73.伝統

Heaven’s here

ある日の早朝。
WRO本部吹き抜け構造のロビー3階。決死の覚悟で息を吸い込む一般隊員がいた。
一階の入り口にいる相手を見下ろし、一世一代の言葉を叫ぶ。

「好きだ―!!!俺の気持ち、受け取ってくれ!!!」

対する一階の相手は、驚き、戸惑い、そして頬を赤く染めて顔を上げた。

「はい!!!」

おおーっと見守っていた観客、もといWRO職員から歓声を拍手が巻き起こった。

*   *

「これで9組目のカップル誕生らしいですよ、局長!!!」
「は、ははは・・・」

WRO本部最上階の局長室では、いつにも増して楽しそうな護衛隊長と、引き攣った笑いの局長がいた。

「いやー実に目出度いですね!」
「ま、まあ、そう、なのですが・・・」

リーブはデスクで乾いた笑いを漏らす。
過酷な業務に就く者が多い本部勤務で、お相手が見つかりかつ結ばれるのは非常に喜ばしい。それはいい。それはいいのだが。

「これも全てシャルア統括の御蔭ですよねー!!!」

背後にいる護衛は、にっこにっこともう態とかと思うほどの満面の笑みを浮かべている。あれは、絶対に面白がっている。

『WRO本部ロビーの3階に佇み、1階に呼び止めた相手に想いのたけを叫ぶ』・・・そんな告白がある日を境に増えていた。
結構な成功率らしい。何せ、告白する側はロビーにいる他のWRO職員たちにも聞かれているというプレッシャーから告白しそこねるという失敗がなくなり、
告白される側も周囲の反応から誤魔化すこともできないため、即答することが多いとのことだ。

勿論、皆シャルアがリーブに告白したことを真似ているのだ。

「あの、そろそろ他の手段とかないんでしょうかね・・・」
「なーに言ってんですか局長!何たって伝説のカップルにあやかりたいという隊員が続出しているってことですから!!!
最早伝統になるかもしれませんよ!!」
「何が伝統ですか!か、勘弁してください・・・」
「だってあんたとシャルア統括の仲の良さはWRO中に知れ渡ってますからねー」
「う、ううっ・・・」

リーブは頭を抱えた。

本当にやめてほしい。リーブとしてはシャルアの気持ちを受け入れるつもりはなかったのだ。どんなに彼女に惹かれていようとも。
それが公衆の面前であの告白をされ、更にハンスに本音を明かすスキルのせいで『貴女がわたしのものになってください』と絶対に言うまいと思っていた台詞をぶちまけてしまったという黒歴史そのものなのだ。
御蔭でシャルアを妻に出来、シェルクという義妹まで得て毎日幸せなのだが。困ったことに。

レギオンはうっきうっきと更なる情報を開示した。

「因みにまだ結婚指輪を投げるという快挙を成し遂げたカップルはいないそうです!あれはシャルア統括程の運動神経と、相手が受け取るという確信がなければ無理!!!だ、そうです!!」
「も、もういいですから・・・」

デスクに突っ伏したが、誰もリーブの味方はいないようだった。

fin.

シャルア最強伝説(笑)。