科学者ハンター

ある麗らかな午後。
拠点ドンドルマの南に研究所兼アイテム売場を構えている
若き天才科学者であり、研究所所長のシャルアは呟いた。

「む。素材がなくなったな。取りに行くか」

その呟きに、店を訪れていたケット・シーが
注文していた要塞防衛式弩砲弾を受け取りながら突っ込みをいれた。

「え。でもシャルアはん、ハンターちゃうやんか」
「なら、なるまでだ」
「へ?」

ばさっと白衣を翻して奥に引っ込んだ彼女は、ボーンシューターを担いで戻ってきた。
颯爽とハンター募集中の団長の下へと歩いていく。
その後を追い縋るケット・シー。

「ままま、待ってえや、シャルアはん!」
「ん?お前も来るか?」
「や、だから・・・!!」
「あんたが筆頭オトモで決まりだ」
「ボクは正式なハンターや!!!
それもゴールドやで!!!」
「ふむ。ならお前のトレンドはファイトだな」
「やからオトモちゃうゆうとるやんか!!!」

カウボーイハットを被った陽気な団長は
シャルアの入団希望をあっさりと受け入れた。

「ようこそ、ハンター!まずは入団試験といくか!」
「ふん。受けて立とう」
「本気かいな」
「当たり前だ」

団長は顎に手を当てて、うーんと唸った。

「 第1テストは・・・。
そういや腹が減ったな。よし、これにしよう!
俺に『こんがり肉』を持ってきてくれ!
『生焼け肉』でも可だ!」
「肉?」
「こんがり肉と生焼け肉はな、
『生肉』を、こう、ぐ~るぐ~ると焼くんだ。」

*   *

始まりの草原。
見渡す限りの大自然は、柔らかい新緑に覆われていた。
取り敢えず採取ポイントを探ってみれば、薬草をゲットできた。

「草食モンスターを倒して、焼くか。
ふん。簡単だな」

目の前を親子らしきモンスターがゆったりと横切っていく。

「・・・で。あれがアプトノスか?」
「そや。大人しい草食モンスターやさかい、襲われることもまずないやろ」
「ではさくっといくか」

背中に担いでいたボーンシューターを構える。
通常弾Lv.1を装填し、スコープを覗く。

・・・このでかい図体では、覗くまでもないが。

狙いを定めて、数発放つ。
モンスターが苦悶の叫びを上げて倒れ、暫くもがいた後に動かなくなった。

「よっしゃ!お見事や!!」
「ふむ。こんなものか」

ボーンシューターを肩に担ぎ、倒したモンスターを見下ろす。

「で。」
「で?ってなんや?」
「これを丸ごと焼けばいいのか」
「ええっ!?ちゃいますって!!
まず肉を剥いでください!」
「む。剥ぐ?」
「そや。ナイフ持っとるやろ?」
「む」

腰につけたポーチからナイフを取り出す。

「・・・で、何処を剥ぐんだ?」
「やっぱり腹回りやろ。首とか尻尾は肉がないし
かったいから食べれへんで」
「ふむ。こうか」

ナイフを振り上げて、ぶすっと突き刺し、剥いでみた。

「シャルアはん、なんや肉、薄ないか・・・?」
「そうか?」
「スライス肉やで、それじゃあ。
普通、ブロックで切り分けるやろ?」
「そうか?シェルクが持ってくる肉はいつもこうだが」
「・・・シェルクはんもあかんのか・・・」
「何か言ったか?」
「な、なんもゆうてへん!!!」

結局肉をブロック型に切り分けるのに、更に数匹しとめた後だった。
手にした所謂骨付き肉、生肉をしげしげと観察する。

「・・・ふむ。形になったか」
「よかったわあ。日が暮れるかとおもた」
「さて次は焼けばいいのだな?」
「そ、そやけど・・・」

支給品ボックスから受け取った、肉焼きセットを取り出す。
生肉を上にセットし、火をつけて全体が均等に焼けるように
レバーを回して生肉を回転させる。
好みの焼き加減で肉を火から上げれば、完了。

それだけの簡単な作業だが。

一回目。

「って、シャルアはん、遅すぎやって!」
「ちゃんと色は変わっているだろう」
「それ焦げ肉や!!!」
「ん?言われてみれば焦げ臭いな・・・」
「てか真っ黒や!!!」

2回目。

「・・・くそ、まだ生肉じゃないか!」
「シャルアはん、止めるの早いんや・・・」
「お前の合図が遅すぎて待てん!」
「遅いって・・・」

3回目

「ケット・シー!いつだ!」
「後5秒数えてえな」
「5秒だと!?5,4,もういいだろう!」
「早っ!!!」
「むっ・・・?これは」
「生焼け肉や。これでもクリアするんやし、ええんちゃう?」
「・・・。さっさと終わらせてやる」

取り敢えず生焼け肉を納品し、初クエストは終了した。

*   *

拠点に戻り、団長に生焼け肉を手渡す。
団長はその場で豪快に噛り付いた。

「ははは!生焼け肉だな!
新米だからまずはこんなものだろう。
次は期待しているぞ、我らがハンター!」
「ふん。早く討伐クエストを寄越せ!」
「シャルアはん、採集クエスト目指してたんちゃうんか・・・?」

足元ではあ、と項垂れる黒猫に
シャルアはぽん、と手を叩いた。

「・・・よく考えれば、あんたに焼かせればよかったな」
「それやったら、入団試験にならんやろ」

第一の試験を終えたシャルアは、団長に新たな試験を言い渡された。

「よし、入団試験その2だ!
俺に『回復薬グレート』を持ってきてくれ!
手段は問わない!
もし調合に必要なものを取りに行くなら、お嬢に聞いてくれ。
最適のクエストを教えてくれるぞ」

団長が指し示した先には、クエストの依頼を一面に張り付けた荷台があった。
その前にはにこやかに手を振る眼鏡の若い女性が座っている。
お嬢、とは彼女のことらしい。

が、シャルアはにたり、と笑った。

「なんだ、そんなものでいいのか」
「お?」
「・・・あー・・・」

先の展開を予期したケット・シーが天を仰ぎ、
その前でシャルアは羽織っていた白衣をばさっと広げる。
内側にはぎっしりと薬品が括り付けてあった。
シャルアはその一つ一つを紹介していく。

「これが回復薬グレート。
栄養剤グレートに漢方薬、鬼人薬グレート、強走薬グレート、
生命の大粉塵に古の秘薬まであるが、どれがいいんだ?」

シャルアの持つアイテムに、団長はぐっと親指を立てた。

「グレイト!!流石は科学者ハンター!!!
よし、ここまで調合できるお前さんならクエストは不要だな!
おっと、一応試験だから回復薬グレートはいただいておこう!!!」
「ああ」

シャルアが白衣の内側から薬品を取り出し、団長に手渡す。
団長はその場で回復薬グレートを一気飲みした。

「こいつはキク~!!!
お見事!第2テスト合格だ!ようこそ我らの団へ!
お前さんの冒険を歓迎しよう!」
「さっさと討伐クエストを寄越せ!」
「はっは!お前さんも言うねえ~。
だったら、ネコ太郎を連れていってくれ!」
「ネコ太郎?」
「お前さんの狩りをサポートしてくれるオトモアイルーだ!
ま、お前さんの場合は最初っから
随分心配性のオトモアイルーがついとったようだがな!」
「だからボクはオトモアイルーちゃうって!」

ケット・シーの抗議も何のその。
軽くスルーした団長は、びしいっと二人を指さした。

「だが!!お前さん達、その格好はいかん!」

指摘された二人は思わず顔を見合わせた。

「・・・格好?」
「達ってことは・・・
白衣のシャルアはんは兎も角、ボクもか?」
「あったり前だ!
まずは我らがハンター、
その白衣じゃあ、これからのクエストは耐えられんぞ!
ヘビィボウガンなら、ガンナー用の防具を装備しなきゃあならん!
それから、オトモアイルー!!!」
「だからボクはハンターやて!」
「オトモアイルーにはオトモアイルー用の装備がある!!!
今のお前さんの武器・防具は一切使用できん!」

断言されたケット・シーが青ざめる。

「・・・げっ!て、ゆうことは・・・!!!」
「お前さん達新米用の防具一式、俺がマイボックスに用意しておいた!
まずはそれを使え!!!」
「ふむ。成程な」

*   *

マイハウスとはハンターに与えられた休憩所のようなもの。
ここで装備を変えたり、オトモボードでオトモ設定をしたり、
ベッドで寝ることもできる。
隅に置かれたマイボックスを開く。

「・・・これか」

シャルアは早速防具セット、
ブレイブシリーズと呼ばれるヘッド、ベスト、グラブ、ベルト、パンツを身につける。
特に派手な装飾もない、素朴なデザイン。

「ふむ。これがハンター仕様か。悪くない。
・・・で、お前は・・・」

くるっとオトモアイルー設定になったケット・シーを振り返ると

・・・ドングリなアイルーがいた。

いつも小さな王冠を乗せている頭には、黄緑のヘルメット。
胴体には茶色のドングリデザインに蔕らしき腰回りが黄緑色。
持っているランスさえドングリ仕様と
まさにドングリな衣装を纏ったオトモアイルーだった。

シャルアはその姿に目をみはり、そして笑い出す。

「・・・シャルアはん、酷いわあ・・・」
「くくく、いや、似合っているぞ、オトモアイルー」
「だからボクはハンターやゆうとるやろ!!!」

ケット・シーは地団駄まで踏んで悔しがっていた。
シャルアが面白がって傍観していると、
やがて諦めたのか、ケット・シーは項垂れた。
その姿さえ、ドングリな衣装と相まって頗る可愛らしい。

「もうええわ・・・。
やけどな、シャルアはん。もっかい確認するで?」
「何がだ」
「ボクがオトモアイルーでええんやな?」
「当たり前だが」
「・・・ボクは一応本業はハンターやし、
ナナキはんとコンビ組んでうろつくこともあるさかい、いつもいられるわけちゃうで?」

そうか、とシャルアはあっさりと頷く。

「あたしも本職は狂竜ウイルス研究所所長だ。
研究最優先だから、そこはお互い様だな」

そやな、とケット・シーもつられて頷いた。

「それで構わへんゆうなら、しゃあないわ。
ボクが全力でサポートしたるわ!」
「ああ、頼むぞ」

fin.