説教

その銃口に対応できたのは、多分彼だけだったのだろう。
俺は反対側にいたために間に合わず、
彼が身を乗り出したのは、当然の反応だと思われた。

そこに、俺たちのトップがいるならば。

突然倒れた護衛に、周りの護衛たちが瞬時に反応して
敵を攻撃する。
そして、倒れた護衛にはトップ自らが応急処置を施している。

なんとまあ、呆れた奴だ。
護られてるんだからさっさと危険地帯を抜ければいいものを。

狙撃犯を押さえ、俺たち護衛はその任務を全うした。
倒れた護衛はすぐさま医務室に運ばれ、程なく意識を回復し、
トップはその殺人級に多忙なスケジュールを縫って、
自分を庇った護衛の見舞いにきた。

   *   *

トップは病室のベッドで意識の戻った彼に対して・・・

「・・・どうしてあんな真似をしたのですか!!!」

・・・只管怒っていた。
怒鳴られた護衛はただぽかんとトップをみるばかり。

「私は最初に言ったはずです!!
護衛の任務では、まず自分の命を護ること!
その後で余分な力を私の護衛に回してくださいと!!
貴方の代わりは何処にもいないんですよ!?
命を捨てるような護り方はやめてください!」

俺は後ろで笑いをかみ殺していた。
いや、別に護衛が怒鳴られている様を笑っているわけじゃない。
あいつが怒っていること自体がおかしかった。

「いいですね!」

終始怒鳴っていたトップはすぐに病室を後にした。
俺は病室に留まり、ちらり、と男を見遣る。
彼はまだ呆然としていた。

「・・・どうした?」

からかい気味に声をかけてやると、
漸く彼の時間が戻ったらしい。

「・・・隊長。多分、僕は自分の役目を果たしたのにどうして怒られたんだと
・・・憤るべきなんでしょうけど・・・。
・・・逆なんです」
「逆とは?」
「・・・嬉しいんです」

くくっと俺は笑った。

「マゾにでもなったか?」
「分かってるくせにからかわないでくださいよ、隊長」
「悪い。いやーだってよ」
「隊長、局長の後ろでずっと笑ってたでしょ」
「・・・ばれてたか」
「表情が明らかに笑ってました」

彼は軽くため息をついたらしい。
そして何かを思い出すように少し俯いた。

「・・・僕、神羅にいたころ、・・・ルーファウス神羅の護衛をしたことがありました。
そのときもとっさに庇ったことがあったんですが・・・」

「そのとき、ルーファウス神羅は一度だけ倒れた僕を見て、すぐに視線を外したんです。
まるで興味がないかのように。
そのとき思いました。僕たちは単なる駒なんだなって・・・」

俺は迷いなく頷いた。

「そうだろうな」
「でも・・・」

彼は笑った。

「局長は倒れた僕にすぐに治療までしてくださって、
そのうえであんなにお忙しいのに見舞いに来て命を粗末にするなって怒ってくださって・・・」
「・・・」
「・・・こんな僕でも、局長にとって大切な命だと・・・
そう思ってくれていることが分かって、嬉しかったんです」

俺はにいと口元を上げた。

「・・・おまえだけじゃないけどな」

彼も大きく頷いた。

「勿論です。きっと、全ての人に対して・・・ですよね」
「・・・そーだな」
「隊長」
「ん?」
「僕、怪我を早く治して、今度こそ完璧に護衛の任を果たします。
自分も、局長も、仲間たちも無傷の状態で護れるように」
「ああ、そーしてやってくれ」

満足した俺は、ひらひらとてを降りつつ、病室をでた。

   *   *

俺が局長室に戻ると、
トップはいつもの様に書類整理に追われていた。

「・・・レギオン」
「なんですか、局長殿」
「・・・私が見舞いに行ったときに、何故笑っていたのですか?」
「げ。気付いてたんですか」
「そのくらい分かりますよ・・・」

トップは苦笑いを浮かべた。

「それで、何故笑っていたんです?」

俺は遠慮なくソファに座ってやった。
序でにうんと伸びをする。

「いやーだって、普通怒られるとは思わないじゃないですか」
「護衛の任務を果たしたからですか」
「そ。でも、あんたは怒った」
「当たり前です。彼らが生きていなければ、私がWROを創設した意味がなくなりますから」

トップは即座に言い切った。

「・・・ふーん」
「・・・何をにやにやしてるんですか」
「いや、変わってるなーと思っただけです」
「変わっている?何処がですか」
「・・・そーゆーとこだけど」
「ちゃんと説明してください」

俺は病室での会話を回想して、にやりと笑った。

「・・・『貴方の代わりは何処にもいない』、か。
その言葉、そっくりそのままあんたに返すよ」
「・・・は?」

さっぱり分かってない様子がおかしくて、
俺は腹を抱えて笑ってやった。

fin.