58.兄

※「Heaven’s here」で記憶喪失のリーブさんがセブンスヘブンに厄介になってます。

開店間際のセブンスヘブン。私はいつも通り2階に引き籠ろうと階段に向かっていたが、

「あ、あのあのあの・・・!!!」

呼びかけられ、振り返る。そこには顔を伏せたデンゼルが立っていた。
おかしい、と私は首を傾げる。彼は、いつも真っ直ぐに相手の目を見るというのに。

「・・・どうかしましたか?」
「そ、その、り、リーブ、に、い、」
「私に・・・何か?」
「そ、そうじゃなくって、その・・・」

益々俯いてしまう彼が不思議で、手を差し伸べようとする前に。

「リーブお兄ちゃん!」

マリンの楽し気な声に遮られた。

「・・・え?」

マリンもはっきりと物を言うしっかりした少女だけれども、意味を取りかねて固まった。

お兄ちゃん?
誰が?

私が止まっているうちに、子供たちはわいわいと騒ぎ出した。

「マリン!俺が、先に!」
「だってデンゼルがぜんっぜん言わないんだもの。私が先に言っちゃった!」
「あ、あの・・・?」

どういうことですか、と尋ねることも出来ず混乱する私に、マリンがにっこりと満面の笑みで答えてくれた。

「ティファがね、リーブさんのこと、『お兄ちゃん』、って呼んでみて?って言ってたから!」

はた、と回想する。
確かに、ティファにデンゼルの兄のようなものではないのか、という話をされたことはあったけれど。更に、ティファたちが私の家族になるわ、と言ってくれたこともあったけれど。

「ティファさん・・・あれ、冗談だったんじゃ・・・。それに、マリンちゃんまで・・・」
「だってね・・・」

マリンちゃんがいうところによると、ティファはデンゼルとこんな会話をしていたらしい。

*   *

『お、お兄ちゃん!?』
『変かな?でも、デンゼルにとって、ルヴィさんはもう一人のお母さんなんでしょ?』
『う、うん』
『そして、ルヴィさんはリーブのお母さんでしょ?』
『・・・うん』
『だったら、やっぱり兄弟みたいなものじゃないの?』
『え、ええええええ!?』

*   *

「でね?デンゼルのお兄ちゃんってことは、私の兄ちゃんってことだもんね!」
「ね、と言われましても・・・」

どう考えてもおかしいですよね、と指摘するまえに、マリンが私をじいっと上目遣いで見上げた。

「・・・駄目?」
「うっ・・・。ま、まあ私も、デンゼル君やマリンちゃんみたいな兄妹がいたら嬉しいですけど・・・」
「本当!?」
「ええ、勿論ですよ」
「・・・じゃあ、その、リーブ、お、兄ちゃん・・・」
「デンゼル照れてるーー!!!」
「う、煩いな!」

*   *

その晩、珍しくクラウドが仕事を終えて帰ってきた。カウンターにつく彼に水を渡す。

「クラウドさん、お疲れ様です。今日は早かったんですね」
「ああ。・・・ところでリーブ」
「はい」

クラウドは感情の読めない声で、さらりと爆弾を落とした。

「あんたもうちの子になったのか」
「・・・。はいいい!?ど、どういうことですか!?」
「ティファが、あんたはデンゼルの兄だと」

さくっと答えられ、私はがっくりとカウンターに縋った。

「ティファさん・・・。クラウドさんにも言ってたんですか・・・」
「・・・俺は別に構わないが」
「クラウドさん!?」

そんな馬鹿な、と驚愕の目でみていると。クラウドが僅かに目を見開く。

「・・・ん?俺が父親になるのか?」
「・・・若いにもほどがありますよ、クラウドさん・・・」

fin.