70.カルネ村にて

気が付いたら、鬱蒼と茂る森の中にいた。さっきまで局長室にいたというのに。

前にもこんなことがあったなとリーブは暢気に思う。単に自分の世界内で転移しただけなら兎も角、世界規模で飛んだ可能性もある。魔法の国の遥か上空だったり、近代的な霧の街の中心だったり、電子で創られた深海の底だったこともあった。突然の転移はある意味慣れれていたが、今までは必ず同行者がいた。分身であるケット・シーや護衛隊長のレギオン、使い魔のハンス。だが今回はいずれの姿も気配もない。常に傍らにいる筈のハンスまでいないなら単に寝落ちしただけかもしれないが、・・・独りぼっちと認識した途端、心細いと思う自分に苦笑する。

「・・・夢の中とはいえ、彼らに頼りっぱなしではいけませんよね」

まずは現状把握として、自分の装備を確認する。スーツの内側に護衛用の拳銃と、常時装備しているマテリアがあることに安堵する。次に周囲を見渡したところで青々と茂った木々しかない。森林浴にもってこいの場所。

「森、ですよねえ・・・。うーん、こっちの世界なのか別の世界なのか判別できませんねえ」

警戒しつつも歩いていくと、彼方から足音が聞こえてきた。誰かが走ってるらしい。咄嗟に身を隠してそっと覗き込む。やがて、視界の端で少女が二人やってくるのが見えた。この辺りの住民なら何か聞けるかも、と声をかけようとして、

「・・・え?」

彼らの決死の表情に息を呑む。泣きそうになるのを必死にこらえているような。原因はすぐにわかった。全身鎧の剣士が追いかけてきたからだ。彼の剣と甲冑は、赤くぬるりとした何かに濡れていた。

「なっ・・・!?」

少女たちも剣士も、自分に気付くことなく走り去っていく。あの少女たちが狙われているのは間違いなかった。事情があるのかもしれないが、放っておくことも出来ない。
見知らぬ剣士が組織として動いているのか、単独犯なのかとか気になることはあった。夢の中だろうというのも取り敢えず脇に置く。

スーツから取り出した拳銃を構え、剣士を狙って撃とうとして・・・はた、と気がついた。

相手は甲冑をつけている。
ヴィンセントのように、敵が動いていようがスリットの隙間を一発でしとめる凄腕ならともかく、リーブでは全身甲冑の相手にダメージを与えられないだろう。仮に甲冑部にあたって跳弾した場合、彼女たちに当たってしまう可能性も0とは言い切れない。そして居場所がばれた場合、リーブも少女たちも殺されるだけ。

ならば、とマテリアを取り出す。

「トード!」

狙い通り、血塗られた剣士は蛙になった。

*   *

取り敢えず蛙はスリプルで眠らせて足と手を縛って置いておくことにした。追われていた少女たちに近づく。
座り込んでいた少女たちは地面に伏せるように頭を下げ、口々に感謝の言葉を口にしていた。年上の少女の背中に痛ましい切り傷があるのをみて、再度マテリアを翳す。

「ケアル!」

ぽう、と治癒魔法が少女を包み、あっという間に傷が癒えた。年上の少女が驚いたように自分の背中に手をやり、年下の少女が治ってる!と嬉しそうにぽんぽんと背中を叩いている。ほっと胸を撫で下ろした。

「よかった、魔法は効きそうですね」
「あ、ありがとうございます!あの、貴方は魔法詠唱者(マジックキャスター)なのですね!」
「マジックキャスター?ええと・・・ああ、魔法を行使する者、という意味でしたら、そうですね」
「聞いたことのない魔法でした。まさか、第3位階魔法を使えるんですか!?」
「・・・ダイサンイカイ魔法?それは特別な魔法なのでしょうか?」
「えっと、魔法を極めた凄い方はもっと上の位階魔法を使えるってきたんですけど・・・」
「うーん?よくわかりませんけど、私は使えませんねえ」
「そ、そうですか」

困惑気味の少女たちへ、ひとまず事情を聴くことにした。彼女たちは姉妹で、姉がエンリ、妹がネムという。彼女達は森の近くにあるカルネ村で平和に暮らしていた。なのに今朝突然先程の騎士たちが集団で村を襲ってきたという。親たちは必死に二人を逃がし、彼女たちは森まで走って来たのだがもう少しで斬られるところだった。その時にリーブに助けられたというわけらしい。

素早く状況を整理する。
世界の情報を把握しているWRO局長でも知らない村、見たこともないデザインの甲冑、そしてマテリアではない「イカイ魔法」。どうやら本格的に異世界らしいと思いつつ、今重要なのはそこではない。

「では、今貴方たちの村は・・・」
「・・・お願いします、リーブ様!村を助けてください!」
「助けてください!」
「・・・分かりました。あと、『様』、はいりませんからね?」

茶目っ気たっぷりに微笑めば、強張っていた姉妹が目をぱちくりさせ、そして笑ってくれた。彼女たちの周りに防御魔法をかけたまま待機してもらい、村に辿り着いてみれば、エンリ達の話通り、同じような甲冑に身を包んだ剣士が村人を襲い、広間に集めていた。壊された家々、血飛沫がついた壁、そして剣士たちに従わなかったのか、村人の遺体がそこら中に転がっていて。

「・・・」

一瞬で敵を把握し、全ターゲットに魔法を行使した。

*   *

「「「ありがとうございました・・・!!!」」」
「い、いえ、その、偶々見かけただけですし・・・」

トードで蛙に変えた敵をスリプルで眠らせトードを解除、念のためミニマムで小さくさせてうえで全身を縛ってから元の大きさに戻せば、揃いの防具を纏っていた剣士どもはあっという間に捕虜になった。勿論全員爆睡中である。

・・・夢なのになかなか覚めませんね?

と暢気に思いつつ、リーブは村人達に感謝されていた。残念ながら全ての村人を助けることは出来ず、エンリ達姉妹の両親も犠牲となっていた。それでも全滅を免れたのはリーブの御蔭だとして、村長から謝礼を渡すというのを丁寧に断り、代わりに情報を提供して貰うことにした。立ち話も何なので、と言われ村長の家で聞いたところによると、このカルネ村はエ・ランテルという街の近くであり、リ・エスティーゼ王国所属ということらしい。

木製の簡素なテーブルで白湯をいただきつつ、うーんと首を捻る。

・・・全ての地名に心当たりがない。

止めとして地図を見せて貰ったところ、地形も地名も、更にはその文字さえ見覚えがなかった。通貨も知らぬ交銅貨などであるし、王国も周囲にあるという帝国も法国も初耳である。

心配げな村長に何でもないですよと答えつつ、ちらりとWROを知らないか、と聞いてみたものの矢張り知らない様だった。

・・・はて。見知らぬ世界への願望でもあったんでしょうか。可能性はありますけど妙に設定が細かいですね。

更に聞き込みをしていると、村人が飛び込んできた。葬儀を執り行うという事でリーブも後方で見守っていると、また別の村人が焦った表情で村長に報告する。

「何!?別の集団が向かっていると・・!?」

どうやら騒動はまだ終わらないらしい、とリーブは思わず空を見上げた。

*   *

別の武装集団は王国戦士長御一行だった。彼らは村を襲う一団を追ってやってきたのだという。村を救った恩人としてリーブは戦士長のガゼフという男に大袈裟までに真っ直ぐに感謝された。

事情を聴きたいというガゼフを伴って、リーブは村長の家に戻る。村長とガゼフの遣り取りを聞きつつ、取り敢えず村人の味方らしいので静観することにする。だが間もなく彼を追って来たらしい他国の集団が村を包囲してしまった。

そこで判明したのが、カルネ村への襲撃も、周辺の村々の襲撃も全て、このひとりの騎士を誘い込む罠だったという事。どうやら実直過ぎるこの騎士を葬りたい連中が組織の上層部にいるらしい。それを知っていながら騎士はまともな装備・・・少なくともリーブがみる限りは・・・をせずにここにやってきていた。10人程度の部下も同様で。それすら敵の思惑だという。

自分は異邦人。余所者。傍観者でいようと思っていたのだが、そうも言ってられない。

「・・・ちょっと、ガゼフさんいいですか?」
「何だろうか、リーブ殿」

ちょいちょい、と手招きして外に出る。防音などないだろうから村長には聞こえるだろうが、そこはまあ一応形式上の配慮であった。

「・・・貴方は、自分が狙われているのを知っていて、ここに来たのですか?」
「ああ、その通りだ」
「その装備で、ですよね?」
「ああ」
「貴方を誘い込むためだけに、周辺の人々が虐殺されたことも?」
「・・・」
「可能性はあると、知っていたわけですよね?」
「・・・その、通りだ」

ぐっとガゼフが両手を握りしめる。苦汁をなめるような相手の表情に、久々に、リーブの中の何かがブチ切れた。

「・・・ふざけないでください!!!」

「貴方の行動は、『こうなると知っていた』のに何の対策も打たずにのこのこ死ににきただけです!しかも無関係の人たちを死なせるという最悪の事態ですよ!」
「・・・リーブ殿のお怒りももっともだ。俺に、力があれば・・・」
「そういうことではないんですよ!!!大前提が間違っています!!」
「・・え?」
「そもそもこの事態を引き起こした時点で詰んでいるです!どうしてこうなる前に手が打てなかったのですか!!予想くらいできたはずです!それができずに無辜の民を巻き込んだだけですか!全く貴方の上司は何をやっているのです!そしてこうなった後も貴方はただ追いかけてきただけ!本当に何もできなかったのですか!」
「・・・王国の俺の立場は、正直よくないんだ、俺が動かせるのは・・・」
「貴方が直接動かさなくてもいいんですよ!」
「え?」
「貴方がだめなら貴方の知り合いは?貴方の上司は?それがだめならどうして元凶をさっさと押さえないんですか!これは、貴方だけの問題ではないでしょう!?」
「・・・」
「いいですか。貴方がお粗末な装備でここへ駆けつける、そんなことを許した上司ははっきりいって、無能です」
「何を!!!王は、王は無能ではない!素晴らしい方だ!ただ貴族たち、取り巻きが・・・」
「無能です。取り巻きごときを動かせないトップなど民にとっては迷惑です」
「っ・・・!」
「トップの苦悩なんぞで民が救えるとでも?苦悩するだけで手を打てないならさっさと引退してくださったほうがよっぽど民衆思いでしょうね」
「貴様!!」
「貴方の忠義とやらに興味はありません。いいですか?知っていて止められなかった、なんて単なるいいわけです。ええ、口では止めようとした、なんぞ何十万もの人々が殺されたあとでは何の意味もないのですよ!!」

脳裏に浮かぶのは、故意に落とされた都市のプレート。巻き込まれた人々の無残な姿。破壊された街。

「・・・。だからこそ、ここは俺がけじめをつける。リーブ殿はどうかこの村を・・・」
「・・・まさか、奴らの狙い通りにのこのこ現れるつもりですか?」
「ここから離れた広場なら、村はこれ以上の被害を被らないはずだ。頼む」

「・・・貴方は何もわかっていないのですね」

「・・・それは、どういう・・・」

目を丸くしているガゼフは本当に何もわかっていないらしい。深くため息をついて、睨み付ける。

「これ以上、命を粗末にされるのは我慢なりません。何を勝手に命を捨てるつもりになっているんですか。奴らの勝利条件は、貴方を葬ること。つまり、貴方が生き残れば我々の勝ちです」
「我々って・・・」
「奴らを倒す必要はないということですよ。折角地理の利がこちらにあるというのに、何故彼らの誘いに乗るんですか」
「だ、だが・・・」
「まさか正々堂々と戦いたいなんていいませんよね?騎士の誇り?知りませんよ、そんなものに巻き込まれて殺された人たちや遺された人たちの身にもなってください」
「う・・・。だ、だがリーブ殿も俺も、ここの地理は詳しくないはずだ」
「村長が、この村の人たちがいるじゃないですか」
「・・・え?」
「幸い、村人は貴方を信頼しているようです。であれば彼らの協力を得ればいいのです。利用できるものは何でも利用するべきですよ?」

敵の構成をガゼフに聞けば、大勢いるものの全て魔法詠唱者だという。ふむ、と考え込む。

「要は、詠唱する口と、ターゲットを決める目が使えなければいいんですよね?」
「あ、その・・・リーブ殿?」
「魔法詠唱者のローブは、物理攻撃に弱いですか?」
「あ、ああ。鎧ではないからな」
「それは好都合ですね♪」
「え」
「・・・リーブ殿、楽しそうだな」
「ふふふ、向こうが卑劣な手段で人々を陥れるのであれば、こちらはうんと卑怯な手段で叩きのめすまでです!」

怪しい笑み、とよく称される表情を浮かべれば、ガゼフは若干引き気味になっていた。

「ははっ・・・。貴殿を敵に回したくないものだな・・・」

*   *

村人に森の詳しい地図をもらい、村人、戦士長一行を含めた作戦会議。勿論、こそこそと隠れながらだが。
中央のテーブルに村と森の地図を並べ、リーブは顎に手をやり思案する。

「まず。この村に隠し通路はありますか?」
「あ、私の家の地下から森へ行けます」
「おお!流石は村長殿!」
「どうも」

「戦士長の部下のみなさんは、物を正確に投げることは可能ですか?」
「え?ええ、まあ」
「ローブごとき貫通、まではいかなくても本体にダメージを与えられますか?」
「・・・まさか!」
「ああ、可能だ。皆投擲など訓練している」
「ふふふ、それはよかった」

「村人の皆さんの演技力が試されます!大丈夫です。純朴な皆さんを疑うなんてあり得ませんから!!!」
「「「おお!(小声)」」」
「ははっ・・・」
「こんな戦い方があるとは・・・」

そんな怪しげな会話の後、村から刺激臭のある調味料、細い糸、フォーク、ナイフ、などをごっそり買い取った。勿論財布はガゼフだ。後払いだが。手早く村人に協力してもらい、森の配置、最終的な動きをガゼフ達と確認。

「では・・・状況開始!」

*   *

待たされた魔法詠唱者達がじれて更なる脅しをかけようと口を開いたとき。村人の悲痛な叫びが響いた。

「戦士長様が・・・!戦士長様が逃げたーーー!!」
「な、なんだと!?」

流石に予想外の動きに敵の将がその村人に問いただす。怯えきった村人がとある家の地下へ逃げ込むガゼフをみたという。追いかけてみれば、地下から隠し扉が開いていた。

「ま、まさかあのガゼフがこんな真似をするとは・・・!」
「あ、あの、その前に戦士長様が『ここで死ぬわけには・・・!!!俺はどうすれば・・・!!!』ってとても悩まれていて・・・」
「残りの部下たちも、戦士長様と行ってしまいました!」
「ちっ。王への忠義を優先して民を捨てたか!まあいい、ガゼフの真意など葬ってしまえば関係ないからな!ええいお前たち、3人はここへ残れ。其れ以外は追いかけるぞ!おい、村人、これは何処につながっている!?」
「そ、それが・・・家の主は殺されておりまして、その、おいらたちにはさっぱり・・・」
「こんな通路があるなんて、知りませんでした!!」
「使えないやつらだな!ったく、殲滅が仇になるとは。仕方ない、追いかけるぞ!!!」

魔法詠唱者たちが馬を下りて、隠し扉をくぐって走り去っていった。残った3人は村人たちを人質にしようと杖をかざすが・・・不意に目の前が赤い粉にまみれた。

「な、なんだ・・・!?目、目が痛い!?」
「ぐおお!!」
「これは、一体・・!?」

魔法詠唱者たちが目を押さえ苦悶しているのを見計らって、リーブは命じた。

「今です!」

「「「何!?」」」

未だ復活できていない3人に、鍬だの棍棒だのをもった村人達が囲む。

「おいらの村をよくも!!!」「許さねえ!!!」
「俺たちも行くぞ!」「「「はっ!!!」」

村人に続き隠れていた戦士長の部下たちが加わる。追い込まれた魔法詠唱者たちはぼっこぼこにされていた。

「はいはい、殺人はリスクが高いのでそのあたりにしてくださいね?情報も搾り取らないと」
「リーブ殿、何気に黒い・・・」
「当たり前です」

目を封じられた敵はあっさりと捕縛することができた。たんこぶが山ほど出来ていたが、命があるだけましだろう。詠唱できないように口を縛るのも忘れずに。

「では、次行きますか」

そして駆けてきた戦士長の部下に問う。

「ガゼフさんたちの馬の手配は」
「はっ!ばっちり出口に待機済みです!」
「早いですね。素晴らしい」
「村人のみなさんのおかげです!」
「では残りの部下の皆さんも配置についてください」
「「「はっ!!!」」」

*   *

そして暫く経った後。

ガゼフの部下が一人戻ってきた報告を元に、リーブは村長と部下たちと共に森の外れに合流する。そこには、ローブを所々血に染めた魔法詠唱者たちが全員捕縛され、転がっているという見事な光景が広がっていた。

「うーん。大漁ですねえ」
「うあ、リーブ殿の笑顔が黒い!」
「見事です!!」
「リーブ殿・・・いつの間に俺の部下を手懐けたのだ?」
「手懐けてなどいませんよ?ええ、私は巻き込まれたただの一般人ですし」
「「「嘘付け」」」

リーブが仕掛けた作戦は以下の通りだった。

逃げたと見せかけて隠し通路を駆け抜けたガゼフと部下の一部が、出口に予め移動させてあった自分の馬に乗り、敵を森へと誘い込む。木々の茂る森では魔法は届きにくく、動きにくいローブを纏った魔法詠唱者では攻撃もままならないからだ。その森でちょこまかと翻弄している間に残りの部下が駆けつけ、配置につく。途中でこっそり木々の間に糸を仕掛けたりしたが。
頃合いをみたガゼフが見晴らしのいい野原へ向かい、彼を追ってきた魔法詠唱者が糸に足を取られたりしつつやってきたところを、先回りした部下たちが木の上から大量の武器やら刺激臭のある粉末を投げつけ(主に調味料とかナイフとかフォークとかその辺の石ころだったりするが)、混乱しだした頃に部下の中でもっとも気配を殺すのが上手く素早い者が、敵の大将に飛びかかり捕らえる、というものだった。

その鮮やかな手並みにガゼフが心から賞賛する。

「リーブ殿、改めて感謝する。貴殿がいなければ、我々は全滅の可能性もあった・・・」
「まあこれに懲りたら、正々堂々敵の真正面に出るという戦法も何もない行動はやめてくださいね?部下まで無駄死にしちゃいますから」
「ああ・・・。貴殿のいうことがやっとわかった気がするな」
「ではさっさと迷惑な魔法詠唱者ご一行と、騎士ご一行をしょっぴいてください。カルネ村にとってトラウマにしかないらないでしょうし」
「わかっている。早急に手配するが、人数が人数だ・・・暫くどこかに押し込めて監視しよう」
「ええ、お願いします」

*   *

数日後。村を襲った騎士および魔法詠唱者たちを捕虜にして、ガゼフ達は王都に帰ることになった。村の入り口に出発前のガゼフ達と、リーブおよび村人たちが見送りに詰めかけていた。

「では、我々はこれで」
「お気をつけて、戦士長。無事に家に帰るまでが遠足ですよ?」
「ははっ。リーブ殿にとっては我々の遠征も遠足扱いなのだな」
「何事も『命あっての物種』ですから」
「?何かの格言、だろうか」
「要は、命は大事にしましょう、ということですよ」
「・・・ああ。その通りだ」

感じ入ったように何度も頷いていたガゼフは、何か決意した表情でリーブを見据えた。

「リーブ殿!」
「何でしょう?」
「共に、王都に来ていただけないか!」
「嫌です」
「ぐっ」
「私は部外者です。ちょっと帰り道が分かりませんけど、元いた場所に戻らないといけませんしね」

腕を組んでやれやれと首を振るう。あれから何時間経ったのか分からないが、これが夢でなく異世界への移動となるなら、何が何でも戻らないといけない。
だがガゼフは諦めていなかった。

「では交渉したい!」
「ほう?何でしょう?」
「こちらの要求は、『王国が戦に敗北し、帝国に占領される未来を回避すること!』その相談に乗っていただきたい!」
「ちょっと待ってください。それこそ部外者の出る幕ないじゃないですか」
「いや、貴方が言った。『利用できるものは何でも利用するべき』と!その上で俺は、王国を救うために貴方が必要だと判断した!」
「・・・これは一本取られましたね。確かに利用できるものは利用すべき、その通りです。
それで、報酬は何でしょう?」
「リーブ殿が元の場所とやらに戻るまで衣食住を保証する。だが、貴方にとっての真の報酬はそれじゃない」
「何でしょう?」
「この王国の民が戦により命を落とす様を見ずに済むことだ!」

ガゼフの叫びに、リーブは思わず目を見開き、そして微笑する。

「くすっ。・・・全く。貴方を見くびっていたようですねガゼフさん」
「では・・・!!!」
「いいでしょう。私に出来ることがあるならお手伝いします。但し」
「但し・・・?」
「協力は、私が元の場所に戻るまで。そして、私の名、私の存在を決して表に出さないこと」
「しかし、それでは貴方の功績が・・・!!!」
「私は部外者です。本来は為政に口を出すべきではないのです。ですから、私ではなくこの王国に住む皆さんが救うこと。私はあくまでアドバイスをするだけ。最終的には完全に皆さんにお任せできるようにしますから」
「・・・リーブ殿。貴方は、一体何者だ・・・?」
「勿論、ただの一般人ですよ?」
「「「嘘つけ」」」

ガゼフと部下たちの声が見事にはもった。

fin.

この後リーブさんが元の世界に戻るのが先か、王都で暗躍するのが先か・・・みたいな(笑)。