿面だった。
彼女は長い間石像のように動きを止めていた。

「・・・・・・・・え?」
「リーブ・トゥエスティ・・・
神羅重役で唯一、クラウドさんたちの仲間で、
神羅の情報を僕たちにリークしてくださってた人ですよ」

僕の言葉が彼女の脳に浸透するまで暫しかかり。
そして彼女はあたふたと手を振り始めた。

「・・・ま、待って。
・・・部長が?
・・・嘘」
「嘘じゃありません」
「でも。待って。
部長はあたしたちが何度言ってもずっとずっとミッドガルから離れてくれなくて・・・」
「そうです」
「でも英雄達は、星のために各地で戦ってたんですよね?」
「そうです」
「矛盾してるじゃない!!」
「していません。
と、いうか、リーブさんだから、矛盾してないんです」

自信たっぷりに言い切ると、彼女はぱちくりと可愛らしく目を瞬かせた。

「・・・どういうこと?」
「クラウドさん達の仲間。メンバーを全員ご存じですか?」
「え?えっと、
クラウド・ストライフ、
ティファ・ロックハート、
バレット・ウォーレス、
ユフィ・キサラギ、
ヴィンセント・ヴァレンタイン、
ナナキ、
シド・ハイウィンド、
ケット・シー・・・」
「それです」

名前を列挙する彼女にすかさず口を挟めば、
彼女は視線をこちらに戻してきた。

「え?」
「ケット・シー、が人でないことはご存じですか?」
「え?えっと、確かロボットだって・・・」

僕はこっくりと一つ頷いた。

「そうです。そのロボットは遠隔操作されていたんです。
・・・その、操縦者が、リーブさんです」
「・・・嘘」

全く思いもしなかったらしい表情に、僕は少し笑ってしまった。

「嘘を言っても仕方ないですよ。
それに、シド艦長と共に、リーブさんは僕たちの恩人なんです」
「恩人?」

「僕ら、ハイウィンドのクルーたちは
ずっとハイデッガーにこき使われてたんです。
それをシド艦長とケット・シー・・・リーブさんが仲間に誘ってくれたんです。
でなければ、今僕はここにいなかったでしょう」

話し終えると、彼女は茫然としていたけれど。
もう一度、身を乗り出した。

「・・・その話、本当なんですよね?」

念を押す彼女に、僕は力強く断言した。

「ええ。誓って。なんなら艦長から言ってもらいましょうか?」
「え?」
「電話してみますね」

僕は端末を取り出した。
プルルル、と響く呼び出し音は、すぐに覇気に満ちた声に取って代わった。

『おう!元気か!』
「はい。あの、艦長にお願いがあります」
『なんでい。どーんと言ってみな!』
「実は・・・」

僕は手短に事情を説明した。
ミッドガルに無事到着したこと。
そこで出会った復興に努める組織のこと。
そして、組織のリーダーがリーブさんで、
彼はシド艦長たちの仲間だということを隠していることを。

『はあ?あいつ、なーんも言ってないのか!!』
「みたいです。少なくとも、こちらでリーブさんと共に復興の手伝いをされている方はご存じないようです」
『よっしゃ、代わってみろ』
「・・・だ、そうです」

僕は端末を彼女に手渡した。
暫く
ええっ!?
じゃ、じゃあ、本当に!?
と彼女の驚くような声が響いていたが、
やおらすっくとソファから立ち上がった。

「あ、あの?」

何処か目の据わった彼女は、通話したまま低く宣言した。

「・・・ご協力、いただけますか」
「え?」

*   *

ところ変わって、彼女はマイクの前にいた。
ビル唯一の放送室である。
僕は見張りということで扉の前に立っていた。
ガラス越しに部屋を覗き込むと、彼女は端末をマイクに押し当てて、
徐に、スイッチをオンにした。

ピンポンパンポーンと気の抜けた電子音が響く。
そして。

『よお!!!
ミッドガル復興やってるやつら!!!ご苦労さん!!!
俺様はシド・ハイウィンド!!よろしくな!!!』

シド艦長の声が、隅々まで響く。
名前を聞いた組織の人たちが歓声を上げたのがここからも聞こえてきた。
快活な声は相変わらず元気づける。

『で。俺様が放送室をのっとったのは、ちょいと話してえことがあったからだ』

ぴたり、とざわめきが消えた。
英雄の話を一言も漏らすまい・・・と
耳を澄ましているんだろう。

『おめえらの組織を作った、リーブについてだ』

ざわっと一瞬動揺が広まった。

『あー、勘違いするなよ?悪い方面じゃねえ。
寧ろ、あいつは言うべきことを言ってねえだけだ。
あいつは・・・』

シド艦長が喋っている間に、待っていた人物がやってくるのを認めて、
僕はどうぞ、と扉を開けた。

その人物は、部屋に入るなりため息をついた。

「・・・シドさん。勝手に放送を乗っ取るのはいただけませんね」

声で誰が来たのか分かったらしく、シド艦長は上機嫌で話しかけた。

『お。リーブか。おっせえな。おめえ、なんで言ってないんだ?』
「何をですか」

名を呼ばれたこの組織のリーダー、
リーブさんは部屋の中央にあるマイクの前へと歩いていく。
僕もその後をついて、部屋に入ることにした。
折角だから生の遣り取りを見たくなったから。
そして、この後起こるだろうことを予想して、こっそり扉をロックしておく。

その間も、お二人の会話は進んでいく。

『おめえも仲間だろうが、って俺様は前にも言っただろうが』
「・・・私は違います」
『否定してどうするんだ?事実は事実だろうが』
「ですから、私は神羅の・・・、
もういいです、こっちを切った方が早いですからね」

マイクのスイッチを切ろうとしたリーブさんを僕は素早く阻止した。
視界の端で、端末を持っている彼女がぱちんとウインクを決めたのが見えたけれど。
リーブさんは不思議そうに僕を見返した。

「・・・あの?」
「僕は知っています。
貴方は、間違いなくシド艦長の仲間で、星を救った英雄の一人です」

きっぱりと僕が宣言すると、リーブさんは戸惑ったように視線を外した。

「・・・ですから私は」
『そーだ!!聞け、おめえら!!
おめえらのトップは、クラウドや俺様たちと共に戦った大切な仲間だ!!!』

シド艦長が一際声を張り上げた。
きっと部屋の外ではさぞかし歓声が上がったことだろう。
一方のリーブさんはがっくりと肩を落としていた。

「・・・あの、勝手に盛り上げないで下さいよ・・・」
『おめえが黙ってるのが悪いんだろうが』
「私は戦ってませんから」
『嘘付け』

シド艦長が速攻で否定したが、今度はリーブさんが声を上げる。
これを聞いているだろう部下たちへ届くように。

「みなさん、私がずっとミッドガルにいたのはご存じでしょう?
シドさんが言っているのは出鱈目です」

リーブさんの部下たちだけなら、それで納得したかもしれない。
けれども、我らのシド艦長はそれくらいで怯む男ではない。

『おめえ、まだそんな屁理屈言ってるのか』
「私は一度もあなた方と戦ったことなどありません」
『いーや、それこそ嘘だな』
「私はずっとミッドガルに・・・」
『ジュノンにバレットたちを助けにきたのは誰だ?』
「私じゃありません」
『ケット・シーの本体のくせに言い訳するな』
「私は関係ありません」
『ミッドガルにウェポンが襲ってきたって連絡くれたのはてめえだろうが』
「事実を伝えただけです」
『てめえじゃなきゃ、俺たちには伝わらなかった』
「たまたまです」
『キャノン砲の危険性だって、てめえじゃなきゃわからなかった』
「それは、」

流石に思い当たる節があるのか、リーブさんは少し言い淀んだ。
その隙をついて、シド艦長が止めとばかりに畳みかけた。

『いい加減認めろや。
第一、俺様とこれだけ砕けた会話しておいて、今更関係ないとか言っても、誰も信じねえぞ?』
「っ・・・!」

はっと口を閉ざしても、もう遅い。
僕はこっそり失笑してしまった。
例えどんなにリーブさんが否定したところで、
シド艦長との会話の雰囲気は、ただの知り合いでは済まされない。
その証拠に、放送室の外では興奮した人々が詰め寄りつつあった。

「さっさと認めたほうが身のためです。部長」

端末を無表情に持ち続けていたミリアさんがさくっと切り込んだ。
リーブさんは、否定するように首を振るった。

「・・・。
言っておきますけど、私が一度も戦ってないのは事実です。それに、」
「往生際悪過ぎや」

あっさり遮ったのは・・・
いつの間にか放送室に紛れ込んでいた黒猫のロボット。

「ケット・シー!!!」

名前を呼ばれた黒猫はにっこにこ笑いながら
マイクの前にぴょこぴょことやってきた。

「お久しゅうー。なんや放送室が楽しそうやから潜入させてもらいましたわ」

上機嫌な黒猫を、リーブさんは更に渋い顔で見下ろしている。

「このややこしいときに乗り込まないで下さい」
「シドはんもお久しゅうー」
『ケットじゃねえか!なんでえ、おめえもそっちにいたのか』
「リーブはんが外で情報収集しろゆうから各地をうろうろしてたんや」
「ケット・・・。もういいですから黙って下さい」
『これで決定的じゃねえか』
「何がですか・・・」
『ケット・シーの名前も知れてるんだろ?』
「・・・あ。」

シド艦長の指摘は相変わらず鋭くて。
リーブさんが反論できないうちに、
今度はケット・シーが放送を乗っ取ったらしい。

「みなはん、お久しゅうー。
お初な人もぎょうさんおるみたいやな。ケット・シーいいますー」
「ケット・・・」

絶好調の黒猫ロボットを本体の筈のリーブさんは止められないらしい。
そういえば、操縦じゃなかったっけ?と思うけど。
まあ、今はそれどころじゃない。
楽しそうに訛る猫の言葉を聞くほうが重要だ。

「何や知らんけど、僕の話みたいやからいっとくで。
僕のマスターはリーブはんや。
まあ堅物やからまた否定するやろけど、事実は事実や」
「・・・ケット・・・。何しに来たんですか」

咎めるようなリーブさんの言葉に、分身の猫はくるっと体ごと振り返った。
そしてデフォルメの笑顔以上ににやにやしながら主人を見上げた。

「さっきゆうやたないか。楽しそうやから侵入したて」
「本部に戻ってくる用事はなかった筈ですが?」
「用事なら立派な用事があるで?」
「何ですか」

リーブさんの追及に、ケット・シーは笑った。
にたり、という表現がぴったりの人を食ったような笑顔。

「口を割らんリーブはんを白状させるっていう大事な用や」
「ケット!!」
「んじゃ、開けるでー」

ぴょんぴょんと軽快に飛び跳ねて移動し、ケット・シーは序に放送室の扉のロックを解除した。

「ちょっと待っ・・・!!!」

リーブさんが止める間もなく、解放された扉からどっと人が詰めかけた。
そしてあっという間にリーブさんは大集団に詰め寄られていた。

「部長!!!本当ですか!!」
「ケット・シーって、貴方のロボットだったんですね!!」
「俺、英雄の下で働けて幸せです!」
「前にヴィンセント様が助けてくださったのも、
神羅つながりではなくて、英雄仲間だったからなんですね・・・!!」
「ですから、私は・・・!」

興奮した彼らに対し、リーブさんはおろおろと逃げ場を探しているようだった。
でもまあ四方をがっちり囲まれているから無理なんだけど。
そして、彼らを煽る黒猫が一匹。

「リーブはんは、後詰めをやってた感じやな」
「情報収集ですね!!確かに重要ですよね!」

序でに満足そうな艦長がおひとり。

『よしよし、いい感じじゃねえか』
「・・・シドさん、放置しないでくださいよ・・・」
『収拾できんのは、おめえだけだろ』
「できませんよ」
『簡単だろ?』
「え?」
「さっさと白状しいや」
「何を・・・?」
「部長!」

シド艦長と、ケット・シーと、部下たちと。
リーブさんは全員を戸惑ったように見渡して(シド艦長はここにいないから端末を、だけど)
観念したように、ため息をついた。

「・・・。
・・・・・・・。
・・・確かに、ケット・シーのマスターは私ですが、それだけで、」

わあっと歓声が上がる。

「8人目の英雄、我らがリーブ部長に万歳!!!」
「「「万歳!!!!」」」

一斉に盛り上がる部下たちへ、リーブさんは辛うじて口を挟んだ。

「あ、あの・・・」
「何ですか、リーブ様!」

さっきまでの騒がしさが嘘のように、しん、と静まり返る。
その中で、リーブさんは軽く首を振るった。

「・・・まず、様、はやめてください。
あと私は英雄でも、部長でもありません・・・」
「では、何とお呼びすればよろしいですか?」

部下の一人が、尊敬の眼差しでリーブさんを見上げている。
リーブさんは簡潔に答えた。

「ですから、名前だけで」
「「「「却下します!!!」」」
「・・・ええっ!?」

リーブさんと部下たちの遣り取りをシド艦長と黒猫はのんびりと傍観していた。
ってシド艦長は音声だけだけど。

『・・・ここは漫才集団かあ?』
「リーブはん、ぼっけぼけやからなあ・・・。
そや、シドはん、おおきに」
『いいってことよ。
にしても、あいつ・・・すげえ組織作ってるんだな』
「まだまだ発展途上やし、油断できへんーって、よおゆうとるけどな」
『ま、問題ないんじゃねえか?』
「どういうことや?」
『あいつが元神羅幹部、って状態でも
ここまで人が集まってたんだろ?
そこへ、実は英雄でしたってえ騒ぎが広まってみろ。
今以上に、人がやってくるのは間違いねえ。
大勢の人を采配すんのは、あいつの得意分野なんだろ?』
「・・・そやな」
『なんかあれば、俺様も呼べ。
ロケット村に籠もってた分、協力くらいいくらでもすらあ!!』
「シドはん、助かるわあ。
じゃあ1時間後に交渉にいくさかい」
『はええな!なんでい、今じゃねえのか?』
「それは、本体に聞いてえな」

にやり、とケット・シーは笑った。

*   *

そして一時間後。
本部を抜け出した(逃げ出した?)リーブさんは
し返し、とばかり統括時代に培った交渉術を駆使し・・・
あっさりとシド艦長をを飛空艇団の艦長に据えた。

その飛空艇団に、今僕は所属している。
大好きな艦長の下で。

fin.