魅力2

あの後、帰ってきた子供たちを加えて、セブンスヘブンの新作と烏龍茶で昼食となった。カメラマンさんやレギオン達もみんな食べてもらって好評だったし、序に料理の写真も撮ってもらったから宣伝になるかしら?リーブもあの格好で烏龍茶を振る舞って、すっかりうちの店員になっていた。その姿が余りにも嵌っていて、やっぱりうちで雇えないかしら?と考えてしまった。局長もいいけど、リーブだったら接客業、合ってると思うんだけど。

そうして、一行は次なる撮影場所へと移動する。

*    *

全身に纏った鎧がステンドグラスからの降り注ぐ光で白銀に輝く。肩から朱色の豪奢なマントが堂々たる存在感を増す。手には選ばれたものしか振るうことのできない伝説のソード、という設定だ。実際はアルテマウエポンだから他にはないだろうが、他人が振るうことくらいは出来そうだ。言われるがまま剣を両手で構えば、ギャラリーのほううっと感嘆のため息が揃った。俺を巻き込んだ元凶が満足そうに笑う。

「これぞ勇者、ですね」
「紛うことなく勇者じゃねえか!!」
「へえ。クラウド、正義の味方みたいじゃない」
「じゃなくって正義の味方なの!!」
「そうそう、クラウドは正義の味方だから!」
「これ、WRO隊員に見せたら士気が超上がりますよねー」
「でも勇者の一太刀で敵が全滅しそうな雰囲気ですから、私達隊員っていらないんじゃないですか?」
「サラさん、それって隊員がいっちゃあおしまいなような・・・」
「・・・茶番だ」

元凶に続いて不良中年、幼なじみ、そして一緒にやってきた子供たち、WROの名物隊員たち、寡黙なガンナーが続く。勝手に盛り上がる彼らを無視して、兜を脱いでカメラマンに愚痴る。

「なあ、これ動きにくいんだが・・・」
「まだ駄目です!さあ、局長も衣装替えしてください!」
「えー?ヴィンセントがいるならいいじゃないですか」
「駄目です!」

そうして待つこと暫し。
旧神羅屋敷のロビー。合図を受けて扉を開ければ、薄暗い室内にぼっと青白い光が灯る。闇色の絨緞を辿り大階段から二階に上ったステンドグラスの前には、アンティークの王座があった。衣装替えの終わった相手が深く腰掛け、不敵な笑みで足を組んで待ち構えている。黒い二つの角を頂く、灰色一色の禍々しいローブを纏った存在。隣には闇色の甲冑に身を包んだ赤い目の従者が傅く。王座の人物がこちらを認め、目を細めた。

「・・・遂に来ましたか、勇者よ」

うわあ、と誰かの呻き声のような声が聞こえた。不良艦長まで呆気に取られている。

「・・・おめえ。本職それか?」

元凶がにっこりと意味ありげに笑った。

「いいですねえ。世界の裏側で暗躍する魔王。ふふふ、何処から切り崩していきましょうか・・・?」

頬杖をついて、うっとりとなりきっている魔王様。護衛隊長がぎゃあああ!と叫んだ。

「嵌まりすぎて怖っ!!!ちょ、誰、局長にこれやらせたの!?」
「ほうっ・・・!局長なら出来ますよね、陰の黒幕みたいな!!」
「だからサラさん、楽しそうにしないで!?この人だと本気で洒落にならないんですってば!!」
「そっちがその気なら・・・いいだろう。俺の本気を見せてやる」
「って何クラウドも乗ってるのよ!」
「うーん。本気になっていただけるのは嬉しいのですが、ヴィンセントがいる時点で、戦闘は間違いなくクラウドさんVSヴィンセントになりますよね?私、蚊帳の外な感じがしますけど・・・」
「で、ヴィンの設定は何だよ?」
「魔王の手下ですよ」
「「「・・・」」」

一同が黙り込む。そして徐に幼馴染が可愛らしく小首を傾げた。

「それって、いつも通りじゃない?」
「・・・待て、ティファ。それは誤解だ」
「それではヴィンセント、勇者の相手は任せましたよ」
「・・・おい」
「あ、いつも通りだね!」
「・・・」

赤い目の従者はマリンの一言で撃沈した。

カメラマンたちの指示に従い、勇者が剣を振り上げたり、迎え撃つ従者が半目でケルベロスを撃つポーズをしてみたり、不敵な魔王様が勿体振って魔法を撃つ真似をしてみたり。フラッシュとシャッター音が行き交う中、魔王様がふと呟いた。

「勇者がいるなら、パーティーがいりますよね」
「ん?既に俺たちパーティーじゃねえのか?」
「そうですが、王道RPGだと服装でジョブが分かるんですよ。普段の我々はちょっと分かりづらいですし」

はた、と各々が自分の格好を見下ろす。コスプレ中の魔王様と手下、勇者の俺は兎も角。Tシャツに半ズボンで煙草をくゆらすシド。ティファもいつもの黒いパンツ姿だが、ぱっとみてシエラ号艦長と格闘家とわかるかと言えば、・・・厳しいな。他ここにいない仲間を想像してみる。ユフィやバレットはかろうじて手裏剣やら腕の銃で分かるだろうが、ナナキにケット・シー・・・駄目だ、マスコットキャラにしか見えない。そもそも何のジョブにあたるのかさえ不明だ。更にコスプレを外したリーブやヴィンセントは完全に謎。特にヴィンセントは雰囲気から裏業界の人と思われても仕方ない。・・・いや、実際そうだが。

シドが同意見だったのか、軽く同意する。

「んーまあ、普段着で分かるのはクラウドと・・・ユフィくらいか?」
「ええ。だからジョブらしい服装だと面白いんじゃないかと。勇者クラウドはナイトでシドは槍の使い手ですし・・・竜騎士ですよね」
「勇者クラウド・・・」
「何かすっごく違和感があるわね」
「竜?ドラゴンかよ。俺様ドラゴンは飼ってねえぞ?」
「バハムート召喚して乗ってしまえばいいんですよ」
「んな気軽に乗れんのか?」
「乗れないんですか?」
「んだとう!?」
「ティファさんは・・・どうしましょうか。格闘家だとモンクでいいんですけど、どうせなら優れた魔力から黒魔道士のローブとか似合いそうですよね」
「あら、それも楽しそうね♪」
「マリンちゃんは白魔道士というのもありですかね。デンゼル君はアイテム士とかどうでしょう?」
「やった!私もパーティの一員だね!」
「俺、アイテム士は嫌です!俺も戦えます!」
「でしたら・・・そうですね。弓使いとかどうでしょう?遠距離の物理攻撃は貴重ですよ?」
「じゃあ俺弓使いで!」
「局長ーーー!!!俺、俺は!?」

この場にいる仲間たちと子供たちのジョブが決まる中、必死で手を挙げるのは護衛隊長だ。そして魔王様は軽くあしらった。

「残念ながらナイトの枠は埋まっているので・・・諦めてください」

確かにレギオンなら獲物は背中のバスターソードだから、ジョブはナイトだろう。俺とタブるのは確実だが・・・魔王様のことだから、単にからかって楽しんでいるだけの気がする。そして予想通り、魔王様に振られた護衛隊長が大袈裟なくらい慌てだした。

「ええーー!?じゃ、魔王の手下は!?」
「え?レギオン、悪の手先がいいんですか?似合わないから却下ですね」
「そんなーーーー!?俺も仲間に入れてくださいよーーー!!!」
「そう言われましても、人には向き不向きがありますし」
「あんたも魔王やってる場合じゃないでしょう!?」
「私は嵌まっているんじゃなかったんですか?」
「嵌まっちゃ駄目でしょ!?」

いつも通りの漫才を繰り広げる二人に、軽い調子で不良中年が煽りだした。ふーっと煙を吐き出しつつ。

「んー。リーブがマジで魔王になったら確かに脅威だろうなあ」

シドの指摘にふと考えてみる。今世界の支柱となっているのはWROで間違いない。そのWRO局長からみれば、世界のバランスを崩す急所が何処かは一目瞭然だろう。そこを突かれれば・・・考えるまでもないか。

「確かに、リーブなら世界を崩すくらい簡単だろうな」
「シドさん!?悠長に言ってる場合じゃないですから!クラウドさん、他人事のように言わないでくださいーーー!!!」
「局長が魔王なら・・・私、洗脳されなくてもついて行きます!」
「サラさん!?いい加減戻ってきてくださいよ!?」

見事に暴走するメンバーたちを止めたのは、幼馴染の鋭い指摘だった。

「でも・・・リーブが魔王になる前に、間違いなくシャルアが立ちはだかるわね」

「「「・・・あ。」」」

「うっ!?」

仲間たちがぽんと手を打ち、玉座では魔王が大袈裟なぐらい仰け反った。
魔王様にクリティカルヒット、だ。俺は芝居がかった仕草で剣を仕舞う。

「『こうして世界に平和が戻った』わけだな」
「俺様たちの勝利ってやつか?」
「シドは戦ってないだろう」
「俺様は竜騎士だぜ、竜騎士!」
「まだバハムートを召喚してないだろう」
「今手元に召喚マテリアがねえんだよ!!!」

俺が自称竜騎士に絡んでいる中、子供たちはうーんと首を捻っていた。

「そもそも俺達戦ってたっけ?」
「『戦わずして勝つ』っていうんじゃないのかなあ?」
「・・・マリンはよく知ってるな・・・」
「は、ははは・・・」

魔王の主従が冷や汗をかいている。
止めを刺した仮の黒魔道士が更に考え込んでいた。

「ってことは勇者クラウドじゃなくって勇者シャルアかしら・・・?」
「勇者・・・か?違うような気がするが・・・?」
「シャルアさんはシャルアさんですからねえ・・・」
「そういやあの姉ちゃんは来てねえのか?」
「ええ、その、知らせてませんし・・・」
「・・・おめえ、後でしぼられるんじゃねえか?」
「いえ、そんな筈は・・・ない、と、思うんですが・・・」

魔王様がしどろもどろに否定するが、どうにも勢いがない。
登場時の余裕は何処に行ったんだ、と突っ込みたくなるような萎れっぷりに俺たちは笑い出す。

「おーい魔王様、そんな様じゃ世界征服できねーぞー?」
「放っておいてください!!!」

*   *

無事倒された魔王様を連れて、一行は次なる撮影場所へと移動する。

専用のロープーウェイから降りれば、迎えるのは賑やかな音楽と光の洪水。世界有数の遊戯場入り口には、何故か普段いるはずのスタッフがいなかった。珍しく休園なのか?とか思ううちに、一人だけ衣装替えをしていた仲間が入り口横に素早く移動して、くるりとバレットたちへ向き直った。彼は両手を胸より下で丁寧に重ね、にっこりと笑みを浮かべる。

「お客様、こちらでチケットをお買い求めください。ようこそ、ゴールドソーサーへ!団体様ですね?入園チケットは一回3,000ギルですよ」
「何回でも入園できるゴールドチケットは30,000ギルやでー♪」

いつの間に現れたのか。彼の操る?猫型の元スパイロボットがひょっこり主の後ろから現れた。二人とも同じ衣装だ。ピンクのネールハットを乗せ、黒の襟にピンクの半袖シャツ、ベルト、長ズボンも黒。ピンクの靴下に靴も見事な黒だった。派手なことこの上ない、ゴールドソーサースタッフのコスチュームだ。にこにこと上機嫌な主も、ひらひらと手を振っている分身もまるで昔からゴールドソーサーで働いていたかのように妙にしっくりくる。
俺は呆気に取られた。

「・・・何やってんだリーブ」

こいつに呼ばれて合流したはずなのだが、本人はすっかりゴールドソーサーのスタッフになりきっている。じゃあ俺は一体何しに来たんだ?
首を捻っているうちにシドが面白いものをみたように、にやりと笑った。

「へええ。おめえ、見事に立ち位置変えやがったな」
「ここでの私の衣装はゴールドソーサーの制服なので」
「ボクもお揃いなんやでー♪」

ノリノリの二人に、ティファがうんうん、と頷く。

「ケット・シーもここにいたのね。二人ともばっちりスタッフになってるわよ」
「ありがとうございます、ティファさん。それで皆様、チケットは如何しますか?」
「おい、金取るのかよ!?」
「当然ですよ」

呼ばれた筈なのに料金を迫る相手に突込みを入れれば、営業スマイルできっぱり返されてしまった。そんな中、WROスタッフの一人がふらふらと誘われるように前に出た。

「さ、3,000ギルで入りますう!!!」

今回の企画を持ってきた女性隊員らしいが・・・。目がハートになっているように見えるのは気のせいか?あ、財布出してやがる。その前にうちの元リーダーが割り込む。

「待て、サラ。俺がゴールドチケットを持っている」
「あ、クラウドちゃんと持ってたんだ、偉い偉い」
「ティファ。いや、その言い方は・・・」

相変わらず強いティファに圧されつつ、クラウドが旅の途中で購入していたチケットをリーブに見せる。くすり、とリーブが笑ったようだった。

「はい、ゴールドチケットを確認いたしました。クラウドさんご一行をご案内しますね」

*   *

臨時スタッフとなったリーブに俺達は取りあえずついて行くことにした。明らかに裏口と思われる通路から、ぐるりと回って・・・何やら見覚えのある場所に到着した。ゴールドソーサーの数ある施設の中でも一際やかましい場所。多くの人々が熱狂の渦に巻き込まれるアトラクション。

「・・・ここは」

最もここに馴染み深いだろうチョコボオーナーが呟く。

「チョコボレースの控え室か」
「その通りです、クラウドさん」

くるりとこちらへ向き直り、手を再び重ねて肯定するリーブは最早正式なスタッフにしか見えない。そういやゴールドソーサーは元々神羅が作り上げた施設。となれば、こいつは元スタッフと言えなくはないのか?
その絶好調のスタッフが案内を続けていた。

「それでは皆さん、スタッフが誘導しますので各々着替えてくださいね」
「各々って」
「スタッフの皆さん、よろしくお願いします」

おっとりとした声が合図となったらしく、扉が開いてゴールドソーサーの制服を着込んだ女性たちがぞろぞろと入ってくる。そして、クラウドたちを一人ずつ個室へと連れて行った。何が何だか分からないうちに俺も連れられて着替えさせられていた。えらく大きな茶色の帽子に、白のシャツ、じゃらじゃらと袖に飾りのあるジャケット、長ジーンズに動きにくい革製のブーツ。首周りには白のスカーフ、胴回りには革製のガンベルト。小道具として見せられたものは俺が身につけているものと種類が同じだったものだから断った。スタッフもそうですよね、と納得したからいいのだろう。

着替えを終えるとまたスタッフに先導されて一際大きな部屋に集められた。いつの間にやって来たのか、ユフィとナナキもいた。彼らも着替えたらしく同じ大きな帽子とジャケットだが、多少俺のとはデザインが違うらしい。だが長いジーンズではなく、ユフィは体にフィットしたショートパンツで、ナナキは当たり前だが尻尾が通せるように穴が開いた簡易的なものになっている。にしても聖獣のナナキまでこの格好に合わせるとは。
ユフィが俺を見て椅子から立ち上がり、文字通り飛び跳ねた。

「いいじゃん!!!さっすがあんたリクエストの衣装!なんて言うか、荒くれ者の『ドン』って感じ?」
「ドンって何だ?俺のリクエスト?俺は何も言ってねえぞ?」

何故か一列に並べられている椅子の配置には気になったが、待合室のようなものだろうとどかっと近場の椅子に座る。ユフィがぴょんと跳ねて俺の前にやって来た。

「あんたがリクエストしたんじゃなくって、あんたに着てほしいってリクエストされた格好ってこと!」
「これが、か?」

改めて自分のジャケットを引っ張ってみる。裾がじゃらじゃら鳴るが、これの何処がいいのかさっぱりだ。隣に座っていたティファがひょこっと覗き込んできた。

「そうね。確かにバレットの雰囲気に合ってるし、こう、『ボス』!!みたいな雰囲気よね」
「でしょでしょーーー!でもティファもこう、男心をくすぐる格好だよねー?!」
「ちょっとユフィ、どういう意味よ?」
「いいじゃん、旅のときはずうっとおへそだしてたしー!」
「そういうユフィだって今も旅の時もだしてるじゃない!」

女性メンバーがきゃいきゃいやっているのを見比べる。確かに二人とも男軍団よりも短い丈のシャツとジャケットにショートパンツだ。ん?レース会場にこういうのなかったか?
俺が当てはまる単語を探していると、煙草をふかしていたシドが呆れ顔で答えを出した。

「あー。俺様がいうのもなんだが、おめえら、ある意味レースクイーンじゃねえか?」
「シドのどスケベーー!!!」
「そうよ、エッチ!」
「んだとう!?俺様は客観的な意見を言ってやっただけじゃねえか!そもそも選んだのはここのスタッフだろうが!」
「あ、依頼の物を持ってきたのはユフィちゃんだよ!!」
「おめえかよ!?」
「でも作ったのはね!」
「はい、我々CSCのメンバーです!!!」

揃いの格好に着替えていたWRO女性隊員が、真っ直ぐに手を挙げた。嬉しそうな彼女に流石のティファもどう対処するか困っているようだ。

「えっと・・・その、そんな胸張って言われちゃうと、ねえ?」
「あーサラさん、めっちゃノリノリで指示してましたー」
「それで、この格好は何なの?」

サラが拳を握って熱弁を振るう。

「この帽子、テンガロンハットっていうんです!」
「何だそりゃあ?」
「昔、荒野をチョコボで駆け抜けつつ放牧を行っていた者達、カウボーイが着てる格好ですよ!幅の広い鍔がくるんって巻いてるでしょ?ジャケットもブーツも古典をひっくり返して再現したんですから!」
「何やってんだあんたら・・・」
「企画した以上、リクエストには完璧に応じるのがCSCというものです!!!」
「単なるリーブのファンクラブじゃねえのかよ!?」
「で、元凶は何処行ったんでい?」

そういや、と俺もシドにつられて見渡すが、俺達をつれてきた臨時スタッフの姿は何処にもなかった。あのー、と小さく手を挙げたのは護衛隊長だ。

「局長なら用事があるって、護衛兼情報屋つれてどっかいきましたけど」
「そいういうおめえらも着替えたのか」
「局長命令です!」
「私も同じくです!」

カウボーイとやらの格好で、隊員二人がびしいっとWRO略式敬礼を決める。シドがぽりぽりと頭を掻いた。

「あいつ、命令する場面が間違ってねえか?」
「聞かないでください!!!」
「ところで護衛兼情報屋って誰だ?」

さくっと割り込んだクラウドにレギオンがにかっと笑う。

「俺と同じ護衛隊員で、かつシェルク統括の部下です」
「変わった奴だな」
「優秀な奴ですよー。まあ真逆俺達まで着替えるとは思いませんでしたけど」

扉が開いて今度は子供達がぱたぱたと駆けてきた。

「ねえ、俺達はどう!?」
「あたしも着替えたのーー!!!」

くるくると自慢の愛娘と戦友の息子が衣装を披露する。大人よりもちっちゃな帽子もジャケットの飾りが揺れて、めっちゃ可愛い。そうか、俺の娘は知っていたが神に愛された天使だったんじゃねえか!?

「うおおお!!!流石はマリーン!!!」

勢い余ってマリンを抱きしめたら、ユフィにうっさいと叩かれた。痛え。

「いやーみなはん、ほんまによう似合っとるで-」
「「「ケット!!!」」」
「スタンバイオッケーやな♪」

いつの間にやらやってきたケット・シーが笑ったところで、ピンポンパンポーンと気の抜けた音楽が鳴った。館内放送か?と天井を見上げたら、急に部屋の明かりが全て消えた。

「停電か?」
「いや、恐らくは・・・」

カッとスポットライトが俺達を照らす。天井から降りてきた複数のレンズがこちらを写している。何やら嫌な予感がすると思ったら。
不在の臨時スタッフが高らかに告げた。

『えーご来園の皆様、大変長らくお待たせ致しました。
これよりWRO主催、ジェノバ戦役の英雄たち+αによるレースを開催致します!!!』

「「「・・・はああああ!?」」」

俺達の驚愕の声は、外からの大歓声によって飲み込まれた。

「レースだとお!?」
「え?ええ!?ねえ、今からってことなの?」
「よおっし、颯爽と駆けるユフィちゃんをとくとご覧あれーーー!!!」
「あんにゃろう、姿が見えねえと思ったらこういうことか!やい、リーブ!てめえ、どうせこっち見てんだろうが!どういうことか説明しやがれ!!!」

立ち上がって怒鳴るシドの言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、楽し気な声は一方的に続く。

『参加者は以下の通りです。クラウドさん、ティファさん、バレットさん、ユフィさん、ナナキさん、シド、ヴィンセント、レギオン、サラさん。予選の後、タイムの速い方から6名を決勝と致します』

「えっ!?ちょ、俺もですか局長!?」
「私も参加ですね!」

WROからついてきた二人の隊員まで呼ばれている。あいつはどうやら子供たちを除く全員を巻き込む気満々らしい。・・・ん?俺はレースをするためにここへ来たんだったか?

『優勝者には、コスタ・デル・ソルの最上級スイートルーム付4名様2泊3日の旅か、3日分WROに依頼をする権利のどちらかを与えます。WROへの依頼ですが、流石に我々も万能ではありませんので、内容については私と要交渉とさせてくださいね』

リーブのふふふ、という含み笑いが聞こえてきた気がする。俺は特にあいつに頼みたいことは・・・なかった、筈。だから優勝したら旅行か。マリンと序でにデンゼルを連れてってもいいんじゃねえか。ふと見れば、親代わりの二人と子供たちがこそこそと話し合っていた。

「ねえ、コスタ旅行みたいよ?」
「若しくはリーブと交渉、か」
「ちょっとクラウド!狙うなら旅行だからね!」
「分かった」
「ねえねえ!旅行行けるのかな!?」
「お、俺は別に・・・」
「じゃあデンゼルは、お留守番?」
「な!?そ、その・・・」
「ふふ。ちゃあんと連れて行くから、心配しないで?」
「ティファ!」

ほのぼの家族会議でどうやら決まったらしい。つまり、俺、クラウド、ティファの3人の誰かが勝てば、マリンは旅行に行ける。6分の3だから、ええと・・・。兎も角結構確率は高いんじゃねえか。すると視界の端でヴィンセントがさっと身を翻していた。

「・・・私は帰る」
「あ、待ってえなヴィンセントはん!」

ててて、とその後をケット・シーが追うが。

『尚、一人でもレース不参加者が発生した場合、原因不明のトラブルでロープーウェイが故障致しますのであしからず』

「・・・何だと?」

ヴィンセントの逃亡を見越したような放送に、ヴィンセントだけでなく俺達もぽかんと動きを止めた。あいつ、今なんつった?
いち早く復活したシドがヴィンセントの肩をぽんと叩く。

「ったく。先手打たれたようだぜ、ヴィン」
「くっ」
「ロープーウェイが動かなくなったらオイラ帰れないよ」
「ねえ、誰かバギー持ってきてる?」
「あれか?今ロケット村で修理中だっけな」
「もう!使えないじゃない!」
「あー。んじゃあ、シエラ号を呼べばいいんじゃねえか?」
「えー皆さん、実はその、局長命令で『必ずレース後に迎えに来てくださいね』って・・・」
「・・・あいつ・・・」
「流石、抜かりないですね局長!」
「だからサラさん、嬉しそうに言ってる場合じゃないんですけど!」
「本気、らしいな」
「職権乱用というものではないか?」
「まあこのユフィちゃんが優勝するから問題ないんだけどね!!!」

やる気満々のユフィを除く全員が取り敢えず強制参加らしい、ということを悟った。

『レースの撮影はWROスタッフが全力を挙げて皆様の勇姿を収めますのでご安心ください。また、解説は私、リーブ・トゥエスティとケット・シーでお送り致します。それでは皆様、英雄たちのレースを心ゆくまでお楽しみください』

再び歓声が上がる中、ふっとスポットライトが消え、部屋の灯りが最初に戻った。どうやらカメラも引っ込んだらしい。
仲間内のチョコボレース。強制参加だが、まあマリンの旅行のためと思えば悪くない。悪くないが、俺は何か引っかかる。腕組みをしてうんうん唸っていたら、ユフィにしばかれた。

「てえ!何すんだ、ユフィ!」
「うんうんうっさい!!!」
「いや、その・・・何かおかしくねえか?」

一同に聞くも、シドが苛々と返すだけで。

「そりゃあおかしいだろうが。チョコボレースなんぞ俺様、全然聞いてねえぞ?」
「いや、そこじゃねえんだ」

しばかれた御蔭か、シドが返してくれた御蔭か。ともあれ、俺はようやっと引っかかっていた正体に行きついた。

「これは、リーブの撮影会なんだろ?なんであいつが解説なんだ?」