英霊召喚5

翌日から、ハンスはリーブの近くにいるようになった。
WRO本部内は勿論、出張で各地に赴くときも積極的について回っている。だが、その姿を見る人は少なかった。というのは、召喚時に居合わせたシャルアやレギオン、そして彼の教師役となったケット・シー以外には姿を見せる気がないらしく、ほぼ霊体化していたからである。但し、一度戦場で兵士たちを援護してみせた彼は、こっそり戦場の青い天使として知られていたりもする。・・・本人は怒濤のような毒舌で一生の不覚だとか何とか言っていたが。

そんなある日のこと。

「ハンス!明日はウータイですよ!確かハンスは初めての筈ですよね?」
「リーブ。毎度毎度俺に行き先を報告するな。貴様は既に成人男性だった筈だが、その実は初遠足前夜の小学生だったのか?俺は何処だろうが勝手についていくだけだと何度言わせる気だ!俺には初めての地だろうが、貴様にとっては行き飽きたところだろう?つまらんことを一々確認するな、鬱陶しい!」
「いいじゃないですか。ウータイは四季によって趣の変わる土地ですし、いつも新たな発見がありますよ?それに今回はハンスも一緒ですからね、きっと楽しいですよ!」
「貴様の頭が万年花畑だとは知っていたが、俺を巻き込むな!」

*   *

ウータイ。
世界地図上では北西の細長い半島上に位置し、独自の文化を築き上げた地域。嘗て世界の中心と言っても過言でなかったミッドガルなど主要な都市からは海を隔てた別大陸にあるため、今も昔も人の行き来は厳しい場所でもある。・・・といっても、飛空艇があればひとっ飛びだが。

WRO本部から飛空艇でさくっと移動した一行は、半日と経たずにウータイに降り立った。

「着きましたよ、ハンス。・・・ハンス?どうしました?」
「・・・最早羨ましいを通り越して妬ましい限りだな、マスター。過去俺が馬車やら汽船やら乗り継いでの旅はなんだったというのだ!貴様は文明の利器の一言で片付けるだろうがな!!ああいっそ貴様の背中に羽をつけてしまえ!!!鳥は飛ぶために脳味噌の重量を最低限にしていると聞く。貴様なんぞ空っぽにする必要があるだろう、ああその方が貴様は余計な気苦労も万年お花畑な思考も消え失せてさぞすっきりするだろうな!!」

ハンスが顔を歪ませて力一杯悪態をついた。途中で論点がずれるどころかすっ飛ぶくらいに悔しかったらしい。

「・・・ハンスの世界では、旅行はさぞかし大変だったんですねえ」
「まあ俺たちにとって空の移動はいつものことですけど、やっぱり一般から見たら贅沢な移動ですからねー」
「ほな行こかー」

ハンスを引き連れ、リーブ御一行はいつも通りウータイの当主であるゴドーの屋敷を訪れる。といってもハンスはさっさと霊体化してしまい、ゴドーはその姿を認めることが出来ず残念がっていた。簡単な食事会を兼ねた会談を終え、ゴドーと別れて少しばかりウータイを巡り、一行は巨大なチャダオ像を登っていった。その間もハンスが姿を見せることはなく。

程なく一行はチャダオ像の頂上、以前お花見を催した場所に立つ。

「いやーあいっかわらずいい眺めですねー」
「絶景やなー」

レギオンとケットがのんびり町を見下ろし、景色を楽しんでいる。
リーブはそっと口を開く。

「・・・ハンス」

呼び掛けに応じるように、リーブの隣に青い髪の少年が瞬く間に実体化する。

「なんだマスター」
「・・・何度見ても不思議ですね。個人的には貴方の姿が見えないと、もうハンスに会えないんじゃないかとちょっと不安になります」
「ふん、臆病者め。目に見えるものだけ存在するわけではあるまい!もしそうであれば、俺たち童話作家は商売上がったりだ!愛だの夢だの苦悩だのが存在しない物語に価値などないからな!」
「ええ、ハンスの言う通りですね。・・・それで、ここからの景色は如何ですか?ウータイを一望できる取って置きの場所なんですよ。ゴドーさんの許可がないと立ち入れませんからね。貴方の物語のネタにはなりますか?」
「ふん・・・まあ気分転換にはなるだろうな」

ハンスが軽く鼻を鳴らし、町を見下ろす。
リーブも彼にならって頂上からウータイを見下ろす。夏の眩しい太陽を浴びて、豊かな緑と水の流れが輝くようで清々しい。ウータイ特有の屋根瓦と建物を繋ぐ赤い桟橋が目に鮮やかだった。遠くに見える塔は五聖強が統べる修行の塔らしい。嘗てユフィもここで奥義を得たのだろう。

そこでリーブの端末が振動する。相手はユフィ、そして内容は待ちに待ったものだった。通話を終え、にっこりとハンスへ振り返る。

「ハンス」
「・・・また貴様、何やら企んでいるだろう。言っておくが、俺はもうその手には乗らんからな!貴様の企画に巻き込むのは部下と仲間だけにしておけ!」
「じゃあハンスもOKですね!」
「話を聞けと言っているだろう!」
「ユフィさん・・・仲間の一人ですが、彼女にちょっとした協力をお願いしまして」
「勝手に話を進めるな!」

ハンスの反応をスルーするリーブに、慣れている部下と分身が口を挟んだ。

「あー無理だってハンス。この人、企みだしたらノンストップだし」
「そーゆーことやな」
「貴様ら、わかっているならどうにかしろ!!!」
「「無理(やな)!!!」」

部下たちのやり取りもスルーし、リーブはじっと青い瞳を覗き込む。部下と分身には聞こえないよう、囁くように告げる。

「ハンス。その呪い解けるかもしれません」
「・・・。何だと?」

青い大きな瞳が見開かれる。絶望を宿す影が濃くなったようで、彼がどれほど呪いに苦しめられてきたのかと胸が痛む。だからこそ、試してみたい。

「勿論、今すぐに、という訳ではありません。少しずつ癒していく形になるとは思いますが・・・。どうでしょう?試してみませんか?」
「・・・。どうするつもりだマスター」
「それは、見てのお楽しみということで」
「・・・いいだろう。無駄な足掻きだろうが、ネタとして付き合ってやろう」
「ありがとうございます」

チャダオ像を降りた一行は、とある建物の前にいた。

「・・・リーブ。俺にこの引き戸を開けろというのか?」
「そうですけど、どうしました?」
「矢鱈と人が集まってやしないか?」
「そうですか?開けてみれば、はっきりすると思いますが」

にこにこにこ。
リーブが笑顔で促せば、ハンスは「ったく!」と毒付きながら頭をやや乱暴に掻き毟った。後ろでレギオンとケット・シーが何やら唸っているのか呆れているのかこそこそと話し合っている。そこまで警戒しなくてもいいのに。
やがて覚悟を決めたのか、ハンスは一歩前に踏み出して勢いよく赤い格子の扉をスパーン!と開けた。そして。

パパパパン!!!

小さい破裂音が連続して起こり、極彩色の紙吹雪が舞う。

「「「ようこそ、ハンス先生!!!」」」

「・・・は?」

事情がさっぱり分からないハンスが、ぽかんと口を開けて止まっている。その後ろ、同じく詳細を知らされていない筈の部下と分身はやんややんやと囃子出した。

「おお!!!流石はハンス、大人気!!!」
「よー集まったもんやなー」

ウータイ大人気の名店、亀道楽。
特別に会場を提供してもらったそこには、沢山の子供たちと彼らの親たちが笑顔で集まっていた。彼らはその手にクラッカーをひとつづつもっており、先程の破裂音はこれだったのだ。
カウンターから店の女主人が顔を出し、リーブはぺこりと頭を下げる。

「すみません、お店貸切にしていただいて・・・」
「いんや、構わないよ!その代りまたチラシを貼っておいておくれ!」
「ええ。承りましたよ」
「あのチラシ、世界中に貼られてますよねー。女将さん、あれ誰が貼ってるんです?」
「WROの隊員やらあたしの客とか仕入れ先とか、ま、世界中ってとこさ!」
「もう世界中制覇しとるんちゃうんか?」
「まだまださ!全世界から客が途絶えなくやってくることが最終目標だからね!」
「それはそれは。素晴らしい目標ですね!」

和やかな会話に取り残されていたハンスが、漸く動き出す。低く唸るような声がよく響いた。

「・・・おい、マスター」
「はい、何でしょう?」
「これは一体どういうことだ・・・?」
「見ての通りですが」
「分かるわけがないだろう!!!貴様は俺にネタを提供するのではなかったのか?」
「ネタではなく、治療法ですよ?」
「だからこれの一体何処が、」
「おっちゃーん!!!外の手配出来たよーーー!!!」

続くはずだったハンスの言葉は、開け放たれた扉から突如飛び込んできた女性に遮られる。
ぴくり、と青筋を浮かび上がらせるハンスを放ってリーブは彼女、仲間の一人であるユフィに笑顔で礼を言う。

「ありがとうございます、ユフィさん」
「って、これが噂のハンス先生!?マジでガキじゃん!!!」

ハンスの傍にやってきたユフィは蒼い髪の少年をふーんと興味深そうにみた。そして頭をぐりぐりと撫でようとして、見事なまでにハンスに払われる。
リーブにはその反応に何となくその後の展開が読めてしまった。ロッソの時の会話と近い雰囲気になりそうだと。
そしてその予想は見事に当たってしまった。

まずユフィが声を上げる。

「ちょっと!何すんの!!」

そして、ハンスが皮肉気に口元を上げた。リーブは今までのハンスの言動から思わず身構える。これは、来る。

「俺の見た目は確かにガキだがな、貴様のように中身までガキではない!こちらとら、70まで死にぞこなった老害だ。だがな、貴様は年齢だけは大人であろう?少しは慎みというものを身に着けてはどうだ。これでは図体ばかりが成長して中身が伴わない単なるごく潰しだ!まあその有様では嫁の貰い手は皆無だろうがな!!!」
「ハンス、ちょっとそれは・・・」
「何だってーーー!!!」
「ふん、俺は見た儘を指摘しただけだ」
「きーっ!!!マジで生意気なガキじゃん!!!」

暴走するハンスと激昂したユフィを放置していても事態は悪化するばかり、そして今回は子供たちにも来てもらっているのだからのんびり口喧嘩をみている場合ではない。そう判断したリーブは、さっさと事態の収拾に乗り出した。

「それでユフィさん、もう外の準備は整っているのですね?」
「あ、うん終わってる!というか、ここにきてない皆も自分の家の二階からこっちを覗いて参加しようとしてるし」
「それは有難いですね!ではハンス、外に行きますよ!皆さんも外へどうぞ」
「だから俺を放って話を進めるな!!!」

*   *

ハンスに怒鳴られながらも全員を外へと促す。ぞろぞろと亀道楽を出ていけばユフィに手配してもらった通りの光景があり、リーブは満足そうに周囲を確認する。それは地面に敷かれたビニールシートであり、その上に座布団とお重が幾つも置かれている。至る所にビニールシートの島が点在し、一緒についてきた者たちも他の屋敷の二階から覗いている者も、驚いたように島を見渡していた。

「えーっと局長、ピクニックでも始めるんですか?」
「確かにピクニックには丁度ええ気候やけど」
「まあそんなものですね。皆さん、お好きなところへどうぞ。あ、ハンスはこっちの特別席ですから」

亀道楽のすぐ前には椅子が2脚あり、椅子の前にスタンド付きのマイクがそれぞれ置かれていた。もはや尋ねても無駄だと悟ったのか、ハンスがさっさと椅子に座る。人々はリーブと部下たちの誘導で思い思いの場所の座布団に座った。ユフィは適当に座布団に座り、ケット・シーはハンスの足元に立ち、レギオンはリーブの斜め後ろに控える。彼にはビニールシートの島を進めたが、いつも通り断られた。相変わらず頑固ですねえと苦笑しながら、リーブは全員が席についたころを見計らい、ハンスの隣の椅子に座る。

「では皆さん。本日はお忙しいところ、『ハンス先生を囲む会』にお集まりくださりありがとうございます」
「はあ!?」

ハンスの素っ頓狂な声が晴天の空に響く。

「貴様、何を言っている!?正気か!」
「ええ、正気ですよ?ここに集まってくださった人たちは、皆貴方の物語を読み、貴方に会いたいと思って参加してくださっているのですから」
「・・・それが何故治療になる?」
「それは後ほど。では皆さん、お重を開ける前に少し私の話にお付き合いください。
まずは紹介からですね。隣に座っている少年が、ハンス先生・・・『ハンス・クリスチャン・アンデルセン』。皆さんに読んでいただいた『醜い家鴨の子』を紡いだ童話作家です。ほらハンス、一言どうぞ?」
「ふん。全く以ってキチガイ集団だな!集めたところで何になる!」
「・・・このようにハンスは大変照れ屋さんでして。大抵怒っているように見えるものですから、そのせいで厄介な呪いを受けています」

呪い、ときいて人々が騒めきだす。レギオンやケット・シーにも話していなかったため、ぎょっとしてハンスを見ている。一方秘密をばらされたハンスは殺気めいた視線をリーブに突き刺していた。

「マスター!」
「話は続きますよ、ハンス。皆さん、ハンスの躰には悪い噂のせいで多数の傷があります。ハンスのプライベートのためお見せすることはできませんが・・・それはそれは酷い傷です。そこで皆さんにお願いしたい」

一旦言葉を切り、リーブは真摯な眼差しで集まってくれた全てのひとたち一人一人を見る。

「ハンスの傷が癒えるように、皆さん祈っていただけませんか?」

リーブの言葉に、人々がえ?と意外そうな表情を浮かべた。祈り、という目に見えないようなことが本当に治療になるのか。それだけのために大勢を一斉に集めたのか。人々の心の中に浮かんだであろう疑問がリーブには聞こえてくるようだった。そして真っ先に反応したのは矢張りハンスだった。

「・・・はああああ!?リーブ、貴様とうとう頭の螺子が全てすっ飛んだか!」
「いいえハンス、私は人々の願いこそ、唯一の治療だと思うのです。貴方に対する風評偏見。そういった悪い心から生まれたのが呪いであるならば、貴方が優しい人だと正しく理解され、傷が癒えてほしいという願う良い心だけが治療になるのではないですか?」
「全く。ネタにすらならん駄作だな!俺を連れ出した理由がそれとは、無意味にも程がある!」
「無意味かどうかはやってみなければ分かりませんよ?皆さん、ハンスの傷が癒えれば彼はもっと沢山の物語を生み出してくれるはずです。ですから、ご協力いただけませんか?」

リーブの依頼に真っ先に声を上げたのは、椅子に最も近いところに座っていた小さな少女だった。

「ねえ、祈ったらもっとお話し読めるのかな!?」
「ええ、勿論」
「おい!」

作者様の返答より先に応えるリーブにハンスが突込みを入れるが、リーブは勿論スルーする。少女はぱああっと目を輝かせて宣言してくれた。

「じゃあ、一生懸命お祈りするね!」
「僕も!もっと読みたい!」
「私も!!!」
「勿論俺も読みたいですよー!」
「ボクも教師役として頑張りまっせー」
「ま、あたしも気になるしね!」

少女の言葉にその場に集まってくれた人々からも賛同の声が上がり、リーブは立ち上がって深く礼をする。

「ありがとうございます」
「・・・ふん」

ハンスはそっぽ向いてしまっていたが、決してその場から消えようとはしなかった。その様子を微笑ましく思いながら、リーブはにこりと笑う。

「ではお待たせいたしました。皆さま、お重を開けて、亀道楽特製の行楽弁当を存分にお楽しみください!ハンスに聞きたいことがありましたらマイクでどうぞ」
「いや、俺は許可していない!」
「でも答えていただけるでしょう?」
「・・・」

笑顔で畳みかければ、嘘の付けない童話作家様は何とも言えない表情で無言を貫いた。

豪華なお弁当に舌鼓を打ちつつ、賑やかな会が始まった。集まった人たちは子供から大人までハンスに様々な質問をぶつけてくれた。主に子供たちが楽しそうに手を挙げ、自分が指名されるのを今か今かと待っている。

「ねえねえ、ハンス先生おいくつー?」
「俺の年だと!?見た目は12歳、中身は70のジジイだ!次!」
「生まれは何処ですか?」
「デンマークという国だ!次!」
「デン・・・?それって何処?」
「ここじゃないことは確かだろうな!次!」
「どうして子供なのー?」
「俺が知りたい!!!次!」

やけくそ気味に、けれどもきちんと一つ一つ応えていくハンスにリーブはくすりと笑う。やっぱりハンスは几帳面なんでしょうね。そう思っていたら、予想外の質問、というよりも要望が飛んできた。

「何かお話してー!!!」
「え?」

ハンスが答える前に、リーブは思わずぎょっと振り返ってしまった。小さな男の子は期待に胸を膨らませている。この子のリクエストに応えたいところだが、ハンスは喉にも呪いを受けている。短い質問くらいなら問題ないだろうが、朗読となれば負担は大きいだろう。何とか止めるしか、と立ち上がる前に隣から「いいから座れ」と制する声。

「・・・ハンス?」
「リーブ。俺は捻くれ者だが、読者は大切にする。それに俺の唯一の取り柄に関する依頼だ、無下にするわけにはいくまい」

にやりと笑った童話作家は、高らかに声を上げた。

「いいだろう!小さなジェントルマン、どんな話がお好みだ?」
「えっとね!冒険ものがいい!」
「冒険譚か・・・ふむ。そうだな。少々長くなるがお付き合いいただこうか。タイトルは、そう・・・『雪の女王』、だ」

こうしてハンスによる朗読第二弾が始まり、人々は美しい童話の世界に引き込まれていった。

*   *

「・・・本当に、ハンスは素晴らしい童話作家ですよねえ・・・」

ほう、とリーブは夢見ごごちで息をつく。
食事会を無事に終え、リーブ達はWRO本部に戻ってきていた。ウータイでの朗読会は大層好評で、リーブがシェルクに依頼した電子書籍も飛ぶように売れているという。まだ「醜い家鴨の子」しか書籍化されていないが、抜け目ないリーブは『雪の女王』も録音をしており、これを文字に起こせば更なる売り上げが見込める。いや、売り上げが問題ではないのだが。

隣に現れた少年が馬鹿らしいと悪態をつく。

「貴様、治療法といって連れ出した結果があれか!単なる売り込みにしかならんだろうが!」
「ハンスを知ってもらったうえで、ハンスの傷が良くなるように祈っていただければ意味がありませんからね。それに思いがけず生の朗読まで聞けたのは僥倖でした」
「読者様に請われれば仕方あるまい。物語れない童話作家など医術を知らん医者のように無価値だからな!幾ら俺とて単なるごく潰しになる気はない!」
「なんだかんだ言って、ハンスは真面目ですよね」
「煩い!」
「それで、その・・・如何ですか?」
「何がだ」
「喉の調子は・・・?」
「・・・ったく一々気にするな臆病者が!ああもう、聞かれたのだから俺も正直に答えてやる!痛みが走るのはいつものことだが、少々・・・ああ雀の涙ほどだがマシになった!!!」

ハンスの言葉にリーブは飛びついた。

「本当ですか!?」
「・・・嘘を言っても仕方あるまい」

すいっと視線を外されてしまったが、その顔が少し赤いようでリーブは心底安堵する。意図しなかったとはいえ、喉を痛めているハンスに酷使させてしまったことが気になっていたのだ。まだ痛むようだが少しでも効果があったというのなら、彼を案ずる心が広がればきっといつか完治する筈。

「それはよかった・・・!!!では、後は任せてくださいハンス」
「は?」
「今回のような食事会もいいですが、情報を操作するというのであれば私もシェルクさんも専門家ですからね!ハンスの姿が正しく伝わるように協力は惜しみませんよ!」
「・・・局長たる貴様が言うと末恐ろしいが・・・どうせ止めたところでやるのだろう!勝手にしろ!!!」
「はい、勝手にさせていただきますよ」

fin.