62.酒

WRO寮で一家団欒の夕食が終わった頃。
キッチンで皿洗いをする私へと青い髪の小さな少年が声をかけた。

「マスター」
「何ですか、ハンス」
「酒を寄越せ」
「・・・は?」

するり、と私の手にあったガラスコップが滑り落ちる。
そのまま床に激突する前に、察したケット・シーが受け取ってくれた。

「リーブはん、手元不注意やでー」
「え・・・?ええ、ありがとうございます、ケット」

足下で尻尾をふりふりつつ、いつものデフォルメの笑顔で注意する分身に礼を言って、そしてもう一度顔を上げて。テーブルにつく使い魔に問いただす。

「ハンス・・・今、何と・・?」
「酒を買ってこい。代金は俺の稼ぎで払ってやる」

言い切った少年に、私はざっと顔が青ざめるのを自覚した。
衝動のままばっと駆けだして、その小さな肩を掴み思い切り揺さぶる。

「・・・ハンス!?何があったのですか!?もしや何処かで苛めにでもあったのですか!?そんなもの私が片をつけますから早まらないでください!!!」
「ええい落ち着けリーブ!貴様何を混乱している!まるで初めての我が子の反抗期に狼狽える過保護な母親だぞ!いいか、思い出せ。俺の外見は中身を反映していない!俺の実年齢を忘れたのか!?」
「あっ・・・!!!」

手を離し、はたと思い出した。そう、この少年にしか見えない使い魔の実年齢は、成熟した大人で確か70歳。確かに未成年ではない、であれば・・・。

「・・・駄目じゃないですか!!!」
「何故そうなる!」
「いいですか、70歳でお酒を所望するなんて体に悪いです!!!それに今の貴方は10歳くらいの子供の体なのですよ!?成長期の体に負担がかかりますから却下です!!」
「馬鹿め、俺は英霊だぞ!成長期など有るわけなかろう!」
「そんなの分からないじゃないですか!外見年齢だろうが実年齢だろうが許可できません!!!」
「いいから酒を寄越せ!!!」
「いけません!!!」

決着の付かない平行線の私達を放って、残りのメンバーはのんびりとお茶を飲んでいた。

「リーブはん。なんや、未成年を指導する教師みたいになっとるでー」
「そういやあいつは70歳だったな。その割には言動が若いが」
「ハンスから酒などという単語がでると違和感しかないですね」

fin.

ハンスの誕生日にマイルームで彼のコメント聞くと、酒を強請られるらしいです。・・・4/2にならないと私は聞けませんが。