40.処理

※「メール」のその後。

局長室の扉が開かれ、一歩中に入った俺は
目の前の光景に思わず立ち止まった。
部屋の主は奥のデスクにて手慣れた様子で淡々と素早く、デスク前のソファでは科学部門統括が顰め面で少しずつ、
それぞれ黙々と書類の山を捌いている。

この二人の仲は決して悪くはない。寧ろその逆だ。
しかし無言で書類を処理する二人にちょっと後込みした。

「・・・あのー。これってどういう状況なんですか?」
「監視だ」
「へっ?」

書類から顔も上げずに即答した科学部門統括。
むすっとした表情は、どうやら相当不本意な状況らしい。
対する部屋の主は涼しい顔で書類をまた一枚、隣の山に移した。

「・・・シャルアさんが部下からの報告書を溜めていましてね。
さっさと回してくださいと言っても遅れ気味でしたので
上司の監視下で、処理していただくことにしました」

主はいつもどおり食えない笑顔だ。
その笑顔のまま、続けた。

「シャルアさん。報告書No.15-141が抜けていますが?」
「ぎくっ」
「140と142は先程読ませていただきましたが。
担当者が提出した日付はどちらも3週間前ですね」
「う・・・。だ、だから、その」
「141は今何処ですか?」
「・・・こ、ここだ・・・」

歯切れの悪い科学部門統括を淡々と問いつめる局長。
悔しげに、書類とにらめっこしている科学部門統括。
いつもならこの二人が揃っていれば、負けているのは局長の方だが
流石に仕事が絡むと逆転するらしい。

・・・珍しいものをみたもんだ。

「局長ー。そんなに追いつめなくてもいいんじゃないですか?」
「レギオン!もっと言ってやれ!!」

助けを得たとばかりに、科学部門統括がばっと顔を上げて叫んだ。
視線の先にいる上司は、にっこりと笑った。

「却下です」
「くっ!」
「えーっと。それは、仕事だからですか?」
「そうですよ。シャルアさんが処理してくださらないと
私が皆さんの働きをみれないじゃないですか」

局長はため息混じりに手にしていた書類にサインをしている。
俺は科学部門統括と顔を見合わせた。

「・・・ん?」
「どういうことだ?」

「ですから。
私は報告書でも読まないと皆さんが普段どんな働きをしていただいているのか、個別に知る術がないんですよ・・・」
「・・・毎日山ほどの報告メールが行ってるじゃないか」
「あれは一部を抜粋したものじゃないですか。
それも成果があったものや重要度の高いものだけでしょう?
私はできるだけ全てを知りたいんですよ・・・。
実らなかった研究も含めて、誰がどんなことを試みたのか・・・」
「全部は無理だろ」
「・・・できうる限りは知りたいんですよ」

はあ、と局長は次の書類に手を伸ばす。
科学部門統括をちらっと伺うと。
先程からの顰め面が緩み、口元に淡く笑みが浮かんでいた。

「・・・。そうか」

fin.