風来坊ハンター

ハンターとしてデビューしたシャルアは
クエスト発注のお嬢から受注した初クエストで巨大な虫、
アルセスタスを見事打ち倒し、バルバレ村に戻っていた。
彼女は自分のギルドカードを確認し、眉を顰めた。

「・・・なあ、ケット・シー」
「なんや?」

ひょんなことからオトモアイルーになったケット・シーが見上げる。

「・・・何故私のギルドカードにはHR(ハンターランク)がでていないんだ?」
「そんなん、シャルアはんが集会所のクエスト受けてへんからや」
「・・・集会所?」
「行ってみよか?」
「ああ」

バルバレから集会所にやってきてみれば
カウンターのギルドマスターが手招きしていた。

「遠くの狩友と狩りをしたいときは、
ここで集会所を探すなり、集会所を作ればいいんだよ」
「集会所を作る?ここが集会所だろう?」
「ふふ。遠くの狩友を呼び寄せる、君たち専用の集会所を作ることができるんだよ。
おっと、一つの集会所には君を含めて4人までだから気をつけて」
「・・・成程。ならば作ってみるか」
「ほうほう。下位クエストを発注してごらん」
「ん?・・・そうだな。鬼蛙?でもいくか」
「シャルアはん、いつもチャレンジングやなあ・・・」
「何か言ったか?」
「いんや、なーんも?」

わざとらしくとぼけた猫を睨みつけ、
無意味そうだと即座に判断してシャルアは腕を組む。

「4人までか・・・」
「来るまでは待つしかあらへんな。
どうせやからナナキはん呼ぼかー」
「ふむ、そうしてくれ」
集会所に赤い毛並みのナナキがやってきた。
彼はその大きな体の割には猫のような身軽さで楽しそうに跳んできた。

「わーい!ケット・シー、やっと呼んでくれたー!」
「あー。ナナキはん、ごめんな。
ちょっとわけありで、シャルアはんのオトモをすることに・・・」
「え?あ、シャルアさんだー!どうしたの?」

ぴょんとナナキがシャルアの足元にやってきた。
キラキラと目を輝かせるナナキに、シャルアがその頭を撫でた。

「ふむ。ハンター修行中だ」
「ええ?」
「・・・そういうことや・・・」
「へええー。よろしくね!」

3人の前に、新たなハンターがやってきた。
黒髪の無表情な彼女は淡々と名乗った。

「サラです。よろしくお願いします」
「シャルアだ。こちらこそ頼む」
「ケット・シーや!よろしゅう!」
「ナナキだよ。よろしくね!」

シャルアはふとサラの背負っている武器に目を止めた。

「・・・って、あんたのそれ、ヘビィボウガンか?」
「あ、はい。そうですけど・・・」
「何というやつだ?」
「ミラアンセスレイヴです」
「・・・ミラ・・・?」

どんなものか分からないシャルアの代わりに
ケット・シーが尻尾をふりふり解説を加える。

「ミラってことは、祖龍やな。
シャルアはん。それが、リーブはんが手にしたいゆうてた素材からできとるやつや」
「むう・・・。攻撃力は?」
「480です。ただ属性弾は全て使えますし、毒弾、麻痺弾も使えます」
「なんだと!便利そうだな・・・。
これを作りたいものだが、リーブにプレゼントしてやるといったからな・・・。
よし、リーブに渡してからもう一度挑めばいいか。
サラ、どのクエストだ?」

ずいっと乗り出してきたシャルアに、サラはちょっと困ったように返した。

「・・・あの、多分ここでは受けられないかと・・・」
「どういうことだ?」

眉を寄せるシャルアの足元で、ケット・シーがうんうん、と頷いた。

「サラはんのゆうとおりやで。
まず、高位のクエストやから、ここやなくて大老殿やないと受けられへん。
大老殿にいくには、まずHRを7より上に上げんと無理やで」
「どうやって上げるんだ?」

一足飛びに大老殿に行きたそうなシャルアへと、ケット・シーはびしっと牽制した。

「下位のクエストを地味ーにクリアしていくしかあらへんな。ま、焦ってもしゃあないで」

宥めるようにひらひらと手を振る黒猫を、シャルアは半目で睨んだ。
分かってはいたが、ケット・シーは元々は高位のハンターなのだ。

「・・・ケット・シーは、いけるのか」
「ボクもナナキはんもいけるで。
やけど、祖龍のクエスト『日輪沈蝕』は、
ボクらかて油断したら一撃でダウンするくらい、超ー難易度高いやつやで?」
「・・・そうか。地道に上げるしかないか」

ともあれ、千里の道も一歩から。
シャルアが集会所の受注ボードに貼ったクエストを
ナナキ、サラの二人が参加にしていく。
ケット・シーが同じように参加しようとして、叫んだ。

「って。しもた!」
「どうしたの、ケット・シー?」
「このままやと、ボクが参加できへん!」

ケット・シーはあちゃーと頭を抱えた。
隣のシャルアとコンビのナナキが揃って首を傾げた。

「何故だ?」
「え?サラさん合わせても4人だし、問題ないんじゃない?」
「ボク、今オトモアイルー設定なんや・・・」
「え?」
「どういうことだ?」
「ええか。集会所クエストは4人までいける。
やけど、その4人はハンターのみや。
オトモアイルーが参加できるのは、ハンターが二人以下の場合だけ。
このままやったら、ハンター3人カウントやから、ボクは参加できへん」
「え?ケット・シー、オトモアイルーになったの?」
「本業はハンターやけど、シャルアはんにおされてもうた・・・」
「じゃあ、ハンターに戻ったらいいんじゃない?」

ナナキの指摘に、ケット・シーははたと気づいた。

「・・・あ。」
「よし、さっさとハンター仕様で戻ってこい、ケット・シー」

ケット・シーが元のハンター仕様で戻ってきた。
これでハンター4人集結である。
が、シャルアはケット・シーの持つ武器に大いに疑問を抱いた。

「・・・ケット・シー。
お前、まさか本当にそれが武器か?」
「ん?そやけど?」
「・・・猫の手にしか、見えんぞ?」

ケット・シーが挙げた右手に握られているのは、片手剣「ねこ?ぱんち」。
麻痺・攻撃力98。
外見は何処からどう見ても、猫の手。
肉球まで完璧に再現されている。

「そやけど?」
「・・・」

こいつは大老殿とやらへ行くことのできる熟練のハンターの筈だったが。
シャルアは疑惑の目で黒猫を睨んだ。
その空気を読んだのか、ナナキが明るくとりなした。

「まあまあシャルアさん。
ケット・シーの実力は、コンビのおいらが保証するからさ!」
「・・・わかった」

*   *

地底洞窟。
地下へと降りていけば、鉱物で作られた世界が広がっていた。
シャルアは薄暗い洞窟を見渡す。
日の光は届かないが、鉱物の中に発光するものがあるらしい。
その中を草食モンスターがのんびりと歩いていく。

「不思議なフィールドだな・・・」
「まーでも、まだ暑うないだけましやで?」
「どういうことだ?」

ナナキの上に乗っているケット・シーは上機嫌だ。
ナナキも特に咎めないところをみると、彼らはいつもこうして移動しているらしい。
サラは一歩後方をついてきている。

「んーマグマとか吹き出すようになったら、
最下層付近は暑くてすぐスタミナがなくなるんや。
今回は大丈夫やけどな」
「暑いときはどうするんだ?」
「クーラードリンクを定期的に飲む。これ以外あらへんな。
まー日頃からクーラードリンクとホットドリンクは常備しといたほうがええな」
「・・・肝に銘じておく」

洞窟を更に進むと、地下水を泳ぐ魚たちの溜まり場があった。
マグロぐらい大きな魚から、金魚くらい小さな魚まで色とりどりの種類が泳いでいる。

「お。シャルアはん、ここで魚釣りクエストがあったらこの辺で釣りやでー」
「・・・魚釣りクエスト?そんなものもあるのか?」
「あるでー。古代魚取って納品するとかあったはずや。
まあ色々挑戦してみー」
「なるほどな・・・」

のんびりと進んでいた彼らだったが。
遂に、求めていた大型モンスターを見つけた。
最下層一つ手前。
崖を下ると、こちらに気付いたそいつは咆哮を上げた。

・・・鬼蛙、テツカブラとの戦闘開始である。

鬼蛙・テツカブラ。

確かに生物学上は蛙だろう、とシャルアは思う。
後ろ脚の畳み方といい、目の離れ具合といい、蛙だ。
だが、大きさは蛙とは言い難い。
普通の蛙は手のひらサイズだが、こいつは・・・縦も横も、シャルアの3倍はありそうだ。
(横は10倍以上かもしれないが)
赤い体躯にごつごつした岩肌。
馬鹿みたいにでかい口には巨大な牙が生えている。

・・・成程、鬼蛙とはよく言ったものだ。

「ってえ、シャルアはん、感心してる場合ちゃうで。ちゃんと避けてや!」
「おっと」

正面に突進してきた鬼蛙を咄嗟に右に避ける。
その間に通常弾を込めて、狙いを定めるが・・・

「動きすぎだろう!」
「そりゃそうやで、相手も生きとるしなあ」
「お前は余裕そうだな・・・」

シャルアの呟きにいちいち律儀に答えを返すケット・シーは
ひらりと鬼蛙を躱し、頭部にねこ?ぱんちを切りつけていく。
ぐおお、と苦悶しているところをみると、それなりにダメージを与えられているらしい。

・・・ねこ?ぱんちのくせに。

必死にテツカブラから逃げつつ仲間をみれば、
ナナキにも余裕があるらしく尻尾に噛みつき、ケット・シーがまた片手剣で麻痺を誘発していく。
その間にサラのヘビィボウガンが脚を狙う。

・・・これがハンター、か。

鬼蛙が突如大きな岩を口に咥え、蛙のように飛び跳ねる。
その予想外のジャンプ力に、シャルアが直撃を喰らってごろごろと転がった。

「うわっ!」
「シャルアはん!」
「大丈夫!?」
「あ、ああ・・・」

立ち上がろうとして、顔を顰める。
どうやら体力的にレッドゾーンに来てしまったらしい。
体が酷く重い。
それを悟ったのか、シャルアとテツカブラの間にケット・シーが割り込む。

「取りあえず離れとき!崖の上いくんや!
応急薬、あるやろ?
危なかったら戻り玉使うんやで!」
「・・・。分かった、頼む」
「任しとき!」

ケット・シーに言われるまま、取り敢えず崖を上る。
振り返れば、仲間たちが遠くでテツカブラと戦闘を続けていた。
今のところ、こちらにくる気配はない。
その場で胡坐をかき、シャルアは応急薬を取り出した。

「全く、なんだあの蛙は!!跳びすぎだろう!」

ぐちぐち言いながら、応急薬をぐいっと一気飲み。
崖の上から見下ろせば、ケット・シーが閃光弾を投げ、
目を回した鬼蛙にナナキが飛びかかり、サラが牙を狙って破壊していた。
ケット・シーの攻撃力はシャルアよりも小さい筈だが、
モンスターの動きを見事にコントロールし、仲間の攻撃へと繋げていた。

「・・・成程。攻撃力だけがハンターじゃない、ということか」

全回復し、よっ、とシャルアが崖を降りれば、
大ダメージを喰らったらしい鬼蛙が足を引きずりながら移動していく。
仲間たちは鬼蛙が何処に行くのかわかっているのか、のんびりとシャルアを振り返った。

「あ、シャルアさんだー!!!大丈夫?」
「ああ。ありがとう。回復させてもらったからな」
「あいつのジャンプ力凄いからねー」
「ところで、あいつは逃げたのか?」
「巣に戻ったんや。
眠って放置したら回復してまうから、追いかけて攻撃や!」

*   *

地底洞窟の最下部。
広い空洞に、地下水の貯まった水たまりや、貴重な鉱石がそこらにあった。
その中央。

鬼蛙・テツカブラがぐーすかと寝ていた。
シャルアがボーンシューター改を構えて、引き金を引く・・・
直前に、ケット・シーが立ち塞がった。

「ちょ、ちょっと待ってえな、シャルアはん!」
「なんだ?」
「ええか。折角相手が寝とるんや。
その間に・・・することがあるんやで?」

にや、といたずらっぽい笑みを浮かべたケット・シーは
ナナキと共に眠っている鬼蛙にそろそろと近寄っていく。
サラもどうやら同じ目的らしい。

そして。

「どかんと一発禿頭やで!」
「ケット・シー、テツカブラに髪はないと思うよ?」
「爆弾、設置します」

口々に何かいいながら、彼らは鬼蛙の側に巨大な樽を置いた。
どうやら爆弾らしい。
設置してさっと距離をとった彼ら。

「よっしゃ、シャルアはん」
「なんだ?」
「あの樽、どれでもええさかい、撃ったってえな!!!」
「・・・いいのか?」
「いいよー!」
「・・・どうぞ」

「ならば」

的が動かない上に、ここまで大きいと外すことはない。
スコープを覗き、中央の樽を撃つ。
派手な爆発が起こり、次々と誘爆していく。
序でに、叩き起こされた鬼蛙が叫び・・・そして、ひっくり返って動かなくなった。

何処からか、クエスト成功のテーマ曲が賑やかに鳴り響く。

「よっしゃあ!任務完了やで!」
「お疲れー!」
「・・・お疲れ様でした」
「ああ。ありがとう、みんな」
「どういたしまして!」
「・・・いえ」
「んじゃ、素材をいただくでー」
「おー!!!」
「お、そうだった」
「シャルアはん、素材集めの目的、忘れとったやろ?」
「ああ。みなでハンターできるのが楽しくて、つい」
「分かるでー。でも、ちゃあんと素材を集めておかな、いい武器も防具もできへん。
ちょっとずつ武器やら防具やらをいい奴に変え続けて、
更に上のモンスターに挑んでいく。
その先に祖龍があるんやから」
「・・・そうだな」

*   *

楽しく鬼蛙から素材をはぎ取り、集会所初クエストは無事終了した。
集会所に戻った途端、サラが淡々と告げた。

「集会所から抜けます」
「お疲れー」
「お疲れさん!おおきに」
「ああ。助かった」
「お疲れ様でした」

サラはすぐに出口から帰っていき、
その後ろ姿をシャルアが多少呆れたように見送った。

「・・・あっさり帰ったな、サラ」
「まあ、知らん人やと多いで?サラはんみたいな風来坊ハンター。
でも、きっちり仕事して帰ってく人が多いから、頼りになるで」
「そういや、HR聞き損ねたな・・・」

ちっと舌打ちをするシャルアへ、ナナキがさくっと答えた。

「え?350だったけど」
「何故知っている!?」
「掲示板をチェックしたら、
同じ集会所のメンバーの装備、効果、HRはみれるんだー」

ナナキの説明を元に、シャルアは早速ケット・シー及びナナキのHRをチェックしてみる。

「おまえ達は・・・。
ケット・シーが360、ナナキも358か・・・。
あたしが・・・。1、か」

先は長い、とシャルアは頭を抱えた。
今のケット・シーたちですら、油断をすると一発でダウンするというクエストにて
祖龍の剛角を手に入れるのは一体いつになるのか・・・。
ケット・シーが軽く慰めた。

「そないにがっかりせんでええやろー」
「そうそう。みんな、1からちょっとずつ上げていったんだから。
シャルアさんもこれからだよ!」

足元に集う熟練ハンターたちの
なんとなく和む外見に、シャルアは小さく笑った。

「・・・ああ」

fin.