「!」
「シェルクさん、まだそれは生ですよ」
お椀によそった大根を頬張りながら、シャルアはじっと二人のやりとりを聞いていた。
軽くせき込む妹の背中を優しくさする男。
・・・これも家族団欒だろうか。
* *
「山椒」
「はい」
「大根下ろし」
「ここですよ」
「ポン酢」
「貴女の左にあります」
姉がぽんぽん口に出す要求に当たり前のように応じる声を、シェルクはぼんやりとみていた。
お鍋。
それを囲って、3人が炬燵に入っている。
出汁の利いた何とも食欲をそそる湯気が上がり、ぐつぐつと中の具は踊っているようだった。
昔、両親が生きていたころ。
確かに自分も姉も同じ食卓を囲んでいたはずなのに、両親の顔はもう思い出せなかった。
ただ、温かかった雰囲気を微かに思い出すだけ。
その雰囲気と、とてもよく似ている。
家族、に似ているのかもしれない。
勿論、姉は血のつながった正真正銘の家族だけど。
「・・・シェルクさん?」
どうしました、と少し心配そうにのぞき込む男は赤の他人。だけど。
「どうした、シェルク」
姉がこちらを向く。
この雰囲気が、とても懐かしく感じたから。
どうしたら、このままずっといられるだろう。
「あ」
「シェルク?」
「シェルクさん?」
シェルクは微かに微笑んだ。
この男が本当の家族になればいい、と思う。
そしてきっと、それは夢ではなさそうだった。
だって。
お姉ちゃんが、いつもより優しい目をしているから。
私以外の、誰かに対して。
* *
「シェルク、もういいのか?」
「十分食べました」
「お前は小食だな・・・」
仲のいい姉妹の会話を、リーブは穏やかに見守っていた。
10年という長い月日、引き離され、
更に2年、片方は意識を失い、眠り続けていた。
そして、やっと二人は同じ時間を過ごすことができたのだ。
・・・家族っていいですね。
遠い昔に最後の家族・・・母を失ってから、
血のつながりを感じることはなかったけれど。
この二人をみていると家族の大切さを改めて思う。
大切にしなかったから、自分は失った。
自業自得だろう。
いや、自分の親だけでなく、
誰かの大切な人たちを・・・自分は奪ったのだ。
失った者を、奪った者を返すことはできない。
一生自分が背負う罪。
それでもせめて、こうして生きている人たちを。
最後まで守ることができたなら、少しは・・・
「局長?」
「なんだ、ぼーっとして」
「え?いえ、なんでもありませんよ」
「・・・局長」
「何でしょう?」
「うまかった」
「それはよかった」
「・・・ありがとう」
「ありがとうございました」
「いいえ、またよろしければ食べに来てくださいね」
* *
「お姉ちゃん」
「なんだ」
「・・・また、食べにいっても、いいのかな」
「というか、食べに来い、と言ってたが」
「・・・お姉ちゃん」
「ん?」
「家族みたいだったね」
「・・・。そうだな」
ー最後まで守ることができたなら、少しは・・・
・・・生きることが許されるだろうか。
fin.