筆頭ハンター4

空から現れた強力な助っ人。
シェルクは普段王立書士隊としてクエスト中のハンター達の支援をしているが、元はハンターである。
広間の中央、ゴグマジオスの真正面に凛々しく立つ少女に、東壁の砲台の上にいたケット・シーが尋ねた。

「シェルクはん。大丈夫でっか?確か最近は研究が忙しゅうて現場にはあんまり・・・」
「私とて双剣使いです。あなたにだって引けはとりませんよ。姉さんの作った鬼人薬グレートも、まだありますので」
「なんや、頼もしいな~。ほな、クラウドはん達と同じく、背中の方任せてええですか?」
「・・・乱舞は周囲全部が危険です。離れてください」
「そ、そうでしたな・・・。まあ、クラウドはん達やし、その辺は上手く避けるやろ」
「あ、ああ・・・」
「うん、おいら達なら大丈夫!」
「では、参ります」

静かに宣言したシェルクが、双剣を構える。
彼女の双剣は、天の羽衣のようは美しさをもつ翡翠の翼膜で創られたもの。
舞うように繰り出される剣技に、ケット・シーがほう、と感嘆のため息をつく。

「さっすがシェルクはん。腕鈍ってなさそうやなー」
「シェルクにばっかり任せてないで、私たちも頑張らなきゃ!」
「だな!!!」
「あたしらも根性見せなきゃ!!!」

背中側で華麗に舞うシェルクに触発されたのか、
多少疲れ気味だったティファも正面側からハンマーを回転させる。
美女たちの広範囲に及ぶ攻撃に、
クラウドおよびナナキの二人は邪魔にならないよう一点集中で攻撃を加える。
近距離攻撃の彼らに倣って、遠距離攻撃をしていた残りのメンバーも気力を振り絞り
ゴグマジオスにダメージを与えていく。

その気力も尽きるかと思われたその時。

『・・・お待たせしました!!巨龍砲、エネルギー充填完了です!』

待ちに待った知らせに、ハンター達の歓喜の声が重なった。

「「「よっっしゃあああ!!!!」」」
『ケット・シー!砲台を南壁へ!急いでエネルギーパイプと連結させます!!』
「了解や!!!」

ケット・シーが砲台と共に南壁に到着するや否や、
待ち構えていたリーブがその下に潜り込んで、叫んだ。

「ケット・シーは皆さんのところに戻って
ゴグマジオスを引き付けてください!」
「何処に引き付けたらええんや!?」
「広場中央にお願いします!」
「よっしゃ!はよう頼むで!」

振り返ることなく、ケット・シーは南壁から飛び降りる。
巨体を揺らし、暴れているゴグマジオスの背後から尻尾に鋭く切りかかった。
同じく背中側で乱舞を展開していたシェルクが振り返る。

「ケット・シー!」
「巨龍砲は!?」
「リーブはんが今調整しとる!あともう少しの辛抱や!」
「はい!」

ゴグマジオスがぐるりと巨体を回転させ、尻尾による広範囲の攻撃でティファがなぎ倒される。
駆け寄ったクラウドが、追撃しようとする尻尾からティファを庇う。
二人から興味を失ったように、今度は西壁に向けて灼熱のマグマを放つ。
何とか西壁に戻っていたバレットがぜえぜえと疲労困憊気味に走りつつ、
またしても広場に飛び降りて尻餅をつく。
咄嗟に割り込んだナナキが巨大な腕に噛みつくが、振り払われた。
仲間たちの悲鳴と苦痛を堪える声が次第に増えていく。

「・・・きつい、わね・・・」
「ま、まだか、よ・・・!」

それでも皆がゴグマジオスへの戦意を失わず攻撃を続けていたが、
息の荒い者たちを嘲笑うように、ゴグマジオスが急に向きを変えた。
ハンター達のいる3方向ではなく、
・・・南へと。

「えっ!?」
「ちょ、ちょっと!」

モンスターは基本的に敵がいるところに向かう。
つまり、南壁にもゴグマジオスが敵だと見做したものが存在する、ということは。

「「「リーブ!?」」」

全員がはっと南壁を見る。
3方向の壁よりも離れている南壁は、砲台に隠れて人影はないように見えた。
しかし。

「ちょっとおっちゃん!?まだこのエリアにいたの!?」
「すぐ逃げて!」

ユフィとエアリスの焦った声に、この場で唯一ハンターでない人物からの声が返ってきた。

「あと・・・もう少しで繋がります!」
「リーブはん!あいつが来てまうで!?」
「エネルギーパイプと連結させなければ、巨龍砲はただの大砲です!
みなさんが稼いでくださった時間、無駄には出来ません!!!」
「この分からず屋!!!」

ケット・シーが叫んでいる間も、仲間たちが引き止めようと攻撃をしているが、
それを全て無視してゴグマジオスは南壁へとゆっくりと進んでいく。
リーブが巨龍砲とエネルギーパイプの連結を終わらせ、砲台の下から出たときには
もう既に、目の前に黒い巨体が立ち塞がっていた。
じろり、とリーブを睨みつける一対の眼。

「っ・・・!」
「「「リーブ!!!」」」

*   *

南壁の足場は狭い。
4方の壁のうち、唯一巨龍砲を設置するためだけに造られた場所だからである。
そう創りだしたのはリーブ自身だ。

この狭い足場ではゴグマジオスの攻撃をどうにも避けられそうもない。
飛び降りようにも、巨龍砲設置のため南壁は他の壁よりも高度があり、
ハンターである彼らの身体能力ならいざ知らず、一般人でしかないリーブでは無事に済むとは思えない。

・・・いずれにせよ、退路はゴグマジオスの巨体で絶たれているんですけどね。

血走った眼で巨大な腕を振り上げるゴグマジオスを見ながら
リーブは冷静に状況を整理した。
そしていずれの選択肢も難しいと結論を下し、せめて生き延びる可能性を上げるために頭を庇う。

・・・まあ、吹き飛ばされたら意味がなさそうですけどね。

巨龍砲とエネルギーパイプは既に調整済みで、後は遠隔操作で発射スイッチを押せばいい。
万が一を考え、支援している部下たちに操作方法は伝えているから
彼らと仲間たちがどうにかしてくれるだろう。

周囲のものをなぎ倒す音が近づき、
襲い来るであろう衝撃に備えて、リーブは目を閉じる。

迫り来るはずのその音は、頭上から割り込んできた気合の籠った声と金属音で途絶えた。

「・・・え?」

モンスターの悲鳴らしき声で、そっと目を開ければ、
目の前に逞しい男性の背中と、彼が掲げる巨大な大剣があった。
彼はリーブを庇ったまま、呆れたようだった。

「・・・だから、護衛がいるっつったでしょーが」
「「「レギオン!!!」」」

何があったのか詳細は分からないが、
恐らく南壁よりも上空から飛び降りてきたレギオンが
ゴグマジオスの腕を大剣で防いだらしい。

「さっさと逃げますよ、町長!」
「え、ええ・・・え?」

ゴグマジオスが南壁を離れた隙に、レギオンはあっさりとリーブを肩に担いで広場へ飛び降りる。
そのまますたこらさっさと戦闘エリアを離れていった。
ゴグマジオスは獲物を逃がしたのを悔しがっているのか・・・
さっさとハンター達のいる中央へ戻ってきた。

「・・・はっやー!!!」
「流石護衛よね!」
「はあー。肝が冷えたぜ、リーブよお」

ユフィ、エアリス、バレットの3人が壁の上から確認し、安堵の息をつく。
ヘッドフォンからリーブ達の会話が続く。

『・・・ありがとうございます、レギオン。助かりました』
『どーいたしまして。
・・・全く。あんたは本っ当ーに町長としての自覚が足りなさすぎです。
大人しく護衛されてください』
『お断りします』
『断るなよ!!』

「リーブのやつ、全然懲りてねーな」
「これが終わったら説教しなきゃね・・・」

二人の相変わらずなやり取りにこっそり笑いを浮かべていた仲間たちは
次のリーブの言葉に表情を引き締めた。

『巨龍砲、カウントダウン開始します!』
「「「おう!!!」」」
「早くしてーー!!!」

北壁に黒い液体と吐き出したゴグマジオスが、広場で尻尾を攻撃していたシェルクへと襲い掛かる。

『3!』

「しつこいですね!」
「シェルク!」

それをひらりと躱した彼女の横から、クラウドがジャンプ気刃攻撃を繰り出す。
合わせてシドがボウガンを発射させ、遠距離攻撃のメンバーも隙を見ては攻撃を繰り返す。

『2!』

「危なかった・・・」
「ちょっと、またあたし!?」
「攻撃の間隔が短くなっているな」
「ヴィンちゃん!暢気にいってないでさっさと倒してよ!」
「倒せるものならとっくにそうしている」
「だああああああ!!!さっさと倒れやがれってんだ!!!」

クラウドを押し潰そうと倒れ込んだゴグマジオスが、立ち上がると遠くから東壁にマグマを放出する。
ユフィが慌てて広間に降り立てば、真正面からゴグマジオスと目が合う。

『1!』

「やばっ!」
「おいら、ばててきた・・・」
「ナナキ、弱気になっちゃ駄目よ!」
「みんな、あとちょっとだから!」

ユフィが更に逃げ出すのを追い込むように、ゴグマジオスが巨大な腕で薙ぎ払う。
巻き込まれそうになったティファやナナキ達が必死に逃げ回る。
エアリスが巻き込まれないように逃げつつ、体力回復の音色を流す。
そして。

『発射!!!』

「「「いけえええええ!!!」」」

仲間の声に応えるように、南壁にある鋼鉄の筒からエネルギーの固まりが飛び出し、
眩しい太陽のような輝きが彗星のようにゴグマジオスに激突する。
爆音が轟くと同時にゴグマジオスが紅蓮の炎に包まれ、苦悶の叫びが迸った。

「・・・すげえ」
「皆の努力の結晶よね」

彼らの目の前で、巨体を焼かれたゴグマジオスはもがく様に躰を揺らす。
苦し気に暴れまわるモンスターに、仲間たちは近づくこともできず見守る。

「巨龍砲って龍属性なの?」
『ええ。今持てる技術では最大の威力の筈です』
「時間稼いだ甲斐があったな!」
「バレット、殆ど逃げ回ってただけじゃん」
「うるせえ!」
「まあまあ」

やがてその動きも徐々に小さくなり、炎が消えるころには巨体が傾いていく。
背中に纏わりついていた棒がぽきりと折れて、広間に突き刺さった。
巨体は広間に倒れ伏し、やがて動かなくなった。

「・・・やった、のか・・・?」
「も、もう走れねえ・・・」
「ちょっと待って!はい、携帯食料!」
「わ、わりい、エアリス・・・」

がっくりと膝をついたバレットがエアリスから携帯食料を受け取る。
その隣では、シドとケット・シーが広間に突き刺さった棒のような物体をまじまじと見上げた。

「なんだ、こりゃあ・・・槍か?」
「もしかしたら、他の町で火薬漁ってた時に刺さったんちゃうか?」
「へえ。今まで刺さってたなら、結構いい槍じゃねえか?随分でけえが・・・」
「ま、終わったんだから後で調べたらいいじゃん!
じゃ、まずは素材の剥ぎ取り剥ぎ取り・・・♪」

ユフィがしめしめと動かないゴグマジオスへと近づく。
モンスター討伐後は、その素材をはぎ取ることで強力な武器や防具を創る材料となる。
クエスト後の行動として至極当然の行動だったのだが。

『待ってください、ユフィさん!』
「な、何?」
『まだ、終わっていません!』
「へ?」

リーブの警告に、仲間たちが一斉に倒れ伏していたゴグマジオスへ振り返る。
黒い巨体が、ゆっくりと動き出していた。
ユフィが慌てて飛びのく。
攻撃すべきなのだろうが、ゴグマジオスの全身から立ち上る嫌なオーラに本能的に回避を選んでいた。
むくりと起き上ったゴグマジオスが、再び遥かなる高みからハンター達を睨みつける。

「た、立ち上がりやがった!!!」
「しかも、な、なーんかやばくない!?」

ゴグマジオスが巨体を震わせて咆哮を上げる。
絶叫に近いそれに、その場にいた者だけでなくリーブ達も耳を塞いでいた。
空気が呼応するように振動する。
パアンとガラスの破裂音が連続して響き、リーブの見ていたモニターが全て砂嵐に変わっていた。

『モニターが・・・全滅です!』
「何だって!?」
『音声は、辛うじて届くのですが・・・!』

焦りを滲ませるリーブに、ケット・シーが叫ぶ。

「リーブはん、絶対に来るんやないで!!」
『ですが!』

何か言いたげなリーブを遮り、ヴィンセントが冷静に畳みかける。

「ケット・シーの言う通りだ。お前は来るな」
『っつ・・・!』
「レギオン、リーブを監視しておけ」
『勿論です!こっちは任せてください!』

敏感なナナキが、ざっと全身の毛を逆立てる。
ゴグマジオスを取り巻く気配が更に濃厚になっていく。
とてつもなく危険な気配へと。

「みんな!気をつけて・・・!」
「あ、あれって・・・!!!」

怒り狂うゴグマジオスからぷすぷすと黒い煙が上がりはじめる。
左右の腕から、膜のようなものがどんどん広がっていく。
次の瞬間。

「げっ!!!!」
「ま、まさかっ!!!」

膜が一対の漆黒の翼となっていた。
ゴグマジオスの巨体が嘘のように浮いていく。
ばさりばさりと羽ばたく姿は、悪魔のようだった。

「「「と、飛んだーーーーー!!!!?」」」

モニターが潰れたため、仲間の叫びにリーブが驚愕の声を上げた。

『何ですって!?ゴグマジオスが飛んだのですか!?』
「うん・・・そうみたい・・・」

リーブの問いに、辛うじてティファが肯定する。
いささか呆然としていたが。

「ま、まじ、かよ・・・!」
「てめえ、卑怯じゃねえか!!!」
『まさか、痕跡もなく火薬が盗まれていたのは・・・
ゴグマジオスが飛行モンスターだったから・・・!?』
「・・・町長の推測が恐らく真実かと思われます」
「シェルク!そんなこと言ってる場合じゃないって!」
『みなさん!早く、壁の上へ!』

ハンター達の頭上を飛び回る巨体が、自在に灼熱のマグマを放出する。
まるで閉じ込められた部屋に大砲が撃ち込まれ続けているような轟音と高熱。
逃げ惑うハンター達の体力とスタミナを容赦なく削っていく。

「こりゃあ、やべえな・・・」

広場から何とか壁の上まで登り切ったシドが、嫌な汗を拭う。
他の壁にも、何とか登り切ったメンバーが荒い息を繰り返している。
自分たちの上を旋回して攻撃していたゴグマジオスが、またしてもくるりと背を向けた。
向かう先は、誰もいない筈の南の方角。
先程と同じ展開に、シドが思わず問い質した。

「おい、リーブ!
てめえ、こっちに来てんじゃねえだろうな!?」
『行ってませんよ!』
「じゃあ、一体なんでまた南へ・・・」

訝し気なシドの耳に、終始回復と補助に回ってくれていた優しい仲間の声が返ってきた。

「・・・ごめん、ね。ちょっと、・・・スタミナ、切れちゃった、みたい」
「「「エアリス!!!」」」