54.骨が降ってきた

※DCFF7とONE PIECEのクロスオーバー。

「ちょ、ちょちょちょっと待ってください!
ご、誤解ですよ!!
たまたまここに落ちてきただけですから!!!ギャー!!!そんなもの突き付けないでくださいよ!!!吃驚して口から心臓が飛び出してしまいます!!!
私、心臓なんてないんですけどーーー!!!
ヨホホホ!スカルジョーック!!!」
「黙れ化け物!!!」
「局長の命を狙う暗殺者め!!」

リーブはのんびりと前方の人物を観察した。
護衛達に囲まれ銃を突き付けられたその人物は、降参とばかりに両手を挙げている。
リーブの身長でも足りないくらい、長身の男。

・・・多分、男だと思うのですが。

見上げてやっと確認できる顔がある筈の位置には、表情を掌る皮膚が丸ごとなかった。
目の箇所は縁取りがピンクなハートの黒いサングラスをかけていて伺えない。
頭蓋骨むき出しの頭部に何故かもっさりとアフロな髪の毛が覆っている。
ズボンから覗く足にも皮膚がなく、むき出しの骨があった。
そんな不審極まりない人物のアフロな髪の上に乗っかっている帽子は真っ赤なバンガローハット。
ひょろりとした体格にはアロハで黄色いTシャツとラフな白いズボンに青いビーチサンダル。
緊張感の欠片もない装いに、リーブは唸った。

・・・どう見ても、バカンス仕様の動く骸骨ですね。

会ったことはないが噂は聞いている。
リーブは真偽を確かめるべく、一歩彼に近づいた。

「待ってください」
「・・・局長!」
「貴方、鼻唄のブルック、ですね?麦わらの一味の」

はっと護衛達が顔色を変える。

「・・・!!!」
「む、麦わら・・・!?」
「あ、あの!?」

名を呼ばれた骸骨は、ほっとしたように何度も頷いた。

「ええ、ええ。よく、ご存じで」
「まあ、あなた方は有名人ですからねえ」
「局長!!ならばなおのこと、ここで始末を!!!」
「ヨホ!?」

物騒なことを言いだす部下に、骸骨、もといブルックがまたしても慌てだす。
リーブはのんびりと笑った。

「まあまあ」
「ですが局長、鼻歌のブルックと言えば海賊ですよ!?我々にとって敵です!!!」
「局長!!」

決断を迫る部下たちを宥めるべく、リーブはおっとりとした口調で諭す。

「・・・我々の理念は、星に害をなすあらゆる敵と戦う。ですが・・・。
私の知る限り、彼らは特に害をなしたわけでもありませんし」
「え、えーっと」
「・・・よ、ヨホ?」
「下手に手を出して、むやみに負傷者を出すわけにもいきませんから」
「・・・え?」

リーブの指摘が予想外だったのか、部下たちの緊迫感が薄れた。その隙にリーブは畳みかける。

「考えてくださいよ?
ここでブルックさんと一戦して仮に勝ったとしましょう。
間違いなく、モンキー・D・ルフィとその仲間達が我々に報復するでしょう。
彼らと全面的に戦って無傷とは考えられません。
我々には何の得もありませんよ」
「・・・」
「・・・それに」
「・・・それに?」

すっかり戦闘する気力を削がれた部下たちが鸚鵡返しに聞き返す。

「麦わら一味は、9名しか構成要員がいないというのに全員が賞金首です。どういうことか、分かりますか?」
「そ、それは全員戦闘能力が高いって・・・」
「でしょうね。ですが、それ以上に、彼らの本来の役割も一流だからではないでしょうか?」
「・・・へ?」
「少なくとも船長、航海士、船医は揃っているでしょう。
それぞれの役目も一流。となれば、残るメンバーも何らかの一流と見て間違いないでしょう。まして、彼はソウルキングとして一世風靡したミュージシャンです」
「は、はあ?」
「そこで、ブルックさん」

混乱する部下を放って、リーブはにっこりとブルックへと振り返る。

「は、はい?」
「一曲お願いしてよろしいでしょうか?」
「・・・ヨホ?」
「局長!?」
「我々が貴方を見逃す条件ですよ。世界的に有名なソウルキングの歌声。一度聞いてみたかったんですよ」

満面の笑みで依頼すれば、周囲の護衛達が脱力したようだった。

「局ー長ー」
「・・・全く、貴方という人は」
「どうですか?」

リーブが見上げる人物は、暫し沈黙した。
目に当たる場所は相変わらずサングラスで見えないが、それでもブルックが朗らかに笑ったように感じた。
きっとこの人物は感情豊かなのだろうとリーブは思う。だからこそ、人の心に届く歌を歌うことが出来るのだと。

「・・・ヨホホホ!!!
貴方、なかなか肝の据わったお方のようですね!私には肝なんてありませんけどーー!!!
スカルジョーック!!!」
「おや。本当にないんですか?」
「ヨホホホ!!ご覧になりますか!?」
「ええ、是非」
「おい」

ひと悶着の後。
ブルックと呼ばれる骸骨はバイオリンを取り出してしっとりと歌いあげる。
海賊だ何だと騒いでいた隊員達もうっかり聞き入ってしまう。
心にすうっと滲みいるような見事な音色と深い歌声に、一同はああ、だからソウルキングだったのかと非常に納得してしまった。

バイオリンの伴奏が余韻を持って消えていく。

ブルックの優雅な一礼に、その場に居合わせたすべての聴衆が惜しみない拍手を送った。

「素晴らしいですね・・・」
「ありがとうございました!ヨホホホ!!!」
「あ、ブルックさん、
港へは東に抜けるといいですよ?」
「これはご丁寧に、ありがとうございます!
それでは、失礼します!」
「ええ、お気をつけて」

fin.