74.炬燵

例えば、だ。

白い雪原に独り取り残されたとしよう。天候は猛吹雪で、視界は真っ白だ。防具はつけているけれど、白い息は凍り付いて、息苦しい。染み渡るような寒さが体温を奪って、早く何とかしないと凍死は必至だ。

そんなときに、ぽつんと山小屋を見つけるんだ。
丸太で組まれた素朴な小屋。煙突から煙が出ていて、暖かい明かりが窓から漏れている。

吹き飛ばされそうな嵐の中、あたしは脇目もふらず小屋に向かう。

何とか辿り着いた扉は簡単に開く。鍵もかかってないんだ。

小屋に上がり込めば、暖かさにほっと息をつく。
リビングの真ん中に炬燵があって、土鍋の中のおでんがぐつぐつと踊っている。出汁の利いた湯気が上がって旨そうだ。
立ち尽くすあたしに、小屋の主はどうぞ、と自然な笑顔で席をすすめる。
あたしが座れば、主は鍋をよそって前に置く。

暖炉には薪がくべられていて、ぱちぱちと火が燃えている。
おでんの大根を頬張りながら、向かいを見れば。
主はただ、にこにこと笑っている。

ぽかぽかと暖かい。そんな場所。

リーブ・トゥエスティという男は、そんな存在じゃないかとあたしは勝手に思っている。
戦場という寒く凍てつく雪原で戦い、身も心も傷つき凍えそうな戦士たちを暖かく癒す存在。卑劣な敵、過酷な環境下での戦いで失われそうな理性とか人道とかそういった人らしい感情を、もう一度安堵の中取り戻せる絶対の存在。

その慈しみが、押しつけがましいものではなくあくまで自然なものだから、うっかりと人が引きつけられてしまう。特に、孤独になれてしまって孤独だとすら自覚できなくなっていた者には効果覿面だ。

嘗ての、あたしのように。

「・・・どうしたんです、シャルアさん?」
「ん。あんたがいれば炬燵いらずだな、と思っただけだ」
「・・・はい?」

fin.

後は蜜柑があればいいとか(笑)。