魅力4

クラウドが取り出したのは・・・なんだ?あの細っこい棒は。ティファがあっと声を上げた。

「あれってもしかしてペーパーナイフ?」
「ペーパーナイフ?って何だあ?」
「封筒とか開けるときに使う道具よ。クラウド、伝票処理とか意外と不器用だからあげたの」
「特に意外でもねえが・・・」
「でもあの構えって・・・」

ペーパーナイフを両手で構えたクラウドの全身が黄色の光に包まれる。

「あいつ、まさか!?」

クラウドがペーパーナイフをまるでいつも背中に背負っている大剣のごとく構える。一度力を溜めるように後ろに倒した後、一気に振り下ろす。ペーパーナイフに迸る閃光。

「何だとう!?あれは・・・!」
「クラウドのリミット技、『破晄撃』!!!」

ペーパーナイフから緑色の光線が走り、水中ゾーンの水を真っ二つに割っていく。
リミット技が吹き飛ばした水のない空間を颯爽と駆けてゆくクラウド。勿論速度を落とすことはない。閃光はクラウドが走り去ると同時に消え、水中ゾーンの水も瞬く間に元に戻り、周囲には特に破壊された形跡はなかった。てかあいつあんなに技のコントロール巧かったか?
すぐ横の水中で藻掻いていたシドが怒鳴る。

「クラウド!てめえ、こんなところで撃つな!危ねえだろうが!」
「技は最小パワーにした。問題ない」

涼しい顔で水中ゾーンを後にしたクラウドはぐんぐんスピードを上げて去って行く。

『ほほう!考えたものだな!チョコボを川チョコボとやらに乗り変えられんならば、障害物である水を取り除きにかかるとは!ふむ、調子に乗って後ろの忍者娘も何やらやらかしそうだな!』

ハンスの解説にユフィをみれば、なんてことだ、あいつもクナイを取り出している!
ぎょっとして見守る俺達に対し、ユフィはやる気満々にしかみえねえ。

「よおっし、いっくぞーー!!!」

同じくリミット技を発動させようとしたのを慌ててシドが止める。

「馬鹿野郎!てめえの『森羅万象』だと全部吹っ飛ぶだろうが!」
「ええー?でもあたしのリミット技って大抵直接斬りに行くのが多いんだよ?それに『抜山蓋世』だと大地震になっちゃうしー」
「するな!やめろ!てめえは普通に駆け抜けろ!」
「クラウドだけずっこいじゃん!」
「あれはクラウドの技とコントロールがあってこその離れ業だろうが!」
「あたしだって止めるって・・・ってもう間に合わないじゃん!!!シドの馬鹿ーー!!!」
「知るか!」

口喧嘩するほど仲がいいとみるべきか、ともあれユフィはシドと同じく水中でトロくなってしまったらしい。ナナキとWROの兄ちゃんはなんとか抜け出したようだが、割とふらふらだ。と、なれば。

「ディオ。追いついたぞ」
「何ということだ!真逆英雄の技を以て追いつくとは・・・!!ブラボー!しかし、まだまだ若い者には負けんぞ!!」

クラウドとディオの一騎打ちになっていた。横並びとなった彼らはスタミナを使いまくり、火山の中を通り、ドラゴンの輪をくぐり抜け、最後の坂を走っていく。目の前にゴールテープが迫る。僅かにクラウドのチョコボが速いか?と思ったら。

後ろから黄色の光が猛烈な勢いで追い越していった。

「今のは!?」
「ちょっと画像判定してよ!?」

『ふむ。俺の目にも判別できんかったな。どれ、画像判定してやろう』

相変わらず偉そうな童話作家先生がモニターを切り替える。クラウドとディオの野郎の間をすり抜けるように駆け抜けた黄色い塊は、静止画像中で跳びかかるような格好で止まっているナナキだった。

「ナナキかよ!?」
「じゃあ、あの光は・・・」
「・・・スレッドファングだな」

ヴィンセントが成程、と言いたげに頷いている。
名前は覚えちゃいないが、確かナナキのレベル1のリミット技だ。高速で駆け抜けて敵に跳びかかるっていう・・・。あれじゃあチョコボは敵うわけないだろ。

『画像判定の結果、ナナキが優勝だ。ふん。こんなお遊びに余韻もいらんだろう。マスターの呼び出しだ、敗者も纏めてさっさと引き上げてこい』

ハンスの辛辣な言い方に文句をつけつつも、クラウド達はレース会場から控室に戻ってきた。と言ってもクラウドは僅かに眉を顰めているし、ユフィはきゃんきゃんと騒いでいるし、シドは俺様も槍持っていけばよかったぜとぼやいている。どうにもこうにも煩い奴らだ。ディオのやつは・・・ん?どっかいったのか、姿が見えない。

「それでは、優勝おめでとうございます、ナナキ」

そんな周囲の喧騒もお構いなしにいつの間にか戻ってきたリーブの奴がナナキの前でにっこり笑っている。

「ありがとう、リーブ!」
「それで、景品はいかがしますか?」
「おいら考えたんだけど・・・あの旅が終わってからコスモキャニオンで集まったことなかったよね。だから、今日みんなでコスモキャニオンで一泊、とかどうかなあ?」
「今日・・・ですか。分かりました、手配しましょう」

少し顎鬚に手を当てていたリーブがあっさりと頷く、この辺りが流石は世界再生機構の局長ってことか。と思っていたら、ナナキがこてんと首を傾げた。

「リーブも一緒だからね?」
「え?」
「え、じゃねーよ局長さんよ!」

ばしいっとシドがリーブの背中を叩く。

「でもあの旅の仲間でしたら、ケット・シーがいれば・・・」
「だーかーらー、みんなでっておいら言ったでしょ?」
「ねえ、だったらデンゼル達もいいかしら?」
「勿論だよ!サラさんもレギオンさんも一緒に!」
「え!?私もですか!?」
「俺も!?ま、まあ俺は局長の護衛ですし」
「護衛はいりませんが、最後の衣装替えは、コスモキャニオンで、としましょうか」
「まだ衣装あったのかよ!?ってかいい加減護衛を認めろ!!」
「オッケー!じゃあコスモキャニオンにしゅっぱーつ!!!」
「「おーーー!!」」

レースから復活したらしいユフィの掛け声に、一同が思わずつられて拳を挙げる。

「ってなんでユフィが仕切ってんだ!」
「いいじゃんべっつにー」

*   *

コスモキャニオン。
夕日に照らされた荒野地帯の谷に創られた街。ナナキの生まれ故郷であり、今は亡きブーゲンハーゲンに魔晄の正体を教えられた星命学のメッカである。

シエラ号に乗ってさくっと移動した一行は、谷の宿屋に荷物を預け、コスモキャンドルの前に集合した。因みに個別の衣装も既に渡されていたため、全員着替え済みであり、ナナキもテンガロンハットから赤い三角の白いボンボンが付いた帽子に変わっている。夕闇の中、聖なる炎の周りに集まった仲間を見上げ、ほっこりした。

「わあーみんな良く似合ってるねー」

お揃いの赤い三角帽子に、彼らは服も上下共に真っ赤で、袖やボタンはふわふわな白い縁取りだった。男性陣全員赤い長ズボンの黒いブーツだが、女性陣はデザインに差がありサラさんは赤のプリーツありのロングスカート、ユフィは赤いショートパンツ、ティファは赤のミニスカートだ。女性陣は黒のタイツ+ブーツのため、一般人の視線を釘付けにしている。因みに一人ノリノリのリーブだけは顎に白い付け髭と白い大きな袋を背負っており、子供二人も見事にお揃いの赤い衣装がばっちり決まっている。

「うんうん、みんな見事にサンタコスってこと!」
「これだけサンタが揃うと壮観やなあ」
「最後の衣装がサンタとはな」
「まあ12月だし、いいんじゃない?」
「きゃー!私もサンタですね♪」
「バレットさんも付け髭如何です?」
「そりゃあいいな!おめえの体格からして一番サンタっぽいんじゃねえか?」
「あー、いや、別になあ・・・」
「父ちゃん、似合いそうだけど?」
「何!?おお!マリンがそういうなら、よし、リーブ、俺にも髭を付けてくれ!」
「ええ」
「単純なおっさんだな」
「デンゼル、しー!!!」
「はい。あ、マリンちゃんが付けて上げたらどうでしょう?」
「いいよー?」
「あいっからわず局長、企んでますよねー」
「早く終わらせろ・・・」

ユフィは単純にサンタコスにテンションが上がってるみたい。ケット・シーは頻りに頷いて、クラウドとティファは流されるままかな。サラさんはユフィと同じくらいテンションが高くて、リーブとシドはバレットに付け髭をつけて楽しんでる。マリンちゃんたちはのせられてるバレットを見上げて、サンタ度が上がったと喜んでるし、その様子にレギオンさんが呆れ、ヴィンセントは苦行のような顔をしている。

みんな集まれるっていいなあ。

その間もいつの間にやらやってきていた撮影隊の人たちがパシャパシャと写真を撮り、最後は集合写真を決めてお開き。の筈が。

「みなさん、お疲れさまでした。そのサンタの衣装は皆さんに差し上げます。クリスマスの時期に皆さんのホームタウンでちゃんとプレゼントを配ってくださいね。ああ、お菓子の準備はこちらで致しますので、よろしくお願いします」

にっこりとサンタになりきったリーブが言うと。

「・・・待て。リーブ、私はやらんぞ」

ヴィンセントがきっぱりと拒絶した。あ。ヴィンセント、これでやっと終わったと思ったのにリーブが宣言しちゃったから焦ってるのかな。

「いいじゃないですか。サンタの衣装を着てプレゼントをばらまくだけですよ?ああ、ヴィンセント独りで難しいのであれば、ケットを貸し出します」
「そういう問題ではない」

ぱしっと切り返すヴィンセントは結構怖い。けど、オイラも皆もまた始まったとのんびり眺めているだけで。

「・・・ヴィンセントは、ニヴルヘイムでのサンタコスをしてくださらない・・・、ということですか」
「そうだ」

意識してリーブの口調がゆっくりになっている。対するヴィンセントは即答。大分怒ってるんだろうなーと思いつつも、オイラもみんなも多分最後の展開は分かっている。

「そうですか・・・」
「・・・」

妙に勿体ぶってリーブがため息をつく。後ろでレギオンさんが「やべ、これは来る!」サラさんが「何が来るんですか?」「まあ見てろって」なんて会話している。

「・・・ニブルヘイムの子供たちが悲しみますね。自分たちのせいだと・・・」
「・・・は?待て、何故彼らのせいになる?」

ああ、やっぱり来ちゃった。焦っているヴィンセントの勝ち目は多分ないだろうなあ。

「ええ、この前ニブルヘイムにお邪魔した時に、子供たちに『サンタ来るかなあ?』と聞かれましたので『ええ、ええ。皆さんがいい子にしていたらちゃあんと来ますよ』と答えたんですよ。これでヴィンセントサンタが来なかったら、彼らは自分たちが悪い子だったから来てくれなかったんだと責めるでしょうねえ・・・」

ふう、とリーブが大袈裟なほどに悲し気に目を伏せる。役者だなあとおいらは感心する。

「・・・。いや、別に私でなくても・・・。故郷ならクラウド達が、」
「俺達はエッジでサンタになるからな。そっちは任せた」
「今ならヴィンセントの方が地元の人気者だもんね!頑張って!」

あっさりと援助を打ち切られた。こっちも阿吽の呼吸。

「・・・。・・・・・。」

ヴィンセントの嫌に長い沈黙に。リーブがぽんと、ヴィンセントの肩を叩いた。

「では、よろしくお願いしますね、ヴィンセントサンタさん?」

ほら、やっぱりこうなった。

*   *

その後。
無言で撃沈したヴィンセントを伴って、全員サンタコスのままパブで飲み明かし。久し振りとなる仲間達との語らいでリーブは知らずため込んでいた疲れが吹き飛んだようだった。ナナキの提案は自分にとっても最上の案だったとしみじみと思う。

ちょっと酔い覚ましに、とリーブは一人パブを出て、空を見上げていた。コスモキャンドルの灯りに負けない、満天の星空。普段WRO本部に籠ったり各地に出張に行ったりと忙しく、こうして改めて夜空を見上げることは中々機会がなかった。ふとコスモキャニオンの入り口を見遣ると、誰かが入ってくるようだった。こんな夜更けにいったい誰だろうと目を凝らしていると。

「リーブ」

聞きなれた凛としたアルトが飛び込んできた。

「え、シャルアさん!?何故ここに・・・」

コスモキャンドルにやってきた彼女は、いつもの白衣姿だった。

「ハンスに聞いた」
「ハンス・・・。姿が見えないと思ったらいつの間に・・・。ま、まあいいですけど、どうやってここへ?」
WROモービルをかっ飛ばしてきた」
「ええ!?ってあの、あれを使ったんですか・・・!?」
「ああ。あれの最高速度を知っておかないと、いざという時に使えんからな。あんたが今回のイベントをあたしに隠していたというのは後で言及するとして」
「ぎく」
「それにしても・・・あんた、そういう仮装は無駄に似合うな」

言われてそういえばと自分の姿を見下ろす。着替えていないためサンタの格好のままだ。そしてノリでプレゼントの袋まで持ってきていた。酔いのノリとは恐ろしい。

「ありがとうございます」
「サンタなら、プレゼントをくれ」
「と、言われましても・・・」

リーブは背負ったままだった袋を逆さにする。ラッピングされた箱が次々に降ってくるが、大小様々な大きさの箱からはどれもからころと軽い音を響かせるだけだった。

「・・・真逆、全て空箱か?」
「はい。あくまで撮影用ですから、中身はいらないんですよ」
「ちっ。なら・・・」

少し隻眼を伏せて考えたシャルアが、かっと見開く。

「ブッシュ・ド・ノエルだ!」
「・・・。はい?」
「知らんのか?」
「え。いえ、知っていますよ?ロールケーキを丸太に見立てたクリスマスのケーキですよね?それが、何か?」
「シェルクが店先でじいっと見入っていた。あの子が興味を持つなんて珍しい。ということでクリスマスケーキにブッシュ・ド・ノエルを作れ!」
「え?作るのですか?でもケーキなら私が作るよりも専門店の方が・・・」
「シェルクは偏食家だ」
「え、・・・そうでしたっけ?でも家では残さず食べてくれてますよ?」
「そこだ」
「はい?」
「あの子はあんたの料理なら食べる」
「・・・え?」
「あたしもそうだがな。あの子には最高のケーキを食べさせてやりたい。あんたのケーキなら間違いない」
「えっと、料理と菓子作りはまた別のような・・・」
「あんたなら問題ない」
「えええ!?」
「楽しみにしている」
「は。はあ・・・」
「あんたの料理は最高だからな」

真顔で言い切ったシャルアに、観念するしかない。くすりと笑う。

「・・・分かりました。ご要望にお応えできるように頑張りますよ」

*   *

こうして。

CSCが企画し、局長がジェノバ戦役の英雄たちを巻き込んだ一連の写真集は無事に完成を迎えた。あの世界の救世主たちの別の側面が見られる写真集、ということから売れゆきは鰻登りで、来年にかけてもベストセラーになること間違いなしだった。写真集に添えられたとある童話作家の書下ろしも中々に好評だという。

サラは自室に籠って完成された写真集を広げる。
お気に入りは、バーテンダーと魔王、そしてサンタコスの局長だったりする。特にサンタコスは、袋から豪奢なクリスマス包装の包みを笑顔で取り出す姿に、ほうっと手を当てて写真に見入る。

「流石はうちの局長よね!ああっ!これで益々人気が出ること間違いなし、CSCの入会数も増えるに違いないわ!!!ふふふ、これからもCSC総出で局長を強力にサポートしますからね!!!」

独りガッツポーズをかますのだった。

*   *

「くしゅん!」

いつも通りの局長室に響いた小さなくしゃみ。俺はひょいと部屋の主を覗き込んだ。

「どーしたんですか、局長」
「いえ、その、悪寒が・・・」
「風邪ですか?気を付けてくださいよ、あんたそうでなくても多忙なんですし」
「風邪ではなさそうなんですけどねえ・・・」
「ふん。大方貴様の写真集でも見て妄想にぶっとんだ奴でもいたんだろうよ。貴様のコスプレで金を巻き上げられるとは、世も末だな!」
「・・・その、『世も末』な写真集に書下ろしをつけたのは誰ですか全く」
「ボクが朗読しよかー?」
「ケット、黙ってください」

fin.