筆頭ハンター2

戦闘街ドンドルマ。
険しい山間に開かれた、自然の恵み豊かな街。
大型モンスターや古龍の襲撃にあいやすい場所らしく、
これまで何度も街は壊れて逞しく再建されている。
そのため対モンスターを想定した街の設計もさることながら、
観測所による古龍出現予測や防衛研究なども行っている、
モンスター対策の要ともいえる街。

戦闘街という名は、モンスターが襲って来た際の街に由来する。
平和なときにはアイテム屋、武器屋、屋台などが軒を連ね人々で賑わう中央広場は
緊急時には全ての店が撤退し、戦闘前のハンターたちに物資を供給する臨時休憩所となる。
街の人々は全て避難区域に移動し、
モンスターを迎え撃つハンターと彼らを支援する町長たちのみが戦闘地区に残ることになる。
本来であれば、部下に任せて町長が残る必要はないのだが、
町長が率先して残るために追い出せないらしい。
まあ序でに士気が上がるという効果もあるにはあるのだが。

クエスト入口から、ケット・シー達はドンドルマ戦闘地区の中心エリアに転移していた。
まだ古龍は到着していないらしい。
はあーっと息を吐き出したバレットが額の汗をぬぐう。

「・・・毎度毎度、ここに来ると流石に緊張するぜ」
「大抵厄介なモンスターが相手だもんねー」

ユフィが頭の上で腕を組んでくるりと廻ってみせる。
戦闘地区の中心エリアは、開けた石畳の大広間を天高く聳える城壁で四方を囲まれている。
北壁は城門があり、その壁面にはモンスターの動きを止めるための撃龍槍が備え付けられている。
東壁と西壁にはそれぞれ対大型モンスター用のボウガンが、
そして南壁には巨大な大砲・・・巨龍砲がどっしりと据えられている。
つまりモンスターが襲撃すればこの中央エリアに追い込み、四方からモンスターを討伐する構造であった。

「で?巨龍砲の操作は・・・おめえか?リーブ」
『おや。ばれましたか』

シドが南壁を見上げながら問いかければ、右耳に装着しているヘッドフォンからリーブの声が届く。
巨龍砲の近くに姿はないが、ティファが見えない相手に声を張り上げる。

「ちょっとリーブ!流石に今回は危ないんじゃない?どうせ近くにいるんでしょ?」
『ははは。遠隔操作できるので大丈夫ですよ。
それに、巨龍砲は古龍を討伐するほどのエネルギーを一気に放出する大砲ですからね。
設計者が操作するのが一番安全なんですよ』
「もう、頑固なんだから!」
「ふふ、リーブも戦うんだよね?」

エアリスの指摘に、リーブが満足そうに答えた。

『ええ、そういうことです』

はっとその場の全員が背後を、北門を振り返る。
どしん、どしん、と遠くから響く振動が近づいてくる。
リーブが鋭く叫んだ。

『・・・来ます!準備はいいですか?』
「「「おお!!!」」」

*   *

震動が近づいてくるにつれ、元凶の姿が露わになっていく。
最初は黒い山が蠢いているようだった。
それが頭、手足、尾に分かれていることがはっきりしていく。
北門を潜り抜けたのは、人が見上げても追いつかないくらいの高さ。
躯を覆うように黒い液体が滑り、頭部からべちょりと重たげに落ちていく。
背中には何か細い槍のような棒が絡みついていた。
天高く聳える城壁をも凌ぐ巨体。
ひとたび歩みを進めれば、一帯が大地震に見舞われる、
まさに天災に相応しい古龍。

・・・巨戟龍《ゴグマジオス》。

それがこちらに気づいた。
太陽さえも覆い隠す影がハンターたちを見下ろし、咆哮する。
凶悪な口から発生する強烈な音波がハンターたちを襲った。

「ぐっ・・・!!!」
「頭が割れそうよ・・・!」
「なんちゅー声や・・・!」

ケット・シーたちが耳を塞ぐ。
それと同時にリーブが叫ぶ。

『閉門!!!』
『了解!!!』

レギオンが短く応え、北門がゆっくりと閉ざされていく。
これでゴグマジオスはこのエリアに閉じ込められたことになる。
・・・ハンターたちが、それを留めていられるうちは、だが。

ケット・シーがねこ?ぱんちを掲げた。

「戦闘開始や!!!
ボク、ナナキはん、クラウドはん、ティファはん、シドはんは近距離攻撃が得意やから、下から攻撃!
ユフィはんは東壁、ヴィンセントはんは北壁、バレットはんは西壁から遠距離で上から攻撃!
エアリスはんは北壁、いっちゃん離れて回復と援護で頼むで!!」
「よっしゃ!」
「ええ、任せて!」

ゴグマジオスが巨体を揺らしながら、東へと進んでいく。
東壁の縁にゴグマジオスの恐ろしく大きい爪が食い込む。
壁の上にぬうと現れた漆黒の頭部に、弓を構えていたユフィが絶叫した。

「・・・し、震撃の古龍だーーー!!!!」

ゴグマジオスがかっと口を開く。
同時に吐き出された黒い液体を、ユフィはひらりと一回転を華麗に決め、避ける。

「あたしらこいつに食われるーーー!!!
それか、拷問という名の恋バナを延々と聞かされるんだーー!!!」
「ちょっとユフィ、元ネタを2捻りじゃ誰も分からないじゃない!」

広間の中央で、憤慨したティファがハンマーを力いっぱい打ち据える。
足を狙った攻撃にも、古龍はびくともしない。

「あ、でも古龍の恋バナって興味あるかも」

北壁にて狩猟笛を一定の法則で振り回しつつ、エアリスがうーんと考え込む。

「エアリスはん、相変わらず天然やな・・・」

ケット・シーは迫ってきた長い尻尾を飛び退きつつ、ねこ?ぱんちを繰り出す。
シドはジャンプ力を生かして背中を狙う。

「ま、余裕があっていいんじゃねーか?」
「余裕なのかなあ・・・?」

ナナキは胸部をめがけて跳びかかるが、ゴグマジオスの腕に阻まれる。
壁の上にいるヴィンセント、バレットのボウガンコンビも遠距離攻撃を加えているが、
一向にゴグマジオスに変化はない。
足元からその巨体を見上げて、長期戦の予感にケット・シーは内心ため息をつく。

・・・ユフィはんのゆうとったみたいに、まるで巨人に挑む小人の気分やな。
まあ、恋バナはないやろけど。

悠然と振り返ったゴグマジオスは、地面を揺らしながら西へと進んでいく。

「げっ。こっち来やがった!」

視線の先にいたバレットが、慌てて構えていた武器を背中に担ぐ。
ヘヴィボウガン使いのバレットは、その武器の特性上、武器を構えていた状態では走れない。
通常のモンスターであれば構えたまま左右に回避すればいいのだが、
ゴグマジオス相手では逃げ切れるとは思えない。

「バレット!」

ゴグマジオスが西壁にある全てをなぎ倒すように巨大な腕を振るう。
どたどたと逃げまどうバレットが退路を塞がれ、仕方なく壁から広場へと飛び降りる。
が。

「まだこっちみてやがる!!!」
「しつこいやっちゃなー」

降りてきた(落ちてきた?)バレットと近くにいたケット・シーが見上げれば、
ゴグマジオスは正面からバレットを睨みつけていた。
が、不気味に動かない。

「・・・?何だ?」

バレットが首を捻る。
さっきまで大袈裟なくらい巨体を生かして攻撃していた相手が止まっている。

「・・・バレットはん!」

ケット・シーがバレットを引っ張る。
何故ならば、動いていないと思っていた真っ黒な上半身が
次第にバレット達に迫ってくることに気づいたからだ。
それも、加速度的に。

「これはっ・・・!」
「押し潰すつもりかよ!!!」

二人は左右に飛び退く。
間一髪で倒れ込んできたゴグマジオスに巻き込まれずに済んだらしい。
最後、地面に突っ込む勢いで避けたバレットがぜえぜえと荒い息で尻餅をつく。

「あっ・・・ぶねえーーー!!!!!」
「ちょ、バレットはん、座ってる場合ちゃうで!」
「そうよ、またこっちに来るわ!」

反対側からケット・シーが、
そしてバレットの後ろからは、ゴグマジオスの足を攻撃しているティファがバレットを急かす。

「し、しつこいにもほどがあるぞ!!!」

ばたばたと逃げるバレットに飽きたのか、ゴグマジオスは北壁に近寄っていく。
四方を囲む壁の中でも最も高い北壁。
その高さをも超えるゴグマジオスの頭部がハンターたちを見据える。
正対したヴィンセントが僅かに眉を寄せた。
ライトボウガンのヴィンセントならば、武器を構えたまま逃げることは可能である。
だが、彼が懸念したのは、北壁にいるもう一人の仲間の存在。

「エアリス、西壁に行け」
「う、うん!」

攻撃よりも防御、補助そして回復に長けたエアリスに指示を出す。
彼女が急いで移動するのを横目で確認し、
ヴィンセントはぎりぎりまで攻撃を続けるため、距離を測りつつ通常弾を連射する。
ゴグマジオスの口が再び開かれていく。
そこへ、通信が入った。

『ヴィンセント!撃龍槍が発動可能です!』

ヴィンセントの口元が僅かに上がった。

近づいてくるゴグマジオスと壁の距離を、ヴィンセントは冷静に測る。
奴が口から液体を吐き出すよりも、壁に最も近づくほうが早そうだ。
つまり、奴は最も距離を詰めてから攻撃を仕掛けるタイプのモンスターらしい。

ゴグマジオスが迫ってくる。
奴が息を吸い込めばひと呑みにされそうなくらいの距離になって、漸くヴィンセントは動いた。
ライトボウガンを仕舞い、北壁に設置されたスイッチをピッケルで力いっぱい叩く。

カーンと甲高い金属音が響いた。
同時に発動した撃龍槍に貫かれ、ゴグマジオスが躰を大きく仰け反らせて、哭く。

「ナイス、ヴィンセント!」
「さっすがヴィンちゃん!」

遠距離攻撃仲間のバレット、ユフィが北壁を見上げた。
ゴグマジオスは強烈な一撃を喰らい、一歩、二歩後退し、咆哮して広間に倒れた。
ケット・シーが素早くねこ?ぱんちで跳びかかる。

「ダウンや!皆、今のうちに攻撃や!!!」

ケット・シーの合図で、近距離攻撃の5人が一斉に跳びかかる。

「この野郎、ようやっとダウンかよ!って危ねえな、ティファ!」

ドリルランスを放電させながら突進していたシドは
同じく攻撃のため、ボルトマルクを振り回すティファの攻撃に巻き込まれそうになった。

「もう!シド、跳べるならもっと上を攻撃してよ!」
「それにしても、硬いねー」
「そやなー」

ナナキが噛みついた背中は、鉄でも纏っているのかと思うくらいの硬度だった。
ケット・シーも何度も尻尾を斬りつけてはいるが、浅い。
だが、一人だけ首を傾げる者がいた。

「・・・そうか?」

太刀を振るい、肩を攻撃していたクラウドである。

「クラウド。おめえ、ちょっと自分が力強ええからって、鈍くねえか?」

ティファに追い払われ、腕を狙ってジャンプしているシドがからかう。
クラウドは無表情のまま太刀を振り下ろす。

「いつもと変わらないが・・・」
「鈍!!!」

一方、西壁に避難し狩猟笛を振り回していたエアリスが顔を綻ばせる。
やっと奏でたい旋律が貯まったのだ。

「えーい!『精霊王の加護』!!!」

広間に集まっている全ての仲間達の身体が光に包まれる。
追加効果『精霊王の加護』は、50%の確率で受けたダメージの30%を減少させる効果である。

「エアリス!」
「ありがとう!!!」
「よっしゃ、これでガンガン攻撃できるぜ!!!」

喜びもつかの間。
ゴグマジオスがむっくりと起き上る。
ハンターたちは慌てて飛びのくが、ゴグマジオスが凄まじい音波を放つ。

「ぐっ・・・!!!またかよ・・・!!!」

彼らが耳を塞ぎ、身動きできないうちにゴグマジオスは躰をぐるりと回転させた。
ゴグマジオスのもつ鋼鉄の尻尾が勢いよく振り回される。
反射神経の鋭いシド、クラウド、ナナキが辛くも逃れるが、
近寄っていた残りのハンター、ケット・シーとティファが次々と吹き飛ばされる。

「ぐわっ・・・!!!」
「きゃあああ!!!!」
「ティファ!!!」
「ケット・シー!!!」

仲間たちの呼びかけに、二人が何とか立ち上がる。
多少ふらついてはいるが。

「け、結構きいたで・・・」
「エアリスの『精霊王の加護』がなかったら、危なかったわ・・・」

ダウンから復活したゴグマジオスが、再び地面を揺らしながら足元のハンターたちを追う。
尻尾を振るい、上半身で押し潰そうとするのを、ケット・シーたちは必死になって避けていく。
北壁からヴィンセントはゴグマジオスの背中を狙うが、距離が遠すぎる。
ふう、とスコープを外すと、足元に視線を移す。
前回の戦闘街クエストでは設置されていなかったレールが敷かれていた。
どうやら東、西両壁にも続いているらしい。

「・・・リーブ。このレールは救援物資の運搬用か?」
『まあ、似たようなものですね。・・・今回は使用しないつもりですが』
「そうか」

ヴィンセントは再び戦場を見下ろす。
足元のハンター達へ思うように攻撃できない苛立ちからか、ゴグマジオスは急に東壁に狙いを変えたらしい。
弓を放っていたユフィは心底うんざりしたように叫ぶ。

「また来たー!!!」

東壁に接近してきたゴグマジオスへユフィはそれでも不敵に笑う。
弓を構えるのは、先程の攻撃を身軽に避けられた経験からだ。

「ふん、今度はすぐに反撃してやるんだから!!!」

ゴグマジオスの胸部が、今度は赤く、赤く灼熱に光り出す。
訝しく思いつつも、ユフィはゴグマジオスの攻撃を待つ。
その直後に大量の弓を降らせるために。
だが、その前にケット・シーが叫んだ。

「ユフィはん、はよ隣のエリアに逃げるんや!!!」
「え!?う、うん」

ケット・シーの剣幕の押され、
ユフィは持ち前の素早さで瞬時に跳び上がり、隣のエリアに移る。
その直後。

ゴグマジオスが真っ赤な液体を大量に吐き出す。
それは東壁をマグマとなって流れ、埋め尽くす。

次の瞬間。

東壁全域が轟音とともに大爆発を起こし、一瞬で炎の壁と化す。
視界を埋め尽くさんとばかりに赤々と燃え上がる炎に
西壁に戻ったバレットが呻いた。

「げっ!まじかよ・・・」
「嘘・・・」
「喰らったら一撃でアウトだな」

バレットに続き、ティファが顔を青ざめ、クラウドが冷静に纏めた。

『ちょっとー!!!あたしにも分かるように解説してよー!!!
って、そろそろ戻っていい?』
「あかん!!!まだや、死んでまうで!!」
『嘘、そこまでやばいの!?』

慌てだしたユフィへ、一部始終を見ていたヴィンセントが説明を加えた。

「・・・お前がいた東壁全域が業火に包まれている
・・・といえば分かるか?」
『やばすぎじゃんか!!!』

ぎゃー!!!と悲鳴を上げるユフィを放って
ヴィンセントはケット・シーを呼ぶ。

「・・・よく分かったな」
「リーブはんが、火薬泥棒の犯人かも、ゆうてたしなあ・・・。
でもまさかこんな広範囲の爆発になるなんて・・・。
ユフィはんやなかったら、死んでたんちゃうか・・・」

ゴグマジオスの吐き出す灼熱のマグマは、どうやら相当やばいらしい。
東壁の業火は収まったが、ハンター達には衝撃的だった。
しかも、彼らの反応に気を良くしたのか、続き北壁、西壁、そして広場まで
ゴグマジオスはマグマでの攻撃を連続させ、ハンター達は全力で逃げ回っていた。

勿論、ずっと逃げているわけではない。
西壁にいたバレットがまたしても狙われ、
彼が全力で逃げている間、反対側となる東壁に戻ったユフィは弓を放っていた、のだが。

確かに背中を狙った筈の弓矢が、どうも深くは刺さっていない。
これまでも大量の矢を放っているにも関わらず、状況は変わっていない。

「ケットー!!!あいつ、攻撃あんまし効いてなさそうー!!!」
「・・・ユフィの言うとおりだ。私たちの攻撃が効いていない」
「くっそ、俺たち逃げ回るしかねえのかよ!!」
「こいつ硬ってえからなあ・・・」

遠距離攻撃を担う3人と、ジャンプ攻撃を続けていたシドが口々に厄介な状況を嘆いていたが、
ずっと近距離攻撃を続けていたティファは不思議そうに首を傾げた。

「えっ?私普通に当たってそうだけど・・・」
「「「えええ!?」」」

ティファと同じく広場で戦っていたケット・シーは、ティファに駆け寄った。

「ほ、ほんまか、ティファはん!」
「う、うん。手応えがあるから・・・」

ティファがボルトマルクというハンマーでずっと攻撃していたのは、ゴグマジオスの足。
それに対して、ケット・シーが主に攻撃していたのは尻尾だった。
しかし、ケット・シーはさほど手ごたえを感じなかった。
分厚い鎧の上から攻撃しているようで、ユフィたちと同じくあまり効いているとは思えない。

「効くところと効かんとこがあるとしたら、・・・
ユフィはん、バレットはん、ヴィンセントはん!」
「何ー?」
「何だよ」
「・・・何か、思いついたのか」

ケット・シーはじっとゴグマジオスを凝視する。

「・・・ちょっと確かめたいことがあるんや。ボクの合図で一斉に攻撃してくれへんか?」