52.ファーストネーム

※「英霊召喚」設定のハンスとリーブさん。

「ところでリーブ」
「何でしょう?」
「何故『ハンス』と呼ぶ?」

え?と顔を上げれば、不機嫌そうな青い髪の少年がソファでふんぞり返っていた。

WRO局長室はいつもいるレギオンがリーブのお使いで不在。ハンスは普段は霊体化して姿を消しているため、局員たちは非常に悔しがっているという噂である。だが今ここにいるのはリーブとハンスだけのため、彼は実体化し、思う存分ソファを独り占めしているというわけである。
リーブは書類をサインしていた手を止め、偉大なる小さな童話作家に応える。

「何か、問題でも?」
「問題というか・・・どうもむず痒くてかなわん」
「・・・もしかして、余りファーストネームで呼ばれなかったりするんですか?」

指摘すれば、ハンスは腕を組んでふんと鼻を鳴らした。どうやら図星だったらしい。

「ああ。以前サーヴァントとして呼ばれたときも、アンデルセンと呼ばれていたからな」
「そうですか。でも、私はハンスと呼びたいですね」

さくっと答えれば、ハンスは嫌そうに顔を歪ませた。

「何故ファーストネーム如きに拘る」
「だって貴方の為に付けられた名前でしょう?」
「・・・は?」
「アンデルセン、は家名ですよね?」
「ああ」
「であれば、貴方個人を指す名前ではないでしょうに」
「まあ、そうだが・・・」
「それに対して『ハンス』は、貴方の為だけに付けられた名前でしょう?
屹度ご両親からの祈りも込められた素敵な名前じゃないですか。
私は、貴方がなんと仰ってもハンスと呼びますよ?」

ここWROでは、全ての者をファーストネームで呼ぶように統一されている。まあ一応役職を持つ者は名前の後に役職名が付くのだが。局長であるリーブもずっとファーストネームで呼ばれているため、敵対するものか初対面の相手くらいしか「トゥエスティ」と呼ばなくなった。

断言したリーブに呆れたのか、ハンスはため息をつく。

「一つ言っておくが、俺の父親もハンスだ」
「ええ!?では、古式ゆかしい代々受け継がれる素晴らしい名前なんですね!!!では益々ハンスと呼ばなければ!!!」

一人盛り上がったリーブに止められないことを悟ったのか、ハンスは匙を投げた。

「・・・もういい、好きにしろ」

fin.