48.貴方のための物語

※もしもリーブさんがFGOのハンスを召喚していたら。

旧ミッドガル八番街地下。
今は立ち入り禁止区域としているこの陰気な場所でベヒーモスが大量発生しているとの連絡があり、リーブはWROでも戦闘能力の高い局員を徴兵して現場に駆け付けた。
状況は芳しくない。
何せこの魔獣はHPは低いが魔法で攻撃すると「フレア」で反撃し、HPを減らすと「????」を使ってくる。そんな油断ならないモンスターが通路を埋め尽くさんばかりに闊歩しているのだ。
今のところ市民が暮らしている街に出現したという連絡はないが、このまま放置できるわけがない。
リーブは状況を見極めつつ、複数体から同時に攻撃されないよう細い通路にベヒーモスを誘い込むように指示をする。

「ここで、殲滅させるしかないですね・・・」
「えらく増殖したものですよねー。こりゃやばい。てか局長、ここにいるより本部に戻った方がいいんじゃないですか?」
「今更ですか?」
「まあ、今更ですけど」

護衛隊長を担う部下と言葉を交わしつつ、リーブは戦況を見守る。
最前線にいる隊員たちがヘビーモスの少しずつHPを削り、自分たちの傷を回復させながら戦っているものの、油断すれば上空から「?」と書かれた巨大な分銅が落ちて少ないとは言えないダメージを負う。
モンスターの数は有限とはいえ、満身創痍でやっとこさ倒したところで新手がやってくるのだ。
回復が追い付かなくなるのは目に見えている。

「交代させるにも、負傷者を治療する時間が必要ですよね・・・」

リーブがそう呟いたとき、目の前に金色の粒が現れ、瞬く間に青い髪の少年へと実体化した。数日前、シャルアのとんでも発明と偶然でリーブが召喚した使い魔である。
名をハンス・クリスチャン・アンデルセンという。

「!!ハンス!?」
「ちょっと作家先生、なんでこんなところに!?危ないから戻れ!!」

使い魔といえ自称最弱の作家である。更にハンス曰くの戦闘能力はない役立たず。リーブ達にとっては貴重な童話を生み出す作家先生であって、こんな間違っても戦闘の矢面に立つものではなかった。焦るリーブ達を見上げたハンスは全く動じることなく皮肉気に口角を上げた。

「なに、1ターンで離脱するから気にするな」

そのまま止める間もなく戦闘の最前線に一歩踏み出した少年が、何もない空中から一冊の装飾本を取り出した。
少年は見た目とのギャップの激しい渋い声で、朗々と語り出す。

「ではお前の人生を書き上げよう。
タイトルは・・・そう、
『貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)』!」

ハンスの持つペン先が青白く光り、本の上を高速に走る。
書き上げられた頁が舞い上がり、
光に変わって最前線にいた隊を包み込む。

「これは・・!?」
「なんだろう、暖かい・・!」

オレンジの光が一人一人を包む。
1回目は攻撃力をあげる光。
2回目は防御力をあげる光。
3回目はクリティカル効果を上げる光。
そして最後は傷を癒し、体力を徐々に回復させる光、であった。

「・・・えっ!?」
「そら攻防共にあげてやったぞ。せいぜい馬車馬のように働くがいい!」
「ハンス・・・!!」

ハンスの支援を受け、終りがないのではと危惧された戦闘は何とか最後の1体の消滅を確認し、終了した。
WRO隊員たちには大した被害がなかった。
攻撃力、防御力があげられた上に徐々に体の傷が治っていくからだ。
リーブは満面の笑みでハンスに感謝した。

「ありがとうございます、ハンス。まさか貴方に戦闘補助の能力があるなんて。本当に助かりました」
「ふん。俺は単独では全く生きんのでな!
肉体労働組がいれば少しは援護してやる。せいぜい生き残ることだな!」
「ええ。本当に感謝していますよ・・・ただ・・・」

リーブは不満そうに眉を寄せる。

「何故私には効果がないのですか?」
「決まっているだろうリーブ。俺の宝具の効果は、肉体労働組のみ。つまり戦闘能力が皆無で貧弱なお前にかかるわけないだろう、バカめ!」
「か、皆無ってことはないですよ!私も戦えますから!!」
「百歩、いや万歩譲ってお前に戦闘能力が蟻程度あったとしてもだ!冷静に見えて猪突猛進なマスターのことだ、効果を過信して戦場で犬死にするだけだろうに。WRO全員を路頭に迷わせる気か、鬼め!」
「・・・う、ううっ・・!!」

あっさりと反撃をくらい、リーブが嘆く。ハンスはいつだって毒舌が通常運転だが、指摘されたことは心当たりがあるため下手に返せないという厄介さだった。そしてその毒舌を絶賛する部下たちがいたりする。

「いやー気持ちいいです、ハンス先生!!!」
「もっといってやってください!!!」
「ちょ、ちょっと何故みなさんハンスの味方なんですか!!!」
「だって本当のことじゃないですか」
「そーですよ、ハンス先生のいうことに間違いはありません!!」
「それみろリーブ」
「ううっ・・・」

fin.