集合

事の始まりは、ACFF7の後。
カダージュ達との戦いが終わり、仲間達が彼らの場所へと散っていく最中だった。

コスモキャニオンとウータイに帰る、ということでユフィとナナキは共に飛空艇に乗っていた。
勿論、その操縦はシドである。
英雄のうちでも最少年のユフィが拳を上げて怒りを露わにしていた。

「ったく、もう解散かよー。もうちょっと再会を喜ぶ気持ちはないのかっ!」
「まあーあいつらも忙しいんじゃねえか?」
「・・・でもおいら、ヴィンセントとは約束があるんだ」

うきうき、と尻尾を振りつつ答えたナナキに
ユフィは即座に反応した。

「ヴィンセントと約束!?うっそ!?ちょっとナナキ、白状しろ!!!」

ユフィはナナキに飛びかかった。

「く、苦しいよユフィ」
「あ。ごめん」

うっかり首を絞めていたことに気付き、
ぺろ、と舌を出して謝る元気娘にナナキは相変わらずだなあと半ば感心した。そして。

「ヴィンセントが言ったんだ。年に一度、ミッドガルでおいらの話を聞いてくれるって」

えへん、と誇らしげに披露された話に、

「へえ。あのヴィンセントがねえ・・・」

シドは人間丸くなるもんだねえ、と感心し。
ユフィは・・・。

「なにいいいいい!?
あの赤マント!旅の別れですら素っ気なかったのに、何その違い!ずるい!!!」

ナナキが引くほど、思い切り叫んだ。

「ゆ、ユフィ。落ち着いてよ」
「落ち着いてられっかーーー!!!!!」

再び拳が振り上げられた。

「おうおう、飛空艇の中なのに元気だな」
「うっぷ。思い出させないでよ・・・」

途端に口を押さえる忍者娘。

「すまんすまん」
「で、でもやっぱりずるい!!!
どうせなら年に一度と言わず、もっと頻繁に会おうよ!!!
ヴィンセントだけじゃなくて、みんなと!!!!」
「・・・あ」

ナナキが虚を突かれたように声を漏らし。

「ユフィの言うとおりだぜ。俺様も参加させろって!」
「シド、ユフィ・・・。うん、そうだね。
おいら、みんなにまた会いたいよ」
「よおっし、じゃあ場所はセブンスヘブン!主催者は勿論ティファ!!!」
「・・・おいおい。勝手に決めていいのかあ?」
「何。文句あっか!!
それにセブンスヘブンなら食べ放題、飲み放題!!」
「・・・そうかなあ・・・?」

ナナキが思い切り首を傾げる中、
ユフィは乗り物酔いと戦いつつ電話をかけた。

   *   *

その結果。
ティファは快くユフィの提案に賛同した。

彼女も漸くクラウドが戻り、そして大切な少年、デンゼルの星痕が治った為にいつも以上に幸せだったのだろう。
主催者になるという話も、セブンスヘブンでの経費も請求しない件についても、大層上機嫌な声で承諾した。

その後、ティファは大切な仲間達に連絡を取りだした。

クラウドはユフィからの電話を隣で聞いていたため、あっさりと頷き。
序でに子供達は英雄のみんなに会える!と大はしゃぎ。
バレットはマリンに会える!と喜びに電話越しに吼え。
シドは、ティファは太っ腹だな!と一頻り誉め。
ユフィは勿論、いついつ!?とノリノリで。
ナナキは感激して泣きながらありがとう、と礼をいい。
ヴィンセントは・・・。

「あれ?ヴィンセントの番号って・・・」
「あいつ携帯持ってたか?」
「・・・。ユフィに頼みましょ」

こうしてあっさり当人の知らないところで決定し。

最後に。

ティファはマリンから聞いていた番号に電話をかけようとして、ふと思う。

あれ。リーブに電話するのって・・・
もしかして初めてかしら?

ティファは改めて相手を思い起こす。
分身のケット・シーはお気楽で、すちゃらかな態度の猫ロボット。仲間内でも気軽に声をかけていた。
しかし、本体であるリーブは元神羅幹部であり、
今は世界を再生するための組織、WROの局長。

・・・しかもあれから・・・リーブには会ってないわね。

ちょっと緊張するかも、と思いつつティファは電話を手に取った。

『・・・はい』

聞こえてきたのは、低音の穏やかな男性の声。

「もしもし、リーブ?私、ティファよ」
『・・・ティファさん、お久しぶりです。お元気ですか?』

こちらが緊張しているのもわかっているのか。
おっとりと落ち着いた声に、ティファはほっと安心した。

「ええ。元気よ。リーブはどう?忙しいんでしょ?」
『お陰様で、こちらもなんとかやっていますよ。それで、何かご用件でも?』
「うん、それがね・・・」

ティファはユフィの提案をリーブに告げた。
そして、最も忙しいだろうリーブの予定に日程を合わせる旨も伝えた。しかし。

『こちらはいつでも構いませんよ』

あっさりと返った言葉にティファはえ?と首を捻る。

「でも、忙しいんでしょ?」
『折角のティファさんからのお誘いですから』

軽く答えた相手の、何処かお茶目な笑顔が浮かぶようで。
ティファは嬉しそうに礼をいい、改めて日程が決まったら連絡するわ、と電話を切った。

   *   *

そして、仲間達に伝えられたその日。
WRO局長室にて、白い封筒に入った招待状を手にした猫ロボットは
何故かじと目で主人を見上げていた。

「・・・で。あんさんは来るんやろな?」
「おや、何故」
「・・・あんさん、まさか」
「いってらっしゃい、ケット」

主人は淡く微笑んで、分身を見送った。

   *   *

カランカラン、と来店を告げるベルが軽やかに鳴り、
ベル以上に軽やかな忍者娘が、無口なガンマンを引き連れてやってきた。

「お待たせー!ヴィンセント連れてきたよー!ってあれ?どしたのみんな」
「それがよお・・・」

妙に落ち着かない、といった風のバレット。
彼がこのようにはっきり物をいえないのはいつものことだが。

瞬時に状況を把握した元タークスが鋭く問う。

「・・・リーブはどうした」
「え?」
「それが・・・」
「お構いなく。ケットがいれば十分でしょう?」

口を挟んだ者へと、ヴィンセントがすっと視線を移す。
カウンター席の奥に座る猫ロボットは、僅かに笑っているようだった。

「・・・の、一点張りでなあ」

シドはがしがしと頭を掻いて、呆れたようにロボットを見た。

「そうか」

一言返事を返したヴィンセントは、もう一度仲間を見渡す。
どの顔も、腑に落ちないといった表情を浮かべている。

「では、どうぞ始めてください」

にこにこ、と手を振るのはケット・シーのみ。
だが。

「ねえ、本当にリーブは来れないの?」
「ええ。ですが、お気にならさず」
「おっちゃん、抜け出してきたらいいのに」
「そうもいきませんので」
「バレット」

不意に元リーダーが仲間の一人を呼ぶ。

「な、なんだ、クラウド」
「言ってやれ。多分、あんたが言うのが一番いい」
「は・・・?」
「そうだな」

みんなの注目を浴びたバレットはおろおろと周りを見渡し・・・意を決したように立ち上がった。
どすどす、と音を立てながら、どかりと座った。
ケット・シーの隣に。

「・・・バレットさん?」
「リーブよう。あんたも来てくれねえと、全員にならねえんだ」
「・・・は?」

ケット・シーは不思議そうに首を傾げた。
バレットは背後の仲間に振り返る。

「ナナキは全員に会いたいっていったんだろ?」
「うん、そうだよ」

ナナキはあっさり頷く。

「なら、あんたも来なきゃ、条件に合わねえ」
「・・・そういうことだ」

離れて様子を伺っていたクラウドが纏めるが、
ケット・シーは相変わらず首を傾げたままだった。

「・・・?ですが、ケット・シーがいれば・・・」
「それじゃ駄目なんだ」
「何が・・・」

バレットはもどかしそうにがしがしと頭をかいた。

「うまく言えねえけど、揃ってねえってことだけは分かる。
だから、ちょっとだけでもいいから、来れねえか?」

じっとケット・シーを見る目は真剣そのもの。

「揃ってない・・・?」
「バレットの言うとおりね」

ティファの言葉にケット・シーはますます首を傾げ・・・
何処かで納得したように一つ頷いた。

「ですが、ケット・シーがいれば問題ないはずです」
「・・・平行線だな」

一つため息をついた元リーダーは、素早く仲間の二人に声をかけた。

「ヴィンセント、ユフィ。頼む」
「ああ」
「了ー解!!!」

表情の全く変わらないガンマンと、
にやり、と途端に意味ありげな笑みを浮かべる忍者娘。

「・・・あの?」
「ケット・シー。お前もだ」
「え?」

首根っこを捕まれ、二人と一体は瞬時に店から姿を消した。

   *   *

「ヴィンセント様!!!」
「ユフィ様も!!!」

突然の英雄たちの訪問に騒然となるWRO本部。
隊員たちの注目も物ともせず、二人と一体は受付へと乗り込み。
ヴィンセントは低い声で一言。

「リーブを出せ」
「・・・は、はい!」

受付の隊員は慌てて受話器を取るものの。

「局長、あの・・・!え?ですが・・・」

どうやら難色を示されたらしい。

「はーい、貸してねー♪」
「あ、あの・・・!」

ユフィが受付嬢からさくっと受話器を取り上げる。
しかし。

「あ。切れてる!!」
「・・・逃げたな」
   
   *   *

その頃。
WRO最上階、局長室にて。

「レギオン。今日はもういいですよ」
「んあ?確かに今日は出張もないですけど・・・どうしたんです?」
「局長室を封鎖する必要がありまして」
「はああ?」

局長専属の護衛隊長は思い切り不審そうにトップをみる。
WRO最高責任者は苦笑していた。
その表情から、どうやら深刻な状態ではないが不本意な事態が起きたと推測する。

「何があったんですか?」
「ちょっと・・・」

言いかけたトップは、はっと天井を見上げる。
ん?とつられてレギオンも見上げる。そして。
ピンポーン、と気の抜けた電子音が響く。聞きなれたそれは。

「局内放送・・・?」
『えーテステス。只今マイクのテスト中だよー!!!』

女性、というより少女の陽気な声に、ぶっとトップが吹き出す。

「あー。この声って、ユフィ様ですよねえ。あんた、何やったんですか」
「何もしてませんよ・・・」

うっかり疲れた声音になっていることすら気づいてないのか。
レギオンは、リーブが英雄仲間たちから逃げているらしいと見破った。

『へっへーん!この天才マテリアハンターのユフィちゃんが、放送室を乗っ取ったからね!』
「・・・言われなくても分かりますよ・・・」

こちらから何をいったところで相手には聞こえないというのに、リーブは頭を抱え、思わず呻いていた。
一方のレギオンは、これから起こるだろう楽しい展開にくくっと笑っていた。

「レギオン・・・」

『ちょっとおっちゃん!!仲間の集まりにこないってどういうこと!?みんな待ってるんだからね!!』

「・・・」
「あー、成程。何もしなかったから、ユフィ様が乗り込んできたんですね」
「・・・ケット・シーは行ったんですけどね・・・」
「で、なんであんたは行かないんですか?」
「・・・それは、」

『このユフィ様が来たからには、
局長室に引きこもっても無駄・無駄・無駄あっ!!!』

「うわあ、ユフィ様絶好調ですねー」
「・・・」

『・・・リーブ』

ふいに冷静な低い声に変わり、リーブの表情に焦りが加わる。

「あれ。ヴィンセント様まで来てたんですか。
さっさとでていった方がいいんじゃないですか?」
「・・・」

『・・・お前が籠城する理由は分からなくはないが。
こちらには切り札があることを忘れるな』

「切り札・・・?」

リーブは思わず首を傾げる。

『・・・リーブはん』

げっとリーブが今度こそ完全に蒼白になる。

「ケット・シーですね。こりゃあ豪華な組み合わせですねー」

『リーブはんのことやから、こっちの様子は見えとるやろうけど。
なんでヴィンセントはんらがボクをここに連れてきたか、その理由がこれや』

「理由・・・、まさか」

『あー働いとる皆さん、お疲れさんですー。
ちょいと放送借りるで。聞き流してくれてええでー』

「・・・」

『んじゃ、リーブはんの半生でも語ろかー』

がたん!
と大きな音を立てて、リーブは立ち上がった。
そしてもの凄い勢いで局長室を出ていった。

その慌て振りに、レギオンは今度こそ爆笑した。

   *   *

ばたん!と乱暴な音を立てて、放送室のドアが大きく開く。
爆走したせいで、リーブの息は切れていた。

「やっときたー!」
「・・・何やつまらんなあ。もう少しで色々暴露できたんや」
「やめてください」

失礼します、と一声かけて放送を切る。

「はあ・・・何をしでかすんですか、あなた方は」
「おっちゃんが悪い!!」
「ですから、私が行かずとも・・・」
「それはあいつらの前でいうんだな」
「・・・」

   *   *

強制連行されたセブンスヘブンにて。
リーブがカウンターにつくや否や、

「リーブ、やっときたわね」
「リーブ、酷いよ」
「始めっから来てればよかったんじゃねえか」
「けっ。おっせえんだよ、おめえは」
「これで揃ったか」

仲間たちにまず散々怒られてしまった。

「ですから、ケット・シーがいれば・・・」
「・・・それなんやけどな」

ふいに傍らの分身が口を開く。

「ケット・シー?」

不思議そうに振り返る。
仲間たちもなんだ?とばかりに猫ロボットに注目する。

「・・・ゆうとかなあかんことが、あるんや」
「何をです?」

リーブが眉を顰める。
ケット・シーはぴょんとカウンター席から降りて、自分を不思議そうに見る仲間たちへにこりと笑った。

「クラウドはん、ティファはん。
シドはん、バレットはん、ナナキはん、ヴィンセントはん、ユフィはん。
みなはん、ほんまにおおきに」
「・・・?」
「ケット・シー・・・?」

主人を含めその場にいる全ての者が首を傾げる中、
ケット・シーは満面の笑みを浮かべていた。

「リーブはんのこと、連れてきてくれてほんまにおおきに」
「ケット!?」

何を言い出すんです、と言いたげなマスターを遮り、
ケット・シーは尚も続けた。

「あないにリーブはんが
『ケット・シーがいれば自分はおらんくていい』ゆうたのに
こうして連れにきてくれたんや。
・・・ほんまに、おおきに」

そういって、彼は深く深く頭を下げた。

何度も何度も礼を重ねる猫ロボットに
何処か真摯な想いがあるように思え、カウンターの中からティファは声をかけた。

「ケット・シー?・・・どうしたの?」

ケット・シーはゆっくりと頭を上げ、ぴょんとカウンターに飛び乗る。
尋ねてくれた彼女へとしっかりと視線を合わせた。

「リーブはんは、ゆうてないことがあるんや」
「何を?」

ティファはきょとんと聞き返す。
ケット・シーはさらりと一言、告げた。

「ボクのことを」

はっとリーブの顔色が変わる。

「それは・・・!」
「リーブはんもボクも一言もゆうとらんのに。
やけど、みんなリーブはんがいてないとおかしいってゆうてくれたんや」
「何を言ってねえんだ?」

意味が分からねえ、と大きく首を捻ったままのバレットへ
黙って話を聞いていた男が口を挟む。

「・・・ケット・シーはただのロボットではない。
そういうことだな、リーブ?」

はっと寡黙なガンマンに視線が集まる。

「ヴィンセント、どういうことでい」

消えた煙草を灰皿に押し付けながら、飛空艇乗りは尋ねた。
問われた元タークスは淡々と答えた。

「ケット・シーの言葉・・・。違和感を感じなかったか?」
「違和感?」
「ケット・シーが単なる自立型機械ならば、
ケット・シーの言葉にリーブがこれほど焦る必要はない。
・・・都合の悪いことなど、インプットしなければいいのだからな」
「・・・」
「つまり・・・なんだ?」

未だに思い当たらず、更に首を捻るバレット。
その足元から澄んだ声が答えた。

「もしかして・・・。
ケット・シーは、生きてるのかな」

ナナキが核心を突く。

「え!?」
「どうなんだ、リーブ」
「・・・」

静かなヴィンセントの問いかけに、リーブは誰とも視線を合わせようとしない。
代わりに答えたのは、彼の分身だった。

「ナナキはん、正解や」
「え・・・!どういうこと?」

ケット・シーはとん、と自分の胸に手を置いた。

「ボクは、確かにこの体はつくりもんやけど。
ちゃあんと心を持っとるんやで。
それを可能にしたんが、リーブはんの能力や」
「・・・リーブ?」

呟いたのは誰だったのか。
今や仲間たちの視線は全て、リーブに集まっていた。
彼は、観念したようにひとつため息をつく。

「・・・無機物に命を吹き込む・・・
インスパイアと呼ばれる異能力、だそうです」
「異能力・・・?」
「と、いっても私自身よく分かってないんですが・・・」

ティファは感心したようにケット・シーに振り返る。

「じゃあ、本当に生きてるのね!凄いわ!」
「ティファはん、そないに言われても照れるで」

ケット・シーは陽気な仕草でひらひらと手を振って見せた。
そして少し真面目な声で続けた。

「ボクとリーブはんは、能力によって繋がっとる。
やから分身やけど、別個の個体なんや」

ふんふん、と熱心に聞いていたユフィが口を挟む。

「へええ。あんた生きてたんだー。
え。でも、じゃあ、あのとき・・・」

何かに気づいたのか、彼女はざっと青ざめる。

「ユフィ?どうしたの?」

訪ねるティファの隣で、はっと気付いたクラウドが呆然と呟く。

「黒マテリア・・・」
「あっ・・・!!!」

黒マテリア。
嘗ての旅の中で、凶星メテオを呼び出したマテリア。
あのときクラウドはセフィロスに持ち出されないよう、神殿のパズルをケット・シーに託した。
そのパズルが解かれるということは、
神殿内のケット・シーが落し潰され、黒マテリアになると知っていた上での、判断。
立候補したのはケット・シー自身だったが。

皆後ろめたさを感じつつも
あいつはスパイだった、そして所詮ロボットじゃないか、と言い訳していた。

だが、彼が、生きていたのなら。

知らなかったとはいえ、一つの命を犠牲にしていたのだと。

愕然とする仲間達を見渡し、俯く主人を視界にいれながら、
ケット・シーは穏やかに笑った。

「・・・優しいなあ、ユフィはん。
心配あらへん。ボクらはリーブはんによって繋がってるんやから」
「どういう、こと・・・?」

少し震える声でティファは尋ねた。
ケット・シーは殊更明るく答えて見せた。

「ボクらは記憶がつながってるんや。
以前のケット・シー・・・初代から今まで。
やから、みなはんと会ったときのことも、
こうして今向き合っていることもちゃあんと覚えとるし、引き継いでいけるんや」
「引き継ぐって・・・」
「ボクが何号目かなんかは大した問題やない。
リーブはんが生きてるなら、全ての記憶を引き継げるしな」
「でも、みんな、別個の心を持ってるんだよね・・・」

普段の彼女からは考えられないほど神妙な顔で、ユフィはケット・シーを見つめた。

「おおきに。でも心配あらへん。
ボクらの経験は全部リーブはんに伝わってるんや」
「え・・・?」

ケット・シーに集まっていた視線がそのまま傍の主人へと移行する。
彼はもう、仲間たちの視線を外そうとはしなかった。

「・・・ケット・シーからの情報・・・
彼が見た映像、音声、全て私に伝わっているんですよ・・・。
勿論、今現在もです」
「マジか!」
「・・・私とケット・シーが別個体なのは事実です。
だからこそ、私がここに来る意味はなかったのですが・・・」
「どういうことでい」

カウンターに寄りかかっていたシドは、つい、と片眉を上げた。
リーブはため息をついて、白状した。

「・・・あなた方と共に戦ったのはケット・シーであって、私ではありませんから」
「おめえ、まだそんなこといってんのか」
「事実です」

ぴしゃりと言い切る。そこへ。

「戦ってたよ、リーブも」
「え?」

声を辿った先に、ナナキが蹲っていた顔を上げていた。

「ミッドガルで。
神羅の中で、ずっと戦っていたんでしょ?」
「そんで、情報流してくれたじゃねえか」
「それはケットが」
「ボクはあんさんが得た情報を流しただけや」
「ですから」
「おめえ、自分でいったじゃねえか。『これは私の戦い』だとよ」
「・・・」

仲間たちを遮ろうとしていたリーブは、シドの言葉に沈黙した。
確かに、シドにそう告げたことがあったから。

「何時のこと?」

ティファが軽く首を傾げた。
シドはぽりぽりと頬を掻き、思い出す。

「あーミッドガルにウエポンがでやがったくらいだな。
こいつ、あの頃・・・いんや、もっと前から
自分がそろそろ捕まるだろう覚悟をしてたみたいでよ」
「覚悟というほどでは・・・」

リーブが辛うじて口を挟む。

「・・・それを危惧するくらいの動きを水面下でしていたわけだな」
「・・・そうでしょうか・・・?」

ヴィンセントの言葉に、今度はリーブが軽く首を傾げる。
覚悟というよりも、神羅という組織を裏切ったのだから、
同然の結果として予想しただけのこと。

「そうだよ。だから、同じ場所でなくても」
「同じ目的のために戦った仲間じゃない」
「・・・」

返す言葉が思い浮かばず、リーブは沈黙した。
けれど、分身はあっさりと暴露する。

「やけど、リーブはんはずっと
自分は仲間やない、英雄やない、と思っとるみたいでなあ・・・」
「ケット、」

窘めるように名を呼ぶものの、彼はきかなかった。

「やから籠城しとったんや」
「何いってんの!?
おっちゃんはとっくの昔に仲間じゃん!!!」

ばんっとテーブルを叩いたのは、感情豊かなウータイの忍だった。

「・・・ユフィさん」
「それに、今一番英雄らしいことしているのは、リーブじゃない」
「・・・え?」

振り返ると、格闘家の店主が微笑んでいた。

「WRO。今星のために最前線で戦ってるのはおめえだろ」

続ける声は、希代のパイロット。
リーブは一つ首を振るう。

「戦っているのは隊員ですよ」
「指揮してるのはお前だ」
「命令しているだけです」

元タークスの男へと、リーブはぴしゃりと否定する。
そんな頑なな態度に、片腕に銃を持つ男は我慢できなくなったらしい。

「・・・だあああ!!!ごちゃごちゃいってんじゃねえ!!!
いいか!!!おめえはとっくに仲間なんだよ!
だから、勝手に屁理屈こねてるんじゃねえ!!!」
「バレットさん・・・?」

他の誰よりも仲間だ、と言われそうもない相手からの抗議に、
リーブは呆然と彼を見返すことしか出来なかった。

「そういうことだ」
「纏めないでくださいよ、ヴィンセント」

勝手に締めくくる相手に思わず苦笑する。
視界の端で、もう一人のガンマンがフルフルと拳を震わせた。
どうやらまだヒートアップしていたらしい。

「いいか、もしまた俺たちの会合をすっぽかしたら・・・!」
「ふふ、ケット・シーに今度こそ色々暴露してもらうから」
「うっ・・・」

思わぬ反撃に、リーブは呻いた。

「了解や」
「ケット!!!」

あっさりと主人を見捨てた分身へと思わず叫ぶ。
けれど、彼は相変わらず飄々としていた。
デフォルトの笑顔が少々憎たらしい。

そんな中。

「・・・リーブ」

冷静そのものの元リーダーに、リーブは慌てて振り返る。

「な、なんですかクラウドさん」
「・・・あんたは、俺たちの大切な仲間だ。
ケット・シーも含めてだ。
それは忘れないでほしい」

ガダージュとの戦いを終え、自身を取り戻した最強の戦士。
真摯な声と蒼い瞳が、真っ直ぐにリーブの心に響いた。

「・・・」

彼の幼馴染はにっこりと笑う。

「・・・クラウド」
「おめえ、いいこと言うじゃねえか」

いつしか、全ての仲間たちが笑顔でリーブを見ていた。
その暖かい心に、リーブはただ戸惑う。

傍の猫ロボットが、満面の笑顔でマスターの背中を押す。

「リーブはん、ゆうことあるんちゃうか?」
「・・・。
ありがとうございます、みなさん」

降参したように、リーブは小さく笑った。

fin.