筆頭ハンター3

「おっけー!」
「やろうぜ!」
「・・・わかった」

ゴグマジオスは、敵の不穏な動きを感じ取ったのか、広場にいるハンター達をなぎ倒そうと腕を振るう。
ケット・シーは攻撃を避けつつ指示を飛ばした。

「ユフィはんは背中」
「了解!」
「バレットはんは頭」
「おう」
「ヴィンセントはんは腕」
「ああ」

ケット・シーはゴグマジオスの様子を伺う。
ゴグマジオスは北に背を向けたまま、上半身を起こしていた。
灼熱のマグマを放つ直前、またしてもその胸が赤く輝きだす。

「ほな、カウントするで。
3,2,1,・・・今や!」

カッと広場に向けて放たれたマグマから必死に逃れつつ、ケット・シーが合図を送る。
同時に3方向からゴグマジオスへと攻撃が開始される。
多少煩わし気なモンスターを横目に、ケット・シーが素早く尋ねる。

「・・・どうや!?」
「あたし、手応えなしー」
「俺もだ。吸収されちまったみたいでよ」
「・・・当たった、な」

がっかりしているユフィとバレットとは別に、ヴィンセントがぽつりと報告する。

「ヴィンセント!」
「やっぱりか・・・」
「どういうこと、ケット・シー?」

ゴグマジオスが北壁のヴィンセントへと迫る。
どうやら一番不快にさせた相手だったらしい。
吐き出された黒い液体を素早く避けつつ、ヴィンセントは西壁へと避難する。
その動向を見極めつつ、ケット・シーが答えた。

「・・・あのモンスターの表面、ところどころ液体で濡れとるやろ?
あれが油やとしたら・・・油が固まっているところは多分攻撃利かへん範囲やと思う。
液体が噴き出るところはちょっと効く。一番効くのは」
「あ!そっか、ティファが攻撃していた後ろ足も、
ヴィンちゃんが攻撃した腕も・・・」
「・・・固体も液体もない、皮膚がむき出しということか」
「そや。それを基準にしたら、当たると思うで!」
「よっしゃあ!」
「でかしたぜ、ケット!!!」
「そない誉められたら照れるで。
ともあれ、これからやでみんな!」
「「「おう!!!」」」

仲間たちに少し討伐できそうな気力が戻ったことに安堵し、
ケット・シーはにやりと笑う。
しかしすぐに顔を顰める。

「そうゆうても、これだけ攻撃出来る範囲が限定されるときっついな・・・。
リーブはん、今効かんとこにも攻撃出来そうな、ボウガン以外に強力な武器とか攻撃手段あらへんか?」

モニタで状況を把握している相手から、瞬時に答えが返ってきた。

『そう、ですね・・・。
分かりました。ケット・シー、至急南壁の巨龍砲の元へ来てください』
「ん?準備まだなんやろ?」
『ええ、だからこそ、です』
「はあ?」

*   *

その人影を、人一倍気配に敏感な二人が気づいた。

「・・・あれは・・・!?」
「えええ!?なんで!?」

南壁に設置されている巨龍砲。
その傍に、この場にいない筈の人物がしゃがみこんでいた。
遅れてその人物に気付いた仲間たちが騒ぎ出す。

「リーブ!?ちょっと、どうしてこのエリアに来てるの!?」
「すぐ戻って!!!」
「危ないよ、リーブ!」

南壁にて、リーブは巨龍砲の下で作業しながら簡潔に答えた。

「大丈夫です。すぐ戻りますから」

程なく、よいしょ、とリーブが立ち上がる。
リーブの作業が終わるのを待っていたケット・シーが歩み寄る。

「で。どないしたんや」
「ええ。巨龍砲とエネルギーパイプの連結を一時的に外しました。
砲台の左右に、レバーがあるのが分かりますね?」
「あるけど。なんや?」
「右に進みたいときは右のレバーを。
左に進みたいときは左のレバーを押してください。
それで、この砲台ごと移動できます。
・・・足下のレールは南壁から西、北、南、全ての城壁の上に続いています。
ゴグマジオスに対して有効な場所から砲撃して下さい」
「ちょ、ちょっと待ってえや!
これ巨龍砲ちゃうんか!?まだエネルギーたまってへんのやろ!?」

話がつながらないケット・シーへ、リーブは冷静に説明を加えた。

「巨龍砲として使うときは、この南壁に砲台を戻してください。
それ以外の場所では、可動式の大砲として使用できます」
「つまり・・・。
エネルギーたまるまで、こいつを普通の大砲として使えっちゅーことか」
「はい。各壁には砲弾を補充してあります。
エネルギーが貯まれば私が指示しますので、砲台を南壁に戻してください。
再度エネルギーパイプを連結させ、巨龍砲としますので」

*   *

「よっしゃ、大砲ゲットしてきたで!!!」

砲台ごとケット・シーはレールを伝い南壁から移動していく。

「ぜえ、でかした、ケット・シー!!!」
「ねえ、リーブは?」
『ちゃんと戻りましたよ』
「もう、おっちゃん吃驚させないでよ!」

広場が轟音と共に赤い炎に包まれた。
炎から逃れたハンターを無視し、ゴグマジオスがゆっくりと西壁へ振り返る。
槍を収め、西壁に設置されているボウガンで攻撃していたシドがちっと舌打ちをした。

「ハンターでもないやつがこっちにくるなってんだ」
『ハンターではありませんが、支援くらいは出来ますよ』

ゴグマジオスが西壁にいる全てのハンターをなぎ倒さんと腕を振るう。

「また、こっちかよ!」
「はあ、はあ、さ、流石に疲れるね・・・」
「さっさと降りるぞ」

シド、エアリス、ヴィンセントの3人が多少うんざりしたように西壁から飛び降りる。
息が切れているのは何もエアリスだけではない。
彼らだけでなく、残りのハンター達も疲労の色が濃くなってきた。
東壁にいるユフィも肩で息をしている。

「こいつ、しっつこいよ、ねえ、・・・はあ」
「動きが鈍くなっては来た気は、するけど・・・」
「はあ、はあ、・・・ナナキ、それ本当?」
「多分・・・」
「ぜえ、ぜえ、おい、多分かよ!!!」

疲労のため、西壁に戻ることを諦めたバレットも息が荒い。
それもその筈、ゴグマジオスの攻撃は戦闘開始から間髪入れず、
広範囲で一撃必殺に近い攻撃ばかり。
一度狙われると待ったなしで回避に全力を注ぐことになるのだ。
体力はエアリスが回復を担ってくれていたが、それでもスタミナの消費が激しい。

そんな彼らに、リーブが提案する。

『そろそろ補給ですね。お二人ずつ取りに来てください』

リーブの提案に、いの一番にユフィが飛びついた。

「やったー!!あたし、一番手でいい!?」

西壁に砲台ごと到着したケット・シーは、
ふむ、と砲弾を運びながら考え込む。

「遠距離攻撃のユフィはんがいくんやったら、
近距離攻撃のペアがええな。
・・・ティファはん、どうや?」
「え?いいの?」

呼ばれたティファは、広場で答えつつ黒い液体を避けた。
追い打ちをかけようとするゴグマジオスの腕を後方に跳んで逃れる。

「ユフィはんだけやったら、全部取ってきてまうやろー」

砲弾を大砲に仕込みつつ、ケット・シーがにやりと笑う。
途端に慌てだすユフィ。

「ちょ!酷いよケット、そこまでしないってば!!!」
「『そこまで』ってことは、
・・・おめえ、何処までなら独り占めする気だあ?」
「うぐっ!」

東壁の縄梯子を上るシドが、疑わし気にユフィを見上げる。
ユフィの視線が明後日の方向に思いっきり逸れた。
ヴィンセントは北壁にから二人を見下ろして重々しく告げる。

「・・・監視が必要だな」
「ヴィンちゃんまで!?」
「そないなわけで、ティファはん、よろしゅうー」
「ふふ。了解!」

*   *

ユフィとティファの二人が隣接する補給エリアに移動する。
ここは平穏なときは、中央広場として使われている場所であるが
今は篝火や供給用ボックス、簡易テントなどの置かれた臨時休憩所となっている。

「えー!!!ちょっと、携帯食料しかないのー!?」

供給用ボックスを漁っていたユフィは、不満そうに後ろを振り返った。
携帯食料しか入っていなかったわけではなく、ユフィの目当てのアイテムがなかったのだ。
二人を出迎えたリーブが苦笑する。

「すみません、ユフィさん。
ですが、スタミナが回復できるのは確かでしょう?」
「そうだけどさー。不味いんだよね。これ・・・。
あー。ティファのこんがり肉食べたーい!!!」

じたばたじたばた。
全身で悔しさを表現するユフィに、ティファは困ったように笑った。

「ありがと、ユフィ。
でもごめんなさい、今手持ちの分はないの・・・」
「残念すぎるしー!!!
ねえリーブ。今肉剥ぎに行っちゃ駄目?」

こんがり肉は、生肉と肉焼きセットという道具があれば生み出すことが可能である。
肉焼きセットは肌身離さず持っているし、ここには名コックのティファもいる。
あとは、材料である生肉だけだが。

「うーん。ちょっと、無理そうですねえ」

リーブが宥めるように答えれば、
ヴィンセントの絶対零度の声が突き刺さった。

『ユフィ。さっさと戻れ』
「ちょ、酷ー!!!」

*   *

ティファたちが補給している頃、
クラウドは広場でゴグマジオスの後ろから広範囲に太刀を振るっていた。
と、いうのもティファがいるときはハンマーに巻き込まれないように・・・、
もとい、彼女を含めた仲間達の邪魔にならないように攻撃範囲を狭めていたのだ。

しかし戦闘が進むにつれ、
ティファは補給エリアへ行き、ケット・シーも大砲を撃つため西壁へ、
シドも西壁あるいは東壁で対モンスター用の大型ボウガンを操作するため壁の上に移動した。
今現在広場から近距離攻撃を加えているのは、クラウド、ナナキの2人しかいない。
因みに同じく広場にいるバレットは、ヘヴィボウガンを構える隙がなく、ただ只管逃げ回っていたりする。
そんなわけで、実質的な近距離攻撃は二人で、ナナキが前をクラウドが後ろと完全に範囲を分けていた。

クラウドは連続して尻尾に太刀で斬りつけ、練気ゲージをためていく。
気合一閃、気刃斬り3連続+回転斬りを命中させ、次第にクラウドの攻撃力が上がっていく。
尻尾ばかり狙われたゴグマジオスが、耐え切れなくなったように大きく吼えた後に尻尾を振り回す。
クラウドの見事な攻撃に、ナナキが素直に賞賛した。

「クラウド凄いね!」
「いや・・・」

照れたのか無関心なのか。
短く応じたクラウドは、ふと仲間を呼ぶ。

「・・・なあケット・シー」
「どないしたん、クラウドはん」
「・・・攻撃した箇所が柔らかくなってそうなんだが・・・」
「「「えええ!???」」」
「ちょ、クラウドはん、いつからや!?」
「・・・正確には分からない。
だが、・・・そうだな、ヴィンセントが撃龍槍を使った後、くらいか・・・?」
『・・・え!?でも、私ずっと足を攻撃していたけど、全然柔らかくはならなかったわ!』

補給中のティファからの報告を受け、ケット・シーがむむ、と考え込む。

「部位の問題もあるかもしれんけど、もっと別の・・・」

ふとクラウドを見下ろす。
その太刀は、属性解放されているため、ゆらりと揺らめいて見えた。

「・・・まさか!」
「・・・油が溶けた、ということか」
「そや、ヴィンセントはんのゆうとおりや・・・」
「ちょっとーー!!!
二人で納得してないで説明してよーーー!!!!」

補給エリアから戻ってきた二人のうち、ユフィが東壁で叫ぶ。
ティファはさっと広場に飛び降りた。

「つまり、武器属性や!」
「「ああああああ!!!」」
『んん?属性がどうかしたか?』

ユフィ、ティファが戻ったため、補給2番手のバレットが補給エリアに引っ込みつつ割り込んだ。
同じく補給エリアに移動中のエアリスが呆れたように声を上げる。

『もう、バレット!』
「クラウドはんの武器は、太刀『大長老の脇差』。
その武器属性は・・・炎や!!!
つまり、クラウドはんの太刀やと
ゴグマジオスの皮膚を覆っとる油を溶かして攻撃が可能なんや!」

先程の配置に戻ったティファが困ったように自分のハンマーを構えた。

「じゃあ、水属性である私のボルトマルクは不利かしら・・・」
「足は油で覆われてへんから、大丈夫やと思う。
やけど、他に炎属性の攻撃が出来るんは・・・」

ケット・シーの問いかけに、仲間たちが自己申告する。

「俺様のドリルランスは雷だぜ」
『私、マギアチャームは氷属性みたい・・・』
「あたしの弓、無属性だから無理」
『んがあああ!!俺のヘヴィボウガンも無属性だ!』
「バレット!ボウガンは元々無属性じゃない。属性弾は使えないの?」
『ん?氷結弾ならいけるぞ』
「駄目じゃん!」
「ボクのねこ?ぱんちは無属性や・・・」
「おいら、元々武器なんてないよ」

残念そうな仲間達とは別に、ライトボウガンの使い手が締め括る。

「・・・私のアームキャノンは火炎弾が使えそうだ」
「それや!!!」

*   *

残りのメンバーが交代で補給を終えたころを見計らい、ケット・シーが指示を飛ばす。

「みんな揃たな?
クラウドはん、ヴィンセントはんは火属性で硬そうな尻尾と背中を集中攻撃!
残りのメンバーは油のない箇所か、砲弾またはボウガンで同じく尻尾か背中を攻撃!
これで大ダメージを与えられる筈や!!!」
「「「了解!!!」」」

各自がゴグマジオスに最もダメージを与えられる攻撃へと移行する。
ティファとバレットは足を狙い、クラウドが尻尾に太刀を集中させ、ナナキが同じ場所に噛みつく。
ヴィンセントは火炎弾で背中を狙い、シドが火炎弾の命中した箇所を狙ってボウガンを発射する。
ユフィは尻尾または背中のどちらか近い方を狙う。
ケット・シーは大砲を西、北、東壁の3方に移動し、背中に集中して砲火を浴びせる。
その間もゴグマジオスの容赦ない攻撃がハンター達を襲う。
マグマやなぎ倒し、上半身の倒れ込みなどを掻い潜り、必死にダメージを与えていく。
それでもゴグマジオスの広範囲の攻撃に、少しずつ体力とスタミナを削られていく。
苛立ったシドがボウガンを連射しながら、リーブに鋭く尋ねた。

「リーブ!巨龍砲のエネルギーは今何パーセントくらいなんだ!?」
『80・・・いえ、85%です!』
「時間にすると、満タンになるのはあとどんくらいだ!?」
『あと15分です!』
「ちっ・・・15分か・・・!」
「属性攻撃強化、体力回復【小】!!!」
「エアリス!」
「助かるぜ!!!」
「みんな、気を付けて・・・!!!」

エアリスはマギアチャームで回復、補助を受け持つ。
北壁にいるエアリスからは、仲間たちが必死になって攻撃しているのが見える。
戦闘開始時よりはゴグマジオスの身体に傷は増えてきたが、それでも攻撃のスピードが速くなっている気がする。
対する仲間たちはサポートしているとはいえ、疲労で動きが鈍りつつある。
ぎゅっとマギアチャームを握りしめた。

そんなエアリスの動きに気付いたのか。
ゴグマジオスが広場から北壁に振り返る。
ちっと苦々し気に舌打ちしたシドは、ふと北壁の設備を思い出す。

「リーブ!!さっきのでっけぇ槍、もいっぺん使えねえか!?」
『撃龍槍はまだ使えません!あと・・・30秒!』
「意外と長いな・・・」

ゴグマジオスが迫るのをみて、エアリスとヴィンセントの両名が急いで北壁を離れる。
降り立った東壁で、エアリスはマギアチャームを鳴らす。

「回復速度【小】!」
「ありがとう!エアリス」
『撃龍槍の準備がもうできます!あと5秒!北壁に引き付けて下さい!』
「よっしゃ!任しとき!」
「アタシもやるよ!」

ケット・シーとユフィの息の合ったコンビがゴグマジオスに撃龍槍を食らわせ、
ダウンしたゴグマジオスへとこれまで以上にダメージを与える。
だが、それでも起き上ったゴグマジオスの激怒攻撃の凄まじさに、次第にハンター達が押され始める。
マグマ攻撃を避けたつもりが掠ってしまったナナキの、その肩の毛並みが赤く腫れあがる。

「ナナキ!」
「だ、大丈夫・・・!」
「砥石を使う暇が無い・・・」
「お腹すいた・・・スタミナ無いよ~」

クラウドは太刀の切れ味が鈍っていることに気付き、
東壁をなぎ倒さんと振るわれた腕を避けて、へたり込んだユフィが嘆く。
口には出さないが、他のメンバーの息も荒い。

モニターから仲間の様子を確認し、リーブは顔を曇らせた。

『皆さん限界が近いですね・・・』
『私が出ましょう』

気球から戦況を見守っていたシェルクが、身軽に飛び降りた。
降りた先は、戦闘真っ只中の広場だった。

『シェルクさん!!』