納得いかねえ。
なんであいつは・・・先頭切って戦ってんだ?
「うおおおおおお!!!」
俺は景気付けに叫びながらドラゴンゾンビに突っ込んでいった。
勿論炎属性のマテリアを装備している。
魔こう炉を作るために、村一つを滅ぼす。
反神羅組織を征するために、都市の一部を落とす。
俺たちを監視するために、スパイを送り込み、マリンを人質にする。
どれもこれも極悪非道な神羅らしい行動だ。
俺はその全てを憎んだ。
なのに。
こいつは偶に、俺の知りすぎている筈の「神羅」から
かけ離れた言動をする。
くそっ。
「バレット。睨みつけても状況は変わらないよ」
「冗談じゃねえ!!!」
宿に戻ると、同じ部屋になったレッドⅩⅢがのんびりと訊いてきた。
こいつは俺なんかよりも頭がいい。
あっさりと俺の思考を読み取ったらしい。
「バレット。ケット=神羅と思ってない?」
「はあ?当たり前じゃねえか!!!あいつは神羅の人間だぞ!?
マリンを、俺の娘を人質にしたやつだ!!!」
神羅に関わるものは、全て悪。
それ以外あり得なかった。
「でも、ケットは・・・何処か違うと思うんだ」
「何をいってんだ?まだ騙されてんのか?あいつは!!!」
レッドは反論しようとした俺の言葉をあっさりと遮る。
「さっきバレットが弾切れになったとき、
間髪入れずにファイラを放ったのは・・・ケットだったよ」
「なっ・・・!!!?」
ーバレットはん、あないにバカスカ撃ってたら、すーぐ弾切れしてまうで?
ーうっせえ!!!俺のやり方に指図すんじゃねえ、神羅の狗が!!!
ーボクは犬やなくて、猫でっせ。ま、別に構わへんけどな。弾代かてばかにならへんのちゃいます?
ーぐっ!
「マテリアは誰だって使えるものじゃないんだ」
「はあ?」
「みんな意識してないかもしれないけど、マテリアは古代種がその知識を凝固させたもの。余程の意志がないと、魔法を作動させることは出来ないんだ」
「不思議だったんだ。人間ですら使える人は限られているのに、
無機物の筈のケットが魔法を使えることが」
「・・・」
俺は黙るしかない。
確かに・・・あんなもの、俺ですらやっと扱えるというとてつもない代物だ。
「でもやっと納得したよ。
ケットが魔法を使えるのは、ケットを操る人がいるから。
きっと、その人は、意志の強いひとじゃないかな」
そのまま黙っているのが癪で、俺は叫んだ。
「し、神羅の人間は、支配欲が強いに決まってる!」
「・・・そこまではわからないけど。でも、神羅とケットを分けて考えてもいいと、おいらは思うよ」
「・・・」
「スパイだってばれて、おいらたちが憎んでることも分かってるのに・・・
ケットの態度はばれる前と変わってないよ」
レッドの口調は穏やかなままだ。
こいつはあいつの味方なのかと、つい疑いたくなる。
「単にふてぶてしいだけじゃねえのか」
「ふてぶてしいなら、どうしてケットは戦闘に参加してるの?」
「?」
俺は首を傾げた。
何がいいたいんだ?
「マリンって子を人質にしている。
なら、おいらたちがどう反抗しようと、嫌おうとケットを連れていくしかないんだよ?
だったら、壊れるかもしれない激しい戦闘なんて、参加する必要ないじゃないか」
「・・・」
「自分だけ高見の見物して、終わった頃に堂々と登場する。それくらいしても不思議じゃない筈なんだ」
「だけど、ケットは最初の頃みたいに、誰よりも前線で戦ってる。おいらたちのサポートもしてくれる。
バレットは気付いてないかもしれないけど、きっと銃弾の残量も知ってたんじゃないかな」
「た、偶々だろ!?」
「ううん。ティファが体力つきそうになったときにケアルかけたり、
エアリスが補助魔法の準備してるときにデブモーグリで庇ったりしてたよ」
「・・・」
「だから、バレットもちょっと違う視点でケットを見てみたらどうかな」
「う、うるせえ」
そう、返すのがやっとだった。
あいつは神羅だ。それ以上に何がある?
* *
深い森を掻き分け、沸いて出るようなモンスターに囲まれる。
俺は何故か背中合わせになってしまったデブモーグリと猫ロボットに悪態をついた。
「離れろ、スパイ!」
「今ボクが離れたら、バレットはん背後からぐっさーやられまっせ」
「俺が背後とられたくらいで刺されるか!」
「そうでっか」
俺がどんなに怒鳴り散らそうが、こいつの口調も変わらない。
「じゃあいきまっせ!!」
背後から光が溢れて、3連のスロットが勢いよく回りだす。
玩具の兵隊が飛び出し、構えた銃が一斉に火を噴く。
見た目はふざけているが、威力は侮れない。
・・・もしかして、こいつ自身もそうなのか?
訛のある言葉で本心をはぐらかす。飄々と態度からは、真剣さがまるで感じられない。
まして神羅のスパイだ。こいつのいうことなんて誰も相手にしない・・・筈だった。
「・・・バレットはん、何ぼーっとしてまんねん」
「はっ!!!な、なんだ!?」
「取り敢えず敵は全滅してまっせ?はよ行きましょ」
ぴょんぴょんと跳ねるデブモーグリに乗った占いロボットは、相変わらず何考えてるのか分からない。
しかし。
「・・・おい」
「なんでっか?」
デブモーグリの体ごと振り返ったケット・シーを睨みつける。
「俺は、信用なんてしてねえからな!!!」
思い切り怒鳴る。
ああ、そうだ。俺はこんなやつ絶対に認めないからな。
しかし占いロボットは呆れたように返した。
「・・・バレットはん、暑さで頭やられたんちゃいます?」
「はあ?」
「スパイを信用するやつなんているわけないでっしゃろ?
何改めてゆうてはるんや」
「つっ!!!」
悔しいことだが、こいつの言うとおりだった。
口でこいつに勝てた試しがない。
「て、てめえ、なんで・・・」
自分でも何がいいたいのか分からない。
が、何か一つでも、こいつの飄々とした態度を崩してやりたかった。
不意に先ほどの戦闘で掠めた光景が、そしてレッドとの会話が口を開かせた。
「なんで、無理して戦ってんだ?」
「・・・どういうことでっか?」
「だー!!!もう、腕をみやがれ!!!」
「腕?いつも通りにごっつい銃がついてはるだけやないですか」
「俺のじゃねえよ!!!」
思わず怒鳴り返すのは、相手が神羅だからだ。
じれったいのは・・・多分、気のせいだ。
「ボクの腕?別になんとも、」
ひょいとロボットの腕があがる。
その付け根が破れ、中の駆動部が見えている。
「あー破れたんやな。で、それがどないしました?」
「・・・お前え、その反応はねえだろ・・・」
俺はがっくりと両手を下ろした。
・・・こいつと話してると、一人相撲のような気がしてならねえ。
「破れるまで戦う必要、てめえにはねえだろ」
「・・・?」
占いロボットの表情は変わらない。
変わらないが、何故か怪訝そうにしているのは分かる。
空っぽの筈のロボットの向こうにいる『誰か』に、
俺はいってやった。
「スパイなんだろ?
だったら俺らが苦戦してるのをその辺で嘲って見てりゃいいじゃねえか」
そう。
俺の知る『神羅』の行動は、
傲慢で、冷徹で、人を人とは思わない。
なのに、『神羅』のスパイは、何故そうしない?
視線の先で、ロボットの動きが不自然に止まった。
反応を待つ。
初めて『誰か』の本音を知りたいと思った。欠片でも。
何故知りたいのか・・・は、考えてはいけない。
「・・・ボクの勝手やないですか」
「逃げるのか?」
「ボクはスパイやで?逃げもするし、こそこそ画策もしますわ」
スパイだとばれて以来、こいつは開き直ったようにスパイを連呼する。
まるで態と憎悪を背負い込むかのように。
が、今はこいつの挑発に乗ってる場合じゃない。
「俺がききてえのは、そんな言い訳じゃねえ」
短気な俺が、珍しく全く引く気はないと悟ったらしい。
やれやれ、と言いたげに両手を挙げたこいつは、漸く話し出した。
「・・・気になるんや」
「何がだ?」
「あんさんたちの生き方っちゅーか、やることやろか・・・?」
いいながらケット・シーは首を捻る。
「・・・はっきりしねえな」
「せや。ボクもよお分からへん。分からんから戦ってる気いしますわ」
曖昧な答えだったが、いつものごまかしの言葉ではない。
よく分からないことを、こいつは見極めようとしている。
その途中経過にあるらしい。
「答えはでそうなのか?」
「・・・さあ?どうやろ」
ひょいっと彼は背を向けて、先に行ってしまった。
俺たちが古代種の神殿に到着するのは、その数日後だった。
fin.