57.魔晄ポッド

※DCFF7直後、シャルアが意識不明で治療中のお話。

「・・・シェルクさん」

びくっとして振り向いたのは、魔晄ポッドで眠り続ける女性が命がけで守った『命』。女性とよく似た眼差しの、妹。

少女は姉が横たわる魔晄ポットの前で立ち尽くしたまま、視線を合わせなかった。
じっと何かを考え込んでいるようで。
リーブはゆっくりと彼女に歩み寄った。

「お久しぶりですね。体調は如何ですか?」
「問題ありません」
「それはよかったです。セブンスヘブンの皆さんは元気ですか?」
「変わりありません」

一見冷淡な返答に聞こえるが、それは彼女がDGという異常な状況で身につけざるを得なかった態度だと思った。
弱みをみせれば即、死に繋がる過酷な地下帝国だったから。

「・・・ところで・・・。どうされました?
先ほどまで、シャルアさんに何か伝えようとされていたのではないですか?」
「・・・っ!」

はっと思わず顔を上げた少女は、即座に目を反らしてしまった。

「・・・話していただけませんか?
ご協力できることがあるかもしれません」

彼女の心に極力波風を立てないよう、リーブは穏やかに少女を見守った。

暫しの沈黙。

彼女は小さく口を開いた。

「・・・分からないのです」
「分からない・・・?」
「何を、伝えればいいのか」
「・・・シャルアさんに、ですね」

シェルクはこくん、と頷いた。

「・・・定期検診時、姉に話しかければ意識が回復する可能性がある、と助言されました。でも私は姉に何も伝えられません。何を伝えていいのか・・・分からないのです」
「・・・」
「考えるほど分からなくなってしまって・・・」

俯いてしまった少女は、無表情の筈なのに悲しげに見えた。

「・・・では、まず考えないことから始めましょうか」
「え?」

リーブはふわりと笑った。

「そうですね・・・。天候とかどうでしょう?」
「天候?」

きょとんとする少女。

「シャルアさんは、ここにずっと籠もってらっしゃいますから、一切外の状況は分からないはずです。ですから、今日のお天気を教えてあげてはいかがですか?」
「あ・・・」

何かを掴んだような表情が嬉しかった。
きっともう大丈夫。

「・・・では、私は失礼しますね」
「・・・」

fin.